*実際の症例の写真ではありません
急性期脳出血の降圧目標 NEJM2016
Intensive Blood-Pressure Lowering in Patients with Acute Cerebral Hemorrhage
N Engl J Med 2016; 375:1033-1043
A この試験の結果は信頼できるか
①その試験は焦点が明確な課題設定がされているか
P
Inclusion
・18歳以上、90歳未満
・発症後4.5時間までに降圧が開始可能
・NIHSS 4以上
・GCS 5以上
・CTで血腫の容積が60㏄未満
・180mmHg<sBP<240
Exclusion
・脳腫瘍、脳動静脈奇形、動脈瘤による出血
・小脳や橋などのテント下出血
・出血性素因がある、ワーファリン内服
・血小板5万未満
・妊娠、産褥期、授乳中
I & C
発症後24時間の収縮期血圧を
・140-179mmHgにするstandard-treatment群
・110-139mmHgにするintensive-treatment群
に割り付けし、ニカルジピン5mg/hで開始して目標に達しない場合は15分ごとに2.5㎎ずつ増量して15mgまで増量し、最大量まで増量してもコントロール目標に達しない場合はラべタロールを使用した。ラべタロールが使用できない国ではジルチアゼムかウラピジルを使用した。
O
Primary:3か月時点での死亡、重大な機能障害(modified Rankin scaleで4-6点)
『脳卒中ガイドライン2009』より http://www.jsts.gr.jp/guideline/350_351.pdf
Secondary
・EQ-5DとVisual analogue scaleによる90日後の生活の質
・24時間後のフォローのCTで血腫が33%以上増大した割合
・72時間以内の重篤な有害事象とそれに伴う3か月以内の死亡
A②その試験は設定された課題に答えるための研究方法がとられているか?
・ランダム化された多施設研究だが、open labelである
A③ 患者はそれぞれの治療群にどのように割り付けられたか?
・Webサイトを利用してバイアスコイン法で割り付けた
A④研究対象者、現場担当者、研究解析者は目隠しされている?
・Open labelなので研究担当者、現場担当者は割り付けが分かる
・CTを評価する担当者は割り付けを知らず、どの時点のCTかも知らされていない
・QOLを評価する担当者は、割り付けや入院中の経過にかかわっていない
A⑤研究にエントリーした研究者が適切に評価されたか?
・ITT解析を行った
A⑥研究対象となった介入以外は両方のグループで同じような治療がされていたか?
・どちらの群も治療目標域に達するまでの時間は同じ
ベースライン
既往など(Appendix)
A⑦その研究のための対象患者数は偶然の影響を小さくとどめるのに十分な数か?
・転帰不良となる割合を、standard群で60%、intensive群で50%になると仮定した
・1042人が解析に必要であり、脱落を想定すると1280名が必要
・中間解析で無益性が示されたため、1000人登録した時点で最終解析となった
B結果は何か?
B⑧a 結果はどのように示されたか? b 有意差はあるか?
・PrimaryもSecondaryもすべて有意差なし
c 副作用は
・腎臓の有害事象がintensive群で多かった
C臨床にこの結果はどのように応用できるか?
≪今日のディスカッション≫
・open labelの試験であり、複合エンドポイントであること、サンプルサイズが足りないという結果になってはいるがという点はあるが、intensiveにやる必要がないのでないか。ただ、サブ解析をみると、血腫が大きい、意識障害、アジア人ではintensiveに下げるのもありかもしれない。
・臨床の実感として下げすぎると尿でなくなる気がする
・テント下出血、SAHは積極的に下げることを忘れずに
・当院での対応しては下げすぎずに専門病院に搬送すれば十分だろう
・どこまで下げるかは、専門医でも意見が分かれるところかもしれないので、搬送先の医師と相談しておくのが良いかも知れない
喘息の「誤診」について jama
P 過去5年以内に医師から喘息と診断された18歳以上の成人患者
除外:長期ステロイド内服患者と、スパイロメトリー検査ができない患者、妊婦、母乳を与えている患者 スパイロが出来ない⇒心・血管疾患など禁忌 or COPDを疑うような10年以上の喫煙者
I/C
段階的に喘息の診断を行う
① 気管支拡張薬の前後でスパイロメトリー⇒陽性なら喘息
② メサコリン負荷試験(1週目)⇒陽性なら喘息
③ 気管支拡張薬を減量しメサコリン負荷試験(4-5週目)⇒陽性なら喘息
④ 全ての気管支拡張薬を中止してメサコリン負荷試験(7-8週目)⇒陽性なら喘息、この地点で全て陰性なら喘息以外の診断になる
O primary outcome :喘息ではないと判定された患者の割合(喘息の急性増悪の所見、気道可逆性および気管支拡張薬を中止したにも関わらず気道過敏性を認めず呼吸器専門医によって他の疾患の可能性が高いと判断)
secondory outcome:12ヵ月後のフォローアップで喘息が否定された患者の割合、および割り付け時に喘息に対する適切な検査を受けていた患者の割合
前向きの多施設のコホート研究 カナダの 10の施設で4年間に渡り実施
結果 613人がエントリー 数は足りている
⇒613人中 410人が気管支喘息と診断された一方、1/3にあたる203人は喘息以外の診断に!!
⇒専門家が診断、診断時にスパイロメトリーを行っていたら喘息の可能性が高い。
呼吸苦・Wheezeがあると喘息の可能性が高い。
専門家が診断、診断時に気道閉塞試験を行っている、喘息のmedicationを毎日使っている、エントリー時にWheezeがある ⇒喘息の可能性を上げる所見。
○考察
このstudyを見ると、喘息と診断されているにも関わらず「誤診」である可能性が1/3あるということになる。
さらに、非専門医が診断、Wheezeがない、気道閉塞が他覚的に証明されていない場合は「誤診」のリスクが高くなるとのこと。
これはカナダのstudyだが、日本ではメサコリン負荷試験は一般的でなく、気管支拡張薬を用いたスパイロメトリーによる気道可逆性の証明もプライマリ・ケア領域ではほとんど行われておらず「誤診」の可能性はもっと高いのかもしれない。
少なくともWheezeがないのに安易に喘息と言わないことが大切かもしれない。
あとは、過去に喘息と診断されていない場合は喘息と診断するのは慎重になったほうが良いかもしれない。
限られた制約もありスパイロメトリーによる気道可逆性の証明が出来ない状態で気管支拡張薬を開始することは致し方ないと思われる。
しかし漫然と継続するのではなく中止できるのではないかと常に考えることが大切かもしれない。
Celiac artery compression syndrome(正中弓状靭帯圧迫症候群)について
謎の心窩部痛でCeliac artery 周辺がモヤモヤして変だなと当直医が感じ、造影CTを撮像したら放射線科からは上記病名の疑いと。知らなかったので調べてみた。
下記に詳しくまとめられている。画像も確かに典型的かも。
Celiac artery compression syndrome(CACS)とほぼ同意語のよう。
reviewがあったので調べてみた。
https://journals.viamedica.pl/acta_angiologica/article/viewFile/AA.2015.0005/28649
CACSは0.4%の頻度の稀な病気。ただ無症状な圧迫は2.4-8%に認められる。
30-50歳の若年者に多く、75-91%が女性とされている。
正中弓状靭帯圧の下方への肥大が原因。
呼気時に症状が出現する(訳注 正中弓状靭帯圧が横隔膜を介して下方に移動するから)
腹部の跛行を起こす。
celiac arteryの神経叢の圧迫が病態
食後の上腹部痛、悪心、嘔吐、軽度の体重減少が特徴的な症状
まれに、下痢、胸焼け、腹部膨満、便秘、不整脈、失神などが起こる
腹腔動脈の解剖 下記から引用
http://www.ususus.sakura.ne.jp/053pancreas.html
12胸椎と第1腰椎の間に位置している。
膵臓の上縁の15mm上から起始。
正中弓状靭帯は横隔膜の下部と融合している。
正中弓状靭帯が腹腔動脈に進展すると、神経叢を圧迫し痛みが出現し、最終的に腹腔動脈自体を圧迫する。
●診断について
CACSの診断には以下の3つが必要
①CACSに特徴的な症状があること
②胃潰瘍や癌など他の疾患が除外されていること
③腹腔動脈の狭窄が動脈硬化によるものでないと、エコーやCT、MRI,アンギオなどで確認されていること
現在のところ造影CTがgold standardである。
MRI,ドップラーエコーで血流低下することも有用。
これらは、呼気と吸気で行うとよい。
深い呼気で圧迫が最大になり、血流が落ちることが分かる。
ただ吸気では必ずしも血流の低下は見られない。
⇒ドプラーエコーで腹腔動脈を描出し、呼気でpeak systolic velocityが増大すればCACSを疑う!!
さらにドプラーエコーは動脈硬化による狭窄との鑑別にも有用。
さらにドプラーエコーは術後の評価にも有用とされている。
あるstudyによると術前に381cm/sだった平均peak systolic velocityが術後は235に低下したとされている。
○治療
治療は正中弓状靭帯を切開して、神経節を切除すること。 腹腔鏡でも回復でもよく、安全で効果的である。
手術による死亡は報告されておらず、85%で改善を認めた。
手術しても症状が改善しない場合は、血管内ステントによる血管内治療も考慮される。
ただ血管内治療をしても狭窄が再発して、何度も入れ替えをすることもあるとのこと。
基本的には、腹腔鏡 or 回復による正中弓状靭帯の切開が第1選択とのこと。
本症例では。。。
痛みは自然に改善したため、今回は手術はしない方向に。
今後症状を繰り返したら、腹腔鏡 or 回復で正中弓状靭帯切開をしたほうが良いかもしれない。
症例カンファ 2017年 2月10日
4日前からの頭痛。発症は緩徐。改善傾向だが持続。
頭部MRI撮像し問題なし
鑑別は・・
目や歯の圧痛なし
副鼻腔圧痛有り??
しかし画像的には明らかな所見なし。
側頭動脈の腫大や圧痛もなさそう。
そもそもCRP陰性 血沈はむしろ低値。。
WBC 微増 Hbは明らかに増加しPVの大基準を1つ満たす。
血沈低下の原因は多血症か。
タバコなし 心肺疾患なし 既往歴なし 特に内服薬なし
PV疑い??
多血症の鑑別では二次性の除外が大切。
まずはタバコを吸っているか。
他には肺・心疾患だけでなく、肝・腎臓の腫瘍性病変の除外も。
胸部XP、ECG、腹部エコーはPV疑えばやってよいか。
PVなら浴槽に入ったら掻痒感が出れば特徴的。
なお、PVの血管運動性の頭痛などの症状はアスピリンで軽減とのこと。
PVでは、エリスロポエチンは低下~正常。 脾腫も認める。
診断の決めてはJAK2遺伝子変異
腹痛のフレーム 問診
今日は腹痛のフレームについて話しました。
まず、Sudden onsetの腹痛を除外。
Sudden onsetなら、詰まる ねじれる 破れる 裂ける
破れる病態では急性出血することがありうる。AAA破裂、子宮外妊娠など。
血圧低下+ショックでは腹部エコーを! (便性状のチェックも)
Severe:重度の腹痛は当然危ない
Time course 増悪傾向の持続痛は危ない。 改善傾向で間欠時痛で痛みが全くない時間がある場合は安心できる。
胸部(心臓、肺)⇒心臓による腹痛は時にある。 特に下壁梗塞。
胸膜炎・膿胸でも腹痛がおこるが、その場合は吸気時の腹痛になりうる
筋骨格系の腹痛もありうる。
まずは皮疹はチェック
体動時のみの腹痛で考える。
フィジカルになるが、カーネット徴候は大切。
脊椎回旋時に腹痛が誘発されたら、脊椎疾患考える。
腹部を最後に考えるが、臓器別に分けるのが大切。
それぞれの臓器に特徴的な随伴症状を問診する。
例 胃十二指腸⇒食事で変化する腹痛、黒色便、悪心。。
さらにこれもフィジカルになるが、解剖を意識しながら診察する。
自分が、どの臓器を触ったり叩いているかを意識する。
診察所見をCTやエコーで診察にフィードバックする。
とにかく解剖を意識することが大切。
良く分からない腹痛は全身疾患(DKA,鉛など)
スタチンによる造影剤腎症予防の効果 RCT
Short-Term Rosuvastatin Therapy for Prevention of Contrast-Induced Acute Kidney Injury in Patients With Diabetes and Chronic Kidney Disease
J Am Coll Cardiol 2014;63:62–70
【造影剤腎症予防における短期スタチン投与の効果について】
造影剤腎症はベースにDMやその他CKDを持つ患者に造影剤を投与する時の重篤な合併症である。これまで複数の小規模スタディで好ましい結果が得られていたが、今回大規模RCTを行った。
A この試験の結果は信頼できるか
①その試験は焦点が明確な課題設定がされているか
Patient:
糖尿病もしくはCKDが背景にあり、冠動脈造影、末梢動脈造影、左室造影またはPCIを受ける患者
inclusion
2型糖尿病もしくはステージ2から3のCKDがあり、最低14日間スタチン投与を受けておらず、メトホルミンおよびアミノフィリンを2日以上休薬されている18歳から75歳までの患者
exclusion
造影剤アレルギー、1型糖尿病、ケトアシドーシス、乳酸アシドーシス、ステージ0から1または4から5のCKD、4週間以内のSTEMIの既往、NYHA Ⅳの心不全、血行動態が不安定、2週間以内のヨード造影剤投与歴、LDLコレステロールが1.82mmol/L(70mg/dL)以下、肝不全(ALTが正常上限の3倍以上)、甲状腺機能異常、腎動脈狭窄(片側70%以上、両側50%以上)
Intervention:
10mgのロスバスタチン(クレストール)を造影剤投与2日前から投与3日後までトータル5日間、毎晩内服
Control:
スタチン内服なし
Outcome:
primary outcome
造影剤によるAKIの発症(造影剤投与72時間後、血清クレアチニン値が0.5mg/dLまたは25%以上の増加)
clinical(secondary) outcome
造影剤投与30日以内の
1)全死亡
2)尿毒症、コントロール困難な体液量増加、高カリウム血症またはアシドーシスによる透析または血液濾過の導入
3)心不全の悪化(NYHA分類1以上の変化)
A②その試験は設定された課題に答えるための研究方法がとられているか?
・中国の53施設おける多施設研究
・無作為化比較試験
・なぜか盲検化はされていない(コントロール群で、途中からスタチンを導入されている人がいて、そのため?)
A③ 患者はそれぞれの治療群にどのように割り付けられたか?
63ページのStudy protocolに、コンピューターによるブロック法でランダム化されたと記載あり
(Block randomization was performed using computerized open-label assignment by blinded envelopes, used in a consecutive fashion, with a block size of 6)
A④研究対象者、現場担当者、研究解析者は目隠しされている?
対象者、担当者の目隠しはなし
研究解析者は目隠しされている
64ページ
All adverse events were adjudicated by a blinded, independent clinical events committee.
A⑤研究にエントリーした研究者が適切に評価されたか?
64ページ
Statistical analysis was based on the modified intention-to-treat populations and performed using SAS version 9.13 software (SAS Institute Inc., Cary, North Carolina).
各グループ脱落者なし
A⑥研究対象となった介入以外は両方のグループで同じような治療がされていたか?
HydrationまたはSodium bicarbonateを投与された患者数、およびベースラインのmedicationについてはTable 1を参照
→薬剤に優位差はなさそう
※ただし、Hydrationをするかどうかは現場担当者の裁量まかせ
→63ページStudy protocol
Hydration therapy was standard and administered at the physician’s discretion and included isotonic saline (0.9% sodium chloride, 1 ml/kg/h) started 12 h before and continued for 24 h after contrast medium administration.
A⑦その研究のための対象患者数は偶然の影響を小さくとどめるのに十分な数か?
64ページのStatistical analysis
Sample size calculation was performed by assuming a 10% incidence of the primary endpoint in the control group and a 30% reduction in the treatment arm. From these assumptions, 2,712 patients were required (1,356 per group) from which to detect a 30% relative reduction in the incidence of the primary endpoint in the treatment arm with 80% power and a 2-sided significance level of 5%.
→各グループ1498人と1500人なので、OK
B結果は何か?
B⑧a 結果はどのように示されたか? b 有意差はあるか?
primary outcome
造影剤投与72時間後のAKI発症率はロスバスタチン投与群のほうが優位に低かった
(2.3% vs. 3.9%, p = 0.01) NNTは62.5
サブグループ解析
ステージ2のCKDがある郡におけるAKI発症率は
ロスバスタチン群1.5% vs. コントロール郡3.3% , p = 0.01)
その他の因子に分けたサブ解析でも、ロスバスタチンのベネフィットは失われなかった
clinical outcome(Table 3)では
30日以内の全死亡(0.2% vs. 0.3% , p = 0.73)、血液透析/血液濾過導入率(0% vs. 0.1% , p = 0.50)に優位差なし
心不全発症率はロスバスタチン群で優位に低下(2.6% vs. 4.3% , p = 0.02)
多変量解析(Table 4)では
造影剤腎症の予防に優位差を持って関係していたのはロスバスタチンとヘモグロビン値
造影剤腎症のリスク因子は急性冠症候群(ACS)、NYHA分類、eGFR低下
c 副作用は
66ページResultsの最後にちょこっとだけ
There were no significant differences between the 2 groups in the rates of muscle pain, liver function tests results, gastrointestinal disorders, or incidence of edema or rash.
C臨床にこの結果はどのように応用できるか?
primary outcomeが血清クレアチニン値なのが微妙なところ。測定は1回のみで、その後軽快したのかどうかも分からない。一時的なクレアチニン値の上昇を予防してどれだけ意味があるのか?
もう少しハードな臨床的アウトカムであればNNT62.5も悪くはないと思うが・・・。
副作用のこともほとんど触れられていないが信用出来るのか?
冠動脈造影ではなく、造影CTのヨード造影剤ではどうなのか?
日常診療で我々が造影剤腎症予防に対して使うには、更なる試験が待たれる。
ACSが疑われる患者にスタチンを入れるなら冠動脈造影の前のほうがよい・・のかもしれない・・・