コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

急性発症で進行性の感覚低下を認めるが筋力低下がない場合に考えること Pure sensory Guillain-Barré syndromeとacute sensory and autonomic neuronopathy  

Pure sensory Guillain-Barré syndrome: A case report and review of the literature - PMC

 

運動障害がなければギラン・バレー症候群は否定的だとして、急性発症で進行性の感覚障害のみの場合はどう説明するのか?

6人の純粋な感覚障害のみで運動障害を有さないギラン・バレー症候群のケースシリーズ

年齢は 27 歳から 67 歳までの男性 4 名、女性 2 名

上肢と下肢の急性発症のしびれを示した。

顔のしびれを訴える患者さんもいた。

4 人は四肢の灼熱感の感覚障害を伴っていた。

病気の発症時の手足の激しい痛みを認めていた。

6人全員が上肢と下肢の両方に症状があった。

筋力低下を訴えた患者はなし。

先行疾患は 4 人の患者から報告され、3 人は下痢、1 人はノルフロキサシンで治療された尿路感染症だった。

いずれの患者においても、糖尿病、アルコール摂取、化学物質や毒素への曝露、または末梢神経障害を説明できる薬剤の歴なし

 

 

感覚性ギランバレー症候群の定義

急性発症の対称性感覚障害

4週間までの進行

反射の低下または消失

筋力は正常

少なくとも2つの神経に脱髄電気生理学的証拠

単相性の経過

神経障害の他の原因なし

神経障害の家族歴なし

髄液蛋白の増加

 

 

これらの、Pure sensory Guillain-Barré syndromeは、acute small fibere sensory neuropathy (ASFSN)と定義してもよいのではないかとのこと。

 

通常は経過は良く改善するが、経過不良でIVIGで改善した症例報告もあり

Pure sensory Guillain-Barré syndrome: A case report and review of the literature - PMC

 

なお、ギランバレー症候群のバリアントとして、acute motor and sensory axonal neuropathy (AMSAN)が知られているが、通常の軸索型のAMANよりも、より、症状が激しいという報告もあり。

Guillain-Barré Syndrome and Variants - PMC

 

 

よって、運動障害が目立たないという理由のみでGuillain-Barré syndromeは否定出来ないと思われる。

 

さらにacute sensory and autonomic neuronopathy(ASANN) という概念もあり

Acute sensory and autonomic neuronopathy: a devastating disorder affecting sensory and autonomic ganglia - PMC

 

 

急性に発症し、運動機能障害を伴わない重度の感覚・自律神経障害、典型的には熱性疾患に先行し、回復が悪く、しばしば致命的な転帰をとることが急性感覚・自律神経障害(ASANN)の特徴である。

ASANNは、病理学的および電気生理学的に、運動ニューロンを温存したまま感覚神経節および自律神経節に影響を及ぼす広範な神経節症によって特徴づけられる。

その結果、患者(通常、小児または若年成人)は、急性に発症し、すべての感覚モダリティが広範囲に失われ、神経原性起立性低血圧、神経原性膀胱機能低下、胃不全麻痺および便秘を引き起こす自律神経失調症になる。

診断は、神経伝導検査と自律神経検査、および脊髄MRIで特徴的な脊髄後部の高濃度を確認することにより、臨床的に行われる。

 

病因は免疫介在性であると推定されるが、その生理病理を明らかにするためにさらなる研究が必要である。

.3例ともASANNの典型的な臨床症状を呈したが、その症状の組み合わせは異なっており、本疾患の表現型が多様であることを物語っている。

免疫抑制が有効であることは稀である。

治療の選択肢は、合併症を最小限にとどめ、かつ、合併症を予防することを目的とした、支持療法と対症療法に限られる。

 

感覚障害と自律神経障害を反映した臨床症状を認める。

歩行障害も認める。

 

起立性低血圧を認める。

写真やイラストなどを保持する外部ファイル。オブジェクト名は nihms-1630978-f0002.jpg

 

 

ASANNは急性に発症し、通常、小児または若年成人の健康な患者に認める。

発症前に呼吸器感染症や消化器感染症などの先行感染疾患を伴うことが多い。

この疾患はまれで、文献上では50例以下であり、その大部分はアジア人、主に日本人に由来する。

このように地理的に優位な理由は不明である

 

古典的なギラン・バレー症候群やacute autonomic sensory and motor neuropathy (AASMN)は鑑別だが急性発症の運動神経障害を認めるが、ASANNは筋力低下を伴わず、神経伝導検査でも運動神経は保たれることが鑑別である。

ASANNは、深部腱反射の急性喪失と平衡感覚と運動失調により、ギラン・バレー症候群またはAASMNと誤診されることが多く、しばしば "脱力 "と誤分類されることがある。しかし、徹底した神経学的検査により、ASANN患者では実際には筋力が保たれており、その運動失調は固有感覚障害によるもので、起立、四肢の運動、嚥下、持続的筋収縮に支障をきたし、筋力低下と誤解される

 

神経伝導検査では、感覚神経伝導速度は保たれたまま、感覚電位が減少または消失する。瞬目反応は2名で消失した

 

ASANN患者は、疾患の初期段階から深遠な自律神経障害を有する。最も一般的な症状は、神経原性起立性低血圧、下痢、嘔吐、目や口の乾燥、尿失禁、発汗減少である。

神経原性起立性低血圧(起立またはヘッドアップティルト後3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上または拡張期血圧が10mmHg以上持続的に低下すること)は顕著で、日常生活動作に深刻な影響を及ぼす。

病理学的研究では、交感神経および副交感神経の神経節と腓骨神経のニューロンの障害を認めるとのこと。

 


ASANN患者のほぼ全員に、MRIで特徴的な「逆V字型」の脊髄の高濃度化が見られる(図3)。これは、後根神経節ニューロンの脊髄後方への投射が変性していることを示すものである。

写真やイラストなどを保持する外部ファイル。オブジェクト名は nihms-1630978-f0003.jpg

 

 

とういことで、急性発症で進行性の感覚低下を認めた場合は筋力低下がなくても、Pure sensory Guillain-Barré syndromeとacute sensory and autonomic neuronopathy を鑑別に入れる必要がある。

 

COVID19で消化管穿孔は多いのか?

Gastrointestinal perforation secondary to COVID-19 - PMC

 

COVID19では消化管穿孔が増えるのか?

 

はじめに
コロナウイルス感染症2019(COVID-19)は,主に呼吸器症状を呈する。しかし,消化器症状を含む呼吸器以外の症状も頻繁に認められるようになってきた.消化器症状としては,悪心,嘔吐,下痢,腹痛が主なものである.COVID-19に関連した消化管穿孔は、文献上ほとんど報告されていない。

診断
本シリーズでは,COVID-19に伴う消化管穿孔を呈した異なる3症例を報告する。2例はCOVID-19による重症肺炎で入院し,いずれも集中治療,挿管,人工呼吸を要した。1例は高齢の男性で,人工呼吸器からの離脱が困難であり,気管切開を必要とした.集中治療室滞在中に,原因不明のカンジダ血症を発症した.病棟に移動後,下部消化管出血が出現し,画像診断で腹膜炎の徴候を伴う徴候を認めた.2例目は肥満の若い男性で、横隔膜下に空気がたまっているのが偶然発見された。コンピュータ断層撮影では、糞便と胃壁の穿孔を伴う重度の気腹が確認された。3例目は高齢の男性で,急性腹症の症状・徴候とともに重症のCOVID-19肺炎を呈し,画像診断でS状結腸憩室炎と穿孔が確認された症例である.

介入
最初の2例は保存的に治療した。3例目は外科的治療。

結果
症例の経過は様々であったが、幸いにも全例が良好な臨床状態で退院した。

結論
本シリーズの目的は、この致命的な合併症を臨床医に紹介し、このパンデミックに対する理解を深め、結果として患者の予後を改善することにある。

 

写真やイラストなどを保持する外部ファイル。オブジェクト名は medi-100-e25771-g002.jpg です。

 

今回の3例以外に、過去に13例がCOVID19に伴う消化管穿孔と報告

以前に報告された症例のほとんどは、最初に呼吸器症状を示し、4 例は、腹痛、こわばり、吐き気、および下痢の形で、受診時に消化器症状も示した

13 例中 11 例は、今回の 2 例と同様に、高流量酸素、挿管、または人工呼吸器のいずれかを必要とする重度の重篤な肺炎を患ってた

⇒これは、COVID-19 の重篤な症例で消化管穿孔がより一般的であることを示している

腹痛、腹部膨満、腹膜刺激徴候、血行動態の不安定化、CRP上昇などが気づくきっかけとなった。

 受診時に腹痛と圧痛があったのは、1例だけだった別

消化管穿孔は、COVID-19の最初の発症日から23日目まで診断された

私たちの患者は、COVID-19の症状に関連して、消化管穿孔の同様のさまざまなタイミングを持っていました。

診断の初日から COVID-19 肺炎の発症後 40 日までの範囲

⇒感染の過程で消化管穿孔がいつでも発生する可能性があることを示している可能性がある

 

*感想

COVID19自体が消化管の脆弱性をきたす印象

重症例で多いということからも、おそらくはワクチン未接種群が消化管穿孔のリスクではないか。

COVID19の急性期のみならず、ある程度感染が落ち着いてからも穿孔をきたすことがあるとのこと。

 

 

 

勉強の哲学―来たるべきバカのために

勉強の哲学―来たるべきバカのために

 

アイロニーを突き詰めると決断できなくなる。

まったく無目的に誰かに影響されて決断すると、今度は決断する中身がなくなり、決断する個人もなくなる。

自分の嗜好で決断を仮固定するが、しかし一方で決断することを保留し、つねに比較し続けることが重要である。

ユーモアを使いある程度の選択肢を残しておきつつ、自分の嗜好で仮固定し、しかし仮固定のなかにもアイロニーの視点を持つ。

仏教の中道や、自らを灯火とせよという教えとも通じる。

コロナ禍では、コロナ脳と反ワクチンの終わることがない二項対立がずっと続いていたようにも感じる。

私自身の嗜好は、コロナ脳に傾く。

それはコロナを実際に診るという嗜好がそうさせるのかもしれない。

また科学的な思考を絶対化する嗜好もそうさせるのかもしれない。

嗜好は今までの出会いで形作られた私の個性でもある。

ただ、それでも比較をし続けることが重要なのだろう。

自分のコロナ脳という立場をメタ認知し批判し、比較することも続けたい。

目覚めるという表現は決断の絶対化ではないか

決断をすること自体が目的となっていないか

目覚めた人は決断をした時点で学習することをやめてしまわないか

一般書は玉石混交

勉強せずに放言をしても一般書となる。

アカデミックな分野とつながっているかどうか

専門分野を学ぶことは難しい。

信頼できる入門書をいくつか読んでそのうえで、教科書を辞書的に使用する。

専門領域でないものが一般書やyoutubeで目覚めるというのは自分の経験を絶対化していないか。

勉強することでその分野の専門用語で自分が揺さぶられ新たなバカになる

改めて勉強というものは自分を揺さぶるために未知の言語体系をインストールするものなのだ

筆者はSF小説のように未知の分野の言語体系を眺めるようにと言っていたが至言だと思う。

私も含めて悪性のバカになっていないか?

悪性のバカとは一般書をかじっただけで自分の狭い世界で専門用語を理解したつもりになることと、ここでは定義する。

自省だが、コロナ禍で一般書やYou-tube、Twitterなどを聞きかじった知識でワクチンやCOVID-19をわかったつもりになり真の専門家を冒涜するという現象は悪性のバカだと思う。

しかし、私自身が同じ誤謬になる危険もある。

例えば、経済の分野を聞きかじっただけで分かった気になっていないか。

経済を勉強しようと思えば入門書をいくつか読んでさらに、教科書を辞書的に読んで、そしてアカデミックな世界で信頼される専門家の意見を聞いて、ようやく理解できる。

私も医学の世界で同様の過程を長い年月をかけてきた。

もちろん、勉強に再現はないしどこかで仮固定をしなければいけない。

縦軸であるアイロニーも横軸であるユーモアも際限はないのだ。

それでも信頼できる書物を読み、いかがわしい一般書は信頼せず、常に比較し考え続けるという姿勢は可能かもしれない。

 

 

現代思想入門 感想など

現代思想入門(講談社現代新書) [新書]

 

現代思想入門を読み終えた

気になったことをツイートしていたので、以下に列挙。

・2項対立をどう克服するか。コロナは2項対立そのものだ。ワクチンを打つべきか、コロナは風邪なのか。あえて自分が是としない立場で考えてることも重要。

・デタッチメントは、中道と読み替えてもよいかも。自己を灯火にするというのは初期仏教に近い。つかず、離れず。

・バーチャルな差異や、仮固定、プロセスという概念は縁起や空、無常という仏教哲学と近い気がする。臨床においてもデータにすると失われる微細が存在する。だからこそ小説を書く医師もいる。

リゾームのイメージは多神教的な世界観なのかもしれないし、やはり色即是空というイメージかもしれない。大日如来がいない曼陀羅のイメージ?かわりゆく自然そのものかもしれない。

リゾームはインターネットによる領域横断的なイメージとのこと。

フーコーの権力論。管理社会という意味でワクチン打とうぜというのも無理やり病気にさせず働かせるという管理論かも、しれない。だからワクチン打ちたくないなら、反科学主義でなく、フーコー的に権力から逃れたいとだけ、言えばよいかなと。

・雑多な曖昧な生き方という背景には、キリスト教的な一神教脱構築という面があるのだろう。ただ、日本の古来の思想は八百万の神、山川草木悉皆成仏なので、わりかし曖昧。ただ、江戸時代の儒教の影響は管理的では、あるし、その影響は大きいかも。

マルクスの概念はやはり、新しいのだろう。非常に先駆的。資本家と労働者という概念は、当然だが歴史的に産業革命がないと起こりえない

ラカンはエディプスコンプレックスのイメージだが本質的にはあるはずのない煩悩を追い求め続ける様かもしれない。しかしいつまでも辿りつけない。四諦とは鏡像関係。言語の習得で失われる現実界と空の概念は近い気がする。

否定神学は、般若心経の不生不滅 不垢不浄 不増不減を思い出す。それへの批判とは神秘主義は明晰的態度への甘えや逃げであるということか。あるいは永遠に何かを追い求めることをやめ、いまここに集中すべきということなのか

・ただ、空の思想は四諦とも関連があるように、空の姿勢で生きるということは、いまここを生きる姿勢にも繋がるかなと。蜃気楼のような享楽を求め続けるラカン的な発想が、享楽にいまここを見いだすのか。有限性の自覚が、空や永遠のトリガーだとしたら。

・カントの超越論的はオペレーションシステム。systematicに何かを成り立たせる前提。確かにwindowsもOSの外にあるものは認識できない。たぶん、言語や知覚の限界とも関連。その外になると神秘主義的にならざるおえない。禅や密教的な世界になる。やらないとわからない。言語を拒否する世界

エクリチュールとは心理から遠ざかりずれて誤解されるもの。世の中の真理はすべからくエクリチュールの要素をはらむ。濁った水のなかで生きることを自覚せよ。→心理はかなりキリスト教的。エクリチュールが重要というのはパラドックス親鸞パラドックスとも通じる。悪人正機

・レビナスは他者の哲学。存在論への反発。ただあるという共同体的存在論は他者を排除することでファシズム的になる。他者から始める。他者を無限、存在の地平を全体性ととらえる。→アンチファシズム。ただ、そこから存在しえないものへの憧憬へ。言語を越えたもの。

・アンチファシズムという意味ではむしろ生命がもつ無限にも思える宇宙に注目するというのも、ありかもしれない。アンチテーゼとして東洋的な山川草木悉皆成仏的世界観は確かに有用かもしれない

デリダは差異の哲学。弟子のマラブーは同一性に逆張りして、揺り戻す。形態を持ちつつ可塑性があり、変化する。仮固定する。→行く川の流れは絶えずして元の形にあらず。

・メイヤスーは絶対的同一性のパラドックス。絶対的同一性なので、存在することに意味はなく、いつでも変化可能。→同一性が差異にかわるパラドックス。→生命そのものでは?

・メイヤスーは、思弁的唯物論として数理的に記述できる客観的真実を規定した。しかし、それは意味がなく偶然。偶然であるがゆえに突然変化する。→科学的な思考と親和性が高い。変化することは、必然である。

・古代的ポストモダンは、イマココを生きる姿勢。悩まない。多元化した問題を多元化したまま扱う。世俗の深さを知る

・四原則→他者性(排除されてるもの)、超越性(成り立たせる前提)、→排除されているものを前提にする極端化→排除されているものを極端化する、反常識→結果、常識に反する

 

最後の、現代思想入門の読み方の解説が非常に興味深い

情緒がかった回りくどい文章を、回りくどくない方法で、端的にこう読むんだよと解説してくれるのが興味深かった。

ただそのような文学的な構成にも深く読むと思想があるというのは人文科学の興味深い方法論だと感じる。

 

個人的には初期の梅原猛の仏教思想で現代哲学入門を理解する読み方がやはり、面白いなと感じた。

おそらくは、空や山川草木悉皆成仏を現代思想の文脈およびポスト現代思想で再構築するということが現代日本における哲学の方向性の1つではないかと感じる。

 

おそらくは現代思想で排除されているものは、自然や生命なのだろう。

つまり、山川草木悉皆成仏的な世界観である。

四原則にもとづいてさらに進めるなら、超越性として自然や生命にも人間と同様に仏性があると規定し、それを前提とする極端化を推し進める結果、反常識となるのだろう。

その極端化で常識とは反する以下のような内容がありえるのかもしれない。

屠殺される家畜にも仏性があり、我々は日々、仏性があるものを殺して生きている。

 

日本から、最新の哲学の思想の流れを踏まえながら、仏教を始めとする東洋の哲学を融合した、新しい哲学の創造を夢想してしまう。

 

 

 

ブチルスコポラミンは死前喘鳴に効くのか?

死前喘鳴でできることがあるのか?

www.seirei.or.jp

 

三方原の緩和ガイドではハイスコを推奨されているが、どれほど効くのか?

 

Effect of Prophylactic Subcutaneous Scopolamine Butylbromide on Death Rattle in Patients at the End of Life: The SILENCE Randomized Clinical Trial | End of Life | JAMA | JAMA Network

 

JAMAに掲載された論文

 

死前喘鳴とは,気道に粘液が存在するために起こる騒がしい呼吸と定義され,臨死期の患者に比較的よくみられる。臨床ガイドラインでは、非薬物療法がうまくいかなかった場合に、死の騒音を軽減するために抗コリン薬を推奨しているが、その有効性に関するエビデンスは不足している。抗コリン薬は粘液産生を減少させるだけであることから、予防的に投与することがより適切であるかは不明である。

 

目的 予防的なスコポラミンブチルブロミドの投与が死前喘鳴を減少させるかどうかを判断すること。

 

デザイン

オランダの 6 つのホスピスで、多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験を行った。

 

患者

ホスピスに入院した余命3日以上の患者を対象に、2017年4月10日から2019年12月31日まで、事前のインフォームドコンセントを依頼した。同意が認められると、適格基準を満たす患者を無作為化した。事前インフォームドコンセントを提供した229名の患者のうち、162名が最終的に無作為化された。最終フォローアップの日付は2020年1月31日であった。

 

介入

スコポラミンブチルブロミド20mgを1日4回皮下投与(n=79)、またはプラセボ(n=78)。

 

主要アウトカムおよび測定

主要アウトカムは、4時間間隔で連続する2つの時点で測定されたグレード2以上の死前喘鳴の発生であった。

副次的アウトカムとして、抗コリン作用の有害事象が含まれた。

 

結果

無作為化された162例のうち、157例(97%、年齢中央値76歳[IQR、66~84歳]、女性56%)が一次解析に含まれた。

死前喘鳴は、スコポラミン群では10人(13%)、プラセボ群では21人(27%)で発生した(差、14%;95%CI、2%-27%、P = 0.02)。

死前喘鳴までの時間は、ハザード比(HR)は0.44(95%CI、0.20-0.92;P = .03;48時間での累積発生率。スコポラミン群8% vs プラセボ群17%)。

スコポラミン群とプラセボ群では

落ち着きのなさは79人中22人(28%)対78人中18人(23%)

口渇は79人中8人(10%)対78人中12人(15%)

尿閉は26人中6人(23%)対18人中3人(17%)にそれぞれ発生した。

結論と意義

終末期の患者において、予防的なスコポラミンブチルブロミドの皮下投与は、プラセボと比較して、死前喘鳴の発生を有意に減少させた。

 

 

◯感想

今回の論文は予防的なブチルスコポラミンの投与をした論文であり、それなりの効果はありそう。

ただ死前喘鳴を起こしてからの投与はどれほど有用かは不明。

それでも試す価値はあるか。

 

プロカルシトニンは壊死性筋膜炎を予測できるか?

壊死性筋膜炎疑い。

プロカルシトニン高値。

プロカルシトニンは壊死性筋膜炎の予測に使えるのか?

 

Diagnosing Necrotizing Fasciitis Using Procalcitonin and a Laboratory Risk Indicator: Brief Overview - PMC

プロカルシトニンのレビュー

血中PCTの上昇は、進行中の深刻な組織損傷を示唆する可能性がある。

 

Procalcitonin ratio as a predictor of successful surgical treatment of severe necrotizing soft tissue infections

⇒術後、1日目と2日目のプロカルシトニンの値が、外科的治療の成功を予測する。

プロカルシトニンの低下は治療効果判定にも使えるかもしれない。

 

Usefulness of serum procalcitonin for necrotizing fasciitis as an early diagnostic tool

 

 

◯背景

 壊死性筋膜炎(NF)は早期診断が重要であり、良好な転帰をもたらす可能性があるが、蜂巣炎との鑑別が困難であり、適切な治療が遅れることがある。

 

◯対象者および方法

NFと蜂巣炎を正しく鑑別するための診断ツールを検討する目的で、本ケースコントロール研究を実施した。2014~2019年の間に当院でNFと診断された全患者をレトロスペクティブに検討した。対照群として、研究期間中に蜂巣炎と診断された患者を無作為に抽出した。

NFの重症度は、血清プロカルシトニン(PCT)、LRINECスコア、NTSI評価、SIARIスコアで評価した。

◯結果

本研究では、合計25名のNF患者が登録された。年齢中央値は68歳(範囲39-79)、18名(72%)が男性であった。

NF群と蜂巣炎群を比較すると、NF群は蜂巣炎群よりLRINECスコアと血清PCTが高かったが、血清PCTには統計的有意差はなかった。

NFと蜂巣炎を鑑別する診断価値に関して,血清PCTとLRINECスコアのROC曲線下面積は0.928[95%信頼区間(CI)0.864-0.992,p<0.001]と0.846(95%CI 0.757-0.936,p<0.001)であった.

適切な血清PCTカットオフ値は1.0であり,感度88%,特異度89%,陽性予測値81%,陰性予測値93%であった.

◯結論

血清PCTはNFと蜂巣炎の鑑別診断に有用なマーカーとなり得る。 

 

プロカルシトニンはNTでは平均40だが蜂窩織炎では1.0が平均

Procalcitonin 40.4 ± 60.3 1.0 ± 4.2 0.003

 

NFと蜂窩織炎のoutcomeの違い

 

◯AUCカーブはプロカルシトニンが最も値が良い。

 

 

◯感想

プロカルシトニンは壊死性軟部組織感染の診断に有用かもしれない

今回の研究はケースコントロール研究なので、選択バイアスの問題が否定できない。

さらにプロカルシトニンを測定した症例のみを集めているのでより、選択バイアスがありえる。

また大学病院であり重症例が集められているというのも選択バイアスとなるかもしれない。

NF群のほうがCKDが多いため、ベースラインの患者はNFが不良である可能性もある。

ただ、それでも明らかにNFでプロカルシトニンが上昇している傾向はある。

実臨床でもプロカルシトニンが著増している軟部組織感染では、NFを積極的に考えるという戦略はありかもしれない。

ただ、プロカルシトニンが増加していないから壊死性軟部組織感染ではないというのは、厳禁で全体的な臨床像で判断。

今後の、コホート研究に期待。

 

 

 

低ナトリウム血症における副腎不全

低ナトリウム血症による副腎不全、どれくらいあるか?

 

Severe hyponatremia due to hypopituitarism with adrenal insufficiency: report on 28 cases

 

目的

下垂体機能低下症や副腎機能不全による重症低ナトリウム血症は生命を脅かす可能性があり,基礎疾患の診断がつけばグルココルチコイドによる治療が非常に有効である.我々の経験では、低ナトリウム血症患者における下垂体機能低下症の診断は見落とされることが多い。

方法

1981年から2001年の間に大学病院の内分泌科に受診した重症低ナトリウム血症(<130 mmol/l)患者185人のファイルを後方視的に調査し、副腎不全を含む低ナトリウム血症と下垂体機能低下の患者の臨床スペクトルを説明するために検討した。

結果

139例において、患者を(i)原発性ナトリウム欠乏症、(ii)浮腫性疾患、(iii)「抗利尿ホルモン不適正分泌症候群」(SIADH)を含む正常循環血症という病態生理群に明確に分類することが可能であった。

重度の「正常循環低ナトリウム血症」(血清ナトリウム:116+/-7 mmol/l,平均+/-s.d.)の28例は,基礎コルチゾール測定と副腎機能の動的試験で示されるように,下垂体機能低下症と続発性副腎機能不全を有していた。

⇒すべての重症低ナトリウム血症のうち15%

このグループの25例では、下垂体機能低下症(主に空鞍、シーハン症候群、下垂体腫瘍による)が以前に認識されておらず、12例では以前に入院中に低ナトリウム血症を再発(最大4回)していたことが記録されている。

これらの患者(女性21名、男性7名)の平均年齢は68歳であった。

最も頻度の高い臨床症状は、陰毛と腋毛がないか少ないこと、皮膚の蒼白、男性では睾丸が小さいことであった。

吐き気や嘔吐,錯乱,見当識障害,傾眠や昏睡などの症状は,91人のSIADH患者と同様であった。

急性疾患状態での基礎血清コルチゾール値は20〜439nmol/l(平均+/-s.d.:157+/-123)であり,他の重度低Na血症患者30名では274〜1732nmol/l(732+/-351nmol/l)であった.

低ナトリウム血症性下垂体機能低下症の患者のほとんどで,血漿抗利尿ホルモン値は不適切に高く,おそらくストレスの多い状況で内因性コルチゾールがADHを抑制できなかったためであった.

すべての患者は低用量のヒドロコルチゾンで回復した。

ほとんどの患者は他の下垂体ホルモン欠乏症を有しており,その後,適切に補充された.

 

結論

二次性副腎不全を含む下垂体機能低下症は、重度の低ナトリウム血症の原因として見過ごされることが多いようである。

疑うことが、基礎疾患を認識する最善の方法である。

ヒドロコルチゾンによる治療は効果的である.

 

⇒脇毛や陰毛の脱毛が最も多い症状

以下、下垂体不全を認めた28症例について

⇒ 基本的にはEmpty sellaが原因として半数を占める 甲状腺機能低下も認める

 

◯感想

重度の低ナトリウム血症を見たときには、下垂体機能不全による副腎不全を考える。

陰毛や脇毛が薄くなるかどうかはチェックを。

 

なお、副腎不全のうち5人の患者は38度の発熱もあるようです。
皮膚が白かったり、陰毛や脇毛が薄いとACTH分泌不全が示唆されるため、積極的に下垂体の問題を考えるべきかと。