スタチンによる造影剤腎症予防の効果 RCT
Short-Term Rosuvastatin Therapy for Prevention of Contrast-Induced Acute Kidney Injury in Patients With Diabetes and Chronic Kidney Disease
J Am Coll Cardiol 2014;63:62–70
【造影剤腎症予防における短期スタチン投与の効果について】
造影剤腎症はベースにDMやその他CKDを持つ患者に造影剤を投与する時の重篤な合併症である。これまで複数の小規模スタディで好ましい結果が得られていたが、今回大規模RCTを行った。
A この試験の結果は信頼できるか
①その試験は焦点が明確な課題設定がされているか
Patient:
糖尿病もしくはCKDが背景にあり、冠動脈造影、末梢動脈造影、左室造影またはPCIを受ける患者
inclusion
2型糖尿病もしくはステージ2から3のCKDがあり、最低14日間スタチン投与を受けておらず、メトホルミンおよびアミノフィリンを2日以上休薬されている18歳から75歳までの患者
exclusion
造影剤アレルギー、1型糖尿病、ケトアシドーシス、乳酸アシドーシス、ステージ0から1または4から5のCKD、4週間以内のSTEMIの既往、NYHA Ⅳの心不全、血行動態が不安定、2週間以内のヨード造影剤投与歴、LDLコレステロールが1.82mmol/L(70mg/dL)以下、肝不全(ALTが正常上限の3倍以上)、甲状腺機能異常、腎動脈狭窄(片側70%以上、両側50%以上)
Intervention:
10mgのロスバスタチン(クレストール)を造影剤投与2日前から投与3日後までトータル5日間、毎晩内服
Control:
スタチン内服なし
Outcome:
primary outcome
造影剤によるAKIの発症(造影剤投与72時間後、血清クレアチニン値が0.5mg/dLまたは25%以上の増加)
clinical(secondary) outcome
造影剤投与30日以内の
1)全死亡
2)尿毒症、コントロール困難な体液量増加、高カリウム血症またはアシドーシスによる透析または血液濾過の導入
3)心不全の悪化(NYHA分類1以上の変化)
A②その試験は設定された課題に答えるための研究方法がとられているか?
・中国の53施設おける多施設研究
・無作為化比較試験
・なぜか盲検化はされていない(コントロール群で、途中からスタチンを導入されている人がいて、そのため?)
A③ 患者はそれぞれの治療群にどのように割り付けられたか?
63ページのStudy protocolに、コンピューターによるブロック法でランダム化されたと記載あり
(Block randomization was performed using computerized open-label assignment by blinded envelopes, used in a consecutive fashion, with a block size of 6)
A④研究対象者、現場担当者、研究解析者は目隠しされている?
対象者、担当者の目隠しはなし
研究解析者は目隠しされている
64ページ
All adverse events were adjudicated by a blinded, independent clinical events committee.
A⑤研究にエントリーした研究者が適切に評価されたか?
64ページ
Statistical analysis was based on the modified intention-to-treat populations and performed using SAS version 9.13 software (SAS Institute Inc., Cary, North Carolina).
各グループ脱落者なし
A⑥研究対象となった介入以外は両方のグループで同じような治療がされていたか?
HydrationまたはSodium bicarbonateを投与された患者数、およびベースラインのmedicationについてはTable 1を参照
→薬剤に優位差はなさそう
※ただし、Hydrationをするかどうかは現場担当者の裁量まかせ
→63ページStudy protocol
Hydration therapy was standard and administered at the physician’s discretion and included isotonic saline (0.9% sodium chloride, 1 ml/kg/h) started 12 h before and continued for 24 h after contrast medium administration.
A⑦その研究のための対象患者数は偶然の影響を小さくとどめるのに十分な数か?
64ページのStatistical analysis
Sample size calculation was performed by assuming a 10% incidence of the primary endpoint in the control group and a 30% reduction in the treatment arm. From these assumptions, 2,712 patients were required (1,356 per group) from which to detect a 30% relative reduction in the incidence of the primary endpoint in the treatment arm with 80% power and a 2-sided significance level of 5%.
→各グループ1498人と1500人なので、OK
B結果は何か?
B⑧a 結果はどのように示されたか? b 有意差はあるか?
primary outcome
造影剤投与72時間後のAKI発症率はロスバスタチン投与群のほうが優位に低かった
(2.3% vs. 3.9%, p = 0.01) NNTは62.5
サブグループ解析
ステージ2のCKDがある郡におけるAKI発症率は
ロスバスタチン群1.5% vs. コントロール郡3.3% , p = 0.01)
その他の因子に分けたサブ解析でも、ロスバスタチンのベネフィットは失われなかった
clinical outcome(Table 3)では
30日以内の全死亡(0.2% vs. 0.3% , p = 0.73)、血液透析/血液濾過導入率(0% vs. 0.1% , p = 0.50)に優位差なし
心不全発症率はロスバスタチン群で優位に低下(2.6% vs. 4.3% , p = 0.02)
多変量解析(Table 4)では
造影剤腎症の予防に優位差を持って関係していたのはロスバスタチンとヘモグロビン値
造影剤腎症のリスク因子は急性冠症候群(ACS)、NYHA分類、eGFR低下
c 副作用は
66ページResultsの最後にちょこっとだけ
There were no significant differences between the 2 groups in the rates of muscle pain, liver function tests results, gastrointestinal disorders, or incidence of edema or rash.
C臨床にこの結果はどのように応用できるか?
primary outcomeが血清クレアチニン値なのが微妙なところ。測定は1回のみで、その後軽快したのかどうかも分からない。一時的なクレアチニン値の上昇を予防してどれだけ意味があるのか?
もう少しハードな臨床的アウトカムであればNNT62.5も悪くはないと思うが・・・。
副作用のこともほとんど触れられていないが信用出来るのか?
冠動脈造影ではなく、造影CTのヨード造影剤ではどうなのか?
日常診療で我々が造影剤腎症予防に対して使うには、更なる試験が待たれる。
ACSが疑われる患者にスタチンを入れるなら冠動脈造影の前のほうがよい・・のかもしれない・・・