医学英語論文の構造
読んでみました。
正直、医学的な論文の書き方と経済学分野の論文の書き方では異なる点が多いのですが、参考になりました。
RAPフレームワーク
→Research Question Answer Positioning Statement
の3つで考えるというのが参考になりました。
PがRの位置づけを決める
Pは自然な形で読み手をAへと導く
AはRに答えるという構造になっています。
このRAPをまずは論文を書く前に吟味することは非常に重要だと思います。
医学論文ではPatient Exposure Outcomeの3つが基本的なRの構造であり、Aもそれに答えるという形になっています。さらにExposureの対概念としてComparisonを置く考えがメイン
例えば私の論文では以下のようなRAPになります。【便宜上、PRAで記載】
P 臨床決断支援システムを用いることでガイドラインに基づいたプロセス指標が改善されることが知られているが、ステロイド性骨粗鬆症診療のガイドラインに基づいたプロセス指標の改善につながるかは不明である。
R(PEOで記述)
Patient ステロイドを長期で内服しステロイド骨粗鬆症ガイドラインにおける予防投与のクライテリアを満たした外来患者
Exposure ステロイド骨粗鬆症のガイドラインに基づいた臨床決断支援システムを導入した1年間
Outcome ビスホスホネート処方率 骨密度検査実施率
*なおComparisonはステロイド骨粗鬆症のガイドラインに基づいた臨床決断支援システムを導入しない1年間ですが、こちらはExposureを決定すれば対概念として自然に決まります。
A
ステロイドを長期で内服しステロイド骨粗鬆症ガイドラインにおける予防投与のクライテリアを満たした外来患者で、ステロイド骨粗鬆症のガイドラインに基づいた臨床決断支援システムを導入することで、ビスホスホネート処方率は有意に改善しなかったが、骨密度検査実施率は有意に改善した。
この基本構造を意識することが重要になります。
次にアウトラインの構築の話になります。
この本ではアウトラインの構築として見出しを書く重要性を強調されています。
医学的な論文でも見出しは重要です。
ただ医学論文ではMethodやResultの見出しはガイドラインに従っています。
例えば、コホート研究ではSTROBEガイドラインに準じた記述が必要です。
chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.jspe.jp/publication/img/STROBE%20checklist-J.pdf
よって、このチェックリストの見出しをまずは書くことから始めれば、医学論文ではそのままアウトラインになるかと思います。
また見出しの後にテイクアウェイとしてセクションのメインメッセージを提供する小さいパラグラフを書くようにという推奨があります。
ただ、これも医学論文だとテイクアウェイの文化がないので、ちょっと書きにくい印象があります。
ただ最初にセクションのメインメッセージを書くようにという考えは、その通りです。
医学論文であれば、むしろパラグラフの最初にメインメッセージとしてトピックセンテンスを書くようにという考えがあるので、こちらのほうが適切でしょう。
前述したようにMethodおよびResultはSTROBEなどのガイドラインのチェックリスト通りに見出しを先にかいて、その構造に基づいて記述します。。
Methodの見出しは以下のようになります。
◯研究デザイン[study design]
◯セッティング[setting]5セッティング,実施場所のほか,基準となる日付については,登録,曝露[exposure],追跡,データ収集の期間を含めて明記する。
◯参加者[participant]
◯変数[variable]7すべてのアウトカム,曝露,予測因子[predictor],潜在的交絡因子[potential confounder],潜在的な効果修飾因子[effect modifier]を明確に定義する。該当する場合は,診断方法を示す。
◯データ源[data source]/測定方法8*関連する各因子に対して,データ源,測定・評価方法の詳細を示す。二つ以上の群がある場合は,測定方法の比較可能性[comparability]を明記する。
◯バイアス[bias]9潜在的なバイアス源に対応するためにとられた措置があればすべて示す。
◯研究サイズ[study size]10研究サイズ[訳者注:観察対象者数]がどのように算出されたかを説明する。
◯量的変数[quantitative variable]11(a)量的変数の分析方法を説明する。該当する場合は,どのグルーピング[grouping]がなぜ選ばれたかを記載する。
◯統計・分析方法[statistical method]
(a)交絡因子の調整に用いた方法を含め,すべての統計学的方法を示す。
(b)サブグループと相互作用[interaction]の検証に用いたすべての方法を示す。(c)欠損データ[missing data]をどのように扱ったかを説明する。
(d)・コホート研究:該当する場合は,脱落例[loss to follow-up]をどのように扱ったかを説明する。
(d)・ケース・コントロール研究:該当する場合は,ケースとコントロールのマッチングをどのように行ったかを説明する。(
d)・横断研究:該当する場合は,サンプリング方式[sampling strategy]を考慮した分析法について記述する。(
e)あらゆる感度分析[sensitivity analysis]の方法を示す
Resultの見出しは同様に以下の通りです。
結果[result]
参加者[participant]13*
(a)研究の各段階における人数を示す(例:潜在的な適格[eligible]者数,適格性が調査された数,適格と確認された数,研究に組入れられた数,フォローアップを完了した数,分析された数)。
(b)各段階での非参加者の理由を示す。
(c)フローチャートによる記載を考慮する。
記述的データ[descriptive data]14*
(a)参加者の特徴(例:人口統計学的,臨床的,社会学的特徴)と曝露や潜在的交絡因子の情報を示す。
(b)それぞれの変数について,データが欠損した参加者数を記載する。
(c)コホート研究:追跡期間を平均および合計で要約する。
アウトカムデータ[Outcome data]15*
・コホート研究:アウトカム事象の発生数や集約尺度[summary measure]の数値を経時的に示す。
・ケース・コントロール研究:各曝露カテゴリーの数,または曝露の集約尺度を示す。
・横断研究:アウトカム事象の発生数または集約尺度を示す。
おもな結果[main result]
16(a)調整前[unadjusted]の推定値と,該当する場合は交絡因子での調整後の推定値,そしてそれらの精度(例:95%信頼区間)を記述する。どの交絡因子が,なぜ調整されたかを明確にする。
(b)連続変数[continuous variable]がカテゴリー化されているときは,カテゴリー境界[category boundary]を報告する。
(c)意味のある[relevant]場合は,相対リスク[relative risk]を,意味をもつ期間の絶対リスク[absolute risk]に換算することを考慮する。
他の解析[other analysis]17その他に行われたすべての分析(例:サブグループと相互作用の解析や感度分析)の結果を報告する。
→もちろん基本はMethodとResultはガイドラインの見出し通りに書くのですが、必要に応じて調整することも必要です。
先の論文のMethodの見出しは以下のとおりです。
Study design and patient population
Development of CDSS
Data collection and outcomes
Statistical analyses
Human subjects protection
基本的にはSTROBEに準じた見出しになっています。
IntroductionとDiscussionの見出しや構造を考えるうえでは、つぎのケースレポート作成の本が非常に有用です。
P 臨床決断支援システムを用いることでガイドラインに基づいたプロセス指標が改善されることが知られているが、ステロイド性骨粗鬆症診療のガイドラインに基づいたプロセス指標の改善につながるかは不明である。
R(PECOで記述)
Patient ステロイドを長期で内服しステロイド骨粗鬆症ガイドラインにおける予防投与のクライテリアを満たした外来患者
Exposure ステロイド骨粗鬆症のガイドラインに基づいた臨床決断支援システムを導入した1年間
Comparison ステロイド骨粗鬆症のガイドラインに基づいた臨床決断支援システムを導入しない1年間
Outcome ビスホスホネート処方率 骨密度検査実施率
このIntroductionで重要な点は以下の通りです。
Positioning Statementが自然にResearch Question を引き出しているか?
さらにパラグラフは論理的につながっているか?
上記の論文では以下の流れです。
Positioning Statement
①クリニカルガイドラインは臨床の質改善において中心的な役割
②臨床の質の改善においてCDSSの有用性が注目されている
③ステロイド性骨粗鬆症は非常に重要な疾患であるがその予防には課題が多い。
上記から自然に以下のResearch Questionが引き出されます。
②実際にステロイド性骨粗鬆症にCDSSが有用な研究は文献検索しても過去になさそう。
③なので、ステロイド性骨粗鬆症にCDSSが有用かどうかをこの論文では検証する
きれいに論理が繋がります。
このように
Positioning Statementが自然にResearch Question を引き出しているか?
さらにパラグラフは論理的につながっているか?
という2点がIntroductionでは重要になります。

上記の論文でもDiscussionの構造は以下のようになっています。
基本的にはトピックセンテンスがあり、続くセンテンスでトピックセンテンスを補強しています。
以下、Discussionのトピックセンテンスを抽出します。
第1パラグラフのトピックセンテンス
We demonstrated that the implementation of a CDSS significantly increased BMD testing in patients with a higher risk of glucocorticoid-induced osteoporosis based on a CPG, but did not increase BP prescriptions.
→
今回の研究で1つ目に分かったこと:CDSSはステロイド骨粗鬆症ガイドラインにおいてハイリスクとされる患者の骨密度実施率を改善させる
今回の研究で2つ目に分かったこと:CDSSはビスホスホネート処方率は改善しなかった。
第2パラグラフ:1つ目にわかったことの解説
One previous study also showed that a CDSS significantly improved the order rates of BMD testing from 5.9% before to 9.8% after implementing a CDSS for women with primary osteoporosis who did not have baseline BMD testing
→今回の研究でCDSSが骨密度実施率を改善した
第3パラグラフ:2つ目に分かったことの解説
However, there was no significant improvement in the BP prescription rate.
→CDSSはビスホスホネート処方率は改善しなかった
第4パラグラフ:一般化
CDSSs have been reported to improve process measures such as BP prescription rates in primary osteoporosis21, but no studies have reported whether a CDSS improved patient outcomes such as fractures.
→CDSSは骨折のプロセス指標(検査実施率、処方率)は改善させるが、実際に骨折などのアウトカム指標を改善させるかはまだ不明な点が多い
第5パラグラフ:一般化:その2
Beyond glucocorticoid-induced osteoporosis, CDSSs have the potential to improve the application rate of CPGs
→CDSSは臨床ガイドラインの遵守率を改善するポテンシャルがあるかもしれない
第6パラグラフ;限界
This study had several limitations. →今回のlimitationについて記載
今回の論文では以下の最終パラグラフについてはConclusionとしてDiscussionの後ろに持ってきています。
Conclusion
A CDSS could improve glucocorticoid-induced osteoporosis practice based on the CPG. The performance rate of guided practice was still less than perfect; thus, further investigation should be conducted to improve the performance rate of guided practice, as well as the patients’ outcomes.
→CDSSはガイドラインに基づいたステロイド骨粗鬆症診療の質を改善させるかもしれない(今回のサマリー)
さらにCDSSの効果はまだパーフェクトではないこと、さらにアウトカム指標についてもCDSSで改善することにつなげることが重要(将来の展望)
という形で論文の構造が記載されています。
なお、論文を書く際はまずはTable とFigureから書くことが推奨されます。
論文を書く順番は
① Table Figure
② Result
③ Method
④Abstract
⑤Introduction
⑥Discussion
が目安とされています。
特にきれいなTableとFigureを書くことは論文において最も重要なことのひとつです。
これに関しては以下の本にまとまっています。
医学論文を書く方は以下の2冊は、必読です。