原因不明の腹痛ではACNESが注目されているが、圧迫骨折などの脊椎病変が原因不明の腹痛の原因であることは、あまり知られていない。
総合内科ただいま診断中でも、以下のように記載していた
体動時、特に体幹を回旋させた時に悪化する腹痛は下位胸椎疾患を念頭に置く必要がある。疑えば、実際に体幹を回旋させて痛みを誘発すべきである。
今回、改めてまとめる。
個人的な脊椎病変による腹痛を疑うきっかけは以下の通り。
・安静時の痛みはなく体動時の痛みのみ
・腰痛ははっきりしなくても否定しないが、脊椎叩打痛があれば、可能性は上がる。
・脊椎回旋時に痛みが誘発される。
特に脊椎回旋時に痛みが誘発されるという身体診察は非常に重要。
これがあれば、積極的に脊椎由来の腹痛を考える必要あり。
Clinical profile of acute vertebral compression fractures in osteoporosis
圧迫骨折の20%で腹痛があるという報告もあり、圧迫骨折での腹痛の頻度は意外に多い。
ただし、腰痛が乏しく、神経根症状としての腹痛などのみが残る場合は診断が難しい。
圧迫骨折によっておこる後部脊椎の変化の模式図
後方成分の位置が大きく変化する
これらの変化によって神経根の圧迫がおこり痛みが起こる可能性あり。
圧迫骨折後で左大腿部痛がある女性の報告
⇒大腿部痛のみが残存していたが、L2とL3ブロックで改善
81 歳の男性の報告重い古いテレビを動かしているときに下腹部に突然の痛みが生じた。持続的な下腹部の痛みがあり、ダンスやガーデニングなどの活動によって悪化
長時間座っていることで背中の痛みを感じたが腰痛は乏しいとのこと
原因不明の腹痛として紹介.
L1椎体の有意な前方楔入を示した。
左右の T12 および L1 内側枝のブロックで痛みは完全に軽減した
腰椎内側枝熱高周波神経切開術による治療を受け痛みは改善した。
Left Lower Abdominal Pain as an Initial Symptom of Multiple Myeloma - PMC
多発性骨髄腫による脊椎の腫瘤性病変が腹痛を主訴にきたという症例報告。
腰痛はなかったとのこと。
臥位で悪化し立位で改善した(体動による痛みの変化は重要な病歴)
エコーでは異常がなく、放散痛を念頭にCTを撮像
結果、脊椎に腫瘤性病変
MRIでは左椎間孔の圧排を認めた。
生検などの結果より多発性骨髄腫と診断された。
また6ヶ月継続する原因不明の腹痛で脊椎結核というケースレポートもあり。
Lumbar Spinal Tuberculosis Presenting as Abdominal Pain: Case Report - PMC
この症例では脊椎叩打痛が陽性
L2、L3、および L4 の椎体での病変と、右大腰筋の巨大な膿瘍が示された
和足先生方のケースレポート
カーネット徴候陽性でACNESだと診断し局所麻酔をしたが後に圧迫骨折と診断
ACNESの鑑別に圧迫骨折を入れること、ACNESやLACNESのチェックリストを用いることが有用とされている。
ただ、脊椎回旋時に誘発される腹痛という手技も個人的には有用だと思っています。
おそらく原理としては以下のとおりです。左Th12の神経根圧迫による腹痛があるとした場合、脊椎を左の患側に回旋することで、神経根の圧迫が増強し、痛みが誘発されるということかなと考えています。
あまり報告なさそうだけど、脊椎病変による神経根症状による腹痛では脊椎回旋時痛が、ほぼ陽性になる印象です。
なお和足先生の報告では上半身を45度、挙上することで腹痛が誘発された圧迫骨折の報告もあり。
なお、脊椎圧迫骨折ではベッドをギャッチアップすることで腰痛が誘発されることが多い印象です。これも検証はされていませんが、重要な手技だと思います。
こちらは石塚 晃介先生の手技
51歳男性の、デスクワークをしていたところ、へそから右脇腹にかけての突然の腹痛を訴え来院。座位と前屈位で痛みが増悪したが、立位で改善した。
前屈,座位ともに椎間板内圧を高める姿勢であり,痛みの分布はTh10皮膚分節に対応することから,胸椎からの神経根痛を考えた。
⇒MRIで確定診断
非常に興味深いのはUpper body traction maneuverが陽性だったと(座位で上体を持ち上げると腹痛が完全に消失)⇒上体を持ち上げると神経根の圧迫が解除されるため
なお以下のブログの和足先生に教えていただいた原因不明の腹痛のリストです。
以下、以前にかいた本ですが、診断学の基礎を学ぶには今もよいかなと思っています。