コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

人口減少社会のデザイン

[広井 良典]の人口減少社会のデザイン

 

読み終えました。

非常に興味深い本でした。

脱成長コミュニズムなどとも接点がある話題でしたが、かなり医療にも踏み込んだ話題があり、総合診療医には必須の内容かなと。

 

この本の内容は以下の図が分かりやすいです。

つまり、情報化社会が拡大しているなか定常状態になった段階で次の価値観を模索すべきというのが底辺にあります。

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これを地球倫理と読んでいます。

マルクス・ガブリエルが倫理資本主義を提唱していますが、近い概念だと思います。

むしろアミニズム的な草木国土悉皆成仏のような自然宗教に近い概念のようです。

 

鎮守の森というのもこの本のテーマの一つです。

それは以下のような鎮守の森プロジェクトとして結実しています。

morinoproject.com

 

以下のような原風景としての神社仏閣とそれに付随する森

鎮守の森 :: Shopcard.me

 

これを中心に水力発電や町おこし、さらには鎮守の森ホスピスという概念も登場していて興味深かったです。

 

このようは概念を背景として筆者はAIによる計算(方法は不明)からも地方分散型社会が望ましいと主張しています。

地方分散型社会は鎮守の森を中心とした自然エネルギーと自給自足の地域循環システムを基盤にしています。

 

また医療においてもこの地方分散型社会の概念をもとに下記の予防環境モデル、心理モデル、生活モデルを医療モデルと統合したアプローチを提唱しています。

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実はこのアプローチは完全に総合診療医のアプローチそのものです。

総合診療医は生物、心理、社会モデルを基盤としながら地域や公衆衛生にも目を向けるというのが専門性です。

この本の主張は極めて総合診療医や家庭医と親和性が高いと感じました。

 

また診療所や私立の小規模病院に抑制がかけれれない状況で公的病院の収益が減少するという構図より、病院崩壊がおこると予測しました。

この予測は、COVID19により現実のものとなりました。

一部の診療所や小規模病院は献身的にCOVID19を診療するものの、大多数の小規模病院や診療所はCOVID19を診療せず、地域の大規模病院や公的病院に負担が集中するという構図になりました。

今後、日本の医療システムの抜本的な改革が必要かもしれません。つまり、診療所や小規模病院は規制を行う必要があるということです。

 

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僕はツイッターで以下のように言及しました。

財源は無限でない。医療もそう。今後は高度急性期病院、グループプラクティスの在宅医療、そして高度にビジネス化された医療のみが生き残るだろう。小規模病院は救急や在宅医療を積極的にしなければ統廃合される時代へ。医局に入れば安心ではない。若手医師は将来について真剣に考えることを勧める。

あと回復期リハビリや緩和ケアは別枠なので、生き残ると思います。ただ、それも高度にアウトカムや回転率が求められるので大手じゃないと厳しいでしょうね。。療養病院はなくなると思ったほうが多分よいです。地域包括ケア病棟は、救急と在宅をガンガンやらないと厳しいかなと。

たぶん、そういう時代が到来しているのだと。

 

地方分散型社会を実現するためには、上記の包括的モデルを念頭にさらに可能な限り古典的な安価な薬を優先し、身体所見を重視することで検査費を抑えるという技術をもった総合診療医は予算の抑制という意味でも非常に重要になると思います。

www.tkfd.or.jp

 

英国を参考にさらに標準化も行い質と医療費抑制を両立するという姿勢が必要になるかと感じます。

今後AIの発展で標準化もさらに容易になると思われます。

 

なお、個人的にも東京から地元の奈良に帰ってきたという経歴があります。

東京は都会化していて非常に楽しかったものの、子供を育てるという面では、自然が多く虫にふれる機会が多い地方の方がメリットが多いように感じます。

 

ただし、地方分散化社会を実現するには筆者も述べているように農業版のベーシックインカムや地方の住居における若者の優遇などの、若者が地方に住むことができる仕組みが必要かと思います。

また地方においてもプログラミングやエンジニアがガンガン働けるような仕組みが必要になると感じています。

さらに、地方でもインターネットを利用して東京と同様の教育が受けれるような、中高一貫校や、さらには地域の国公立大学に先進的な研究ができるような財政投入や産学連携プロジェクトを仕掛けるということが重要な気がしています。

奈良でいえば人口が減少している東部山間地域や宇陀や桜井は個人的には狙い目だと思っています。

これは、シンニホンでの風の谷構想とも方向は似ている印象です。

やはり、総合診療医は、このような地域分散型社会を作るうえで、安心して医療インフラを提供するというとういう点でもっとも重要な存在となり得るのではと感じます。

 

ひとまず、非常に興味深い本でした

医師にとっても有意義な本だと思います。