コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

減薬における医師患者の認識差

ご提示いただいた論文は、**「Deprescribing Decisions in Swiss Primary Care: Low Concordance Between General Practitioners and Older Adults(スイスのプライマリ・ケアにおける減薬の意思決定:一般開業医と高齢者間の一致率の低さ)」**というタイトルで、Journal of General Internal Medicine (2026年1月オンライン公開) に掲載されたものです。

Deprescribing Decisions in Swiss Primary Care: Low Concordance Between General Practitioners and Older Adults | Journal of General Internal Medicine | Springer Nature Link

 

本記事はGemini 3.0を用いて作成しているので内容の正確性はご自身で確認ください

 

論文基本情報

項目

内容

タイトル

Deprescribing Decisions in Swiss Primary Care: Low Concordance Between General Practitioners and Older Adults


(スイスのプライマリ・ケアにおける減薬の意思決定:一般開業医と高齢者間の一致率の低さ)

著者

Kristie Rebecca Weir, PhD 他

掲載誌

Journal of General Internal Medicine (JGIM), Published online: 14 January 2026

DOI

10.1007/s11606-025-10081-z

研究デザイン

横断的調査研究(Cross-sectional survey study)

対象

スイス(ドイツ語圏)のプライマリ・ケアにおける、65歳以上で5剤以上内服中の患者とその担当GP(一般開業医)

1. 要約 (Abstract)

項目

詳細

背景

減薬(Deprescribing)は、高齢者における潜在的に有害または不要な薬剤を減らす取り組みである 1。成功には患者と提供者の双方の視点が必要だが、両者の選好(preferences)を比較した研究は少ない 2

目的

GPと患者の減薬および薬剤に関する意思決定の選好を調査し、選好の一致に関連する要因や、患者-提供者間の信頼関係との関連を検討すること 3

方法

65歳以上で5剤以上服用している患者65名と、その担当GP10名が質問票に回答した 4



患者には「現在の薬の中でやめたい、または減量したい薬はあるか?」、GPには「現在患者が服用している薬の中で、やめるまたは減量する薬はあるか?」と質問した 5。GPと患者の意向の一致(Concordance)を評価し、信頼関係との関連を一般化推定方程式(GEE)で分析した 6

結果

患者の38%、GPの35%が少なくとも1剤の減薬を希望するという同様の割合を示したが、65組のGP-患者ペア(Dyad)のうち、双方が減薬を希望したのは8組のみであった 7



さらに、同じ薬剤を選択して双方が合意したのはわずか1組であった 8



減薬対象として挙げられた薬剤は、サプリメント(GP 26% vs 患者 11%)、循環器系薬剤(GP 21% vs 患者 43%)、神経系薬剤(GP 19% vs 患者 26%)であった 9999



GPが減薬しない主な理由は「患者が継続を望んでいると思ったから(83%)」であり、患者は「医師が必要な薬しか処方しないと信じているから(38%)」であった 10

結論

減薬への関心は同程度であるにもかかわらず、GPと患者が減薬対象として選ぶ薬剤が一致することは稀であった 11。薬剤の必要性と選好に関する明確な話し合いが、減薬の意思決定を改善する可能性がある 12

2. イントロダクション (Introduction)

項目

詳細

ポリファーマシーの課題

世界的な健康問題であり、個人の健康状態や目標によっては、薬の害が利益を上回る場合があり、減薬が適切な選択肢となる 13

相互の影響

GPと高齢者は互いに影響し合う。GPも患者も、長期服用の薬を中止することに懸念を持つ 14。オーストラリアの研究では、GPが「患者が処方を期待している」と認識した場合、処方される確率は10倍になった 15。逆に、GPが直接減薬を推奨すると、患者の減薬意欲は大幅に高まる 16

信頼 (Trust) の役割

患者からGPへの信頼は重要だが、減薬における具体的な影響は完全には理解されていない 17

研究のギャップ

既存研究の限界として、(1) 具体的に服用中のどの薬を減らしたいかではなく、薬全般に対する態度を調査している点、(2) 医療者か患者の片方の視点しか見ていない点がある 18。本研究は、介入設定外(通常の診療文脈)で両者の視点を比較することで、このギャップを埋める 19

3. 方法 (Method)

3.1 研究デザインとサンプル

項目

内容

実施期間・場所

2022年5月~2023年12月。スイスのドイツ語圏 20

募集方法

募集に難渋したため、参加者へのインセンティブ(抽選で100CHF)やGPへの紹介料(200CHF)を導入したが、参加率は改善しなかった 21212121

適格基準


患者: 65歳以上、定期的に5剤以上を服用 22インフォームドコンセントが可能であること。



GP: 該当患者を連続的にリクルートするよう依頼 23

データ収集

REDCap(オンライン)または紙媒体でのアンケート調査 24

3.2 アウトカム指標と変数

指標・変数

定義・詳細

主要アウトカム:減薬への関心


患者への質問: 「現在の薬リストを見て、やめたい・減らしたい薬はありますか?」(Yes/No)。Yesの場合、最大4剤まで記述 25



GPへの質問: 「患者が服用中の薬で、やめる・減量する薬はありますか?」(Yes/No)。Yesの場合、リストから選択 26

一致 (Concordance)

各薬剤について以下のように分類 27



1. 一致 (Concordant): GPと患者の両方がその薬を「減らしたい」とした。


2. 不一致 (Discordant): 片方のみが「減らしたい」とした。

信頼尺度 (Trust)


患者: Abbreviated Wake Forest Trust Scale(5-25点)。中央値で高信頼群/低信頼群に二分 28



GP: 患者からの信頼やエンゲージメントに関する4項目(例:「この患者は私に全てを話してくれる」) 29

その他の変数

患者の薬に対する態度、満足度、健康リテラシー、属性など 30

3.3 統計解析

手法

詳細

解析モデル

GPレベルでのクラスタリングを考慮し、ポアソン分布を用いた単変量一般化推定方程式(GEE)を使用 31

補正

クラスタ数(GP数=10)が少ないため、Kauermann-Carrollの有限標本補正(finite-sample correction)を適用し、第一種の過誤(Type I error)のリスクを低減した 32

4. 結果 (Results)

4.1 参加者の特性 (Table 2)

特性

患者 (n=65)

GP (n=10)

基本属性

女性45%、平均年齢データ欠損(記述ミスにより65歳以上確認のみ 33)。

女性40%、経験年数中央値15年。全員が「減薬」の概念を知っていた 34

薬剤数

定期内服薬の中央値 6剤 (IQR 3) 35

GPは自分の患者の35%がポリファーマシーであると推定 36

健康状態・関係性

87%が健康状態を「普通/良い」と回答。51%が現在のGPに10年以上通院 37

80%がグループ診療所に勤務 38

4.2 減薬に関する選好と一致率 (Table 3, Supp Table 1)

項目

結果

減薬希望の割合

患者の 38% (25/65) と GPの 35% (23/65) が、少なくとも1剤の減薬を希望した 39

ペアでの一致

65組のペア(Dyad)のうち:


- 双方が「減薬したい」: 8組のみ。


- 双方が「減薬したくない」: 24組。


- 片方のみ希望: 残りの不一致。


さらに、「具体的にどの薬か」まで一致したのは、わずか1組(タペンタドール:オピオイド鎮痛薬)のみであった 40

4.3 減薬対象となる薬剤の種類の不一致 (Fig 1, Supp Fig 1)

薬剤カテゴリ

GPの希望 (n=42剤中)

患者の希望 (n=35剤中)

傾向の差

サプリメント

26% (11/42)

11% (4/35)

GPはサプリメントを減らしたがるが、患者はそうでもない。

循環器系薬剤

21% (9/42)

43% (15/35)


患者の方が心血管系の薬を減らしたがっている(スタチン等)。GPは重要視している 41

神経系薬剤

19% (8/42)

26% (9/35)

両者とも比較的高頻度に選択。

血栓

0%

1名のみ

51名が服用していたが、ほぼ減薬対象に挙がらなかった 42

4.4 減薬を「希望しない」理由 (Fig 2)

この結果は「相互の思い込み」を如実に表しています。

立場

減薬しない主な理由(複数回答)

GP

1. 「患者が薬の継続を望んでいるから」 (83%) 43



2. 薬が問題を起こしていない (57%)


3. 時間がない (37%)

患者

1. 「医師が必要な薬しか処方しない(はずだ)から」 (38%) 44



2. 薬が有益だから (35%)


3. 管理できているから (28%)

4.5 信頼関係と減薬意向の関連 (Table 4)

変数

関連性 (Relative Risk)

解釈

患者のGPへの信頼

有意差なし (RR 0.93)

患者の信頼度は一様に高く(中央値23/25点)、減薬希望の有無と統計的な関連は見られなかった 45

GPの認識:「この患者は私に全てを話してくれる」

RR 0.63 (95% CI 0.46-0.90)


GPが「患者は包み隠さず話してくれる」と強く感じている場合、GPが減薬を提案する可能性は低くなった 46

5. 考察 (Discussion)

項目

詳細

知見の統合

GPと患者の減薬希望の薬剤が一致することは稀であった。これは、既存の試験で高齢者の75%が減薬試験への参加を拒否することや、推奨の受け入れ率にばらつきがあることと整合する 47

薬剤カテゴリの相違

オランダの先行研究と同様、循環器系薬剤は減薬対象の上位であったが、患者(43%)の方がGP(21%)よりも減らしたがっていた 48。一方で、抗血栓薬については、GPも患者も中止を希望しなかった 49

「思い込み」の壁

患者は医師の専門性に依存し「必要な薬しか出されていない」と信じ、GPは「患者が薬を欲しがっている」と信じている。この「相互の思い込み」が減薬を阻害している 50505050

信頼のパラドックス

一般的に信頼は重要だが、減薬においては複雑に作用する。信頼は「医師の推奨に従う(減薬する)」ことにも、「医師が処方した現状を維持する」ことにもつながりうる 51515151。本研究では、GPが「患者との対話が良好」と感じている場合、現状維持バイアスが働く可能性が示唆された。

強みと限界


強み: 介入研究ではなく通常の診療環境での選好を調査し、具体的な薬剤名を特定した点 52



限界: 実際の行動ではなく質問票上の「仮想的な」回答である点 53。診断情報がないため、減薬の医学的妥当性は評価できない 54。GPのリクルート数が少なく(10名)、一般化可能性に限界がある 55

6. 結論 (Conclusion)

項目

内容

結論

GPと患者が減薬したいと考える薬剤が一致することはほとんどない 56

提言

減薬を成功させるには、単にリストを見直すだけでなく、薬剤の必要性や患者の意向について「明確な話し合い(Explicit discussions)」が必要である 57。時間的制約や思い込み(Assumptions)が会話を妨げている可能性があり、ここに対処する介入が求められる 58