大浦先生 ライブマルモレクチャー+臨床倫理カンファレンス
大浦誠先生が奈良に来るとSNSで知ったので、急遽、大浦先生に市立奈良に来て頂くことになりました!!
大浦先生はマルチモビリティ(マルモ)でご高名な先生です。
以下の連載は、必須ですね。
マルモの診かた総論(後編) | 2020年 | 記事一覧 | 医学界新聞 | 医学書院
さらにマルモのプロブレムリストの作り方も教えていただきました。
誤嚥性肺炎(前編) 「マルモのプロブレムリスト」の作り方 | 2020年 | 記事一覧 | 医学界新聞 | 医学書院
大浦先生に実際のマルモの症例についてライブでレクチャー+マルモカンファレンスを行っていただきました。
マルモのプロブレムリスト毎に性質が違うというのは新鮮でした。
心腎代謝パターンは全体的なパラメーター。
神経精神パターンはADL。
消化器整形パターンはポリドクターとポリファーマシー
皮膚呼吸器パターンは若年からの長期の疾病期間
悪性腫瘍消化器泌尿器パターンはQOL
と、それぞれの役割が違うことを意識するとよいようです。
さらにマルモでは大浦先生がご提案される、バランスモデルが有名ですね。
◯増やす項目
疾患理解による患者家族の治療を強化
介護サービスなどによるサポート強化
さらに本人のもっているレジリエンスの強化(高齢者でも若いときの仕事や好きなものなどを活かす方向に持っていく)
◯減らす項目
ポリファーマシー:減薬できる薬はないか 薬の副作用は出ていないか?
ポリドクター:ひとつの診療科にまとめて、複数の診療科受診による弊害を減らす(同一の薬が複数の医師から処方されるなど) ただし精神科などは付き合いが深いことがあるため、あえてまとめないというの個別に考慮
ポリアドバイス:過度な塩分制限や蛋白制限などのアドバイスを減らす
薬剤に関してはリスクとベネフィットを充分に考える必要があるとのことです。
特に心不全患者ではA2Bスコアがリスクを考えるうえでは有用とのことでした。
A2Bスコアは、年齢、BNP、貧血の3つのシンプルな指標で心不全の予後を予測するものです。
背景
急性心不全(ADHF)後の予後は不良である。しかし,退院後のADHF患者のケアや治療を改善できるような適切なリスクスコアは不足している。
方法と結果
2つの心不全コホート,NARA-HF研究およびJCARE-CARDをそれぞれ派生コホートおよび検証コホートとして使用した。
主要評価項目は,病院内死亡を除く2年間の追跡期間中の全死亡とした。
年齢、ヘモグロビン(Hb)、退院時の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を独立した危険因子として同定した。
年齢(65歳未満,0,65-74歳,1,75歳以上,2)
貧血(Hb<10 g/dL,2,10-11.9 g/dL,1,≧12 g/dL,0)
BNP(<200 pg/mL,0,200-499 pg/mL,1,≧500 pg/mL, 2)
→A2Bスコアと呼ばれる3分類を決定した。
A2Bスコアによって患者を4群に分けた
(超低リスク、0;低リスク、1〜2;中リスク、3〜4;高リスク、5〜6)
超低リスク群の2年生存率は97.8%であり、低リスク群、中リスク群、高リスク群ではそれぞれ84.5%、66.1%、45.2%であった。
JCARE-CARDを検証モデルとして用いた場合,超低リスク群の2年生存率は95.4%であり,低リスク群,中リスク群,高リスク群のそれぞれ90.2%,75.0%,55.6%であった。
結論
A2Bスコアは,ADHF患者の退院時生存率を推定するのに有用である
→大浦先生もおっしゃっていましたが、年齢は特にフレイルやADLとの関連もあるため、年齢が高いとフレイルやADL低下も認める傾向があることも重要だと思います。
実際に、元文献も見ましたが、フレイルやADL(パフォーマンスステータス)は検討されていなさそうなので、そこはこの論文の限界ですね。おそらくはフレイルで多変量で補正すると結果は変わるかもしれません(僕が査読者なら、絶対にツッコみます)。
ただ、心不全患者で貧血がある場合は予後が不良である可能性や、積極的に貧血補正を考えることも重要な視点だと思います。
また高齢者ではSGLT2阻害薬による尿路感染や低栄養、β阻害薬による徐脈なども重要とのことです。
特にリハビリで動いても頻脈にならない患者はβ阻害薬が不適切の可能性があり、むしろ減量するほうが倦怠感が改善する可能性があるという視点は新鮮でした。
さらに、終末期の倫理的に難しい症例について、どこまで治療をすべきかという視点でプレゼンし、大浦先生に臨床倫理カンファレンスをしていただきました。
臨床倫理ではやはり、4分割表が基本になります。
この臨床倫理のイメージはマルモのバランスモデルの中心のバランスをとるものだという視点は新鮮でした。
マルモのバランスモデルもそうですが、可能な限り多職種で取り組むことが重要です。
特に、社会的問題【周囲の状況】ではMSWの役割が非常に大きいため、積極的に巻き込んでいきます。
またターミナルステージでは積極的治療が本人のQOLを損ねる可能性について議論しつつも、全く治療しないと、治療を全力でするの間のグラデーションが大切であるというのは非常に納得しました。
最低限の妥当な治療は継続しつつもQOLを最大化するというバランスが臨床倫理でも重要というのは、納得です。
また緩和ケアでもBPS(生物心理社会)モデル+QOLというフレームワークで考えるというのは、僕も同意見です。
jyoutoubyouinsougounaika.hatenablog.com
このBPS+QOLというフレームワークを、意識しつつ、さらにマルモのバランスモデルも意識しながら、患者の負担とレジリエンスなどのバランスをとるというのは、まさにそのとおりだなと感じました。
大浦先生、本当にありがとうございました。
当院の研修医、専攻医も非常に勉強になりました。
以下の、誤嚥性肺炎ただいま回診中は、著者と大浦先生が執筆しています。
誤嚥性肺炎はこのような臨床倫理やバランスモデルなどを勉強するのに、うってつけの題材だと思います。
誤嚥性肺炎では、当然ながら、誤嚥性肺炎の正しい診断、抗菌薬治療は重要です。
ただし、特に認知症高齢者の高齢者ではそのような内科的アプローチでは「内科的にはやることがない」、「内科的にはやりがいがない」 という感想になりがちです。
例えば、嚥下障害の原因の臨床推論と原因検索も重要ですし、さらには、上記のバランスモデルや臨床倫理的アプローチ、さらにはリハビリ栄養などを勉強すれば、やれることはいくらでもあるということに気付くことができます。