非専門医が行う肩関節脱臼の整復
肩関節脱臼の整復の整復について
◯注意点
まずは骨折と腋窩神経損傷がないかを整復前に確認します
腋窩神経麻痺(えきかしんけいまひ) - 古東整形外科・リウマチ科
こちらの領域の感覚低下がないかを確かめます。
さらに整復前にかならず、麻痺、脱力、骨折がないことをカルテに確認します。
また整復する際に
・腋窩神経麻痺が起こる可能性
・骨折する可能性
について患者さんに必ず説明します。
神経損傷や骨折のリスクがあっても、整復は基本的には必要です。
ただ、骨折や神経損傷を既に合併した肩関節脱臼に関しては、整形外科にコンサルトしたほうが無難かもしれません。
それでは、整復方法について。
個人的には、非専門医が行う肩関節脱臼の整復は、
二重牽引法
Stimsonの変法(Scapular manipulation)
のどちらか、やりやすいやり方が、よいかなとと思います。
個人的には、二重牽引法が好みです。
肩関節脱臼の整復方法はいろいろあります。以下に、まとまっています。
このEM Allianceで紹介されているreviewは非常にまとまっていて、お勧めです。
A systematic and technical guide on how to reduce a shoulder dislocation - ScienceDirect
上記のMilch法が有名ですね。
あとはゼロポジションが基本ですね。
ただ、非整形外科医にとっては結構難しい印象です。
この骨折ハンターでも肩関節脱臼の整復について詳細に記載されています。
Stimson法は重りで腕を下に引っ張る方法です。
このようにおもりを腕につけて、整復されるまで待ちます。
ただ、整復率も低めで10分から30分、重りをぶら下げたままになり、時間がかかるため患者さんの負担になります。
そこで推奨されているのが以下のStimsonの変法(Scapular manipulation)
Stimsonに肩甲骨の回旋を加える方法。
https://www.emnote.org/emnotes/scapular-manipulation-technique
http://www.emdocs.net/em3am-anterior-shoulder-dislocation/
肩甲骨を上に持ち上げるように回旋することがポイントです。
2人法で、ひとりがゆっくりと下に腕を引っ張り、ひとりが肩甲骨を回旋する方法が確実で、骨折ハンターでも推奨されています。
ただ、さらによさげな方法が以下の救急整形外傷レジデントマニュアルに記載されていて、よかったので紹介します。
実際に、自分でやってみても非常に鮮やかに整復されました。
この本を書いた田島先生の方法です。
以下こちらの田島先生の論文から引用しています。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/ams2.179#support-information-section
https://t.co/V7vaml72w3
— 森川 暢 /Toru Morikawa コミュニティホスピタリスト@奈良 (@aquariusmed) September 28, 2022
肩関節脱臼整復の二重牽引法の動画と論文。鮮やか pic.twitter.com/rIWKP4bBLd
二重牽引法
牽引は2人の術者によって行われる(可能なら3人目が体幹部にタオルをかけて、反対方向に牽引する。)
① 前下方へゆっくりと患者の力が抜けるまで牽引(屈曲30度、外転30度)
② 細長いタオルで上腕に対して90度の方向に瞬間的に牽引
タオルで引っ張るときに過度な力は不要で、動画を見てもらうとわかるように、瞬間的にすっと牽引します。
この方法は非常に簡単で、合併症も少ない印象です。
まとめると、非専門医が行う肩関節脱臼の整復は、
二重牽引法
Stimsonの変法(Scapular manipulation)
のどちらか、やりやすいやり方が、よいかなと。
個人的には、二重牽引法が好みです。
これでも難しければ、鎮静での整復になりますが、その場合は整形外科にコンサルトするほうが非専門医にとっては、無難かもしれません。
また非専門医が整復をどこまでやってよいかは、各自の施設で整形外科医と相談することが必要ですね。
*追記
FARESもよいということを教えていただきました。
下記のブログにまとまっていますね。
FARES!それは医療者にとって容易く患者にもやさしい新しい肩脱臼整復法! | @ER×ICU 〜救急医の日常〜
動画は以下
ゼロポジションの応用ですが、
①患者の患側の手を握り
②上下にゆらゆら揺らしながら、肩関節を外転
③90度を超えたあたりで整復
https://europepmc.org/article/med/30159802
28人の患者に試したところ、、21名の患者(75%)が1回の試行で
3名の患者(合計85.7%)が2回の試行で整復を達成した。
整復に要した時間は平均62.66秒
疼痛評価のためのVisual Analog Scaleの平均値は5.29
と早く痛みも少なく整復できそうです。
非常に簡単で、一人でもできるのがよいですね。
1⃣ FARESを試す
2⃣ 二重牽引法 or Stimsonの変法を試す
という流れでも良いかも知れませんね。
以下の2冊は整形救急のお供として個人的に好きで、よく使っています。