特発性正常圧水頭症(NPH)のレビュー
Idiopathic Normal Pressure Hydrocephalus
特発性正常圧水頭症(iNPH)は、潜在的に可逆的な神経変性疾患である。
認知症、、歩行、および尿失禁の3徴を特徴とする。
診断と治療の進歩によって、患者の症状を適切に特定し改善されるようになった。
しかし、大部分のiNPH患者が未診断か誤診断されているままである。
PubMed検索エンジンを使用して、「正常圧水頭症」、「診断」、「シャント治療」、「バイオマーカー」、「歩行障害」、「認知機能」、「神経心理学」、「画像」および「病院」というキーワードで検索した。
このレビュー記事の目的は、iNPHの病因、診断および治療に関する最新の知見について、プライマリケア医の理解を助けることである。
〇導入
水頭症は過剰な脳脊髄液の貯留と定義される
水頭症の原因として、閉塞と交通性が挙げられる。
正常圧水頭症は、外傷、髄膜炎、SAHによる二次性とは区別される。
水頭症は、たいがい特発性である。
NPHは、かつて報告されていたより多い
〇病態生理
特発性NPHの病態生理は議論の余地があるが、よく解明されていない。
CSFの動態と抵抗性、脳実質の変化、および血管異常などが考えられている。
複数の研究により、iNPHにおける脳脊髄液の灌流の関連が示唆されている。
特定の研究によると前頭葉、視床、および基底核などの、脳白質における血流の減少が示唆される。
これらの研究の中で、臨床的改善に伴う脳血流量(CBF)増加が示唆された。
最近の研究ではタップテストによる歩行の改善は、脳血流増加によることも示唆されている。
さらに静脈洞における静脈のコンプライアンスも低下している。
〇診断
臨床症状のみで他の神経変性疾患と鑑別することは困難である。
臨床、神経所見、画像から総合的に診断する必要がある。
・臨床徴候
歩行障害、認知機能障害、失禁の3徴が際立っている。
それらは徐々に進行するが、最初は歩行障害で発症することが多い。
Wide baseで歩幅が小さく、歩行の最初が難しい。
歩行の指標は、オランダの水頭症の試験で使用したスケールが知られている。
他には、Berg Balance Scale, Functional Reach Test, Timed Up and Go Testが知られている。
パーキンソン病との区別が難しい。
NPHはBroad basedでMagneticの歩行だが、PDは小刻み歩行。
Arm swingはIPHでは保たれるが、PDでは低下する
どちらもターンが難しいが、PDではbloc turnを伴う
NPHでは足も外側に開くが、PDではそのようなことはない。
パーキンソン病の歩行
NPHの歩行
排尿筋の過活動が尿の障害をきたす
尿切迫、頻尿、夜間尿を先に認める
3徴が現れるのは60%のみで、他に不安やアパシー、異常な運動の亢進なども認められる。
〇認知機能
神経心理学的な検査は、他の認知症とNPHを区別するのに有用である
NPHではアルツハイマーに比べ前頭葉障害や不注意が記憶障害よりも前面に来る
集中力低下や、反応性がゆっくりになることが多い。
しかし、最も大切な認知機能検査の役割はシャントによる前後の改善を測定することである。
MMSEは有用だが、実行機能の評価には不適である。
Montreal Cognitive Assessment (MoCA) やAddenbrooke’s cognitive examination が挙げられる。
The Executive Interview(EXIT 25) は 25のアイテムを使った試験であり、NPHに有用である。
*個人的な意見
NPHにおいて前頭葉機能評価するならFABが使いやすいのでは。
実際、下記の論文ではFABはNPHにおいてタップテストで改善するかの指標として、有用とされている。
Eur Neurol. 2017;77(5-6):327-332. doi: 10.1159/000472712. Epub 2017 May 5.
〇画像
A、Bは正常
C、DはNPHを示唆。 脳の萎縮でも脳室は拡大するが、Dの写真ではBと同様に脳溝の萎縮は認められない
脳脊髄液の閉塞を疑う所見がないにも関わらず、脳室が拡大していることが特徴的。
正常圧水頭症ではEvans indexが大切。
Evans index(両側側脳室前角間最大幅/その部位における頭蓋内腔幅)は0.3を超えるとNPHを示唆される
Normal pressure hydrocephalus より引用
しかしEvans indexは、あくまで脳室が拡大しているという所見に過ぎないので、NPHの診断において過信しすぎない
アンバランスなクモ膜下腔 disproportionate enlargement of the subarachnoid space (DESH) ≒ 左右の拡大がある割に上の脳溝が詰まっている
冠状断でCallosal angle>40もNPHを示唆
Callosal angle | Radiology Reference Article | Radiopaedia.org
〇治療
脳室腹腔内シャントがメインの治療法
カテーテルにも種類がある。
70歳未満であればシャントの効果が期待できる
併存疾患、心血管疾患、長期間の罹患などがあると治療効果は乏しいかもしれない。
正常なシルビウス裂、脳室周囲の高信号を伴わない、小さなcallosal angles、DESH、広いtemporal horns などがあるとシャントが効果的である可能性が高い。
他には、stroke volumeの上昇はシャントが効果的であることと関連してる
MRI所見がiNPHを示唆するときに、タップ試験はシャントの効果の予測に使用できる。 30~60mlの髄液除去後に臨床的に改善する場合は、シャントが効果的であると予測できる。
しかしながら、タップ試験で改善しなくても、シャントで効かないとは言えない。
72時間の間ドレナージし続けることは、治療のより良い予測因子である。