コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

今、この時代に総合診療を目指す理由 失業しないために

 

21 Lessons: 21世紀の人類のための21の思考を読んでいます。

ユヴァル・ノア・ハラリの最新作で、ホモサピエンス全史、ホモ・デウスに並ぶ最新作です。

その、冒頭。

AIによる失業のリスクが物語られています。

そして、多分これはかなり現実的なリスクだと思います。

ハラリは失業する医師として開業医を挙げています。

 ハラリが医師と違い失業しにくい職業として看護師、介護士を挙げていました。

特に看護師は情動に気を配り、さらに多種多様な仕事をしているため置換されにくいとのことです。

その一方で、単一の仕事のみをしている職業はAIに置換されやすいと指摘しています。

よって、専門医も失業のリスクが高いと感じます。

実際に、放射線診断や病理診断はディープラーニングで行えるという報告が既にあります。

 ハラリが開業医が失業するとしている根拠は病気の診断や最もエビデンスのある治療選択はAIに置換されるとしているからです。

つまりAI開業医が病気の診断も治療も全てやってくれるというのです。

少なくともただ血圧の薬を出しているというスタイルの開業医は間違いなく置換されるでしょう。

すでに、コロナ禍でその流れは急速に加速しています。

おそらく、臨床推論、最新のガイドラインによる治療に関してはほぼ間違いなくAIに置換されるでしょう。

臨床推論、ガイドラインによる治療はアルゴリズムによりなされますが、アルゴリズムに関しては人間はAIに勝てないからです。

 

ただ臨床推論のなかでもAIに置換されにくい部分もあると予想しています。

例えば家族性地中海熱は診断しにくい病気の筆頭に挙げられていますが、ある程度パターン認識なのでアルゴリズムで代用が可能です。

むしろ稀な病気のコモンなプレゼンテーションはアルゴリズムのほうが得意でしょう。

その一方で、心理社会的に複雑な症例で心身症を発症した症例では、アルゴリズム通りの対応は難しいでしょう。

また治療に関してもEBMのstep4に相当する実際のエビデンスを踏まえて患者の意向や周囲の状況も踏まえてどのようにするかという意思決定支援に関しては、やはり完全にアルゴリズムでの置換は難しいでしょう。

さらに治療に関しても多併存疾患で心理社会的に複雑でガイドライン通りに治療するとポリファーマシーになってしまう症例もアルゴリズムでの対応は難しいかもしれません。

このような複雑な問題に対応する力は今の、専門医の育成を念頭に置いた卒然、卒後の医師教育で実施されていないことは明らかです。

あくまで個人の資質として専門医でそのようなことができる人がいるということに過ぎません。

例外的に総合診療(家庭医療)、在宅医療、緩和ケア、リハビリ、老年医学などの分野はこれらの複雑性の対応を扱います。

その中でも特に教育プログラム内でこのようなことを専門的に扱っている専門医こそが家庭医療専門医です。

よって実はAI時代に求められる医師の資質は実は家庭医療学の実践に他ならないのです。

総合診療の本質は診断学だと考えることのリスクはここからでも明らかです。

また総合診療の本質のひとつとして環境によって常に自分自身を変化できるということです。

例えばある病院では回復期リハビリテーションを担当していた病院総合医が、別の病院に移って救急や診断学を担当し、さらに並行して在宅で緩和ケアを行うということは総合診療医ならではの能力です。

これはニーズに応じて自分を変化させることができるという特性によっており、残念ながら内科学の研修をするだけでは、このような能力は身に尽きません。

21 LessonsではAIの発展に伴い急激に変化する時代においてすさまじい勢いで人が自分自身をアップグレードし転職することが求められると予想します。

まさに、これは総合診療の能力そのものです。

おそらくこれからの時代、医師は失業する時代になります。

研究などで業績を残したり、卓越する能力がある超一流の専門医と、複雑系を扱う能力に長けた総合診療医が生き残る時代となるでしょう。

しかし、総合診療医も自分が生き残るために自分自身を常に変化させニーズに対応し、AIを使いこなし、さらに医学以外の分野にも精通する必要があるでしょう。

そうしないと生き残れない時代なのです。

21世紀は専門医を選んだら一生安泰という時代では決してないのです。