コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

プライマリ・ケアセッティングにおける日本における Patient Centred Assessment Methodの有用性

慈恵医大の先生方の論文を読みました。

とても重要ですね。

Patient Centred Assessment Method(PCAM)は複雑性を評価するツールです。

もともとは、慢性疾患モデルが生物学的問題に偏っていたので、心理社会的問題も含めて包括的に複雑性を評価する必要があったということが背景にあるようです。

以下の論文においてPCAMを看護師が実践することで、生物心理社会的問題を体系的に評価することで複雑性の評価を定量的に行うことが可能になることが示唆されました。

The Patient Centered Assessment Method (PCAM): integrating the social dimensions of health into primary care

 

この研究をうけて慈恵医大のグループがPCAMの有用性を入院患者において検証したのが以下の論文です。

Validity and reliability of the Patient Centred Assessment Method for patient complexity and relationship with hospital length of stay: a prospective cohort study | BMJ Open

具体的には東京の小規模病院の急性期病棟における前向きコホート試験です

 

入院患者は比較的複雑性が高い患者が多いことも示されています(右にいくほど複雑性が高い)

図1

 

 さらにPCAMで複雑性が高いとは統計学的に調整を行っても入院期間が長くなることが示唆されました。

 

ただ日本語版のPCAMが開発されていなかったこと、プライマリ・ケアセッティングでのPCAMの測定は行われていなかったことが背景となり行われたのが今回の研究です。

 

Development and validation of a Japanese version of the Patient Centred Assessment Method and its user guide: a cross-sectional study | BMJ Open

 

この研究は2段階となっており1つ目はPCAMの日本語版の作成です。

PCAMの日本語版は「Patient Centred Assessment Method 日本語」と検索すると、BMJ openのサイトでダウンロードが可能です。

<身体の健康と心の安寧>

項目1:身体の健康についてのニーズ 

項目2:身体の健康が心の安寧に与える影響

項目3:ライフスタイルが身体の健康と心の安寧に与える影響 

項目4:その他の心の安寧の問題

 <社会的環境> 

項目1:居住環境

項目2:日常の活動

項目3:社会ネットワーク

項目4:金銭的な収入

<健康リテラシーとコミュニケーション>

項目1:健康リテラシー

項目2:話し合いへの参加

<サービスコーディネーション>

項目1:その他のサービス

項目2:サービスコーディネーション

 備考: BMJ Publishing Group Limited (BMJ) disclaims all liability and responsibility arising from any reliance Supplemental material placed on this supplemental material which has been supplied by the author(s) BMJ Open Mutai R, et al. BMJ Open 2020; 10:e037282. doi: 10.1136/bmjopen-2020-037282

 

2つ目は日本版PCAMの妥当性を評価する多施設横断研究です。

東京の3つの家庭医療クリニック に定期通院する患者を対象として、医師にPCAMについて標準的教育を施し、患者さんに自己記入式PCAMを書いてもらうという研究です。

またPCAMの妥当性を評価するために医師が患者に感じる「複雑性」と「心理的負担」を100点満点のVASスケールで評価して比較しました。

 

VASとPCAMは相関があることが示されました。

ただし一部、PCAM スコアが平均 よりも高いが、複雑性の VAS スコアが平均 未満の 4患者が全患者の 14.3%認めました。

 

図2

f:id:jyoutoubyouinsougounaika:20210603074606p:plain

 

さらに以前のPCAMモデルと比較すると、「個人の幸福」、「社会的相互作用」、「ケアの必要性」という3つの因子が探索的に発見されたようです。

 

 

 

 またPCAMの複雑度をプロットした図が以下になります。

Figure 1

 

PCAMのプロットは興味深いですね。

先の入院患者のPCAMのプロットと比較すると明らかに左に偏っている(複雑性が低い)ことが示唆されます。

 

複雑性を示唆する PCAMがプライマリ・ケアセッティングと入院とでは違うというのはとても実感がありますね。

特に診療所は通院可能で自分で質問表に記入が可能な群なので、余計に複雑性は低めだろうと予測できます。

PCAMをプライマリ・ケアセッティングや病院で看護師や多職種で評価することで包括的な介入が出来ると予後が良くなるかもしれませんね。

PCAMを地域で使ったり他の要因との関連を調べるという研究も興味深いです。

今後日本において複雑性について語る上で重要な研究の一つですね。