コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

高齢者における食欲低下が、市中肺炎の診断を予測するか 前向き観察研究

Diagnostic utility of appetite loss in addition to existing prediction models for community-acquired pneumonia in the elderly: a prospective diagnostic study in acute care hospitals in Japan | BMJ Open

 

○タイトル

Diagnostic utility of appetite loss in addition to existing prediction models for community-acquired pneumonia in the elderly: a prospective diagnostic study in acute care hospitals in Japan

 

○ジャーナル

BMJ Open

 

○PECO

P 咳や痰を主訴に急性期病院外来を受診した65歳以上の外来患者

除外基準

(1)咳または痰が1ヵ月以上続いている

(2)現在抗生物質を服用している

(3)市中肺炎ではない(CAP,医療関連肺炎,院内肺炎では疫学が異なることが報告されているので,介護施設居住者や他院からの転院は除外)

 

E  非特異的症状(食欲不振、転倒、意識障害

C  なし

O  肺炎(胸部XPにて独立した2人の放射線科医が読影

 

○目的

肺炎の診断テストは高齢者でよくある非特異的症状(食欲低下)を反映していない。よって、非特異的症状が高齢者の肺炎を予測するかを調べる

 

 

○研究デザイン

多施設(3つの教育病院)前向き観察研究 

prediction model studiesであり、RIPOD (Transparent Reporting of a Multivariable Prediction Model for Individual Prognosis or Diagnosis) statementに従って行った

2年間行われた

 

○主要な統計解析

 

非特異的症状(食欲不振、転倒、意識障害)の識別能は、感度、特異度、正尤度比(LR+)、負尤度比(LR-)、診断オッズ比(DOR)で評価

95%信頼区間で報告

連続変数のカットオフ点は、既存の予測モデル または(ROC)曲線で最も感度と特異度が高い値に従って決定された。

 

非特異的症状の既存の予測モデルへの付加価値を評価するために、既存のモデルの係数を変更せずに拡張ロジスティック回帰モデルを開発

拡張モデルには、キャリブレーションNRI、DCAを使用

 

2人の放射線科医の胸部XP解釈の一致を評価するために、Cohenのカッパ係数(κ)を算出した

欠損値に対するImputation methodは欠損値はカテゴリカル・データで臨床的に予測可能であり、使用しなかった

 

○主要な結果

非特異的症状のうち、食欲不振は、陽性尤度比3.2(2.0-5.3)、陰性尤度比0.4(0.2-0.7)、 OR 7.7(3.0-19.7) であった。

転倒    陽性尤度比9,1     陰性尤度比0.9

意識障害  陽性尤度比2.5          陰性尤度比0.9

 

既存モデルのキャリブレーションプロット。x軸は予測された割合、y軸は観測された割合を表し、完全なキャリブレーションの基準(赤線)が示されている。円の大きさは患者数を表す。van Vugtによるモデルは、他のモデルよりも適合度が高いことが視覚的に示されている。

 

van Vugtのモデルに食欲不振を追加した拡張モデルで診断精度が向上

 

Decision curve for the model →食欲不振を加えたモデルのほうが10-30%ほどnet benefitが高い

 

 

○結論

食欲不振に関する情報は、高齢者の市中肺炎診断のための既存のモデルのパフォーマンスを改善した。

 

○感想

実例から学ぶ!臨床研究は「できない」が「できる!」に変わる本 - 羊土社

上記の本に、診断性能の項目で紹介されていた論文です。

正直、診断性の統計解析のお作法が難しく理解はできていないのですが、勉強になりました。

食欲不振がなければ肺炎の可能性は高齢者だと減るよなという臨床的実感ともあっていますし、さらに既存の肺炎予測モデルに食欲不振の加えて、診断能が改善するかも検討している点が素晴らしい論文だと思います。

診断性能の評価研究としてはお手本のような研究であり、診断研究をしたい先生には必読ですね。

 

 

実例から学ぶ! 臨床研究は「できない」が「できる! 」に変わる本

クリニカルイメージの書き方 陶山先生

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本日は、陶山恭博先生(JR東京総合病院リウマチ膠原病科)をお迎えして、クリニカルイメージのZoomレクチャーをしていただきました。

クリニカルイメージは夢があるという陶山先生のお言葉は印象的でした。

まずはinterestingかどうか。

具体的には臨床を10年以上やっている医師が、興味深いと思うような症例や、興味深い経過を選ぶと良いとのことでした。

また、イメージでは最もinterestingなところを強調しつつ、雑誌や読み手を想定して、微調整するという話も印象的でした。

陶山先生がご紹介されていた宮上先生のエピソードも面白かったです。

宮上先生はいまや東京GIMの代表になっていますが、若手の先生は是非、宮上先生を見習ってクリニカルイメージを執筆したり、愛されメンティになって頂きたいものです。

というか、私自身まだメンティなので、もっと頑張ろうと心を新たにしました。

medical.nikkeibp.co.jp

 

陶山先生、本当にありがとうございました!

 

以下、陶山先生がご紹介されていた書籍です。

膠原病に見えて、膠原病ではないという症例はGIMにとって最も実力を試される状況かと思います。

クリニカルイメージの執筆にも役立ちそうですね!

日本における誤嚥性肺炎の特徴 多施設研究 後ろ向き観察研究

○タイトル

Characteristics of aspiration pneumonia patients in acute care hospitals: A multicenter, retrospective survey in Northern Japan

 

○ジャーナル

PLOS ONE

 

○PECO

P 宮城県の急性期中核病院に2019年の1年間に肺炎で入院した患者

E 誤嚥性肺炎群

C 非誤嚥性肺炎群

O 臨床転帰(院内死亡率 入院期間)

年齢,性別,栄養状態(BMI,入院前の食事),重症度(CRP,SpO2),既往歴(脳血管障害,認知症,神経筋疾患),居住状況,評価と治療(絶食,嚥下介入),転帰(入院期間,死亡率) 

 

○目的

(1)年齢別入院肺炎発生率

(2)入院した肺炎患者における誤嚥性肺炎の割合

(3)嚥下介入を受けた肺炎患者の割合と特徴

 (4) 嚥下機能評価および方法

 (5) 嚥下介入による院内死亡率への影響

(6)誤嚥性肺炎における原因微生物

(7) 抗生物質の使用状況について

 

○肺炎の定義

肺炎は、胸部レントゲン写真および/またはコンピューター断層撮影(CT)での新規浸潤影を伴う急性疾患として定義され、少なくとも2つまたは3つの呼吸器症状(咳、喀痰産生、喘息、発熱、および呼吸困難)があり、白血球(WBC)数とCRPで決定された炎症を伴う。

肺炎の診断基準は、日本呼吸器学会のガイドラインにより決定。

 

誤嚥性肺炎の定義

誤嚥肺疾患に関する日本の研究会の定義に基づいた

(1) 周囲の人が目撃した明らかな誤嚥を伴う肺炎

(2) 誤嚥が強く疑われる肺炎

(3) 嚥下機能異常や嚥下障害により誤嚥のリスクが高い肺炎

(4) 放射線学的所見で誤嚥性肺炎に適合するもの

 

 

○研究デザイン

多施設後ろ向き観察研究(探索的研究)

 

○主要な統計解析

単変量解析はStudentのt検定、Wilcoxon-Mann-Whitney検定またはFisherの正確検定

誤嚥性肺炎群と嚥下介入群を特徴づける因子は、ロジスティック回帰分析を用いて決定した。

探索的に誤嚥性肺炎群と嚥下介入群でそれぞれ、以下の要因を共変量として解析

データは平均値±標準偏差で記述した

 

誤嚥性肺炎

年齢,性別,栄養状態(BMI,入院前の食事),重症度(CRP,SpO2),既往歴(脳血管障害,認知症,神経筋疾患),居住状況,評価と治療(絶食,嚥下介入),転帰(入院期間,死亡率)

 

○嚥下介入

一年齢、性別、栄養状態(BMI)、重症度(CRP、SpO2)、過去の病歴(脳血管障害、認知症、神経筋疾患、誤嚥性肺炎の再発)、居住状態、評価と治療(絶食、嚥下評価)、転帰(入院期間、死亡)

 

 

 

○主要な結果

入院患者1800人のうち誤嚥性肺炎が692人、非誤嚥性肺炎が1108人

404人の2週間以上入院した患者のうち嚥下介入をしたのが208人していないのが196人であった

 

 

加齢に伴い肺炎の割合もふえ、さらに誤嚥性肺炎の肺炎に占める割合も増加

 

 

誤嚥性肺炎と通常の肺炎のベースラインの違い

単変量解析では誤嚥性肺炎のほうが高齢(平均81歳)、でBMIも低い

酸素かも悪い傾向  脳血管疾患、認知症、神経筋疾患、誤嚥性肺炎の既往歴は、誤嚥性肺炎群で多い

ただ慢性肺疾患があるのは通常の肺炎のほうが多い

誤嚥性肺炎では高齢者施設(23%)や慢性期病院に入院している割合が明らかに多い

嚥下食を食べている割合も誤嚥性肺炎で明らかに多い(34%)

絶食は誤嚥性肺炎で83%に認めれれており明らかに多い

NGチューブは誤嚥性肺炎で11%で実施

嚥下評価は誤嚥性肺炎の59%に、嚥下介入は誤嚥性肺炎の38%で実施

入院期間は誤嚥性肺炎 22.7日 通常の肺炎17.0 日

院内死亡率 誤嚥性肺炎  17%  通常の肺炎 9%

誤嚥性肺炎では入院前に常食が57%だが退院時は23%に減少している

 

誤嚥性肺炎と関連する因子 ロジスティック回帰分析

認知症、神経筋疾患、絶食、嚥下介入、脳血管疾患既往歴は誤嚥性肺炎と関連

 

 

○嚥下介入と関連する因子 ロジスティック回帰分析

 

嚥下介入された群は、嚥下食を57%で食べていた

嚥下介入している群は死亡率が8%でしていない郡は死亡率が17.7%だった

 

 

誤嚥性肺炎の起因菌ではブドウ球菌やクレブシエラ、肺炎球菌などが多かった

 

 

誤嚥性肺炎ではアンピシリンスルバクタムの割合が多い(64.5%)

 

 

○結論

誤嚥性肺炎は全肺炎患者の38.4%を占め,北日本の急性期病院における高齢者症例の肺炎の42.8%を占めている。

誤嚥性肺炎患者はよりBMIが低く,CRPが低く,入院前の自宅である比率が低く,脳血管障害,認知症,神経筋疾患の合併率が高いことが有意な特徴であった.

嚥下への介入は、誤嚥性肺炎患者の死亡率低下と関連する可能性がある。

 

 

○感想

自分の最も興味がある領域で気になっていた論文なので詳しめに読みました

日本の誤嚥性肺炎診療の実情を非常によく表現していて、普段の診療での実感からも納得できます。

ただ、ロジスティック回帰分析も交絡因子の調整というよりも探索的研究という意味合いが強く、研究デザインとしても誤嚥性肺炎郡と嚥下介入群の2つのデザインが混在している研究であり、インパクトに欠けるという印象を持ちます。

筆者らもそれをわかった上で、記述疫学的な立ち位置で論文を書いているのだとは思いますが。。

ただ、探索的に誤嚥性肺炎における嚥下介入の重要性や年齢と誤嚥性肺炎などの日本の現状を知るという意味ではとても意義がありますね。

 

なお、以前の日本の報告より誤嚥性肺炎の割合が低いことが印象的でした。

https://agsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1532-5415.2008.01597.x

 

筆者らも議論で嚥下障害に対する認識が高まったことが誤嚥性肺炎の割合が低下した一因であると思われると記載しています。

ただ、個人的には誤嚥性肺炎ではないとされている高齢者肺炎のうちにも、実際は誤嚥性肺炎であった郡も入っているような気もしています。

誤嚥性肺炎の診断基準のスタンダードがないというのが一因というのはそのとおりかと。

 

baselineの誤嚥性肺炎と非誤嚥性肺炎の違いだけでも非常にこの論文の意義があるように感じます。

 

 

誤嚥性肺炎を詳しく勉強したいかたは以下がお勧め!

 

 

心血管リスクが高い患者の高血圧治療の目標設定

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https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1901281

 

○PICO

P 収縮期血圧 130~180 mmHgで心血管疾患のリスクが高い患者

糖尿病や脳卒中既往がある患者は除外

I 強化治療(目標収縮期血圧<120 mmHg)群

C 標準治療(目標収縮期血圧<140 mmHg)群

O 心筋梗塞,その他の急性冠症候群,脳卒中,急性非代償性心不全,心血管死の複合エンドポイント

 

○目的

SPRINTは高血圧の標準治療と強化治療を比較したRCTだが、試験終了後の追跡データが収集されていなかったため、今回追跡データを解析した。

 

○研究デザイン

多施設RCTのフォローアップ解析

 

○主要な統計解析

基本はCox比例ハザード回帰モデルで比較(5%の有意水準で両側検定)

治療と事前に指定したサブグループとの間の交互作用の検定には,Hommel調整による尤度比検定を用いた

2015年8月20日前後のハザード比は,時間変動共変量モデルで比較

2016年7月29日までのデータを用いて、すべての主要評価項目イベント(初発および再発イベント)をAndersen-Gillモデルで部位層別化により比較

感度分析では多重代入を行い、欠損データの影響を評価した

 

 

○主要な結果

参加者の平均年齢は67.9歳

28.2%は75歳以上、28.3%は慢性腎臓病、20.0%は心血管疾患の既往歴あり

チアジド系利尿薬は、スクリーニング時に強化治療を受けた参加者の38.2%、標準治療を受けた参加者の40.0%で使用されていた。

介入期間の最後の平均収縮期血圧は、強化治療群で120.0 mm Hg、標準治療群で133.9 mmHg。

 

追跡期間中央値 3.33 年

主要転帰の発生率と全死因死亡率は,強化治療群のほうが標準治療群よりも有意に低かった

主要転帰の発生率 1.77%/年 対 2.40%/年,ハザード比 0.73,95%信頼区間 [CI] 0.63~0.86

全死因死亡率 1.06%/年 対 1.41%/年,ハザード比 0.75,95% CI 0.61~0.92

血圧低下,電解質異常,急性腎障害または急性腎不全,失神の頻度は,強化治療群のほうが有意に高かった.

 

介入期間中(2015年8月20日まで)の主要転帰の累積ハザード比。

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○結論

心血管リスクの高い患者では,目標収縮期血圧を 120 mmHg 未満とした群と,140 mmHg 未満とした群と比較して主要有害心血管イベントの発生率と全死因死亡率が低かった.

 

 

○感想

120mm Hgというのは相当厳しい気がするが、副作用が問題にならなければ、特に若年者で血管リスクが高い集団では厳格なコントロールが重要かもしれない

ただ、サイアザイド系利尿薬を使用した群が多い 個人的にはナトリックスをよく使用するが、ナトリックスを中心に厳格なコントロールを特にADL自立した比較的若年の心血管リスクが高い層では、目指すことは妥当と考える。

 

 

 

 

人工膝関節置換術後において、サルコペニア肥満は、術後の歩行障害を経験するリスクが最も高い 後ろ向きコホート研究

https://www.jamda.com/article/S1525-8610(22)00096-2/fulltext

 

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○PECO

P 変形性膝関節症で人工膝関節術を受けた患者

サルコペニアはAsian Working Group for Sarcopeniaが定めた診断基準に基づき定義

肥満はBody Mass Index≧30 kg/m2と定義

E サルコペニア肥満あり(サルコペニアのみ、肥満のみも比較)

C サルコペニア肥満なし

O 術後の歩行障害の割合

 

○目的

変形性膝関節症で人工膝関節置換術を受けた高齢者において、サルコペニア、肥満、および両者の組み合わせが術後のリハビリテーションにおける歩行障害にどのような関連があるかを検討すること

 

○研究デザイン

後ろ向きコホート

 

○主要な統計解析

Kaplan-Meier曲線分析を行い、群間で術後歩行障害を経験する確率を測定。

Cox多変量回帰モデルを構築し、術後歩行障害のハザード比を算出。

 

○主要な結果

正常群(サルコペニアも肥満もない)と比較して、サルコペニア群、肥満群、サルコペニア肥満群は術後歩行障害を経験する確率が高い(P<0.001)。

サルコペニア肥満群は、術後歩行障害を経験するリスクが最も高い(調整ハザード比=3.89)。

 

○結論

人工膝関節置換術後において、サルコペニア肥満は、術後の歩行障害を経験するリスクが最も高い可能性がある 

 

○感想

臨床的にも肥満で筋力低下をきたしてADL低下している群は寝たきりになるリスクが高いという実感がある。今後は、サルコペニア肥満に対する早期の予防的介入の研究が待たれる。

 

 

台湾の国際的な家庭医療プログラム(Family Physician Integrated Care Program )が緊急入院に与える効果

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https://bmchealthservres.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12913-020-05347-7

 

○PECO

P プライマリ・ケアに受信する患者

E 家庭医療プログラム(FPIC)を導入した群

C 家庭医療プログラム(FPIC)を導入しなかった群

O 

緊急入院、ERの受診

 

○目的

FPICが救急の利用率と入院率を低下させたかどうかを判断し、FPICに影響を与える要因を特定すること

 

○研究デザイン

全国規模 大規模 後ろ向きコホート

性別、年齢、収入、地域(都市化)、チャールソン併存疾患指数(CCI)などの変数を用いた、傾向スコアマッチングを実施

 

○主要な統計解析

カイ二乗検定を使用して、性別、年齢、月収、地域、CCI、外来通院の年間頻度、医療機関のオナーシップ、などの違いを検定

一般化推定方程式(GEE)モデルを使用してロジスティック回帰分析

差の差分析として、性別、年齢、月収、都市化レベル、CCI、外来通院の年間頻度、医療機関のレベル、および医療機関のオーナシップを用いた

 

 

○主要な結果

差分デザインによるGEEモデルでロジスティック回帰を行ったところ,両群間で救急受診や入院の減少が見られなかった.

参加者の入院リスクはFPIC加入後1年間で増加した(OR:1.11,95%CI:1.03-1.20,P<0.05)。

しかし、FPICに加入した参加者は、FPICに加入しなかった参加者と比較して、加入後6年目と7年目の入院のリスクが8%低いことを示した(OR:0.92、95%CI:0.85-1.00、P < 0.05)

図2

→もともと医療費が高い患者がFPIC群に割り振られるため、FPIC群のほうが入院率が高いが、年次とともに徐々にその差が埋まり、差の差分析では、FPIC群がむしろ、入院率を低下させる結果

 

○結論

台湾の全国規模のFamily Physician Integrated Care Programは長期的な入院は減らすが短期的な入院は減らさない。 ER受診も減らさない

 

○感想

差の差分析の非常にきれいな研究か

プライマリ・ケア制度導入による医療費抑制や入院抑制という政策決定という意味でも意味がある研究か

日本でもこのような国を上げてのプライマリ・ケア政策の立案と、それに付随したビックデータ研究が望まれる

 

 

急性上気道感染症に対する患者の意思決定支援に関するツールによる介入 RCT

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P プライマリ・ケア医

I 急性上気道感染症に対する患者の意思決定支援に関するツール(動画によるトレーニングパッケージを用いる)

C 介入なし

O 

Primary  抗菌薬処方率

Secondory 

プライマリ・ケア医の抗菌薬使用に関する知識,有益性と有害性のエビデンス,処方への影響など

 

目的

急性上気道感染症に対する患者の意思決定支援に関するツール(動画によるトレーニングパッケージ)を用いることで抗菌薬処方率が低下し、抗菌薬に関する知識が増えるかどうか

 

研究デザイン

診療所ごとに1:1で割り付けるクラスターRCT

 

主要な統計解析

抗菌薬処方→Generalized estimating equations (GEE) negative binomial regression

知識→GEE analysis of covariance to adjust for baseline and clustering by GP practice

 

サンプルサイズ

臨床的に重要な差として、20%の抗菌薬処方率低下を検出することを目標とした。検出力80%、有意水準5%

→18の診療所が必要であると計算

 

○主要な結果

 

 

12ヵ月後、平均処方率は減少した(介入群2.9%、対照群2.6%)。

ベースラインから18%相対的に減少したが、両群に差はなかった(リスク比 1.01; 95% CI, 0.89-1.15 )。

知識の増加は、対照群よりも介入群でより大きく認められた。抗菌薬の有益性と害の知識に関する質問に対する正答数は、有意に増加した(平均3.6;95%CI、2.4-4.7、P <.001)。

その他の副次的結果については、群間差は認められなかった。

介入はよく受け入れられ、有用であると認識され、介入したGPの約3分の2がツールを利用していると報告された

 

結論

プライマリ・ケア医に提供された、急性上気道感染症に対する意思決定支援ツールは、通常のケアよりも抗生物質の調剤を減らすことはなかったが、抗菌薬の知識は増加した。

 

感想

Discussionにも書いているが、支援ツールと動画というシンプルな介入でリマインダーなどもないため、negativeな結果となっているか。

ちなみにFacebookなどでプライマリ・ケア医を募集したというのは興味深い。

Cluster randomizationは、Practice Based Research Network(PBRN)においても有用な手法だろう。

個人的には限界はあっても実行力と発想力からは、興味深いし学ぶべきものが多い研究と考える。