日本版ホスピタリストについて思うこと
日本版ホスピタリストのJANAMEFの対談が公開された。
https://www.medi-gate.jp/selection/column182/
僕はJANAMEFの助成でクイーンズメディカルセンターに1週間、見学に行った。
その際に感じた病棟専属のホスピタリストの有用性についての感想は、以下の通りだ。
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内科病棟診療の大部分をホスピタリストが担うことで専門医は専門医にしか出来ない業務に集中可能で、win-winの関係になることが期待できる
ホスピタリストが日本に必要な理由は以下の3つ。
高齢者は多併存疾患や、心理社会的複雑性を抱えている可能性が高く専門医の先生方にとって病棟診療の負担になっており、ホスピタリストシステムのほうが効率的に診療可能で在院日数の短縮につながる可能性が高い。
地域包括ケアシステムの推進のためには垂直統合つまり、大規模急性期病院と小規模病院、地域の病院と訪問診療医などといった異なる次元の医療機関同士の連携が不可欠。そのためには退院前カンファレンスの実施なども重要になってくるため、病棟に常駐し心理社会的ケアにも長けたホスピタリストの存在は非常に心強いと感じる
3つ目は働き方改革。医師の残業時間は今後ますます短くなる傾向にあるため従来のように外来、救急、病棟を全てこなすということは難しくなってきていると感じる。ホスピタリストシステムを導入すれば病棟に専念できるため、残業時間も短くなる可能性が高い。
ホスピタリストシステムを導入する上での障壁は以下の通り。
日本伝統の専門医の先生方が病棟業務を行うという文化。
そのためには、専門医の先生方が少数しかおらずホスピタリストシステムのニーズが特に高い地方の病院や、都会であっても比較的小規模で地域に根差した病院などで成功例を積み重ねて浸透する必要がある。
2つ目の障壁は従来の主治医性が変更されることへの反発。こちらに関しては平日の主治医は固定し、夜間土日は完全にオフにし、必要に応じて他のホスピタリストがカバーするという緩やかな「交代制」、「チーム制」から始めることが解決策になると考える。
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上記のように考えていた。
その直後に、地元の地方の中規模病院で病院総合医≒ホスピタリストとして勤務を開始することになった。
その後、少し自分の考えが変わったように思う。
最も、重要な点は病棟に拘り過ぎなくても良いのではということだ。
というのも、患者さん中心ということは当然大切なのだが、その文脈で言えば患者さんは専門医に病棟主治医をしてもらいたいという文化が日本では根強い。
さらに、専門医の先生にとって実は最も避けたい仕事は、日本では初診外来と救急、そして高齢者病棟であるということだ。
逆に専門領域の病棟診療を診たくないという方は少数で、それが自分のかかりつけの患者さんなら、なおさら自分で診たいと思うのが心情だろう。
米国では外来はプライマリケア医と家庭医が担い、救急はER医が担っている状況とは違うように思う。
米国ではプライマリケア医が外来もしながら片手間に病棟を診ることが負担になっていたが、日本ではむしろ専門医が片手間に救急や初診外来、高齢者病棟を診ることが負担になっているように思う。
例えば、消化器内科医が専門外来や内視鏡を診ながら、初診外来、内科救急さらには誤嚥性肺炎や尿路感染の病棟診療をしているというのが日本の現状だと思う。
このような状況は専門医にとっても患者にとっても良くないように思う。
ある程度専門医が揃っている、今の当院の状況では、病院総合医≒ホスピタリストが病棟だけに専従するというのは確かに現実的ではないように感じる。
それよりも、専門医の先生にとって負担になっている救急や初診外来、高齢者病棟診療をホスピタリストが肩代わりするというのが、理にかなっているように思う。
ただ、それもあくまで状況依存性であり、例えばもっと大きい病院でER医も多数いるような環境であれば、内科病棟診療をより重視した働き方がマッチする。
ただし、大規模病院では米国ホスピタリストのように全ての内科病棟を受け持つのはマンパワー的にも難しいので、麻生飯塚病院、亀田総合病院、湘南鎌倉病院のように内科系緊急入院で、専門医が少ない領域や専門医でなくとも診れる疾患の病棟管理及び、外来業務を行うというのが現実的になると思う。
また、その一方で小規模病院であれば日本版ホスピタリストが内科系救急、初診外来、内科系病棟診療を一手に引き受けるというスタイルが現実的だし、求められるあり方になる。
小規模病院でもより回復期機能を持った病院では、日本版ホスピタリストが在宅医療も行うことも重要だろう。
結局、あまり病棟に拘り過ぎず、状況に応じてアメーバのように自分の特性を変えることが出来るというのが日本版ホスピタリストの特性なのだと思う。
そして、自分がこうしたいというよりも、地域や、患者、そして病院や専門医から求められている領域を、その都度アジャストしていく能力が重要になると思う。
米国のホスピタリストが行っている、質改善の取り組みやコミュニケーション能力、多職種連携能力などは是非学ぶべきだが、病棟専属という役割に関しては日本では柔軟に考えても良いかもしれないと感じる。
状況依存性という意味では日本版ホスピタリストに求められる能力は、新専門医制度の病院総合診療専門医を基盤に置くほうが、明らかに潰しは効くだろう。
とはいえ。。
別の思いとしては、日本の中~大規模病院でER医やICU医もそろっている環境でほぼ病棟専属のホスピタリストチームが出来れば、良質なパフォーマンスを発揮してくれるのではないか、という期待もある。
このようなスタイルを確立するには、病院上層部の理解が不可欠だが、実際に、水戸協同病院や東京ベイは、中規模病院ながら内科をベースにした病院総合医が病棟専従に近いスタイルで機能している。
その意味で、1階立ての総合診療だけでなく、1階立ての内科からも病院総合診療医≒日本版ホスピタリストを目指す道があったほうが良いと僕は思う。
内科からの道がないと病院総合診療医は決して増えないだろう。
実際にこのような中~大規模な急性期病院で病棟専属に近いスタイルに関しては、高度な内科的な知識や経験が要求されるため、内科ベースであるほうが有利だと考える。
また、病院、患者、地域に必要とされるのであれば、消化器や呼吸器などの内科の専門領域を持ちつつも、ホスピタリストとして働くというスタイルも日本であれば僕はアリだと思う。
さらに、外科など他科の先生が日本版ホスピタリストに転科するというキャリアパスももっと一般的になっても良いのではないか。
その意味で日本版ホスピタリストのベースは必ずしも総合診療や家庭医療に限定する必要はない。
ただし、効果的な地域包括ケアシステムの構築、さらには複雑性への対処能力向上のために、家庭医療の理論を日本版ホスピタリストが知ることは、必須である。
高齢者の誤嚥性肺炎や尿路感染を内科の視点でしか診れないと辛い。
高齢者の誤嚥性肺炎や尿路感染を反復して診ることに、遣り甲斐を見出すには、BPSモデルやPCCMなどの家庭医療の理論の理解が必須だと僕は考える。
いずれにせよ、ベースが何であれ、病院の環境や地域に応じて自分の働き方をアメーバのようにアジャストできる能力が日本版ホスピタリストには、必要だ。
まずは、そのような日本版ホスピタリストが働く場を徐々に増やしていくことがこれからの課題だろう。