コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

アルコール依存症の認知機能低下で考えるべきこと。

アルコール依存症の急激な認知機能低下で考えることは?

アルコール依存症による認知症と考えがちだが、特にTreatableな要素はないかと考えることが重要。

まずは、髄膜炎脳炎を疑う所見がないか?

その意味では髄液検査は最も重要な検査のひとつ。

細菌性髄膜炎結核髄膜炎ヘルペス脳炎などのスクリーニングに有用。

これらが否定できるまでは、少なくとも細菌性髄膜炎としてセフトリアキソン+バンコマイシン+ビクシリンを、ヘルペス脳炎としてアシクロビルのエンピリック治療は妥当と思われる。

脳症としてはNMDA脳炎や橋本脳症なども鑑別に挙がるので、NMDA抗体、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体、抗サイログロブリン抗体を提出を考慮(甲状腺機能は正常でも問題なし。)

抗核抗体、SSA抗体などの、自己抗体が陽性ならば神経ループスのような自己免疫疾患も鑑別に。

ただ、アルコール依存症という背景がある場合にまずは、考えたいのが、ウェルニッケ脳症。

www.ncbi.nlm.nih.gov

結構、高頻度にみかけるけど、見逃されやすい印象。

ポイントは、低栄養(吸収不良も含む)、アルコール多飲

3徴候は精神状態の変化、運動失調、眼筋麻痺だが、必須ではない。

よって、リスクがある患者の意識変容では常に鑑別に挙げる。

ビタミンB1は特殊スピッツなので、ビタミン投与前に採血をしておくことがポイント。

原因不明の意識障害低血糖ならルーチンでビタミンB1測定してよい。

ウェルニッケ脳症の鑑別疾患は、肝性脳症、脳卒中、アルコール離脱症、せん妄、慢性低酸素症、正常圧水頭症などとされているが、意識障害をきたす先の脳炎髄膜炎、脳症も重要な鑑別。

なお、Refeeding症候群でも充分なチアミン補充が重要。

低栄養、アルコール依存はまず、チアミンと覚える。

 

 

High-dose Parenteral Thiamine in Treatment of Wernicke’s Encephalopathy: Case Series and Review of the Literature - PMC

ウェルニッケ脳症の治療量

500 mg のチアミンの静脈内投与を1 日 3 回 2 ~ 3 日間

⇒ 250 mg のチアミンの静脈内投与を次の 2 ~ 3 日間

⇒その後、経口投与に切り替え

 

ビタミンB12やビタミンB6なども適宜補充

 

 

・ただし、もしシーパラがあるならビタメジンの代わりに使用するほうが望ましい。

シーパラ10mlにアリナミン50mg、ニコチン酸100mgが含有されている。

このニコチン酸がミソ。

 

 

◯3日目まで

アリナミン400mg+ビタメジン1A(チアミンとして100mg)を点滴内に混合(を1日3回 8時間ごとに投与

シーパラがあるならビタメジン1Aの代わりにシーパラ10mlを使用

*メイン500mlのうち200ml-300mlを捨てて混合するとちょうどよい

 

4日~7日まで

アリナミン150mg+ビタメジン1A(チアミンとして100mg)を点滴内に混合を1日3回 8時間ごとに投与

シーパラがあるならビタメジン1Aの代わりにシーパラ10mlを使用

 

8日目以降

アリナミン3T分3+ビタメジン内服3T分3

ニコチン酸の低下があれば、ニコチン酸の内服も追加

 

 

なぜ、ニコチン酸か?

 

ウェエルニッケを考える状況では、同時にペラグラを考えるべしというのが鉄則。

他には葉酸欠乏、ビタミンB12欠乏も同時に合併する

その意味では、ウェルニッケを考えるならビタミンB1ビタミンB12葉酸ニコチン酸も測定する。

そして、結果が出るまでは、アリナミンシーパラ、必要に応じて葉酸を併用するというのがおそらくは望ましい。

 

ペラグラのレビュー

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/phpp.12659

 

原因は以下の通り

ナイアシンの摂取不足による一次的なもの
低栄養
炎症性腸疾患-クローン病
外科手術後
十二指腸炎
胃粘膜によるトリプトファンおよびナイアシンの吸収障害
慢性アルコール中毒
原発性シェーグレン症候群
感染症
HIV
薬物性(イソニアジド、エチオナミド、6-メルカプトプリン、5-フルオロウラシル、ピラジナミド、フェニトイン、アザチオプリン)

イソニアジドは、ビタミンB6欠乏が有名だが、ペラグラも同時に起こりうる。

⇒ただ、薬剤性を除けば、ペラグラのリスクと、ウェルニッケ脳症のリスクは被っている。

低栄養、アルコールでは、ペラグラも考える。

 

もともと、トウモコロシを主食にする国で多発。

有名なのは以下のような皮疹

 

Details are in the caption following the image

◯症状は3徴候

・皮疹

・消化器症状(下痢、悪心)

神経症状(認知機能低下、末梢神経炎, 歩行失調, ミオクローヌス)

⇒ウェルニッケと同様に失調、認知機能低下を認める。ただミオクローヌスは特徴的

また、下痢が目立つ。

口内炎が目立つのもペラグラらしい。

 

最も重要な問題は、ペラグラは発展途上国の皮疹のイメージが強いが、そもそも皮疹は日光に暴露することで起こる

⇒日光に暴露しない高齢者では皮疹を認めないというのが最大のピットフォール。

つまり、ウェルニッケとの鑑別はほぼ、困難。

 

 

ニコチン酸血中濃度測定が簡便で有用。

ただし、ニコチン酸血中濃度は正常でも完全に否定はできず、治療的診断にならざるおえない側面も。

 

治療はナイアシン300mg/日⇒100mg 1日3回

点滴ならシーパラ30ml/日 10mlを1日3回投与 

また中心静脈用ビタミンだがビタジェクト1Aにも40mgのニコチン酸が含有されている

 

ビタジェクト1A 1日3回投与(120mg/日)+内服のニコチン酸150mg/日でも代用かのうかもしれない。

シーパラを取り寄せるまでは、そのようなやり方もありかもしれない。

 

治療期間は1ヶ月を推奨とのこと。

神経症状は1週間で改善。

 

*少なくともウェルニッケとして治療しても改善が乏しい場合は、積極的にペラグラを考える必要あり。