コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

龍とそばかすの姫  感想

www.youtube.com

 

妻子が実家に帰っている間に、前から気になっていたアニメを見た。

amzn.to

結果的に、どはまりした。

オタキングは酷評していたようだが、私は心を打たれた。

 

 

この作品のメタバースは美しい。

夕焼けのような光が幾何学的な空間を包む。

龍の城で龍と姫が出会うところは、ディズニーの世界がメタバースに顕現しているありようである。

どことなく歌もエレクトリックパレードを思い起こす。

 

この作品のメタバースの特殊性は生体認証でアバターが自然に生成される点である。

メタバース進化論ではFacebookメタバースアバターがあまりにも雑なので使う気にならないと指摘されている。

その点、この作品のアズは多様性に富む。そして人形と獣型など様々なアズが混在しているカオスは、メタバース進化論で示唆されていたメタバースの世界そのものである。

ただし、この作品のアバターであるアズは自動生成され、本人の生体データを読み取りポテンシャルを引き出すとされる。

ただし、なりたい自分になれるというメタバースの優位性を考えると、アズは自分でデザインするべきものであるのだろう。

主人公の鈴はメタバースによってポテンシャルを引き出されBellというアズになったが、それではポテンシャルがないものは結局メタバースの世界でもたいしたアズにはなれないという問題が生じる。

ただ、それを差し引いても美しい空間に自由に多種多様なアズがカオスに入り交じるというメタバース空間を提示した意義は大きい。

 

この映画はメタバースと現実を目まぐるしく行ったり来たりする。

まったく違うのだが浄土真宗の二種回向を思い出す。

ただその速度は非常に早い。

メタバースと現実を、目まぐるしく行き来することで、お互いの美しさが引き立つようになる。

後半でメタバースの世界で歌を歌えるようになった鈴は現実世界でも前を向き始める。

その過程で仲間や家族の大切さを知る。

そして、心なしか現実世界がますます美しくなっていくように感じる。

そのような現実世界は最初からあったにも、関わらず。

メタバースの世界が現実を美しくしているのではないかとも感じる。

 

この作品のフィナーレはアンベイルされてアズから現実の、さえない高校生の少女がメタバースの世界で顕現された瞬間であることは間違いないだろう。

その場面は不思議な感動を生む。

メタバースの広大な世界で現実の少女が浮いている絵は非常に幻想的である。

さらに、メタバース世界の住人の光が集まり光であふれる。

浄土のような理想世界を想起する。

メタバースは浄土のアナロジーではないか。

そして最後にメタバースから戻った現実は美しい。

川は流れ、入道雲がそびえ立つ。

山川草木悉皆成仏という言葉を思い出す。

不思議なことにメタバースと現実の二種回向は、メタバースのみならず現実世界の光も生起する。

 

 

この作品は少年少女の成長を描く物語でもある。特に、主人公の鈴と龍である少年の成長の物語である。

メタバースの可能性を感じざるおえない。

それは10代や20代の若者がメタバースで自分の殻を破り世界を変える可能性を持っていることではないか。

いつの世も世界を変えるのは若者なのだ。

インターネットが格段に個人のポテンシャルを高めた。

メタバースの世界では個人の若者が、より世界を変えるポテンシャルを持つようになるのではないか。

少年少女のメタバースでの劇的な成長は、世界を変えるのかもしれない。

 

○最後に

いろいろと考えさせられる作品だった。

もちろんシンプルな絵の美しさ、歌の素晴らしさにも心を惹かれた。

中村佳穂の歌声も素晴らしい。

シンプルに、いい映画だった。

 

 

 

梅原猛と仏教の思想

 

 

衝動買いして読んでみた。

実は、私は高校時代にどはまりした思想家が2人いた。

ひとりは、養老孟司唯脳論にはまった。

そして、もうひとりが梅原猛

どちらも、タケシだ。

ちなみに、私の臨床と研究の恩師もそれぞれタケシで、なんなら次男の名前もタケシだ。

 

梅原猛は隠された十字架などの古代日本史のイメージが強いが、実はわたしはその手の古代日本史の本は読んでいなかった。

私にとって梅原猛は仏教思想家にほかならない。

 

地獄の思想はもっとも梅原思想を体現しているものだろう。

 

 

 

この本にもそのことがまとめられていた。

特に地獄の思想、生命の思想というフレームワークは私の仏教理解の基盤になっている。

前者は天台と浄土

後者は真言日蓮神道

もうひとつの禅宗系のフレームワークは、どうしても僕には馴染みがない。

それは梅原猛にとっても同様であったようだ。

 

この生命の思想と地獄の思想というのは梅原仏教学の中核となっていく。

ちなみに、地獄の思想の実例として太宰治の他に、宮沢賢治がとりあげられている。

宮沢賢治の地獄は深い。

妹との永訣を歌い、殺され食べられる動物を悲しみ、貧困な農民を憂い、最後は若くして病死する青白い顔。

よだかの星はもっともその典型だろう。

生きるために命を奪うことに絶望し死ぬよだか。

ただ、宮沢賢治が信奉した日蓮宗は生命の思想よりであることが興味深い。

私自身の感覚として宮沢賢治のあの聖人のようなストイックな様子は日蓮よりも最澄を彷彿とさせる。

日蓮空海のようなエネルギッシュなさまとはなにか違う。

たしかに宮沢賢治は地獄の系譜なのだろう。

 

そして梅原猛の思想は、「仏教の思想」へ続く。

実は、これも全巻持っていた。

 

 

僕の梅原猛の理解は、地獄の思想と仏教の思想の2つが基軸であり、それは本書でもそのようになっている。

 

特に梅原猛が書いたところは面白かった。

というか、そこしか読んでいなかった。

親鸞空海日蓮

この3人を語る梅原猛の筆致の生き生きした様に虜になった。

仏教理解という意味ではそうとうにバイアスがあるのだろうが、梅原猛というバイアスでしか僕は仏教を理解できなかった。

そして実際のこの3人が梅原猛にとって最も興味を引く仏教者であった。

特に興味があったのが親鸞空海だったが、この2人に関して、系統的な書を残すことはなかった。

意外なことに法然についての書を残すことになったが、これは歎異抄悪人正機説賛美解釈への根強い批判があったからのようだ。

実際に仏教の思想でも親鸞は書きにくいと供述していた。あまりも手垢がついていたからだ。

二種回向が親鸞のもっとも中心的な教義でありそれを理解するために法然を先に訪ねた。しかし親鸞に本格的にたどりつくことはなかったことは残念である。

なお、空海はあまりにも偉大すぎて、まとめきれなかったようでもある。

 

 

その後、梅原猛の興味がアマテラスやアイヌに移ったことをこの本ではじめて知った。

ただ、この本で言われていたように梅原猛には神仏習合についてもっと深めてほしかったというのはその通りだ。

例えば熊野の修験道などは、そうだったのかもしれない。

それを邪魔していたのが国家神道による戦争動員とそれによる神道の忌避であるというのは納得である。

たぶん、中沢新一がアースダイバー神社で扱ったのは、梅原猛がなしえなかったこの神仏習合の意味づけの延長線にあるのだろう。

 

 

つまりは太陽をどうあつかうか

生命の思想をどう扱うかということになる。

 

おそらく生命の思想の起源はもっと古く、縄文と弥生人の太陽信仰が重なった土着のものだったのかもしれない。

中沢新一が太陽と海、稲をモチーフに太陽を語ったように、素朴なアミニズムとしての太陽神。

アマテラスの起源も、そのようなアミニズムであったのだろう。

その素地としてあった器に密教が注がれたのだろう。

 

梅原猛が終生追いかけていたものは地獄の思想と生命の思想との融和であったというのは、興味深い。

天台と真言密教が融和した山川草木悉皆成仏という概念が梅原猛の重要な仏教思想であったというのも、その文脈から理解できる。

彼は深い絶望のなかに光を求める人だった。

正信念仏偈の 

譬如日光覆雲霧 雲霧之下明無闇

という詩は、梅原猛の仏教思想を端的に表現している気がしてならない。

 

 

 

高齢者の寝たきり度と、認知症高齢者の自立度と、既存のADL指標との関連

 

bmcgeriatr.biomedcentral.com

 

寝たきり度

 

1年前の佐賀大学の多胡先生の論文ですが、さらっとまとめました。

この介護保険で使われている基準をほかの既知の基準と比較して妥当であるかを検討した研究になります。

個人的にこの多胡先生の研究の発想、めっちゃ好きです。

着目点が良いですし、なによりこの研究は、非常に応用が効きます。

ADL評価としてBarthel Indexは頻用されますが使いにくいです。

しかし、この多胡先生の研究があれば、介護保険で使われる上記基準をADLや認知機能の指標として今後の研究に使うことが可能になります。

まじで、ありがたい研究かなと。

たぶん、今後、引用されまくると思うので、IF以上の価値がありそうです。

 

 

〇要旨

背景
寝たきりランク(BR)や認知機能スコア(CFS)など、日本の公的な日常生活動作(ADL)分類の統計的妥当性については、まだ評価されていない。そこで、BRとCFSのADL評価能力を評価するために、評価者間信頼性と基準関連妥当性を用いて評価した。

方法
75歳以上の新入院患者を対象とした病院ベースの前向き観察研究。BRとCFSの評価は、主治医の看護師が1回、ソーシャルワーカーと医療事務員が1回行った。評価者間の信頼性は,一致率,カッパ係数,クロンバッ クのα,クラス内相関係数を算出し,評価者間の信頼性を評価した.また、Barthel Index、Katz Index と BR、CFS との相関を Spearman の相関係数を用いて推定した。

結果
登録された271名の患者について、初回評価時のBRは、正常66名、J1 10名、J2 15名、A1 18名、A2 31名、B1 37名、B2 35名、C1 22名、C2 32名であった。2回のBR評価間の一致率は68.6%,カッパ係数0.61,クロンバックのα0.91,クラス内相関係数0.83であり,良好な評価者間信頼性を示した.また、BRはBarthel指数(r=-0.848、p<0.001)およびKatz指数(r=-0.820、p<0.001)と負の相関があり、正当な基準関連妥当性を示していた。

一方、初回評価時の CFS は、正常 92、1a 47、2a 19、2b 30、3a 60、3b 8、4 8、M 0 であり、2 つの CFS 評価の一致率は 70.1% で、カッパ係数 0.62、Cronbach のα 0.87 、クラス内相関係数 0.78 であり、良好な相互信頼性も示され た。CFSはBarthel Index(r = - 0.667, p < 0.001)およびKatz Index(r = - 0.661, p < 0.001)と負の相関があり、正当な基準関連妥当性を示していた。

結論
BRとCFSは、急性期臨床や大規模スクリーニングにおいて、信頼性が高く使いやすいADL評価尺度となりうる。また、異なる職種の間で高い評価者間信頼性があり、ADL評価尺度として確立されているが、使い方が複雑な尺度と有意な相関がある。

 

 

綺麗にBarthel Indexと寝たきり度が相関していますね。

今後の研究としてはMMSEと認知機能スコア(CFS)の関連を調べるとのこと。

それも楽しみですね。

研究のアイディアを公開することは気が引けますが、僕ならとFAST(Functional Assessment Staging of Alzheimer's Disease)の関連について評価が気になります。

 

老年医学をしっかり研究したり深めることは日本のホスピタリスとにとって必須ですね。

 

 

SAPHO症候群と掌蹠膿疱症性骨関節炎

academic.oup.com

 

SAHPO症候群とPAOに関する最新のレビュー

必読です!

 

 

○概要

滑膜炎-膿疱症-骨過形成-骨炎(SAPHO)症候群は、掌蹠膿疱性関節骨炎(PAO)を含む多くの疾患を包含する稀な炎症性骨関節疾患である。骨炎、滑膜炎、骨膜過形成などの筋骨格系症状はSAPHO症候群の特徴であり、全身の様々な部位に発症する。最近の調査では、日本におけるSAPHO症候群の80%以上が1981年にSonozakiらによって提唱されたPAOであるのに対し、イスラエルにおけるSAPHO症候群参加者の皮膚疾患は重度の痤瘡が最も多く報告されている。

SAPHO症候群の有病率は不明であるが、日本では掌蹠膿疱症(PPP)の有病率は0.12%と報告されており、PPP患者の10-30%がPAOを有していることが判明している。

SAPHO症候群とPAOは、30代から50代の患者に多くみられ、両群とも女性に優位に見られる。

診断は通常、リウマチ専門医または皮膚科専門医によって行われる。

診断には、診断基準と同様に、概略を説明した様々な臨床的、放射線的、および検査的特徴の確認が行われる。

治療の目標は、健康関連のQOLを最大限に高め、構造変化や破壊を防ぎ、身体機能や社会参加を正常化することである。

 

 

○1981年に園崎が提唱したPAOの診断基準。
1 掌蹠膿疱症(PPP)と診断された患者
2 以下の2つの基準のいずれかを満たす患者。
(a) 肋鎖骨部または胸骨部の両側に圧痛を伴う明らかな腫脹があり、X線所見が陽性であるか否かを問 わず、肋鎖骨部または胸骨部の両側に圧痛がある。
(b) 肋骨部または胸骨部の両側に明らかな腫脹を伴わない圧痛があり、圧痛部位に X 線の陽性所見がある。

基準の1と2を両方満たしたら診断とする

 

 

○Kahn が提唱した SAPHO 症候群の診断基準  (2003 年に修正)
・包含基準 

 掌蹠膿疱症および尋常性乾癬に伴う骨関節病変 
     重症痤瘡に伴う骨関節炎 
     孤立性無菌性過骨症/骨膜炎(成人) 
     慢性再発性多巣性骨髄炎(小児) 
     腸疾患に伴う骨関節病変 


・除外基準

 感染性骨炎 
     骨の腫瘍性疾患 
     Non-inflammatory condensing lesions of the bone
診断 5つの包含基準の1つ、および3つの除外基準を満たす

 

 

 SAPHO症候群は掌蹠膿疱症のイメージが強いが、PAO、炎症性腸疾患(IBD)関連脊椎関節炎、乾癬性関節炎を含む多くの疾患を包括する傘(広い意味の症候群)と考えられている 

 

 

 

掌蹠膿疱症に伴う胸鎖関節炎をSAPHOと言いがちだが、むしろシンプルに掌蹠膿疱症性骨関節炎とするほうが堅実

日本ではSAPHO症候群の8割が掌蹠膿疱症で、痤瘡は2割弱 一方で、イスラエルでは痤瘡の報告が多い →そもそも、日本ではSAPHO症候群に痤瘡を合併することが少ない なお、重度の痤瘡はacne fulminansとも呼称され経口ステロイドを使用することも

 

 

 

○症状

骨関節症状

中国のSAPHO症候群の骨シンチグラフィーと磁気共鳴画像法(MRI)を受けた患者において、前胸壁病変(100%)、脊椎病変(60.6%)、仙腸関節病変(39.4%)、末梢関節病変(31%)、頭蓋骨病変(12.7%)、および骨盤病変(4.2%)であった 日本の多施設共同研究における165人のPAO患者の骨関節痛の部位は次のとおり 前胸壁(81%)、肩(21%)、腰椎(12%)、膝(8.5%)、頸椎(6.7%) 、指または足首(5.5%)、仙腸関節(4.8%)

→やはり前胸壁病変は多いが、脊椎関節炎に準じた病変も考慮する

 

滑膜炎

前胸壁病変は一般的であり、患者の76%(60%で両側)の胸鎖関節に病変を認める。

胸肋関節は患者の15%で病変を認める。

→SAPHO症候群を診断するには、これらの領域の圧痛、腫れ、発赤を評価する詳細な検査が重要。

なお、末梢関節病変は患者の約30%で報告

 

骨炎など

胸壁前壁および胸骨周囲の骨炎(MRIでの骨髄浮腫)もSAPHO症候群/PAOでよく見られる。

胸骨の骨硬化も認める

さらに仙腸関節や脊椎関節についても、脊椎関節炎に準じた病変を認める

 

皮膚病変

SAPHO症候群で見られる皮膚症状には、掌蹠膿疱症に加えて重度の痤瘡を認める。

皮膚病変が関節炎のあとから発症することも

 

 

→やはり脊椎関節炎に準じた身体所見が重要 胸鎖関節に注目しがちだが、脊椎や仙腸関節も重要

 CTで非常に特徴的な骨硬化所見を認める(胸骨など)

 MRIも骨炎の検出に有用

 掌蹠膿疱症の診断も重要であり皮膚科にコンサルトが必要

 

○治療

まずは禁煙

細菌感染症を合併しているなら感染症の治療も行う

 

薬物療法

脊椎関節炎の治療に準じて、十分量のNSAIDS(例 セレコキシブ400mg/日)

コルヒチンも効果があるという報告も(1mg/日程度?)

骨炎を合併している場合はCRMOに準じてビスホスホネートも使用

ビスホスホネートは点滴がベターだが日本では内服にせざるおえないことも

→NSAIDS+コルヒチン+ビスホスホネートの併用療法もあり?

 

それでも改善が乏しければ、脊椎関節炎(乾癬性関節炎)に準じて治療

DMARDとしてメトトレキサート、サラゾスルファピリジンが候補

乾癬性関節炎に準じて、ホスホジエステラーゼ4阻害薬も

 

Bioも有用。

こちらも、乾癬性関節炎に準じてTNFα阻害薬が有用

他には、IL17,IL23の阻害薬も同様に有用かもしれない

 

 

膠原病ではまずこの一冊

急性HIV感染症の特徴は?

急性HIV感染症を疑う特徴は?

 

Does This Adult Patient Have Early HIV Infection? The Rational Clinical Examination Systematic Review | Allergy and Clinical Immunology | JAMA | JAMA Network

 

JAMA のsystmatic review

性器潰瘍  LR 5.4
体重減少   LR4.7
嘔吐          LR 4.6

リンパ節腫脹  LR 4.6

上記は特異度が高く、所見があれば、急性HIV感染症の可能性を上げる

また口腔内潰瘍はLR 3.4と同様に可能性を上げる

口腔内潰瘍ではいくつかの研究で一貫して急性HIV感染症と関連がある 

 

他には、

下痢 LR 3.9

関節痛 LR 3.7

発熱 LR 3.4 

扁桃炎 LR 3.1

筋痛 LR 2.9 

リンパ節腫脹 LR 3.1 

陰部潰瘍 LR 2.4

 

など

全くリンパ節腫脹がない LR 0.7

発熱がない LR 0.74

とこれらがなけれがわずかに可能性が低下

 

 

Simple Symptom Score for Acute Human Immunodeficiency Virus Infection in a San Diego Community-Based Screening Program | Clinical Infectious Diseases | Oxford Academic

 

急性AIV感染症のスコアリング

コミュニティベースのサンディエゴ早期検査HIVスクリーニングプログラムで検査を実施したコホートを対象

横断研究

 

予測に使用する症状として、頭痛、咽頭炎、発疹、筋痛、発熱、倦怠感、寝汗、胃腸症状[悪心、嘔吐、または下痢]、関節痛、体重減少、リンパ節腫脹を用いた

核酸増幅法で陽性だった群と陰性の群を比較

 

シンプルな単変量解析の結果は以下

症状_ 感度 特異性 + LR –LR オッズ
 頭痛  51%  81%  2.74  0.60  4.57 
咽頭炎  42%  86%  2.98  0.67  4.45 
 発疹  22%  95%  4.08  0.82  4.95 
 筋肉痛  52%  94%  8.72  0.51  17.15 
 倦怠感  52%  89%  4.81  0.54  8.98 
 熱  60%  96%  14.01  0.42  33.68 
 寝汗  41%  94%  6.67  0.63  10.57 
 消化器症状  37%  89%  3.54  0.70  5.04 
 関節痛  19%  96%  4.84  0.85  5.71 
 2.5kg以上の体重減少  22%  98%  13.99  0.79  17.67 
 リンパ節腫脹  27%  95%  5.46  0.77  7.08 

 

 

多変量解析の結果は以下

症状 単変量症状モデル 多変量症状モデル SDSSポイント値
または(95%CI) P または(95%CI) P
頭痛  3.4 (2.0–5.7)  <.001  0.8 (.4–1.7)  .543  … 
咽頭炎  4.8 (2.9–8.2)  <.001  1.9 (.9–3.9)  .077  … 
発疹  3.6 (1.9–7.1)  <.001  31.3 (.5–3.4)  .613  … 
筋肉痛  16.8 (9.4–30.0)  <.001  7.8 (3.3–18.7)  <.001 
倦怠感  8.7 (5.1–14.8)  <.001  0.9 (.4–2.2)  .775  … 
熱  24.9 (13.7–45.4)  <.001  10.9 (4.6–26.0)  <.001  11 
寝汗  10.5 (5.9–18.9)  <.001  11.3 (.5–3.4)  .578  … 
消化器症状  4.1 (2.4–7.1)  <.001  0.6 (.2–1.4)  .22  … 
関節痛  8.5 (4.2–17.0)  <.001  0.8 (.3–2.4)  80.678  … 
2.5kg以上の体重減少  14.8 (6.3–34.9)  <.001  4.1 (1.1–15.1)  .035 
リンパ節腫脹  5.8 (2.9–11.6)  <.001  1.5 (.6–3.9)  .436  … 

 

筋肉痛、発熱、体重減少の3つがとくにオッズ比が高い

多変量解析でとくに有意差を認めたこの3つの項目を重みづけしてスコアを作成した。

 

○ポイント

筋肉痛:8

発熱:11

2.5kg以上の体重減少:4

 

 

スコアリングのカットオフ

SDSSカットオフ  AHI Cases Meeting Cutoff, % (No.)  カットオフを満たすHIV陰性症例、%(No。)  特異度 + LR  –LR  オッズ 
100 (43)  100 (282)  …  …  … 
≥4  74 (32)  10 (27)  90%  7.77  0.28  27.47 
≥8  74 (32)  9 (13)  91%  8.74  0.28  31.27 
≥11  72 (31)  4 (8)  96%  20.33  0.29  70.27 
≥12  56 (24)  2 (7)  98%  31.48  0.45  69.98 
≥15  51 (22)  1 (7)  99%  36.07  0.5  72.81 
≥19  49 (21)  1 (3)  99%  34.43  0.52  66.34 
≥23  19 (8)  0 (0)  100%  …  0.81  … 

 

AUCカーブはValidationも含めて0.8を超えている

ただし、MSMが74%でHIVのテストを希望するハイリスク集団であることに注意

 

 

台湾のコホートでの急性HIV感染症コホート

Clinical features of acute human immunodeficiency virus infection in Taiwan: A multicenter study - ScienceDirect

 

ほぼ99%がMSMの集団

ベースラインのPVLが高い群と低い群で比較

PVL(plasma HIV RNA load) →HIVRNA

 

症状 全患者(n = 252)  RNA群(n = 194)  RNA群(n = 58)    p値 
194 (77.0) 159 (82.0) 35 (60.3) 0.001
 皮膚の発疹 78 (31.0) 59 (30.4) 19 (32.8) 0.735
 咽頭炎 126 (50.0) 96 (49.5) 30 (51.7) 0.765
 リンパ節腫脹 34 (13.5) 29 (15.0) 5 (8.6) 0.216
 筋肉痛 77 (30.6) 61 (31.4) 16 (27.6) 0.576
 頭痛 59 (23.4) 48 (24.7) 11 (19.0) 0.362
 下痢 63 (25.0) 48 (24.7) 15 (25.9) 0.863
 関節痛 9 (3.6) 6 (3.1) 3 (5.2) 0.454
 咳 43 (17.1) 31 (16.0) 12 (20.7) 0.403
 吐き気 47 (18.7) 41 (21.1) 6 (10.3) 0.064
 倦怠感 89 (35.3) 65 (33.5) 24 (41.4) 0.271
 嘔吐 27 (10.7) 23 (11.9) 4 (6.9) 0.284
 体重減少 30 (11.9) 26 (13.4) 4 (6.9) 0.179
 寝汗 1 (0.4) 1 (0.5) 0 (0) 0.584
 陰部潰瘍 11 (4.4) 9 (4.6) 2 (3.5) 0.697
 口腔潰瘍 25 (9.9) 20 (10.3) 5 (8.6) 0.706
無菌性髄膜炎 15 (6.0) 12 (6.2) 3 (5.2) 0.775

 

→高RNA群では特に発熱の割合が高い

RNA群では、他に肝酵素アの上昇、ヘモグロビン/白血球数/血小板数の低下が見られる傾向

 

症状

発熱(n = 194; 76.9%)

倦怠感(n = 89、35.3%)

筋肉痛(n = 77、30.6%)

下痢(n = 63、25%)

頭痛(n = 59  23.4%)

 

○身体所見

咽頭炎(n = 126、50%)

発疹(n = 78、30.9%)

リンパ節腫脹(n = 34、13.5%)

口腔潰瘍(n = 25、9.9%)

無菌性髄膜炎(n = 15、6.0%)

 

梅毒 の重複感染は急性HIV感染の診断時に59人の患者(23.4%)で発見

 

 

○まとめ

MSM患者における伝染性単核球症 likeの症状(発熱、筋痛、関節痛、リンパ節腫脹、肝障害、血球減少)では急性HIV感染症を積極的に考える。

口腔内潰瘍、陰部潰瘍、下痢、無菌性髄膜炎、皮疹、体重減少などの変な徴候をきたす伝染性単核球症likeな症状でも急性HIV感染症を考える

 

 

 

 

染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の嚢胞感染

多発嚢胞腎の感染症はどのように治療すればよいのか?

 

https://jsn.or.jp/academicinfo/report/evidence_PKD_guideline2020.pdf

まずはADPKDのガイドライン2020から

これは無料で読めるので良いですね。

 

以下、ガイドラインから引用

・ADPKD において,囊胞感染症はしばしば発生する重篤な合併症で,難治化し再発を繰り返すこと

・囊胞感染の起因菌としては大部分が腸管内由来の細菌で,なかでもグラム陰性桿菌が多い.

・グラ ム陰性桿菌を広くカバーし,脂溶性で囊胞透過性良好なニューキノロン系抗菌薬は,囊胞感染症の治療 に推奨される.

・しかし,ニューキノロン系抗菌薬の適応にならない病原体が囊胞感染症の起因菌として 少なからず報告されており,大腸菌などグラム陰性菌のなかにも耐性菌が高頻度に認められていることから,ニューキノロン系抗菌薬の乱用は避けるべき

・水溶性抗菌薬でも完治した囊胞感染 症例も少なからず報告されており,ニューキノロン系抗菌薬を重症囊胞感染症患者,初期治療に不応性囊胞感染症患者などに適応を絞って使用することを提案

 

とのこと。

脂溶性と水溶性の抗菌薬をあまり意識していなかったですね。

他に脂溶性抗菌薬ではST合剤も当てはまるようです。

確かに、ST合剤とキノロン前立腺移行性もよいので、同じイメージでしょうか。

 

治療期間については以下の通り

囊胞感染症に対す る抗菌薬の投与期間に関して定説はないが,通常は 最低でも 4 週間は継続するとされている.

と最低でも4週間は必要。

→膿瘍に準じた長めの治療期間が必要ということで良いようです。

 

○ドレナージにについては以下のように記載

抗菌薬の経静脈投与による保存的治療に抵抗性の難治性囊胞感染に対しては,ドレナージによる治療が必要であり,巨大な感染性囊胞や再燃性囊胞感染に対しては,より早期のドレナージが提案される.

 

巨大な嚢胞感染ではや再発例、治療抵抗例では、早期のドレナージが推奨される。

 

ただ、そもそも嚢胞感染の診断は意外に難しい。

尿培養、血液培養は重要だが、CTでは感染した嚢胞かどうかの判断が難しい。

 

よって、MRIが診断に有用

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpnjurol/104/3/104_536/_pdf/-char/ja

この日本語の症例でもCTで判然としなかった嚢胞感染がMRIの拡散強調画像で明らかになり、ドレナージで改善したとのこと

 

bmcnephrol.biomedcentral.com

 

日本の虎ノ門病院からMRIの診断特性についてのケースコントロール

コントロールもADPKDの患者

DWIが以下のように有用で感染嚢胞を鋭敏に検出

 

figure 3

 

 

 

Cases (n=88) Controls (n=147) Sensitivity Specificity
High SI on DWI (%) 86.4 66.7 86.4 33.3
Fluid-fluid level (%) 50.0 12.9 50.0 87.1
Wall thickening (%) 48.3 10.9 48.3 89.1
Fluid-fluid level or wall thickening (%) 84.1 19.7 84.1 80.3
Gas (%) 1.1 0 1.1 100
At least one of these four features (%) 100 68.0 100 32.0
High SI on DWI with diameter > 5cm (%) 69.3 15.6 69.3 84.4
Fluid-fluid level or wall thickening with diameter > 5cm (%) 72.7 8.8 72.7 91.2
At least one of these four features with diameter > 5cm (%) 83.0 18.4 83.0 81.6

 

DWIで高信号のみならず、嚢胞のFluidレベル、嚢胞壁肥厚、も有用

何らかの異常所見であれば、感度100% 特異度68%と除外に有用

嚢胞内のガスは稀だが特異度は100%であった

 

ADPKD患者における重症感染性嚢胞の検出にはMRIでのFluid形成、嚢胞壁壁肥厚が有用であり、約80%の感度および特異度

しかし、特異度はTLKVの増加とともに低下し、臓器腫大(TLKV > 8500 cm3)では特異度はわずか65.8%

嚢胞径>5 cmは,ドレナージを必要とする感染嚢胞の検出に有用

→嚢胞径>5 cm、嚢胞感染の4つのMRIの特徴、同部位の腹痛を組み合わせることが診断には極めて有用

 

 

以下、同様に虎ノ門病院からのレビュー

link.springer.com

 

抗菌薬の選択

Fig. 6

 

脂溶性の抗菌薬が好まれるが実際は水溶性でも効果がある。

ただし、重症例は併用療法としてメロペン+クラビット±バンコマイシンを使うこともあると

抗菌薬は症状が完全に消失するまで使用する

 

血液透析患者の重症嚢胞感染では以下のレジメを推奨

図7

 

感染性嚢胞のドレナージの基準

抗菌薬不耐性の感染症(適切な抗菌療法にもかかわらず1〜2週間続く発熱)
直径5cmを超える大きな感染した嚢胞
重度の嚢胞感染症(敗血症、播種性血管内凝固症候群[DIC]など)
多くの再発エピソードを伴う嚢胞感染

 

academic.oup.com

なおSystematic reviewでは治療成功群と失敗群の特徴は以下

 

成功群では抗菌薬投与期間の中央値が28日だが、失敗群では抗菌薬の投与期間の中央値が7日であり、短期の抗菌薬投与は治療失敗と関連。

他には、腎閉塞後,尿路結石,非定型または耐性病原体,腎機能障害などが治療失敗群と関連を認めた。

Baseline characteristics Initial treatment outcome
P-value
Success (n = 33) Failure (n = 52)
Age, years (mean ± SD)  57 ± 13  49 ± 11  0.001 
Male sex, n (%)  14 (42)  24 (46)  0.7 
eGFR stage, n (%) 
 eGFR Stage I–II  1 (3)  3 (6)  0.6 
 eGFR Stage III–IV  6 (18)  13 (25)  0.5 
 eGFR Stage V  5 (15)  9 (17)  0.8 
 eGFR Stage Vd  10 (30)  13 (25)  0.6 
 eGFR Stage Vt  6 (18)  5 (10)  0.3 
 eGFR not available  5 (15)  9 (17)  – 
Diabetes mellitus, n (%)  –  5 (10)  – 
Presence of urolithiasis, n (%)  1 (3)  3 (6)  0.6 
Post-renal obstruction, n (%)  1 (2)  –   
Cyst diameter ≥5 cm, n (%)  9 (27)  14 (27)  0.6 
Duration of initial antimicrobial regimen, days [median (IQR)]  28 (21–44)  7 (5–14)  <0.001 
Failure to culture a pathogen, n (%)  5 (15)  5 (10)  0.3 
Other than E. coli cultured, n (%)  6 (18)  28 (54)  0.001 
Antimicrobial-resistant pathogen, n (%)  2 (6)  7 (13)  0.4 

 

なお2000年以降は治療成功率は上昇しつつある それに伴い経皮的ドレナージの実施率も上昇している

Initial and final therapy All therapies Therapies initiated in patients
P-value
<2000 ≥2000
Initial therapy, n (%)  85  36  49   
 Antimicrobial  67 (79)  31 (86)  36 (74)  0.2 
 Percutaneous  6 (7)  1 (3)  5 (10)  0.2 
 Surgical  12 (14)  4 (11)  8 (16)  0.5 
Initial therapy, n (%) 
 Success  33 (39)  9 (25)  24 (49)  0.03 
 Failure  52 (61)  27 (75)  25 (51)  0.03 
Final therapy, n (%) 
 Antimicrobial  24 (28)  10 (28)  14 (29)  0.9 
 Percutaneous  23 (27)  3 (8)  20 (41)  0.001 
 Surgical  38 (45)  23 (64)  15 (31)  0.002

 

 

 

重症の横紋筋融解症による低カルシウム血症

重度の横紋筋融解症で入院したかた

AKIを認めているが、高P血症、低Ca血症も遷延

 

Hypocalcemia and hypercalcemia in patients with rhabdomyolysis with and without acute renal failure

 

古い報告だが重度の横紋筋融解症とAKIでは、AKIの乏尿期に低カルシウム血症となり、30%以上が利尿期に高カルシウム血症を発症となる

AKIの有無にかかわらず横紋筋融解症の全患者は、テクネチウム-99スキャンで記録された軟部組織へのカルシウム沈着を有していた。

横紋筋融解症+AKIのの患者では、利尿期に25-ヒドロキシビタミンDと1,25-ジヒドロキシビタミンD[1,25(OH)2D]の血清レベルが著しく増加し、これらは高カルシウム血症の患者において有意により大きかった

 

①低カルシウム血症はAKIとは無関係に横紋筋融解症で起こり、損傷した組織へのカルシウム沈着に関係している可能性が高い

②横紋筋融解症およびAKI患者の利尿期における高カルシウム血症の発生に、血清レベルの1,25(OH)2Dの上昇が重要な役割を果たしている

これらの患者では1,25(OH)2Dの腎外産生が起こっている可能性がある。

 

つまり、重度の低カルシウム血症は軟部組織沈着で起こるため、利尿期では沈着していたカルシウムが血中に戻る。

 

 

Rhabdomyolosis and its pathogenesis - PMC

 

また上記の論文では、病態的には以下の説明もなされている

筋肉細胞が破壊される際に、無機リン成分と有機リン成分が溶解し、多量の無機リンが血漿中に放出され、高リン血症となる

高リン血症は、破壊された筋細胞や他の組織にリン酸カルシウムの沈着を引き起こし、横紋筋融解の際に早期の低カルシウム血症を引き起こす。

その後、筋肉細胞と結合していたカルシウムが、再び血漿中に放出される。

さらに初期の低カルシウム血症とビタミンD上昇(糸球体細胞で大量に産生される)のために起こる、二次性副甲状腺機能亢進症との組み合わせにより、のちには高カルシウム血症が起こる。

→やはり最初は低カルシウム血症として補充していたにもかかわらず、あとになって高カルシウムに転じるとのこと。

慎重なカルシウムのフォローが重要。

 

 

さらに最近では横紋筋融解症の原因としてCOVID19が極めて重要

個人的にも経験があります。

特にワクチン未接種群では要注意。

実際に、BMJ case reportから以下の報告あり

 

Rhabdomyolysis and severe biphasic disturbance of calcium homeostasis secondary to COVID-19 infection | BMJ Case Reports

 

この報告のキーメッセージは以下

・横紋筋融解症は、最初に重度の低カルシウム血症を呈し、その後、高カルシウム血症が続くことがある。

・横紋筋融解症はCOVID19の合併症として認識されており、COVID-19感染症の主訴であることさえある。しかし、横紋筋融解の他の一般的な原因を除外することが重要である。

・初期の低カルシウム血症は、壊死した筋肉組織へのカルシウムの沈着による二次的なものであると考えられる。

・その後の高カルシウム血症の原因は、筋壊死からのカルシウムの放出によるものと推定され、副甲状腺ホルモンを介さないため、標準治療が効きにくい。

高カルシウム血症は重症化し、持続的な血液濾過が必要となることがある。

つまり高カルシウム血症副甲状腺ホルモンの役割は少ないため、一般的な透析や補液しか効果がないだろうとのこと。

ビスホスホネートやシナカルセト、ステロイドは効果は乏しいだろうと。

個人的には、納得できます。

 

なお本症例でのカルシウムの推移は以下

最初は低カルシウムですが、day7からは高カルシウムになり、血液透析が開始

図1

しかし間欠的透析ではカルシウムが低下しきれないので低カルシウムの濾過液による持続透析に変更しカルシウムが低下したと

図2

 

重症の横紋筋融解症状ではカルシウム濃度の推移に非常に気を使う必要があるようですね。。