コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

第2世代と第1世代のフルオロキノロンはアキレス腱断裂のリスク

もともと、キノロンとアキレス腱断裂のリスクは知られています。

今回、家庭医療のトップジャーナルであるAnnals of family medicineに日本から発信された論文を見つけたので少し読んでみました。

https://www.annfammed.org/content/19/3/212?fbclid=IwAR0Ux0xgkf4diUdO7yO-mZUOvmseivuwwxz5EmOFd_gj_8u5tLzhkXLqf3M#ref-1

 

Self-Controlled Case Series Analysisという手法を用いてレセプトデータを解析した研究になります。

熊本の後期高齢者保険、医療保険の加入者を対象としているようです。

Self-Controlled Case Series Analysisの詳細は以下を御覧ください。

https://biostatistics.m.u-tokyo.ac.jp/wp-content/uploads/2019/09/pdf/20181127symp04.pdf

 

ケースコントロール研究の亜種のようです。

ケースコントロール研究はアウトカムが稀な研究において有用ですが、アウトカムが起こった群を後ろ向きに解析する手法になるので、対照群の設定が困難とされています。

ベースラインを同等にすることが難しく、交絡因子の調整が非常に困難であることが難しいとされていますね。

 

Self-Controlled Case Series Analysisはアウトカムが起こった群におけるリスクが無い期間をコントロールとすることでベースラインを揃える手法のようです。

 

今回の論文のPECOは以下のようになります。

 

P アキレス腱断裂を起こした患者

E 抗菌薬暴露期間

O 抗菌薬非暴露期間

O アキレス腱断裂の割合

 

Figure 1.

リスク期間は、過去の研究に基づき、抗生物質の処方から30日とし、異なる抗生物質のリスク期間が重なっている場合はリスク期間を合算しているようです。

 

第1世代のキノロンの代表格はノルフロキサシン

第2世代キノロンの代表格はレボフロキサシンとシプロフロキサシン

第3世代キノロンの代表格はガレノキサシンとモキシフロキサシンです

 

結果は以下のとおりです。

Antibiotic Type Incidence Rate Ratio (95% CI)
First- and second-generation fluoroquinolones 2.94 (1.90-4.54)
Third-generation fluoroquinolones 1.05 (0.33-3.37)
Nonfluoroquinolones

1.08 (0.80-1.47)

 

第1と第2世代キノロンはアキレス腱断裂の incidence rate ratioは3倍程度

 

Subgroup Incidence Rate Ratio (95% CI)
First- and Second-Generation Fluoroquinolones Third-Generation Fluoroquinolones Nonfluoroquinolones
Sex
  Male 2.94 (1.67-5.18) 0.63 (0.09-4.60) 1.06 (0.71-1.59)
  Female 2.86 (1.45-5.66) 1.67 (0.39-7.06) 1.14 (0.71-1.83)
Recent corticosteroid usea
  Yes 8.34 (2.27-30.67) 6.30 (0.61-64.81) 0.92 (0.27-3.12)
  No 2.52 (1.32-4.81) 0.00 (0.0 to ∞) 1.07 (0.70-1.64)

 

またステロイド使用でさらに incidence rate ratioは高くなるようです。

 

○感想

キノロンの世代間でリスクが違うというのは新たな発見です

またステロイド使用でリスクが高くなるというのも興味深いです。

incidence rate ratio(IRR)を用いているのはおそらく、観察期間の長さも考慮にいれる必要があるからでしょう。

https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/old/old_article/n2003dir/n2518dir/n2518_04.htm

 

Total Exposure Period and Number of Achilles Tendon Ruptures by Antibiotic Type

 
Antibiotic Type Total Exposure Period, Days No. of Achilles Tendon Rupturesa
First- and second-generation fluoroquinolones 15,000 24
Third-generation fluoroquinolones  4,290  3
Nonfluoroquinolones 64,590 29
Overlapping antibiotic types  7,187  3

今回の研究でも上記のようにesposure periodをdaysで記述し解析しています。

 

臨床的にもステロイド使用者では特にキノロンの使用を気をつける、激しい運動をする人ではキノロンの使用を気をつけるということは言えるかもしれません。

勉強になりました。