コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

IgG4関連疾患に伴う血管病変

IgG4関連疾患では唾液腺腫大、下垂体腺腫、膵炎、胆管炎、前立腺炎、肺疾患など多岐にわたる臓器病変を認めるが、血管病変にも注意が必要

 

Never forget the aorta: a case report of IgG4-related disease causing aortitis | European Heart Journal - Case Reports | Oxford Academic

 

大動脈解離や大動脈瘤の原因になる

IgG4関連疾患による大動脈弁逆流症、上行大動脈の血管炎で大動脈弁および上行大動脈の置換術を行う症例もある。

 

IgG4関連疾患による血管病変は以下の論文にまとめられている。

 

arthritis-research.biomedcentral.com

 

IgG4関連疾患に伴う血管炎では上記の論文が有名

日本からの報告

 

case controlとのことだがおそらくは後ろ向きコホート

IgG4関連疾患と診断した患者を後ろ向きにレビューして、血管病変の有無で比較した論文。

 

Periaortitis/periarteritis was identified in 65 (36.3%; 53 male and 12 female) of 179 IgG4-RD patients

179人のIgG4関連疾患のうち65人(36.3%)で血管病変を認めた

血管病変は以下の4つに分類

figure 1

血管病変としては腎血管以遠のパターンが多いが、12.3%は大動脈弓と腎動脈以遠に分布している

 

血管病変と関連があるのはIgG値が高いこと

Median IgG (mg/dl)    2266  VS  1854    0.00015

 

さらに血管病変があるパターンは腎臓/後腹膜線維症との合併が多い

血管病変がある65人のうち22人(34%)に血管病変を認めた

血管病変がない114人のうち腎病変を認めたのは23人(20%)であった

Kidney, urinary tract     22/65    23/114    0.043    2.06 (1.00–4.24)    0.050

 

IgG4関連疾患と診断したときには血管病変のスクリーニングが重要。

 

IgG4関連疾患による血管病変の鑑別は血管炎(巨細胞性動脈炎、高安動脈炎、川崎血管炎、ANCA関連血管炎)、他には感染性大動脈瘤など。

 

ただし、腹部大動脈瘤破裂も重要な合併症でありスクリーニングとフォローが重要

→IgG4関連疾患と診断した際には胸腹部造影CTをすべきというエキスパートオピニオンもある

 

治療はステロイド

ステロイドで壁肥厚は改善する

figure 2

 

ただしステロイドで壁肥厚は改善してもvascular lumen 悪化することも

→IgG4関連疾患の血管病変は外膜の問題であり閉塞はきたしにくいが、外に拡張することがありえる。

figure 3

 

なおこの論文は非常に臨床的に意義があるのですが、ちょっとmethodや統計解析が残念な印象でした。

そもそもcase control研究ではなく、単施設の過去起点コホート研究と思われる。

多変量解析がmethodに掲載されおらず唐突にresultに載っていたり、さらに多変量解析に用いた交絡因子も不明

そもそも多変量解析はおそらく名義ロジスティックだと思われるが、その方法も記載されていない

また記述統計の記載方法も記載なし(連続変数は中央値で記述しているようだが。)

さらに、Tableの記述もAllergy (+/–)というのがわかりにくい 記述統計の書き方が非常にビミョーな印象。

自分が査読者なら、Rivisionにするけどな。。

 

もちろん非常に価値があり新奇性が極めて高い論文であり絶対に世に出すべき役立つ論文ですが、だからこそ、残念なような。。。

 

追記

とおもったら、中国?から前向きコホートが出ていましたね。

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

こちらはシンプルに前向きコホート研究

587人のIgG4関連疾患を前向きに観察し、血管病変がある群とない群にシンプルに分けています。

あまり言いたくはないですが、先の研究よりもはるかに研究手法は洗練されています。

多変量解析を行うことはよしとせず、シンプルに単変量解析のみを行っています。

そもそも、想定する交絡因子あっての多変量解析ですので、なんでもかんでも多変量解析というのが、ご法度というよい例かなと思います。

 

こちらの論文では先の論文をもとに以下のタイプに血管病変を分類しています。

 

An external file that holds a picture, illustration, etc.
Object name is 13075_2020_2197_Fig1_HTML.jpg

 

 

Demographic features of IgG4-RD with/without PAO/PA

Demographic features PAO/PA (n = 89) Non-PAO/PA (n = 498) P value
Age (years) 58.3 ± 11.1 52.6 ± 13.8 < 0.001*
Male/female ratio 5.85/1 1.35/1 < 0.001*
Disease duration (month), M (Q1–Q3) 6 (2.5–36) 12 (6–36) < 0.001*
History of allergy (n, %) 25 (28.1) 267 (53.6) < 0.001*
IgG4-RD RI 10.8 ± 5.3 9.8 ± 5.2 0.103
Number of organs involved 2.9 ± 1.9 3.0 ± 1.7 0.126
Patients with single organ involved (n, %) 24 (27.0) 66 (13.3) 0.001*

 

アレルギーの割合が血管病変では低いですね。

これは唾液腺腫脹で発症するタイプのIgG4関連疾患ではアレルギーの合併が高いからのようです。

 

Symptoms and organs affected at baseline PAO/PA Non-PAO/PA P value
Symptoms at disease onset (n, %)
 Back pain 32 (36) 21 (4.2) < 0.001*
 Lymph node swelling 22 (24.7) 137 (27.5) 0.575
 Abdominal pain 25 (28.1) 79 (15.9) 0.005*
 Submandibular gland enlargement 18 (20.2) 213 (42.8) < 0.001*
 Lacrimal gland enlargement 10 (11.2) 227 (45.6) < 0.001*
 Lower limb edema 14 (15.7) 8 (1.6) < 0.001*

唾液腺腫大は基本的には合併することは少なく、腹部大動脈レベルの病変を反映して腰痛や下腿浮腫が合併しやすいようです

 

また血管病変を合併する例ではCRPや血沈が高いですね。

基本的にIgG4関連疾患はCRPが上昇しない疾患ですが血管病変があるとCRPが上昇しやすいというのは臨床的なパールですね。

こちらの論文ではIgG/IgG4の値は血管病変があるほうがむしろ、低いようです。

 

Parameters PAO/PA (n = 89) Non-PAO/PA (n = 498) P value
HgB (g/L) 127 ± 21 135 ± 19 < 0.001*
WBC (109/L) 7.9 ± 2.8 7.15 ± 2.55 0.014*
PLT (109/L) 240 ± 87 238 ± 89 0.862
Eos% elevation (%) 22.5 32.4 0.077
ESR (mm/h), M (Q1–Q3) 44 (18–75) 16 (7–40) < 0.0001*
Elevation of ESR (n, %) 61 (77.1%, 61/70) 205 (42.0%, 205/488) < 0.001*
hsCRP (mg/L), M (Q1–Q3) 6.72 (2.14–24.65) 1.78 (0.72–5.12) < 0.0001*
Elevation of hsCRP (n, %) 56 (70%, 56/80) 150 (37.5%, 150/400) < 0.001*
IgG (g/L) 19.88 ± 8.20 21.28 ± 14.46 0.292
IgA (g/L) 2.53 ± 1.13 2.16 ± 1.29 0.02*
IgM (g/L), M (Q1–Q3) 0.88 (0.56–1.14) 0.77 (0.54–1.19) 0.573
IgG1 (mg/L), M (Q1–Q3) 9355 (7928–11,325) 8665 (7013–10,600) 0.03
IgG2 (mg/L), M (Q1–Q3) 5705 (4255–7350) 5595 (4290–7520) 0.873
IgG3 (mg/L), M (Q1–Q3) 461 (221–923) 439 (253–841) 0.802
IgG4 (mg/L), M (Q1–Q3) 4240 (2015–7730) 8310 (3250–17,075) < 0.0001*

 

An external file that holds a picture, illustration, etc.
Object name is 13075_2020_2197_Fig1_HTML.jpg

2型が最も一般的(74、83.1%)、2b型(52、58.4%)、2a型(15 、16.9%)、2c(7、7.9%)、タイプ3(7、7.9%)、タイプ1(5、5.6%)、タイプ4(3、3.4%)

 

血管病変がある患者のうちの55人(61.8%)の患者は、水腎症を合併した。

43人(48.3%)の患者が尿管閉塞によって引き起こされた腎機能障害を発症した

 

ということで、血管病変がある群は、血管病変がない群に比べて炎症反応が高めで水腎症が合併しやすく、アレルギーの合併が少なく、IgG値も少ない傾向がありそうです。

 

なお、中国のこちらの論文のほうがTableやMethodもはるかに洗練されていて読んでいても違和感がなかったです。。

 

以下の特集のIgG4関連疾患のレビューは非常にまとまっており、お勧めです。