コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

病院総合医と、スキマ内科

前回、病院総合医にとってexpert gneralistとして複雑性をプロとして扱う能力が必要であり、家庭医療のベースが必要だと述べた。

https://jyoutoubyouinsougounaika.hatenablog.com/entry/2020/06/27/113136

 

とはいえ、現実的に急性期病院で働くには内科や救急の知識や能力が必須である。

実際に、救急専門医は潤沢にいるわけではないので、外傷も含めた2次救急レベルのERは総合診療医が担うことはリーズナブルであり、今の病院もそのスタイルである。

さらに集中治療医も同様に潤沢にいるわけではないので、集中治療の素養も必須。

さらに、病院総合医として働くにはベースとなる内科力が極めて重要になる。

なんだかんだ言って僕も内科がベースである。

尊敬できる内科医とディスカッションすることは個人的には、とても楽しいし遣り甲斐になる。

まずは内科救急への対応能力、そしてコモンな内科疾患に関しては、幅広く全ての分野に対して満遍なく対応できる力が必要になる。

心不全、心房細動、脳梗塞COPD、喘息、腎不全、電解質異常、肝不全、消化管出血、糖尿病、甲状腺機能異常、副腎不全など。。

このようなコモンな内科疾患に関しては少なくとも日本のガイドラインレベルの診療は出来る必要がある。

これらのコモンな内科疾患を診る能力は、特に小規模で内科医がほぼ総合診療医のみという環境では極めて重要になる。

また外科系の先生の内科診療のバックアップを行う場合もこのような能力が生きる。

ただ、そのような内科の基礎能力は、内科医であれば基本的に誰でもあるべき能力であるともいえる。

 

また、従来から言われていることだが内科臨床推論の能力も同様に極めて重要である。

特に、病院総合医として実際に他科の先生から相談されるケースとして、診断困難症例というのは最も分かりやすく、ニーズも確かにある。

実際に、大学病院になると病院総合医が臨床推論に特化するという形もありえるということになる。

ただ、臨床推論だけでは実際の臨床では物足りない。

あまりに臨床推論を重視すると実際の臨床の現場でギャップに悩むかもしれない。

 

ところで、中規模クラスの内科が比較的揃った病院であっても、専門内科が存在しないことが多い分野は何だろうか?

おそらく、感染症膠原病ではなかろうか。

病院によっては呼吸器内科や腎臓内科もそうかもしれない。

なので、病院総合医は必然的に、これらの分野を習熟する必要がある。 

僕の尊敬する総合内科の國松先生は著書の「ニッチなディジーズ」のなかで、スキマ内科という言葉を使われている。

  

 

この本自体もすごく勉強になり臨床にとても役に立っている。

これらのニッチな病気は確かに専門内科の範疇に当てはまりにくい、スキマである。

また國松先生は、スキマ内科は間質であるとも御指摘されている。

これは、本当にその通りで病院の機能や専門医によって自分を、アメーバのように変化させる間質としての、スキマ内科とも言える。

そういう、スキマ内科力は病院総合医にとって重要であると言えるだろう。

なので幅広く診ると言いつつも抗癌剤を使う能力は現状ではあまり要求されない。

また、循環器や消化器よりも、相対的に感染症膠原病、さらにニッチな病気に関してより詳しい内科力が必要なのだ(もちろん、感染症膠原病に関しても必要に応じて専門医と連携することが極めて重要)

必然的に臨床推論も、そのようなスキマな領域に関する知識がより要求される。

心療内科的な心身症もスキマになりやすく、病院総合医にとって重要になる。

また感染症膠原病の専門医がいない病院では、病院総合医がその分野で専門的な役割を発揮することは理に適っている。

またどんな病院であっても、高齢者の誤嚥性肺炎や尿路感染、高齢者のフレイル症例はスキマになる。

緩和ケア、臨床倫理も隙間になりやすい。

よって、スキマ内科としてはニッチな病気の診断治療だけでなく、老年内科、心療内科、緩和ケア、臨床倫理の素養は絶対に外せないということになる。

特に老年内科は米国ではコモンだが、日本では極めて稀であり病院総合医は老年内科としての素養が不可欠と言えるだろう。

 

実はスキマ内科と複雑性を扱うexpert generalistというのは、いきつくところは似ているかもしれない。

スキマ内科として老年内科を扱うと、必然的に複雑性や多併存疾患をプロとしてどのように扱うかという話になる。

心療内科、緩和ケア、臨床倫理も全く同様である。

さらに診断困難症例も純粋に医学的問題だけで診断が困難になっているだけでなく、心理社会的問題により複雑化し診断困難になることも散見される。

よって、基礎として、家庭医療、特にBPSモデルをベースにするほうが結局、応用が効きやすいのだ。

 

内科、救急、集中治療に関する幅広い基礎能力があり、救急、病棟、外来でオールラウンドには働くことが可能で

スキマ内科として臨床推論だけでなく、感染症膠原病などに強く、家族性地中海熱などのニッチな病気の診断や治療にも長け。

さらにBPSモデルをベースにexpert generalistとして複雑性の扱いにも長け、老年内科、心療内科、緩和ケア、臨床倫理の素養もある。

 

そんな、病院総合医ってカッコよくないですか?

僕は道半ばですが、そんな病院総合医を目指したいなって思います。