コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

高TG血症による急性膵炎

高TG血症による急性膵炎について勉強しました。

医学書院の内科診断リファレンスによるとTG≧1000が、高TG血症による急性膵炎を疑う目安と記載されており、下記のレビューでもそのように記載されています。

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

 

 

ただし、臨床的な実感では高TGが明らかに原因だという場合は1000前後ではなく、さらに高値になることが多いようです。

急性膵炎やアルコール多飲自体が高TG血症を起こすこともあるため、TGを急性膵炎では測定することは重要ですが安易に飛びつかないことも重要でしょう。

著明な高TG血症でなければ、アルコール、胆石、薬剤など一般的な原因をまずは考えるべきでしょう。

真の高TG血症による急性膵炎では、家族性の高TG血症が背景にあることが多いようであり、その検索や治療も必要になります。

下記のコホートによると、肥満、アルコール多飲、糖尿病の組み合わせは著明なTG血症の原因となるようです。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 

 

下記の急性膵炎のデータベースを用いた後ろ向きコホート研究によると高TG血症を伴う急性膵炎は予後が悪いようです。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

なおこのコホートでは高TG血症を伴う急性膵炎の割合は17.5%としていますが、真の高TG血症による急性膵炎の割合はもっと少ないと思われます(アルコール性急性膵炎自体で高TG血症となることが考えられるため)

ただし、高TG血症自体が急性膵炎の予後不良因子とは言えるかもしれません。もちろん、高TG血症が交絡因子となっている可能性はありますが。。

このコホート研究によると高TG血症の急性膵炎のほうが、膵壊死(28.3%対18.1%)、感染性膵壊死(6.1%対3.7%)、臓器不全(35.8%対29.1%)、持続性臓器不全(24.4%対16.5%)の発生率が高く、いずれも統計的に有意な差がありました

死亡率と集中治療室での平均滞在日数も、高TG血症を伴う急性膵炎のほうが長い傾向があり、相関分析では、発症後24時間未満の血中TG値と急性膵炎の重症度に正の相関が認められたようです。

 

 

治療についてはレビューに戻ります。

www.ncbi.nlm.nih.gov

高TG血症による急性膵炎の治療としてはインスリンが注目されています。インスリン自体がTGを下げる効果があり、膵保護効果も期待できるからです。

少なくとも血糖が正常であってもインスリンを使用して高TG血症を伴う急性膵炎を治療したケースもあるようです。

さらにヘパリンも同様にインスリンを低下させる効果があり、インスリンと併用して使用されるようです。

実際はICUセッティングになるでしょうし、インスリン持続静注を使用しながら、ヘパリンCaでDVT予防も兼ねるという使い方になると思われます。

インスリン使用時には低血糖にならないように血糖のモニタリングもすべきですし、TGが1000を下回れば糖尿病治療目的ではないインスリン投与は中止すべきとレビューにも記載があります。

 

なお急性膵炎、DKA、高TG血症が3徴として揃うこともあり、特徴的な3徴として記憶すべきです。当然、インスリン持続注射とヘパリンCaによる治療が重要になります。

3徴が揃うと急性膵炎 のみの患者と比較すると、入院死亡率(OR 2.8、P < 0.001)、急性腎障害(AKI)(OR 4.1、P < 0.001)、全身性炎症反応症候群(SIRS)(OR 4.9、P < 0.001)、ショック(OR 4.3、P < 0.001)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)(OR 3.0、P < .001)、敗血症(OR 2.6、P < .001)、イレウスaOR 2.1、P < .001)、入院期間の延長(OR 2.0、P < 0.001)を認め、より重症であると考えられます。

 

下記の文献より

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 

最重症例の高TG血症を伴う急性膵炎では血漿交換を考慮すべきとのことですがエビデンスは不足しています。

ただし、本当の最重症例では施行せざるおえないと思われます。

 

なお、再発予防においても高TG血症を伴う膵炎では高TG血症の治療が必要になります。

ただし、高TG血症はアルコール多飲によっても起こるため、現実的には著明な高TG血症を伴う場合に適応になると思われます。

治療薬はフィブラートがTGの降下作用が最も強いため第1選択となります。

スタチンとフィブラートの併用は横紋筋融解症のリスクですが、頻度はまれで特定の患者においては使用を検討してもよいかもしれません。

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

フィブラートを使用してもLDLが低下しないケースで心血管リスクが高い場合はスタチンの併用も慎重に行ってもよいかもしれません。

イコサペント酸エチルなどのオメガ3脂肪酸製剤も選択肢になります。