コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

JPCA 学術大会 2023 医科歯科連携 教育セミナー

活動報告 JAPEP JPCA学術大会 JAPEPからの提言 活動報告

 

 

企画責任者:森川 暢(市立奈良病院 総合診療科)

座長:松本 真一(悠翔会在宅クリニック葛飾

橋本 忠幸(大阪医科薬科大学

 

演者:

松本 朋弘(練馬光が丘病院)
宮上 泰樹(順天堂大学医学部総合診療科)
戸原 玄(東京医科歯科大学摂食嚥下リハビリテーション学分野)
今田 良子(東京医科歯科大学摂食嚥下リハビリテーション学分野)

福添 恵寿(川西市総合医療センター 診療看護師)

 

私が代表を務める、Japan Aspiration pneumonia inter Professional team Educational Program(JAPEP)では、今まで誤嚥性肺炎に関する多職種連携のプログラムを実施していました。この度、新しいメンバーとして、歯科医の今田先生と看護師の福添さんに、メンバーに入っていただきました。今回は、新しいメンバーも加えて医科歯科連携をテーマに、日本プライマリ・ケア連合学会学術大会2023@愛知において、教育講演を行いました。その内容をダイジェストでお伝えします。

 

 

*JAPEPは「2019年度GSK医学教育助成」による事業です。これは、医学関係学会/医会が独立して企画・運営する医学教育事業を助成する事業であり、日本プライマリ・ケア連合学会の正副理事長会議の承認を得て実施されています。

 

今田先生・宮上先生コラボ

前回のセッションで取り上げた今田先生と宮上先生の「夢のコラボ」をテーマに教育講演をしていただきました。歯を喪失しているのに義歯を使用しないことは上昇と関連があるとされています。義歯は噛む力が弱くなるため、健康歯と口腔機能を保つことが重要です。さらに口腔環境の悪化は、肺炎の発症のみならず、フレイルの悪化、認知機能低下との関連があるとされています。このように重要な口腔ケアは重要で、高齢者ほど、う歯が増加し、歯科受診が重要ですが、75歳を境に歯科受診がむしろ減少することが重要な課題となっています。

要介護者の大半は歯科コンサルトが必要にも関わらず、実際に歯科受診になるのは3割弱となるというデータもあり、高齢者の歯科受診を行うことが重要となります。

 

そのためにも訪問歯科も利用しつつ高齢者を歯科受診につなげることが重要となります。さらに抜歯に関する全身状態の対診などくらいが医科と連携する機会がないということも課題となります。また、歯科介入のエビデンスが不足しているということも課題です。よって、今田先生と宮上先生の夢のコラボである臨床試験を開始しました。江東高齢者医療センターに入院した誤嚥性肺炎患者に対して週に1回、今田先生が口腔ケアをしてくださった結果、1か月以内の誤嚥性肺炎の再発率が76.1%→45.9%まで減少しました。この臨床試験でも使用したのがOHAT(Oral Health Assessment Tool)です。使い方としては明らかに病的所見なら歯科依頼ですが、義歯不良、口腔不衛生、齲歯・残存歯も、歯科依頼を行うことがポイントになります。

*OHAT 赤文字のところが1つでもあれば、歯科介入をする。



では口腔ケアは実際にどのようにすればよいでしょうか?ポイントは、以下のとおりです。

口臭が強ければ速やかに口腔ケア徹底をすることを心がけること

痰があれば、痰を取る

乾燥痰はそのままとらず、保湿剤でふやかしてからとる(特にジェル状がお薦め)

舌苔があれば保湿剤塗布後、柔らかい部分歯ブラシやスポンジブラシを使用し粘膜を傷つけないように除去する。(こちらも乾燥は天敵)。

就寝時などは特に乾燥しやすいので注意。

気付いた時に、湿潤にする(口腔ケア、飲水、その他)

 

また、具体的な手順も以下のとおりです。

  • 口腔内咽頭内に貯留した唾液や痰を吸引
  • 乾燥した口腔内痂皮は保湿剤で湿潤
  • 歯があれば歯ブラシでプラーク除去
  • スポンジブラシ、ガーゼ、ワンタフトブラシなどで痂皮を除去

 

他のポイントとしては、義歯は放置せず管理をすること、要介護高齢者では、普段口腔内をあまり動かさない方は食事の時急には動かせないため準備をしてから口を動かすようにする、ということが注意点になります。

最後に、医科歯科連携を通じて、医師と歯科がお互いの仕事を知ることが重要であると認識されました。今田先生のファンが江東高齢者医療センターで増えたというのも印象的でした。

コラボレーションにより医療の質が改善し、さらに研究にもつながるというのは素晴らしいことだと感じました。

 

福添さん 講演

看護師は口腔ケアや誤嚥性肺炎診療で中心的な役割を果たしますが、実際は課題が多いようです。現実的に看護師の人数が足りないないという問題があり、病院によっては13:1看護で急性期病床を回すこともありえるため、口腔ケアまで手が回らないということが現実です。(7:1看護の急性期病棟であっても非常に忙しい状況では同様に手が回らないことが想定されます。)また、特に夜勤では看護師の数も少なく、さらに口腔ケアのみならず、認知症管理、褥瘡管理、手術のオペ出しやオペ迎え、緊急入院への対応など看護師の業務は多岐におよび、さらにデスクワークもあります。現実的な問題としては、看護師が行う口腔ケアにたいして加算がつくことや病院が充分な時間や研修を確保することが重要となると考えられます。また上記のような看護師の多種多様な分野とどのようにバランスを取るのかが重要になります。看護師は良くも悪くも横に倣えというところがあるので、看護師全体が口腔ケアに興味を持ち、行うように一歩を踏み出す取り組みが重要になるかもしれません。

 

松本先生講演

医師と歯科のダブルボードの立場でご講演をいただきました。問題点として急性期病院の80%は歯科部門を持たないということが挙げられました。宮上先生のご講演と同様の課題として、かかりつけ歯科を持つことが重要であり、急性期病院と診療所などを循環するPatient journeyを意識して、切れ目のない医科歯科連携を提供することが重要です。そのためにも、医科歯科連携の第一歩として、患者さんがもう一度、あるいは初めてかかりつけの歯科医を持つことが重要になります。特に高齢者ほど、かかりつけ歯科を持つことが重要です。医科歯科連携を勧めるためのステップは以下の3つに大別されます。

第1ステップ: 急性期病院を患者さんの歯科医療との出会いの場として確立する。

 第2ステップ: 在宅・介護現場での歯科介入をシステム化する。

第3ステップ: 歯科通院から訪問歯科診療まで、切れ目なく(亡くなるまで)患者さんに寄り添える歯科医療の確立(Dental Extensivist Model)

この一環として、歯科のない急性期病院における,“看護師が“かかりつけ歯科医への橋渡しモデルが紹介されました。



これは入院した患者を全例、看護師がOHATでスクリーニングを行い、OHATで基準を満たせば、院外の訪問歯科に介入を依頼するというシステムです。さらに訪問歯科は退院後も関わり続けることで、かかりつけ歯科を再構築するというシステムでもあります。実際に、入院中に訪問歯科が介入したうち43.8%は退院後も歯科が介入を継続することが可能になりました。

また練馬光が丘病院では総合内科チームに歯科が所属し、合同回診を行ったり、早期の歯科介入を行い、さらに退院後も訪問歯科と連携するという先進的な取り組みも始まっているようです。

 

戸原先生からのビデオメッセージ

戸原先生が歯科になってすぐは嚥下のことは実はほとんどご存知なかったようです。しかし、訪問診療を戸原先生がされるようになってから、実は嚥下障害の患者さんが非常に多いことに気づかれたようです。また口のみならず全身を診ることで嚥下障害の患者さんに対応することで改善する例を多数経験し、学会発表でも認められることで、嚥下障害に携わることの重要性に気づかれたようです。もともと、実家の歯科医院を継ぐことを考えておられた戸原先生ですが、これらの活動を通じて歯科医として嚥下障害にかかわることがライフワークとなられたようです。そして、嚥下内視鏡の普及、後進の育成、嚥下障害マップの作成、広報活動など多種多様な活動を通じて嚥下障害の診療に携わってこられました。戸原先生から我々の医科歯科連携の取り組みについて応援をいただき、本当に嬉しかったです。

*なお、戸原先生をはじめて東京で働いていた病院に講演にお招きしたときに、2人で錦糸町に飲みに行ったのは良い思い出です。

 

まとめ

JAPEPとして我々が提言したいことは、急性期病院や在宅医療など幅広い領域での医科歯科連携の推進、広い意味での歯科を中心とした多職種連携の構築、そして将来的には医科歯科連携のエビデンスの構築を目指し、急性期および在宅医療など幅広い領域で医科歯科連携に加算がつくような仕組みの構築を目指すことです。JAPEPの取り組みに賛同いただける多職種の皆様は、ぜひ、一緒に活動をしていただければ幸いです。

japep.jp

 

ミミッカーを探せ  感想

www.chugaiigaku.jp

臨床推論の落とし穴 ミミッカーを探せ!

 

献本御礼

長野先生からいただきました!

臨床推論の直感的診断のエラーを防ぐための戦略であるPivot and Cluster Strategyの実践本であり若手医師の診断力を伸ばす本です。

臨床推論を実践するためには古典的には主訴別の分析的な方法が用いられています。

例えば、胸痛の鑑別として、心筋梗塞、肺塞栓、大動脈解離、気胸を考えるなどの方法になります。

この方法は経験が乏しい初心者でも実践が可能です。

臨床の経験を積むと、これらの疾患の経験を積むことになります。

よって、この胸痛は心筋梗塞らしいという直感的診断が可能になります。

ただし、直感的診断には落とし穴があるというのは、これが本書でいうミミッカーです。

つまり、心筋梗塞にぱっとみ見えるが、実は心筋梗塞ではないという状態がミミッカーになります。

心筋梗塞だと思って、ヘパリンを使用したら大動脈解離だったというのは典型的なミミッカーになります。

特に、ある程度経験を積んだ、後期研修医レベルではこの落とし穴にハマりがちです。

あるいは、リウマチ性多発筋痛症と診断し、治療をしてみたら、悪性腫瘍や感染し心内膜炎だったということが例に上がります。

これらを防ぐための戦略が、Pivot and Cluster Strategyで、心筋梗塞らしいと直感的に診断した場合に、大動脈解離のみならず、たこつぼ型心筋症、冠攣縮性狭心症、急性死筋炎、特発性冠動脈解離などのCluster(鑑別疾患)を挙げることをルーチン化して、ミスを防ぐという戦略です。

この戦略は関節リウマチやリウマチ性多発筋痛症などの慢性疾患でも重要となりますし、後期研修医からスタッフレベルになるために重要な考え方です。

本書はこのようなPivot and Cluster Strategyを実践するための入門書としてお勧めできます。

エビデンスに基づいた具体的な数字のみならず、実臨床での落とし穴についても言及されています。

初期研修医から後期研修医で診断能力をさらに伸ばしたいと考えている総合診療医や内科の若手医師、臨床推論を勉強し直したい内科医など幅広い読者層がターゲットかと思います。

私も総合内科としては中堅どころですが、本書を読みながら知識を整理することができて、非常に有意義でした。

是非、御覧ください。

 

 

 

2022年の振り返りと2023年の抱負

2022年も終わりました。

2023年の抱負と振り返りを

 

臨床/教育:

振り返り:専攻医の先生が4人入ってきてくれたが、なかなかカンファレンスなどを定期的に継続できなかった。

抱負:院外講師のレクチャーも積極的に。レクチャー関連は長続きしないので、on goingの回診や振り返りの時間を確保すること。

 

JAPEPの活動

振り返り:なんとかメンバー以外の病院にも公開してハイブリッドセミナーを実施

抱負:JAPEPのハイブリッドセミナーを今後も継続できるようなシステム作りを行う。

 

原稿執筆

振り返り:大学院などが忙しくて、正直、あまり進まなかった。ただ、何でもかんでも原稿を受けることはやめて絞ることにしたのは良かった

抱負:総合診療のマニュアルは今年こそは出版。去年は出版するはずだったが。それだけは、なんとしても成し遂げたい。

 

症例報告

振り返り:症例報告やイメージを後輩と書き始めたのは良かった。

抱負:引き続き、コンスタントに発表し続ける。他の病院の先生の力もお借りしつつ、4本/年の発表を目指す

 

研究

振り返り:博士論文を書けたのは良かった。また、大規模な研究プロジェクトが始まった。

抱負:大規模な研究プロジェクトは絶対に成功させる。また自分自身の原著論文も筆頭2本/年を目指す。

JAPEP ハイブリッドセミナー 2022

JAPEP ハイブリッドセミナー 2022

 

*JAPEPは「2019年度GSK医学教育助成」による事業 本事業は医学関係学会/医会が独立して企画・運営する医学教育事業を助成する事業 日本プライマリ・ケア連合学会としてGSKに応募したプロジェクトで正副理事長会議の承認は済です 本プロジェクトに関わる案件はGSKの利益相反を開示する必要があります

 

 

JAPEPハイブリッドセミナーが無事に終了しました。

2021年にパイロット的にJAPEPのセミナーを行いましたが、今回は、はじめてスタッフ以外の病院にも公開した本格的なセミナーとなりました。

ハイブリッドセミナーとはどういうことかというと現地参加とZoomのハイブリッドのセミナーということです。

つまり、参加者は病院ごとに多職種で参加します。さらに自分の病院に集合します。さらにその病院と主催者をZoomでつなぎ、グループワークとカンファレンスを進めるという最新の教育技法を取り入れたカンファレンスです。

また参加者は事前にMoodleなどを用いて事前学習を行うという意味で講義の反転授業の方式となっています。

 

JAPEPのミッションは以下のとおりです。

多職種向けの教育プログラムを作り上げ、日本の誤嚥性肺炎診療の底上げを目指す

 

JAPEPのビジョンは以下のとおりです。

JAPEPセミナーの継続した安定運営

JAPEPホームページとe-learningシステムの構築

JAPEPインストラクター制度の構築

JAPEP studyで日本から世界にエビデンスを発信

これを目指すためにコンピテンシーを設定しています。

 

 

これを実践するために森川おじいさんが、誤嚥性肺炎になったという架空の症例に対して多職種チームとしてどのようにアプローチするかという設定でセミナーを行いました。

*ちなみにこれは私 森川暢をアプリで老化させました。。

 

 

 

例えば診断と治療ならシナリオとCT画像をみて誤嚥性肺炎に矛盾しないか? 矛盾しないなら抗菌薬はどうするかということをチームでグループワークしてもらいました。

1人以上、テキストのアニメ風の画像のようです

 

グループワークには運営メンバーが遠隔でサポートに入り、グループワークのプロダクトを皆で共有し、さらに他の病院からも意見をいただきました。

1人、、「手順② 各病院内でディスカッションし、 運営メンバーが遠隔でけ ポートし、 プロダクトを提出 参加病院と運営メンバーは Zoomブレイクアウトで各病院 専用ルームに分かれる」というテキストのマンガのようです

 

同様に、他の薬剤、栄養、歯科栄養、リハビリ、嚥下などのコンピテンシーごとにグループワークをしてもらいました。

結構、新しい教育手法で楽しかったです。

 

さらに、倫理の項目では実際に臨床倫理の4分割表を用いたカンファレンスを行ってもらいました。

こちらも4分割表をGoogle スライドで作成し、議論しながらその場で、4分割表をグループで完成していただきました。

 

私もファシリテーターとしてとある市中病院の多職種チームのファシリテーターをZoomでその病院を繋いで行いました。

グループディスカッションはもちろん有意義なのですが、もっとも印象に残ったのは、各セッションごとにチームの中でスペシャリストが役割を発揮し有効な連携をしていたということです。

例えば、薬剤調整のセッションでは薬剤師がイニシアティブをとり、薬剤調整のワークショップを行いました。

同様に、栄養管理のセッションでは管理栄養士が、口腔ケアのセッションでは歯科衛生士が、多職種連携や倫理のセッションではMSWが活躍していました。また看護師はどのセッションでもオールラウンドに活躍し、医師も医師にしかできない予後予測や治療などで活躍していました。

 

このハイブリッドセミナーに多職種チームで参加すること自体が、多職種連携の起爆剤となりそうな予感があり、非常に楽しかったです。

今後は、このハイブリッドセミナーを定期的に開催することで日本の急性期病院の誤嚥性肺炎診療の底上げに貢献したいと考えています!

 

興味があるかたは、是非御連絡ください!

 

ちなみこちらがホームページです。

japep.jp

 

 

非専門医が行う肩関節脱臼の整復

 

肩関節脱臼の整復の整復について

 

◯注意点

まずは骨折と腋窩神経損傷がないかを整復前に確認します

 

腋窩神経麻痺(えきかしんけいまひ) - 古東整形外科・リウマチ科

腋窩神経麻痺(えきかしんけいまひ) - 古東整形外科・リウマチ科

 

こちらの領域の感覚低下がないかを確かめます。

さらに整復前にかならず、麻痺、脱力、骨折がないことをカルテに確認します。

 

また整復する際に

腋窩神経麻痺が起こる可能性

・骨折する可能性

 

について患者さんに必ず説明します。

 

神経損傷や骨折のリスクがあっても、整復は基本的には必要です。

ただ、骨折や神経損傷を既に合併した肩関節脱臼に関しては、整形外科にコンサルトしたほうが無難かもしれません。

 

 

それでは、整復方法について。

個人的には、非専門医が行う肩関節脱臼の整復は、

二重牽引法

Stimsonの変法(Scapular manipulation

のどちらか、やりやすいやり方が、よいかなとと思います。

個人的には、二重牽引法が好みです。

 

 

 

肩関節脱臼の整復方法はいろいろあります。以下に、まとまっています。

 

www.emalliance.org

 

 

このEM Allianceで紹介されているreviewは非常にまとまっていて、お勧めです。

A systematic and technical guide on how to reduce a shoulder dislocation - ScienceDirect

 

Fig. 2

上記のMilch法が有名ですね。

 

あとはゼロポジションが基本ですね。

www.youtube.com

 

 

ただ、非整形外科医にとっては結構難しい印象です。

この骨折ハンターでも肩関節脱臼の整復について詳細に記載されています。

 

 

 

Stimson法は重りで腕を下に引っ張る方法です。

www.youtube.com

 

このようにおもりを腕につけて、整復されるまで待ちます。

ただ、整復率も低めで10分から30分、重りをぶら下げたままになり、時間がかかるため患者さんの負担になります。

 

 

そこで推奨されているのが以下のStimsonの変法(Scapular manipulation

Stimsonに肩甲骨の回旋を加える方法。

Fig. 15

 

Picture

https://www.emnote.org/emnotes/scapular-manipulation-technique

http://www.emdocs.net/em3am-anterior-shoulder-dislocation/



www.youtube.com

 

肩甲骨を上に持ち上げるように回旋することがポイントです。

2人法で、ひとりがゆっくりと下に腕を引っ張り、ひとりが肩甲骨を回旋する方法が確実で、骨折ハンターでも推奨されています。

 

 

ただ、さらによさげな方法が以下の救急整形外傷レジデントマニュアルに記載されていて、よかったので紹介します。

実際に、自分でやってみても非常に鮮やかに整復されました。

この本を書いた田島先生の方法です。

 

 

以下こちらの田島先生の論文から引用しています。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/ams2.179#support-information-section

 

Details are in the caption following the image

 

 

 

 

二重牽引法

牽引は2人の術者によって行われる(可能なら3人目が体幹部にタオルをかけて、反対方向に牽引する。)

① 前下方へゆっくりと患者の力が抜けるまで牽引(屈曲30度、外転30度)

② 細長いタオルで上腕に対して90度の方向に瞬間的に牽引

 

タオルで引っ張るときに過度な力は不要で、動画を見てもらうとわかるように、瞬間的にすっと牽引します。

この方法は非常に簡単で、合併症も少ない印象です。

 

 

まとめると、非専門医が行う肩関節脱臼の整復は、

二重牽引法

Stimsonの変法(Scapular manipulation

のどちらか、やりやすいやり方が、よいかなと。

個人的には、二重牽引法が好みです。

 

 

これでも難しければ、鎮静での整復になりますが、その場合は整形外科にコンサルトするほうが非専門医にとっては、無難かもしれません。

また非専門医が整復をどこまでやってよいかは、各自の施設で整形外科医と相談することが必要ですね。

 

*追記

FARESもよいということを教えていただきました。

下記のブログにまとまっていますね。

FARES!それは医療者にとって容易く患者にもやさしい新しい肩脱臼整復法! | @ER×ICU 〜救急医の日常〜

 

動画は以下

www.youtube.com

 

ゼロポジションの応用ですが、

①患者の患側の手を握り

②上下にゆらゆら揺らしながら、肩関節を外転

③90度を超えたあたりで整復

 

 

https://europepmc.org/article/med/30159802

28人の患者に試したところ、、21名の患者(75%)が1回の試行で

3名の患者(合計85.7%)が2回の試行で整復を達成した。

整復に要した時間は平均62.66秒

疼痛評価のためのVisual Analog Scaleの平均値は5.29

 

と早く痛みも少なく整復できそうです。

非常に簡単で、一人でもできるのがよいですね。

 

 

1⃣ FARESを試す

2⃣ 二重牽引法   or  Stimsonの変法を試す

 

という流れでも良いかも知れませんね。

 

 

 

以下の2冊は整形救急のお供として個人的に好きで、よく使っています。

 

 

 

痙攣重積のMRI所見と痙攣重責の治療について

痙攣でセルシンを打って痙攣は改善したけど、不随意運動が残存。意識レベルは不良。

痙攣はしていないけど、不随意運動があるので、痙攣重積では?

 

非けいれん性てんかん重積状態脳波ではてんかん発作性異常を認めるものの、けいれん発作を伴うことなく意識障害が持続し、急性・遷延性(長時間にわたる)昏睡状態を示すと定義。

 

救急現場におけるてんかん重積状態の臨床的特徴~非痙攣性てんかん重積状態nonconvulsive status epilepticusの重要性について~

 

日本の検討では、入院時に意識障害をともなった痙攣重責患者連続94例のうち入院時非痙攣てんかん重積(NCSE)であったのは24例(25.5%)で,入院後NCSEとなったものもふくめると32例(34.0%)であった.

→NCSEは稀ではない。よって疑えば脳波を実施することが重要。

 

ただ、夜間に脳波は現実的ではない。

さらに、定義からは全く、痙攣はないが、よくよく診ると不随意運動が残存していることが多いので、不随意運動の有無は、痙攣重責が継続しているかにおいて非常に重要。

不随意運動がセルシンを投与しても継続している場合は、ホストインやイーケプラの追加を行うことが重要。

さらに、痙攣重積をしているという根拠として頭部MRIも有用。

 

 

Diffusion-weighted and perfusion MRI demonstrates parenchymal changes in complex partial status epilepticus | Brain | Oxford Academic

拡散強調MRI(DWI)とperfusion(PI) MRIは主に急性期脳梗塞に適用されているが、てんかん患者の発作前後の情報を提供できる可能性がある。

てんかんの研究では,見かけの拡散係数(ADC)の低下と,過灌流の徴候の両方が報告されている.

我々は複雑部分てんかん(CPSE)患者10名を対象に,DWIとPIを含む連続MRI検査を行った.

全例でDWIの局所高信号化を認め,(i)海馬体と視床枕内側部(10例中6例),(ii)視床枕内側部と皮質領域(同2例),(iii)海馬体のみ(同1例),(iv) 海馬体,視床枕内側部および皮質(同1例)でADC値の低下を認めた.

すべての患者において、局所的な過灌流とADC/DWI変化領域との密接な空間的相関が見られた。

2人の患者では、追加のSPECT(single photon emission computed tomography)検査で灌流亢進が確認された。

全例にフォローMRI検査を行い,追跡期間の長さに応じて拡散・灌流異常の一部または完全な消失が認められた.

臨床経過、脳波およびSPECTの結果はすべて、MRIが長引くてんかん活動に関連した変化を検出したことを示している。

PIとDWIの組み合わせにより、海馬、視床、大脳皮質患部におけるCPSE後の血行動態と組織変化を可視化することができる。

 

→ということで痙攣重積では血流の亢進とそれに伴うDWIの高信号が認められる

 

海馬のDWI 高信号

Diffusion-weighted MRI demonstrating involvement of the hippocampus in patients 3, 4, 6, 7 and 9. High-intensity signal abnormality is noted in the right (A) and left (B–E; arrows) hippocampus. Hyperintense susceptibility artefacts can occasionally be seen in the area of the temporal bone.

 

 

視床内側のDWI高進号

 

 

上の段では造影MRIで造影されている。

DWIでは皮質と視床内側に高信号

→フォローアップで消失している

Initial and follow-up MRI in patient 10. T2-weighted FLAIR images (A) and corresponding T1-weighted images after contrast injection (B) demonstrate enhancing lesion in the right temporoparietal region with central necrosis, which was confirmed as glioblastoma multiforme by histopathology. Acute diffusion-weighted MRI (C) and corresponding ADC (D) maps in the initial phase. Reduced diffusion and hyperintensity on the diffusion-weighted MRI is noted in the right posterior thalamus (yellow circle) and in temporal and parietal cortical regions (arrows). On the ADC maps, hyperintensity (increased diffusion) is noted in the contrast-enhancing centre of the glioblastoma, while there is surrounding hypointensity indicating extensive involvement of cortical structures due to epileptic activity (arrows; ROI for ADC assessment in green). Follow-up diffusion-weighted MRI (E) and ADC maps (F) demonstrate normalization of the areas with initially reduced diffusion while the neoplastic lesion is unchanged.

 

→DWIの高信号がないから、痙攣重積ではないとはいえない

しかし痙攣重積を疑う状況でDWIで脳表や、海馬体、視床内側にDWIで高信号を認めれば、重積状態と診断することは妥当かもしれない。

 

なお皮質のDWI高信号は、クロイツフェルト・ヤコブ病でも起こるが、病歴で鑑別することが可能。

 

 

痙攣重積で、なお、セルシンを投与した後のsecond line治療は?

 

レベチラセタム・ホスフェニトイン・バルプロ酸を比較したランダム化比較試験(ESETT) - 亀田メディカルセンター|亀田総合病院 救命救急センター

 

こちらにまとめられています。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 

痙攣重積の2nd line therapyの論文

バルプロ酸点滴、ホストイン、イーケプラ点滴を比較した多施設RCT

 

225人の小児(18歳未満)、186人の成人(18~65歳)、51人の高齢者(65歳以上)

175人(38%)の患者がレベチラセタム

142人(31%)がホスフェニルトイン

145人(31%)がバルプロ酸

 

ベースラインの特性は群間差なし

 

主要評価項目は,点滴開始から 1 時間後に,意識の改善を認め、臨床的に明らかな発作がなく,抗けいれん薬を追加投与しないこと

安全性の主要評価項目は,生命を脅かす低血圧または心不全

 

主要評価項目は,レベチラセタムを投与された小児の 52%(95% 信頼区間 41~62),成人の 44%(33~55), 高齢者の 37%(19~59) で達成された.

ホスフェニトインでは、小児の49%(38-61人)、成人の46%(34-59人)、高齢者の35%(17-59人)で達成された。

バルプロ酸では、小児の52%(41-63人)、成人の46%(34-58人)、高齢者の47%(25-70人)で達成された。

各年齢層における薬剤による有効性及び安全性の主要評価項目の差は認められなかった。

小児における気管内挿管を除き、安全性の副次的評価項目は、各年齢群において薬剤による有意な差は認めなかった。

 

 

→ということでイーケプラ点滴でも、ホストインの点滴でもどちらでも使用可能。

 

 

それをうけて、てんかん重積のガイドラインも上記の形に。

 

個人的にはホストインのほうが確実に効果がありそうなので、ホストインを副作用がなければ優先して使用して、それでも痙攣が残っていそうなら、イーケプラの点滴を加えるという戦略が使いやすい。

 

なお、初期治療はセルシンIVが使用されるが、Dynamedではロラゼパムミダゾラムが推奨される。

ジアゼパムは次点(diazepam (NCS Class IIa, Level A))

 

ロラゼパム(NCSクラスI、レベルA) 0.1 mg/kgを2 mg/分を超えない速度で静注する(最大4 mg/回);5~10分後に反復投与してもよい。

ミダゾラム(NCSクラスⅠ、レベルA) 0.2 mg/kg を筋肉内投与する(最大 10 mg/dose)。

代替経路:0.2mg/kgを経鼻投与、または0.5mg/kgを経頬投与する。

 

ただミダゾラム筋注は保険適応外使用になるかもしれないので、ちょっと、使いにくいですね。

ただ、ルート確保出来ない場合はミダゾラム筋注は非常に使いやすいと思います。

ちなみに、セルシン筋注は、推奨されていません。

 

最近はロラゼパムも痙攣重積で使用できるので、ロラゼパムファーストでもよいかもしれません。

てんかん重積状態の海外第一選択薬が国内で承認:日経メディカル

 

 

追記

なおセルシン半減期が長く、すぐに効果が発現せず、長く残る

なのでミダゾラムをIVするという方法もあり?

以下、三宅先生に教えてもらった案(あくまで自己判断でお願いします)

10mlシリンジを用いて、ミダゾラム10mg/2ml+生食8mlで、10mg/10mlにして使用
3mgずつ側管からIVで使用
80歳以上なら2mgずつ側管からiv
→2分毎に反応をみながら追加。
脳炎の人を鎮静してMRIに連れて行くときは上記を2mgずつ、高齢者なら1mgずつiv
15分で効果が消えてしまうので適宜追加
ちょっと呼吸が浅くなっても顎先挙上していれば自然に効果が消える。
 
なお、呼吸抑制がこない範囲で低用量でミダゾラムの持続注射をして、痙攣時にフラッシュで追加という方法もありかもしれない。
 

 

医学英語論文の構造 

読んでみました。

正直、医学的な論文の書き方と経済学分野の論文の書き方では異なる点が多いのですが、参考になりました。

RAPフレームワーク

→Research Question  Answer  Positioning Statement

の3つで考えるというのが参考になりました。

PがRの位置づけを決める 

Pは自然な形で読み手をAへと導く

AはRに答えるという構造になっています。

 

このRAPをまずは論文を書く前に吟味することは非常に重要だと思います。

 

 

 

医学論文ではPatient Exposure  Outcomeの3つが基本的なRの構造であり、Aもそれに答えるという形になっています。さらにExposureの対概念としてComparisonを置く考えがメイン

 

www.nature.com

例えば私の論文では以下のようなRAPになります。【便宜上、PRAで記載】

P 臨床決断支援システムを用いることでガイドラインに基づいたプロセス指標が改善されることが知られているが、ステロイド骨粗鬆症診療のガイドラインに基づいたプロセス指標の改善につながるかは不明である。

 

R(PEOで記述)

Patient ステロイドを長期で内服しステロイド骨粗鬆症ガイドラインにおける予防投与のクライテリアを満たした外来患者

Exposure ステロイド骨粗鬆症ガイドラインに基づいた臨床決断支援システムを導入した1年間

Outcome ビスホスホネート処方率 骨密度検査実施率

*なおComparisonはステロイド骨粗鬆症ガイドラインに基づいた臨床決断支援システムを導入しない1年間ですが、こちらはExposureを決定すれば対概念として自然に決まります。

 

A

ステロイドを長期で内服しステロイド骨粗鬆症ガイドラインにおける予防投与のクライテリアを満たした外来患者で、ステロイド骨粗鬆症ガイドラインに基づいた臨床決断支援システムを導入することで、ビスホスホネート処方率は有意に改善しなかったが、骨密度検査実施率は有意に改善した。

 

この基本構造を意識することが重要になります。

 

次にアウトラインの構築の話になります。

この本ではアウトラインの構築として見出しを書く重要性を強調されています。

医学的な論文でも見出しは重要です。

ただ医学論文ではMethodやResultの見出しはガイドラインに従っています。

例えば、コホート研究ではSTROBEガイドラインに準じた記述が必要です。

 

chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.jspe.jp/publication/img/STROBE%20checklist-J.pdf

 

よって、このチェックリストの見出しをまずは書くことから始めれば、医学論文ではそのままアウトラインになるかと思います。

 

また見出しの後にテイクアウェイとしてセクションのメインメッセージを提供する小さいパラグラフを書くようにという推奨があります。

 

ただ、これも医学論文だとテイクアウェイの文化がないので、ちょっと書きにくい印象があります。 

 

ただ最初にセクションのメインメッセージを書くようにという考えは、その通りです。

医学論文であれば、むしろパラグラフの最初にメインメッセージとしてトピックセンテンスを書くようにという考えがあるので、こちらのほうが適切でしょう。

 

 

前述したようにMethodおよびResultはSTROBEなどのガイドラインのチェックリスト通りに見出しを先にかいて、その構造に基づいて記述します。。

Methodの見出しは以下のようになります。

◯研究デザイン[study design]

◯セッティング[setting]5セッティング,実施場所のほか,基準となる日付については,登録,曝露[exposure],追跡,データ収集の期間を含めて明記する。

◯参加者[participant]

◯変数[variable]7すべてのアウトカム,曝露,予測因子[predictor],潜在的交絡因子[potential confounder],潜在的な効果修飾因子[effect modifier]を明確に定義する。該当する場合は,診断方法を示す。

◯データ源[data source]/測定方法8*関連する各因子に対して,データ源,測定・評価方法の詳細を示す。二つ以上の群がある場合は,測定方法の比較可能性[comparability]を明記する。

◯バイアス[bias]9潜在的なバイアス源に対応するためにとられた措置があればすべて示す。

◯研究サイズ[study size]10研究サイズ[訳者注:観察対象者数]がどのように算出されたかを説明する。

◯量的変数[quantitative variable]11(a)量的変数の分析方法を説明する。該当する場合は,どのグルーピング[grouping]がなぜ選ばれたかを記載する。

◯統計・分析方法[statistical method]

(a)交絡因子の調整に用いた方法を含め,すべての統計学的方法を示す。

(b)サブグループと相互作用[interaction]の検証に用いたすべての方法を示す。(c)欠損データ[missing data]をどのように扱ったかを説明する。

(d)・コホート研究:該当する場合は,脱落例[loss to follow-up]をどのように扱ったかを説明する。

(d)・ケース・コントロール研究:該当する場合は,ケースとコントロールのマッチングをどのように行ったかを説明する。(

d)・横断研究:該当する場合は,サンプリング方式[sampling strategy]を考慮した分析法について記述する。(

e)あらゆる感度分析[sensitivity analysis]の方法を示す

 

Resultの見出しは同様に以下の通りです。

結果[result]

参加者[participant]13*

(a)研究の各段階における人数を示す(例:潜在的な適格[eligible]者数,適格性が調査された数,適格と確認された数,研究に組入れられた数,フォローアップを完了した数,分析された数)。

(b)各段階での非参加者の理由を示す。

(c)フローチャートによる記載を考慮する。

 

記述的データ[descriptive data]14*

(a)参加者の特徴(例:人口統計学的,臨床的,社会学的特徴)と曝露や潜在的交絡因子の情報を示す。

(b)それぞれの変数について,データが欠損した参加者数を記載する。

(c)コホート研究:追跡期間を平均および合計で要約する。

 

アウトカムデータ[Outcome data]15*

コホート研究:アウトカム事象の発生数や集約尺度[summary measure]の数値を経時的に示す。

・ケース・コントロール研究:各曝露カテゴリーの数,または曝露の集約尺度を示す。

・横断研究:アウトカム事象の発生数または集約尺度を示す。

 

おもな結果[main result]

16(a)調整前[unadjusted]の推定値と,該当する場合は交絡因子での調整後の推定値,そしてそれらの精度(例:95%信頼区間)を記述する。どの交絡因子が,なぜ調整されたかを明確にする。

(b)連続変数[continuous variable]がカテゴリー化されているときは,カテゴリー境界[category boundary]を報告する。

(c)意味のある[relevant]場合は,相対リスク[relative risk]を,意味をもつ期間の絶対リスク[absolute risk]に換算することを考慮する。

 

他の解析[other analysis]17その他に行われたすべての分析(例:サブグループと相互作用の解析や感度分析)の結果を報告する。

 

 

→もちろん基本はMethodとResultはガイドラインの見出し通りに書くのですが、必要に応じて調整することも必要です。

 

 

先の論文のMethodの見出しは以下のとおりです。

Effectiveness of a computerized clinical decision support system for prevention of glucocorticoid-induced osteoporosis | Scientific Reports

Study design and patient population

Development of CDSS

Data collection and outcomes

Statistical analyses

Human subjects protection

基本的にはSTROBEに準じた見出しになっています。

 

IntroductionとDiscussionの見出しや構造を考えるうえでは、つぎのケースレポート作成の本が非常に有用です。

 

 

 

 

Intoroduction ジェネラル→狭める(specific)
1 領域重要性 (Known)
2 不明なこと  (Unknown)
3 研究目的
 
という3つで書きます。
さらにパラグラフの最初にトピックセンテンスを持ってくることでパラグラフの内容を過不足なく説明します。
つまり先に上記の3つを意識しながらトピックセンテンスを書くことが論文の構造を作る上では重要です。
また、トピックセンテンスは過不足なく情報が含まれる必要があります。
トピックセンテンスに続くセンテンスは、トピックセンテンスを補強する役割があります。
補強するセンテンスでトピックセンテンスに含まれていない重要なキーワードが出てきた場合は、トピックセンテンスを書き直す必要があります。
トピックセンテンスをまず書くことが重要ですが、論文を書きながらトピックセンテンスと補強するセンテンスを行ったり来たりして、メッセージを研ぎ澄ませることが重要です。
 
私の論文ではIntroductionの構造は以下のとおりです。
 
1 領域重要性 (Known)
第1パラグラフのトピックセンテンス
Clinical practice guidelines (CPG) have been considered to have a central role in improving the quality and efficiency of healthcare
→クリニカルガイドラインは臨床の質の改善において非常に重要
 
第2パラグラフのトピックセンテンス
Computerized clinical decision support systems (CDSSs) have been reported to provide evidence-based recommendations based on patient-specific information and enhance clinical performance for drug dosing and preventive care5
→臨床決断支援システム(CDSS)は患者情報にもとづいて適切な情報を提供し、臨床のパフォーマンスを上昇させる
 
第3パラグラフのトピックセンテンス
Glucocorticoids are widely used for a variety of diseases, but the prevention of glucocorticoid-induced osteoporosis has been challenging.
ステロイドは幅広い疾患で使用されているがステロイド骨粗鬆症の予防は未だにチャレンジングである。
 
 
2 不明なこと  (Unknown)
CDSSs have been widely utilized for the management of primary osteoporosis12, but not for the management of glucocorticoid-induced osteoporosis.
→CDSSのステロイド骨粗鬆症における有用性は検討されていない
 
 
3 研究目的
We thus hypothesized that CDSSs could improve adherence to the CPG for the prevention of glucocorticoid-induced osteoporosis, developed a CDSS for glucocorticoid-induced osteoporosis, and evaluated its effectiveness for improving management based on the rates of BP prescription and BMD testing in a prospective cohort study.
→なのでステロイド骨粗鬆症ガイドラインを実装したCDSSを開発し前向きコホートでビスホスホネート処方と骨密度検査の実施率が改善するかを検証する
 
 
トピックセンテンスを並べるだけでも意味が通じると思います。
さらにトピックセンテンスが論理的に矛盾なく、つながっているかをチェックすることが重要です。
ちなみに、先程のRAPにおけるPがKnownとUnknownに 、Rが研究目的に合致することは一目瞭然です。
 

P 臨床決断支援システムを用いることでガイドラインに基づいたプロセス指標が改善されることが知られているが、ステロイド骨粗鬆症診療のガイドラインに基づいたプロセス指標の改善につながるかは不明である。

 

R(PECOで記述)

Patient ステロイドを長期で内服しステロイド骨粗鬆症ガイドラインにおける予防投与のクライテリアを満たした外来患者

Exposure ステロイド骨粗鬆症ガイドラインに基づいた臨床決断支援システムを導入した1年間

Comparison ステロイド骨粗鬆症ガイドラインに基づいた臨床決断支援システムを導入しない1年間

Outcome ビスホスホネート処方率 骨密度検査実施率

 

このIntroductionで重要な点は以下の通りです。

 Positioning Statementが自然にResearch Question を引き出しているか?

さらにパラグラフは論理的につながっているか?

 

上記の論文では以下の流れです。

 Positioning Statement

①クリニカルガイドラインは臨床の質改善において中心的な役割

②臨床の質の改善においてCDSSの有用性が注目されている

ステロイド骨粗鬆症は非常に重要な疾患であるがその予防には課題が多い。

 

上記から自然に以下のResearch Questionが引き出されます。

①じゃあステロイド骨粗鬆症にCDSSが有用かも?

②実際にステロイド骨粗鬆症にCDSSが有用な研究は文献検索しても過去になさそう。

③なので、ステロイド骨粗鬆症にCDSSが有用かどうかをこの論文では検証する

 

きれいに論理が繋がります。

このように

 Positioning Statementが自然にResearch Question を引き出しているか?

さらにパラグラフは論理的につながっているか?

という2点がIntroductionでは重要になります。

 

 
なおDiscussionの構成はケースレポートの本では以下のように書かれています。
 
 
第1段落:今回の論文で2つわかったことを解説する(論文のサマリー)
第2段落:1つ目解説
第3段落:2つ目解説 
第4段落:一般化 
第5段落:限界(初回投稿時は3つまで)
第6段落:今回の研究のサマリー+将来の展望
 
Discussionでもまずはトピックセンテンスを書くことでパラグラフの内容を決定します。

 

Effectiveness of a computerized clinical decision support system for prevention of glucocorticoid-induced osteoporosis | Scientific Reports

上記の論文でもDiscussionの構造は以下のようになっています。

基本的にはトピックセンテンスがあり、続くセンテンスでトピックセンテンスを補強しています。

以下、Discussionのトピックセンテンスを抽出します。

 

 

第1パラグラフのトピックセンテンス

We demonstrated that the implementation of a CDSS significantly increased BMD testing in patients with a higher risk of glucocorticoid-induced osteoporosis based on a CPG, but did not increase BP prescriptions.

今回の研究で1つ目に分かったこと:CDSSはステロイド骨粗鬆症ガイドラインにおいてハイリスクとされる患者の骨密度実施率を改善させる

今回の研究で2つ目に分かったこと:CDSSはビスホスホネート処方率は改善しなかった。

 

第2パラグラフ:1つ目にわかったことの解説  

One previous study also showed that a CDSS significantly improved the order rates of BMD testing from 5.9% before to 9.8% after implementing a CDSS for women with primary osteoporosis who did not have baseline BMD testing

→今回の研究でCDSSが骨密度実施率を改善した

 

 

第3パラグラフ:2つ目に分かったことの解説

However, there was no significant improvement in the BP prescription rate.

→CDSSはビスホスホネート処方率は改善しなかった

 

第4パラグラフ:一般化

CDSSs have been reported to improve process measures such as BP prescription rates in primary osteoporosis21, but no studies have reported whether a CDSS improved patient outcomes such as fractures.

→CDSSは骨折のプロセス指標(検査実施率、処方率)は改善させるが、実際に骨折などのアウトカム指標を改善させるかはまだ不明な点が多い

 

第5パラグラフ:一般化:その2

Beyond glucocorticoid-induced osteoporosis, CDSSs have the potential to improve the application rate of CPGs

→CDSSは臨床ガイドラインの遵守率を改善するポテンシャルがあるかもしれない

 

第6パラグラフ;限界

This study had several limitations. →今回のlimitationについて記載

 

今回の論文では以下の最終パラグラフについてはConclusionとしてDiscussionの後ろに持ってきています。

最終パラグラフ:今回の研究のサマリー+将来の展望
 

Conclusion

A CDSS could improve glucocorticoid-induced osteoporosis practice based on the CPG. The performance rate of guided practice was still less than perfect; thus, further investigation should be conducted to improve the performance rate of guided practice, as well as the patients’ outcomes.

 

→CDSSはガイドラインに基づいたステロイド骨粗鬆症診療の質を改善させるかもしれない(今回のサマリー)

さらにCDSSの効果はまだパーフェクトではないこと、さらにアウトカム指標についてもCDSSで改善することにつなげることが重要(将来の展望)

 

 

という形で論文の構造が記載されています。

なお、論文を書く際はまずはTable とFigureから書くことが推奨されます。

論文を書く順番は

① Table Figure

② Result

③ Method

④Abstract

⑤Introduction

⑥Discussion

が目安とされています。

 

特にきれいなTableとFigureを書くことは論文において最も重要なことのひとつです。

これに関しては以下の本にまとまっています。

医学論文を書く方は以下の2冊は、必読です。