コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

副腎クリーゼについて

Adrenal Crisis: Still a Deadly Event in the 21st Century. - PubMed - NCBI

 

副腎クリーゼは、生命を脅かす緊急事態であり、適切に認識され、早期治療が行われない限り、死亡率が高い。

70年間前からは治療可能な状態であったにもかかわらず、適切な予防手段の不備や治療の遅延は、しばしば不必要な死を招いた。

Sick dayについて患者及び医師は教育されているにも関わらず、グルココルチコイドの投与量を増やすことや、非経口投与に切り替えることにしばしば消極的であり、それによって患者の状態が急速に悪化することがある。

副腎クリーゼでは消化器症状が多いことも、見誤られる要因となる。

副腎クリーゼの予防及び、起こった時の適切な治療を知ることが大切である。

 

 

〇重要事項

副腎不全は依然として重要な死因。

臨床的悪化が早期に進行し、自宅で死亡するか、病院に到着するとすぐに死亡する可能性がある。

この内分泌緊急事態の早期認識と治療は非常に重要。

Sick dayおよび自宅でのヒドロコルチゾン筋肉注射についての教育は、副腎クリーゼの予防において重要

 

 

〇 副腎不全のコモンな原因

原発性⇒副腎が原因(自己免疫、転移性悪性腫瘍、結核などの感染など)

二次性⇒下垂体が原因(下垂体腫瘍、外傷、下垂体炎など)

ステロイドの長期投与

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〇臨床的特徴

慢性的な副腎不全では、倦怠感、不安、体重減少、悪心、微熱などが前面に来る。

一方、副腎クリーゼでは、重度の脱力、急性の腹痛、悪心、嘔吐、意識障害などで発症し、さらに腹部症状も伴うこともある(急性腹症と誤診される!!)

なお、低ナトリウム、高カリウム低血糖、高カルシウム(稀)は慢性でもクリーゼでも同様だが、慢性経過では貧血、好酸球上昇、リンパ球増加を認める

二次性では、バソプレシンが供給できずに低ナトリウムになる

原発性では、ミネラルコルチコイド不足で、低ナトリウムになり、高カリウムも合併する。

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〇副腎クリーゼを誘発する要因

消化器系の疾患、他の感染症、身体的ストレスだけではなく、精神的なストレスも誘因となりうる

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〇副腎クリーゼのリスク

原発性副腎不全のほうが、クリーゼの発症リスクは高い

副腎不全の既往、外因性ステロイド、薬剤(レボフロキサシン、フェニトイン、リファミピシン、フェノバルビタール、ケトコナゾール、フルコナゾール、抗凝固薬)、甲状腺中毒、妊娠、糖尿病、早産、性腺機能低下など

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〇診断など

既に副腎不全の診断がついていたら、治療は速やかに行う。

不安定であれば、迅速ACTH試験などの診断をするために治療を遅らせてはいけはい。

ヒドロコルチゾンを使用する前に、血中のcortisol, ACTH, aldosterone,dehydroepiandrosterone-sulfate、 renin を提出しておく。

コルチゾールが20を上回るなら副腎不全は否定的だが、早朝 or ストレス時に5未満なら可能性が高くなる

ACTHは原発性では高値だが、二次性では正常~低値

治療は状態が安定するまで行うべきだが、安全になればACTH負荷試験を行う。

ACTH負荷試験を可能な限り行わないと、ステロイドをずっと内服することになり、視床体ー下垂体ー副腎の経路に影響を及ぼしてしまう

 

 

〇治療

基本的に生理食塩水による輸液、低血糖の補正、血行動態のモニタリング、電解質補正を行いつつ、コルチゾールを使用する。

コルチゾールの使用で、低ナトリウムの補正が急激に進み、脱髄を起こさないように注意する。

最初の24時間でナトリウムの補正は10mEq/24h未満に抑える。

ヒドロコルチゾンは100mg最初にをボーラスで使用し、その後100-300㎎/日を6時間ごとのボーラス投与か持続投与で2-3日行う

その後徐々にテーパリングを行う

原発性副腎不全における、フルドロコルチゾンは50-200 mg /日で投与する

 

 

〇周術期やストレス下のステロイド

⇒ 特にSick dayを疑うような熱、悪心などがあれば、患者に内服や筋注を自分で出来るように指導しておく

周術期はステロイドの予防投与を行う

周術期は手術の侵襲によってステロイドの量が変わる

メジャーサージェリー:100㎎ IM or 手術直前に 100㎎IV ⇒術後24時間は飲水が出来るまで200㎎/日で持続投与⇒通常の倍量を経口で48時間投与⇒徐々に通常量までテーパリング

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〇クリーゼ予防のためのチェックリスト

患者教育が何より大切

余分なヒドロコルチゾンを携帯しておく。

ヒドロコルチゾンの筋肉注射セットも持っておく

はじめての病院で手術をする場合は必ず診療情報を持たせる

旅行の際は、ヒドロコルチゾンを携帯するだけでなく診療情報を持たせる

旅行先の緊急受診する病院もリストアップしておく

ワクチンも投与しておく

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