日本版ホスピタリストとCOVID-19
COVID-19時代を迎えて、感染症内科の先生と救急・ICUの先生がクローズアップされています。
しかし、今後のパンデミックに備えるだけでなく、今後の超高齢化社会を迎えるうえで、重要度が高いのが
病院総合医=日本版ホスピタリスト
です。
実は米国ではホスピタリストと呼ばれる医師が活躍しています。
米国ホスピタリストの黎明期とRobert Wachter氏 | 野木真将のブログ « あめいろぐ
ホスピタリストは病棟ですべての内科疾患を幅広く診療する医師です。
上記の野木先生のブログから引用しますが。。
1)米国ホスピタリストの黎明期は1990年前半から始まり、20年間で約5万人という集団にまで発展した。
2)ホスピタリスト発展の背景には、品質重視の医療改善(High value care)、医療安全への国民の注目、在院日数削減への病院努力、研修医教育のニーズと労働時間制限、外来から解放されることで実現されるシフト制勤務、病棟管理を医学生時代とレジデント時代に学んできたことでジェネラリストの裾野が広かったこと、などが挙げられる。
と米国ではホスピタリストが急速に普及し、その結果医療の質の改善、在院日数の削減、労働環境の改善などの効果があることが示唆されます。
つまり、医師の働き方改革という意味でもホスピタリストは重要であることが示唆されます。
日本においてもホスピタリストを導入することは非常に重要な課題であり、「日本版ホスピタリスト宣言」がときの黒川清先生を中心に提言されたことは、記憶に新しいです。
日本版ホスピタリスト宣言2019 JANAMEF 30周年記念会に参加しました。 - コミュニティホスピタリスト@奈良
「日本版ホスピタリストの養成」の提言について – 公益財団法人 日米医学医療交流財団
日本版ホスピタリストは病院総合医とも呼ばれています。
日本版ホスピタリストのライセンスにあたる、病院総合診療専門医が、ごく最近になって日本病院総合診療学会から発表されました。
現状は初期研修医2年間が終わった後の専門研修である総合診療専門医のさらに、その後のプログラムとして、病院総合医が想定されています。
今後、日本版ホスピタリストが増加することが期待されます。
では、日本版ホスピタリストと米国のホスピタリストの違いはなにか?
以下、私見です。
では日本版ホスピタリストとCOVID19はどのように関係があるのか?
まず米国ではCOVID19対策においてホスピタリストが非常に中心的な役割をはたしていることがハワイでホスピタリストをしている野木先生のブログからもわかります。
大波の先に立て!院内COVID19対策とホスピタリストの役割(前編) | 野木真将のブログ « あめいろぐ
大波の先に立て!院内COVID対策とホスピタリストの役割(後編) | 野木真将のブログ « あめいろぐ
COVID19の専属病棟をホスピタリストが立ち上げています。
では、日本ではどうか?
私は、自分の所属する市立奈良病院、東京北医療センター、そして上記の野木先生がいらっしゃるクイーンズメディカルセンターの3つの病院のCOVID19診療の実情を記述的に、まとめて、日本語の論文として発表しました。
そして病院総合医が特にCOVID19診療において重要な能力として以下の4つがあることが、記述研究から判明しました。
これらの能力はCOVID19診療においても重要ですが、日々の診療のなかでも非常に重要な能力であることは明らかです。
病院総合医は感染症を診ることも多く、感染症内科の先生ほどではないですが、感染症診療能力が高い傾向があります。
特に、感染症内科の先生がいない病院では病院総合医がCOVID19診療においてより重要な能力を発揮するのではと仮説を立て、アンケート調査を行いました。
・対象
日本版ホスピタリスト(総合診療科、総合内科)
・要因:感染症内科医(ID)がいる病院
・比較:感染症内科医(ID)がいない病院
・アウトカム
院内でCOVID-19に最も従事する内科系診療科が日本版ホスピタリストであると感じる割合
アウトカムが主観的ですが、それでも傾向を調べることは意義があると考えて日本版ホスピタリストを対象にアンケート研究をしました(未発表データ)
- 感染症内科がいない病院では以下の傾向を認めました
市中病院が多い
小規模病院が多い
病院および総合診療科の常勤医が少ない
救急車の搬送数が少ない
大規模のICUを有している病院は少ない
感染症内科がいない病院では日本版ホスピタリストが院内で最もCOVID19診療をしていると感じる割合は以下のとおりです。
感染症内科がいない病院 18/52= 35%
感染症内科がいる病院 64/80=80%
と単変量解析で、明らかに有意差を認めました(P<0.0001)
病院の規模、地域、医師の人数などで多変量解析をしても結果は同様でした。
オッズ比9.2 (P<0.0001)
もちろん、感染症内科の先生は非常に貴重ですし、感染症内科の先生と日本版ホスピタリストが連携するほうが望ましいのは言うまでもありません。
しかし、感染症内科がいない病院では日本版ホスピタリストが、COVID-19診療において中心的な役割を果たすことが示唆されると言えます。
これらの実感は、実際に友人の日本版ホスピタリストに聞いても明らかでした。
また以下のNHKの取材でも日本版ホスピタリストがCOVID19診療をするところが取り上げられています。
なお、この病院に関しても感染症内科の先生がいらっしゃらないので、日本版ホスピタリストがCOVID19診療の中心的役割を果たしているようです。(なおこの取材の医師は元同僚であることは開示します)
他の関東の感染症内科医がいない基幹市中病院でも日本版ホスピタリストがCOVID19の病棟診療と発熱外来を、一手にすべて引き受けている例もあり、院内において極めて重要な役割を果たしいます。
ただし、日本版ホスピタリストは集中治療に関しては集中治療専門医には劣るので、この事例のように重症患者管理に長けた、救急・集中治療医師と連携することが極めて重要なことも言うまでもありません。
また、日本版ホスピタリストは外来や救急にも長けているため、発熱患者の救急対応や、発熱外来においても重要な役割を発揮します。
実際、関東の大学病院では日本版ホスピタリストが発熱外来チームのリーダーとして運用をしている例もあるようです。
またもうひとつ重要なことは、日本版ホスピタリストはパンデミックが終わっても非常に重要な役割を果たすことです。
日本は、世界に類をみない超高齢化社会を迎えています。
よって、地域包括ケア病棟や在宅医療で高齢者をきちんとケアすることが重要になります。
日本版ホスピタリストは小規模病院では地域包括ケア病棟での高齢者ケアや、在宅医療も行っています。
少し、話は変わりますが海外では家庭医療という概念が標準化されています。
福島医大のホームページによると家庭医療は以下のように定義されます。
家庭医療とは || 公立大学法人 福島県立医科大学 地域・家庭医療学講座
「家庭医療」とは、どのような問題にもすぐに対応し、家族と地域の広がりの中で、疾患の背景にある問題を重視しながら、病気を持つひとを人間として理解し、からだとこころをバランスよくケアし、利用者との継続したパートナーシップを築き、そのケアに関わる多くの人と協力して、地域の健康ネットワークを創り、十分な説明と情報の提供を行うことに責任を持つ、家庭医によって提供される、医療サービスです。
筆者は病院で家庭医療を実践する医師を病院家庭医と呼称し、それを他の先生方と編集し書籍にしています。
病院家庭医は日本版ホスピタリストの亜型と考えてよいですが、小規模病院での在宅医療や地域包括ケアをより重視した診療形態と考えてよいと思われます。
これらの能力は今後の、超高齢化多死社会を迎える上で重要になることもまた、明らかです。
最後に、ただ日本版ホスピタリストは、なんでもできるスーパーマンでは決してありません。
スペシャリストの先生、他の医療職、介護職などの支援がなければ決して成り立ちません。
米国のホスピタリストは病棟診療のコンダクターと言われていますが、日本版ホスピタリストも病院におけるコンダクターといえるかもしれません。
病棟診療のコンダクター(石山貴章) | 2011年 | 記事一覧 | 医学界新聞 | 医学書院
とはいえ、今後のパンデミック、超高齢化社会をむかえるにあたり、日本版ホスピタリストは有用であると考えています。
それには、日本版ホスピタリストの基盤である総合診療専門医を適正な人数まで増やすこと
そして内科から日本版ホスピタリスト=病院総合診療専門医に行く人数を同様に、適正な人数まで増やすことが重要かと思われます。
どこくらいが適正かはこれからの議論が必要ですが。。
○医師向けのホスピタリスについて解説した本
総合診療専門医が19番目の専門医と認定されましたが、総合診療医とは何かを解説した以下の漫画もお薦めです。
個人的には最も好きかもしれません。。
この主人公のような医師になりたいですが。。人格が追いつきません。。