コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

相対的副腎不全による術後の突然の低血圧

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

 

 

全身麻酔のどの段階(誘導、維持および抜管を含む)においても低血圧に遭遇する可能性が高い。麻酔の誘導に使用される薬物は、全身血管抵抗(SVR)および動脈血圧の両方において実質的な低下を引き起こし得る。同時に、重度で持続的な低血圧は全身毛細血管のネットワークにおける灌流障害をもたらす。

正常な血清コルチゾール濃度にもかかわらず、致命的な疾患などのストレス状態におけいてコルチゾール応答が不適切にしかなされない状態は、相対的な副腎不全として定義される。

グルココルチコイドは、ストレスへの適応、血行力学的安定性において重要である。副腎皮質機能は、生存において重要な役割を果たす。副腎不全は、敗血症ショックの病因に重要な位置を占める。

 

〇症例

69歳の男性。変形性股関節症に対して、人工関節置換術を予定手術で行うことになった。

前立腺肥大の既往があったが他大きな既往歴なし。

心拡張障害はあるが、心電図、心エコーでの収縮能も問題なし。

前立腺および人工関節置換術の既往歴があり、全身麻酔の際に抵抗性の低血圧を認めた既往歴がある。

そして全身麻酔を行った。

 

 

〇血圧の推移 An external file that holds a picture, illustration, etc.
Object name is tard-42-5-283-g01.jpg

 

 

麻酔開始後4.5時間経ったところで、細胞外液を十分に使用しているにも関わらず低血圧を認めた。

エフェドリンでも血圧上昇を認めず、ノルアドレナリンを開始した。

低血圧中でも頻脈は認めなかった。

CVPは3cm H20でヘモグロビンは11であった。

血液ガスは、pH  7.28, pO2  87 mmHg, pCO2  16 mmHg,  HCO3 was 18 meq L- であった。

ノルアドレナリン増量にも関わらず血圧の上昇を認めなかったので、副腎不全が想定されメチルプレドニゾロンが開始された。

ノルアドレナリンドーパミン、メチルプレドニゾロンの投与を、副腎不全として帰室後もICUで継続した。

その後、徐々に昇圧剤はテーパリングが出来て、8時間で中止した。

メチルプレドニゾロンも徐々に減量し、5日で終了し、その後問題なく経過した。

その後、また手術をすることになったので同患者は、副腎不全に準じてAddisonのプロトコールが推奨された。

 

〇Addison プロトコール

1)午後8時に手術前日にヒドロコルチゾン(またはメチルプレドニゾロン40mg)を筋肉注射。

2)手術の2時間前に筋肉注射で100mgのヒドロコルチゾン(または40mgのメチルプレドニゾロン)を投与する;

3)手術当日に手術と同時に、6時間間隔で5% ブドウ糖液500mlに混注したヒドロコルチゾン50㎎(または20mgのメチルプレドニゾロン)を6時間間隔で投与し、5%ブドウ糖液を生理食塩水で置換し、注意深く血圧を監視する。

4)術後1日目および2日目に朝の08:00にヒドロコルチゾン50mg(またはメチルプレドニゾロン20mg)を投与する。また上記のように、25mgのヒドロコルチゾン(または10mgのメチルプレドニゾロン)をメインに加えて注入する。電解質や、BUNなどもフォローする。

5)3日目および4日目の朝、筋注でヒドロコルチゾン50mg(またはメチルプレドニゾロン20mg)を投与する。

朝に15mgのヒドロコルチゾン錠剤(または5mgのプレドニゾロン錠剤)、昼に10mgのヒドロコルチゾン錠剤(または2.5mgのプレドニゾロン錠剤)、および10mgのヒドロコルチゾン錠剤(または2.5mgのプレドニゾロン錠剤)を夕方に投与する。

6)経口のヒドロコルチゾンまたはプレドニゾロンを徐々に減少させ、血圧や全身状態をモニターして6日目に維持用量に移行する

 

Addisonのプロトコールで周術期にステロイドを使用したところ、血圧低下せずに経過することが出来た。

周術期のみ相対的副腎不全になると考えられた。

 

〇結論

コルチコステロイドに関連した低血圧の診断を行うことは非常に困難であることを心にとどめる。

輸液および昇圧剤に応答しない低血圧の場合、重大な疾患に関連した副腎不全が疑われるべきである。

 

 

 

 

 

 

重症心不全に対する緩和ケア

www.sciencedirect.com

 

 

Palliative Care in Heart Failure心不全患者の緩和ケアPAL-HF trial

J Am Coll Cardiol 2017;70:331‒41

心不全患者における緩和ケア

背景:進行心不全(HF)は、高い重症度および死亡率を特徴とする。

従来の治療法では、患者の苦痛を十分に軽減することができず、生活の質を最大限に高めることができない。

目標エビデンスに基づく心不全患者の治療に加えて、緩和ケア介入が一定の成果を改善するかどうかを検討した。

方法:2012年8月15日〜2015年6月25日間に、施設において進行心不全患者150人を、通常治療群(UC)75人と通常治療群+緩和ケア群(UC + PAL)75人に無作為割付した。主な評価項目は、カンザススティ心筋症アンケート(KCCQ)と慢性疾患治療-緩和ケア機能評価(FACIT-Pal)の2つのQOL評価であり、6ヶ月後に評価された。サブ評価項目には、うつ病と不安(うつ病スケール HADSで測定)、精神的幸福(FaCLT-Sp スピリチアルウェルビーイングスケールで測定)、再入院、死亡率の評価が含まれた。

結果:UC + PALに割り付けられた患者群はUC単独群と比較して、割り付けから6ヶ月後のKCCQスコアおよびFACIT-Palスコアにおいて臨床的に優位な漸減的改善を認めた。(KCCQ差= 9.49ポイント、95%信頼区間 [CI]:0.94〜18.05、p = 0.030 ACIT-Pal = 11.77点、95%CI:0.84~22.71、p = 0.035)。UC + PAL患者では、抑うつと不安についても、通常治療群と比較してUC + PAL群で改善を認めた(HADS-depression difference = −1.94 points; p = 0.020; HADS-anxiety difference = −1.83 points; p = 0.048)

結論:進行心不全患者における学際的緩和ケア介入は、UCだけと比較して、生活の質、不安、抑うつ、精神的幸福において一貫して大きな利益を示した。

 

KCCQ:KCCQは、病気に特異的な23項目のアンケートで、0〜100のスコアで、より良い健康状態を表しています。全体的な要約スコアは、身体機能、症状、社会的機能、及び生活の質の領域から導かれる。

KCCQ全体サマリースコアの5ポイントの変化は、臨床的に有意な差であると考えられる。

 

A この試験の結果は信頼できるか
その試験は焦点が明確な課題設定がされているか


P:Patient

 Patient : 推定予後6ヶ月以内の末期心不全

 Inclusion過去1年以内に心不全での入院歴があり、かつmodified ESCAPE scoreが4点以上(6ヶ月以内の死亡予測率が50%を超えることを示唆する)患者この基準を満たさなくても、陽性変力作用のある薬剤を慢性的に使用している患者、12ヶ月以内に3回以上入院している患者、5点以上は無条件で入る•年齢> 18歳 •急性心不全の入院 •安静時の呼吸困難 (JVP> 10cm、末梢浮腫、胸部X線) 過去1年間の過去の入院 •ESCAPEリスクスコア≧4は、6ヶ月の死亡率を50%以上予測したことを示す

 

 Exclusion criteria:

•30日以内の急性冠動脈症候群•過去3ヶ月以内の心臓再同期療法または心筋炎、狭窄性心膜炎•手術適応の重度の狭窄性弁膜症•6ヶ月以内に予定されている心臓移植または心室補助装置•人工透析•心臓以外の病気•妊娠中または妊娠予定の女性•研究プロトコルに準拠できない

 

I&C:

Intervention:  標準治療+緩和ケア

Comparsion: 標準治療

 

O Outcome結果:QOL (KCCQとFACIT-Pal)

総合的および緩和ケア特異的健康関連QOL(慢性疾患治療 - 緩和ケアスケール:FACIT-Palを用いて測定)

 

A②その試験は設定された課題に答えるための研究方法がとられているか? 

単施設のRCT、ブラインドはされていない(後述)

A③ 患者はそれぞれの治療群にどのように割り付けられたか?

割り付け方法の詳細な記載はこの本文中にはない

A④研究対象者、現場担当者、研究解析者は目隠しされている?

本トライアルの盲検化は実現不可能であったため、盲検化されなかった。

解析者のブラインドに関しては本文中に記載なし。

スコアを誰が取ったかと、その人物が割付を知っていたかについても記載なし?

 

A⑤研究にエントリーした研究者が適切に評価されたか? 

p336 「STATISTICAL ANALYSIS」の最後に、intention-to-treatで解析されたと記載あり。

 

A⑥研究対象となった介入以外は両方のグループで同じような治療がされていたか? 

There were no significant differences in baseline demographic characteristics by treatment assignment.

(治療の割り当てによって、ベースラインの人口統計的特徴に有意差はなかった。)とある。介入以外の治療に関しては両群間で有意差なし

 

A⑦その研究のための対象患者数は偶然の影響を小さくとどめるのに十分な数か?

B⑧結果は何か? 

・標準治療+緩和ケア群で、QOL 不安 自己満足度の改善を認めた
a 結果はどのように示されたか? 

UC+PALは、KCCQ及びFACLT-Palスコアの無作為化から6ヶ月間の臨床的に有意に改善した。

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f:id:jyoutoubyouinsougounaika:20180523194747p:plain

 

UC + PAL患者では、不安とうつの所見が改善した。

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b 有意差はあるか? : 全体的有意差、個別での有意差 
(KCCQ差= 9.49ポイント、95%信頼区間 [CI]:0.94〜18.05、 -Pal差= 11.77点、95%CI:0.84~22.71、p = 0.035)。UC + PAL患者では、不安(HADS不安の差= -1.83ポイント、p = 0.048)と同様の所見を示したUC + PAL患者では、うつ病が改善した(HADS-うつ病差= -1.94ポイント; p = 0.020)。スピリチュアルウェルビーイングは、UC + PAL対UC単独の患者で改善された(FACIT-Sp差= 3.98ポイント; p = 0.027)。UC + PALに対する無作為化は、再入院または死亡率に影響しなかった。


c
副作用は? 

・副作用は記載なし

 

 

 

 

〇感想

介入方法は、身体的なケアだけではなくQOLやスピリチュアル、精神ケアなど多方面にわたる。
ブランドが出来ないかもしれない。
NPが中心となって緩和ケアをやっているが、一人のNPがやっている。外的妥当性がどうかが気になる。
患者の身体的な問題も、そのNPがアセスメントしている。緩和ケアが良いのか、そのNPが良いのかよく分からない。
ただ、そのような外的妥当性の問題はあるものの、心不全の終末期における多方面からの介入による緩和ケアは重要であると考える。

 

〇当院のNPの感想

NPとして

・終末期心不全に対し、緩和ケアの介入は必要

心不全患者も癌患者と同じように緩和ケアがQOLの改善につながる。

・終末期の約70%の患者は意思決定が不可能と言われており、終末期に対する緩和ケアの介入を行う前には、アドバンスケアプランニングとして、重症又は慢性疾患患者が、自分の価値観・目的・好みにあった医療行為を受けることを保証する手助けとなる。

・入院した時点で、終末期への介入が必要であるのかを考え、早めに臨床倫理カンファレンスを開催し、患者の意向に添えるよう介入していく必要がある。

画像カンファ 2018年5月21日

80歳女性の 急性発症の心窩部痛と嘔吐 意識レベルも低下??

画像上は腸閉塞ありそう。

しかし、何故腸閉塞になったのか??

手術歴もない。。 

 

高齢女性で体格も小さい。

その場合は、ヘルニアを必ず除外する。

 

ヘルニアは3種類

①閉鎖孔ヘルニア

②大腿ヘルニア

③鼠径ヘルニア

 

閉鎖孔ヘルニアは、外からは分からない

 

では、外ヘルニアで腸閉塞になっていたらどうするか??

陥頓と壊死は違う。

外ヘルニアで腸閉塞になっている時点で陥頓と考える。

ただ、壊死しているかは造影CTや腹痛などを総合的に判断する。

プライマリケアセッティングであれば、陥頓している時点で外科に紹介したほうが無難(もちろん、鼠径ヘルニアであれば戻しても良いのだが、経験がないのなら外科に任せるほうが無難だと思う。。)

〇閉鎖孔ヘルニア

http://www.edoriumjournals.com/journal-of-case-reports-and-images-in-surgery/archive/2016-archive/100016Z12YA2016-arafat/100016Z12YA2016-arafat-full-text.php

f:id:jyoutoubyouinsougounaika:20180521084423p:plain

 

プライマリケア医とホスピタリストの病棟診療の比較

Comparison of Hospital Resource Use and Outcomes Among Hospitalists, Primary Care Physicians, and Other Generalists. - PubMed - NCBI

 

〇背景

患者をケアする医師の入院前の診療は、入院中および入院後の患者の転帰およびケアパターンと関連している可能性がある。

 

〇目的

プライマリケア医、ホスピタリスト、他のジェネラリストでそれぞれ入院中に担当した場合の医療資源の活用方法と患者アウトカムを比較する。

 

〇試験デザイン

後ろ向きコホート研究

 

〇患者

fee-for-serviceが適応される66歳以上の高齢者で急性期病院に入院した高齢

20の主要な診断郡分類=DRG(日本のDPCのようなもの)のみを使用

入院前365日以内に外来主治医を受診したことが前提

連邦病院の入院患者や2013年に入院患者が10未満の病院は除外

 

 

〇介入

ホスピタリスト、プライマリケア医、その他のジェネラリストで比較

 

〇定義 

・ホスピタリスト:入院専属のジェネラリスト

年間に20以上の保険請求をしていて、そのうち90%以上が入院患者

We then defined a hospitalist as a generalist physician who billed at least 20 claims
per year (equivalent to 100 per year given our 20% sample),
of which 90% or more were inpatient claims

 

プライマリケア

大多数の保険請求を外来患者で行っており、入院前の12か月にわたり入院患者の外来診療を行っていた。

For  each  admission  with  non hospitalist  generalist, the physician
was defined as the patient’s PCP if that physician billed
for the plurality (the largest share) of the patient’s generalist ambulatory evaluation and management visits during the 12months  preceding the admission

 

・それ以外のジェネラリスト(プライマリケア医でもホスピタリストでもない)

Anyphysicianwhowasneither a hospitalist nor a PCP was considered to be another generalist.

 

なお、ホスピタリストの定義は常に不変だが、プライマリケア医と他のジェネラリストは、外来で主治医をしていたかによって患者ごとに定義が変わってくる

 

〇アウトカム

医療資源の活用

・他科へのコンサルテーション(救急医、放射線科医、病理医を除く)

・在院日数 

2%ほどが転院しており、それは上記の解析から除外

 

患者アウトカム

・在宅への退院 or 非在宅への退院(リハビリ病院と、ナーシングホームも含む)

・再入院率 (退院後7-30日以内の再入院

・全死亡率(入院中、退院後30日以内)

 

患者および病院は細かく分類

患者:年齢、人種、併存症など

病院:教育病院か、病床数、私立か州立か、地域、地方か都会か

 

 

〇解析方法

複数の検定を使用

3つのジェネラリストの比較:カイ二乗検定

DRGの解析:fixed effects

他科へのコンサルテーションの解析:Poisson regression model

在院日数:negative binominal regression model

binary outcomes (再入院、死亡率、退院先):generalized estimating equation models

このように様々な解析をしている理由は。。

ホスピタリストのほうが重症の患者を診ている傾向があり、さらに入院診療に慣れている可能性があることや、病院ごとに診療モデルが違うことなど。。

 

 

〇結果

患者背景は以下の通り

f:id:jyoutoubyouinsougounaika:20180521064106p:plain

平均年齢は80歳  3郡でほぼ患者背景は同等

平均在院日数は5日

ホスピタリスト: 59.7% 

プライマリケア医:14.2%,

その他のジェネラリスト: 26.1%.

しかし、ホスピタリストと他のジェネラリストはよりICU患者を診療している。
(29.2% of all admissions for hospitalists, 25.6% for admissions
of PCPs, and 28.7% for admissions of other generalists;
P < .001)

 

さらに、ホスピタリストとその他のジェネラリストはより大規模の病院で診療している傾向がある

 admitted to large hospitals (54.2% of hospitalists’
admissions, 45.4% of PCPs’ admissions, and 50.8%
of other generalists’ admissions; P < .001).

 

〇結果 

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f:id:jyoutoubyouinsougounaika:20180521065420p:plain

プライマリケア医はコンサルテーションをホスピタリスト少し行っている。(relative risk, 1.03; 95%CI, 1.02-1.05; P < .001). 

その他のジェネラリストはホスピタリストよりコンサルテーションを行っている。 (relative risk, 1.06; 95%CI, 1.05-1.07;P < .001) 

 

平均在院日数はプライマリケア医 (5 days; IQR, 4-7 days) が診療したほうが、ホスピタリスト (5 days; IQR, 3-7days)や他のジェネラリストより少し長い(5 days;IQR, 3-7days).

 

プライマリケア医は(68.5%)ホスピタリストや (64.0%) 他のジェネラリストに比べて (62.1%; test of difference, P < .001) 自宅退院の割合が多かった

ホスピタリストに比べて、自宅退院のオッズ比はプライマリケア医 1.14 (95% CI, 1.11-1.17; P < .001) 、 他のジェネラリスト:0.94 (95% CI, 0.92-0.96; P < .001) 

 

ホスピタリストに比べて、プライマリケア医の再入院率は同様であった。

7 days (AOR, 0.98;95%CI, 0.96-1.01) and 30 days (AOR, 1.02; 95%CI, 0.99-1.04),

しかし他のジェネラリストの再入院率はホスピタリストに比べて高かった。

at 7 (AOR, 1.05; 95%CI, 1.02-1.07) and 30 (AOR, 1.04; 95%CI, 1.03-1.06) days.

 

30日時点の死亡率は、ホスピタリストに比べてプライマリケア医でよりも低く (AOR, 0.94; 95%CI, 0.91-0.97), 、他のジェネラリストではより高い (AOR, 1.09; 95%CI, 1.07-1.12).

 

〇解釈

ひとまず、ホスピタリストでもプライマリケア医でもないジェネラリストは全体的に予後が不良の傾向はありそう。

プライマリーアウトカムは死亡率ではないが、プライマリケア医では、他のジェネラリストに比べて死亡率は低い傾向。

プライマリーケア医は平均在院日数が長く、コンサルテーションも多めだが、明らかに家への退院は多い傾向があり。

 

〇限界

高齢者を対象としているので若年者に適応できない。

DRGデータなので、細かい臨床的な項目の評価が難しい

回帰分析をしているが、測定できてない因子が影響を与える可能性もあり、レジデントやナースプラクティショナーの関与は無視している

転院するような症例のなかで除外されているものもある。

などが挙げられている。

 

〇感想

米国の外来中心のジェネラリストであるプライマリケア医は、基本的に診療所で働きながら自分の患者が入院したら入院診療を自分で行うスタイルだった。。

しかし、専門分化が進む過程で診療所をしながら病棟を診るのに限界が来たので、病棟専属のジェネラリスト、つまりホスピタリストが出現したという経緯がある。

そのような経緯を考えれば、ホスピタリストのほうが病棟診療に関しては集中している分質の高い医療を提供できる可能性が高いと思われる。

ホスピタリストより、プライマリケア医のほうが死亡率が低いとのことだが、実際にホスピタリストのほうがICU患者や大規模病院の患者をより多く診ている傾向はある。

つまり、より重症の患者をホスピタリストが診ている分、死亡率がプライマリケア医よりも高くなっている可能性も否定できない。

それを調整してもホスピタリストのほうが死亡率が高い傾向があるのであれば、高齢患者であれば一人の医師が継続的に病棟および外来を診療するスタイルが予後を改善するという結論は言えるかもしれない。

また、ホスピタリストの入院診療の質の問題というよりは、外来主治医とホスピタリストの連携が不十分である可能性が考えられる。

なお、プライマリケア医のほうが在宅復帰率が高いというのは、大変納得がいって、ホスピタリストはすぐに在宅を諦めてしまう傾向があるかもしれない。

 

実臨床に生かすのであれば、病院総合医と家庭医の連携により継続性を担保することが重要であるということは言えそう

また小規模病院における外来~病棟まで継続的に患者さんに関われるスタイルは、 特に高齢者では予後を改善しうるかもしれない。これは実際の臨床の感覚とも合い小規模病院の将来性を感じることが出来る。

 

 

 

 

 

 

 

Case 15-2018: An 83-Year-Old Woman with Nausea, Vomiting, and Confusion

NEJMのケース

 

83歳女性の上気道症状が出現後の、下痢と嘔吐

その後全身倦怠感も出現

頭痛、視力の変化、胸痛、息切れ、腹痛はなし

リウマチ性の心疾患で、MSあり EF60%だが、Af,心不全、CKD,圧迫骨折もある。

MSに対しての手術の影響でMRに⇒肺高血圧とTRも合併

⇒その後M弁とT弁の置換術を行った ペースメーカーも入ってる

 

 the temperature was 36.9°C, the blood pressure 153/60 mm Hg, the pulse 64 beats per minute, the respiratory rate 18 breaths per minute, and the oxygen saturation 100% while the patient was breathing ambient air.

The weight was 39.2 kg, and the body-mass index (BMI; the weight in kilograms divided by the square of the height in meters) 18.7.

さらにしんどそうに見えると 覚醒してるが無気力と 神経所見も問題なし

粘膜は乾燥

JVD-

収縮期雑音あり S2亢進

Cracklesを下肺野に認める

腹部は圧痛なし

 

 

L/Dも特記事項なし 尿検査も問題なし インフルエンザも陰性

 

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感染、甲状腺、腎不全などいろんな鑑別が考えられるが。。

 

Crが1.2から1.6へと上昇している。

高齢者であり、特に薬剤の副作用が起こりやすい。。

特に、スピロノラクトンジギタリスは危険。

スピロノラクトンでは、失調、混乱、嗜眠、高カリウム血症、悪心、嘔吐、下痢、および急性腎障害を認める。

またジギタリスは、めまい、吐き気、嘔吐、下痢、脱力、および視覚障害を認める。

 

最も、当てはまるのはジギタリス

 

心電図

 

ペースメーカー電位  右脚ブロック+心室応答

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〇診断

ジギタリス中毒。

 

やはり、高齢者でポリファーマシー、腎機能障害がある場合は、薬剤の副作用を考えるべし。

特発性正常圧水頭症(NPH)のレビュー

Idiopathic Normal Pressure Hydrocephalus

 

. 2016 Jan-Dec; 2: 2333721416643702.
Published online 2016 Apr 20. doi:  10.1177/2333721416643702

 

特発性正常圧水頭症iNPH)は、潜在的に可逆的な神経変性疾患である。

認知症、、歩行、および尿失禁の3徴を特徴とする。

診断と治療の進歩によって、患者の症状を適切に特定し改善されるようになった。

しかし、大部分のiNPH患者が未診断か誤診断されているままである。

PubMed検索エンジンを使用して、「正常圧水頭症」、「診断」、「シャント治療」、「バイオマーカー」、「歩行障害」、「認知機能」、「神経心理学」、「画像」および「病院」というキーワードで検索した。

このレビュー記事の目的は、iNPHの病因、診断および治療に関する最新の知見について、プライマリケア医の理解を助けることである。

 

〇導入

水頭症は過剰な脳脊髄液の貯留と定義される

水頭症の原因として、閉塞と交通性が挙げられる。

正常圧水頭症は、外傷、髄膜炎、SAHによる二次性とは区別される。

水頭症は、たいがい特発性である。

NPHは可逆性の認知症として発症しうる

NPHは、かつて報告されていたより多い

 

〇病態生理

特発性NPHの病態生理は議論の余地があるが、よく解明されていない。

CSFの動態と抵抗性、脳実質の変化、および血管異常などが考えられている。

複数の研究により、iNPHにおける脳脊髄液の灌流の関連が示唆されている。

特定の研究によると前頭葉視床、および基底核などの、脳白質における血流の減少が示唆される。
これらの研究の中で、臨床的改善に伴う脳血流量(CBF)増加が示唆された。

最近の研究ではタップテストによる歩行の改善は、脳血流増加によることも示唆されている。

さらに静脈洞における静脈のコンプライアンスも低下している。

 

〇診断

臨床症状のみで他の神経変性疾患と鑑別することは困難である。

臨床、神経所見、画像から総合的に診断する必要がある。

 

・臨床徴候

歩行障害、認知機能障害、失禁の3徴が際立っている。

それらは徐々に進行するが、最初は歩行障害で発症することが多い。

Wide baseで歩幅が小さく、歩行の最初が難しい。

歩行の指標は、オランダの水頭症の試験で使用したスケールが知られている。

他には、Berg Balance Scale, Functional Reach Test, Timed Up and Go Testが知られている。

パーキンソン病との区別が難しい。

以下パーキンソン病NPHの違い

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NPHはBroad basedでMagneticの歩行だが、PDは小刻み歩行。

Arm swingはIPHでは保たれるが、PDでは低下する

どちらもターンが難しいが、PDではbloc turnを伴う

NPHでは足も外側に開くが、PDではそのようなことはない。

 

パーキンソン病の歩行

www.youtube.com

 

NPHの歩行

www.youtube.com

 

NPHでは前頭葉障害と反応性の低下で認知症を発症する

排尿筋の過活動が尿の障害をきたす

尿切迫、頻尿、夜間尿を先に認める

3徴が現れるのは60%のみで、他に不安やアパシー、異常な運動の亢進なども認められる。

 

〇認知機能

神経心理学的な検査は、他の認知症NPHを区別するのに有用である

NPHではアルツハイマーに比べ前頭葉障害や不注意が記憶障害よりも前面に来る

集中力低下や、反応性がゆっくりになることが多い。

しかし、最も大切な認知機能検査の役割はシャントによる前後の改善を測定することである。

MMSEは有用だが、実行機能の評価には不適である。

Montreal Cognitive Assessment (MoCA) やAddenbrooke’s cognitive examination が挙げられる。

 The Executive Interview(EXIT 25) は 25のアイテムを使った試験であり、NPHに有用である。

 

*個人的な意見 

NPHにおいて前頭葉機能評価するならFABが使いやすいのでは。

実際、下記の論文ではFABはNPHにおいてタップテストで改善するかの指標として、有用とされている。

 2017;77(5-6):327-332. doi: 10.1159/000472712. Epub 2017 May 5.

Frontal Assessment Battery and Cerebrospinal Fluid Tap Test in Idiopathic Normal-Pressure Hydrocephalus. - PubMed - NCBI

 

 

〇画像

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A、Bは正常

C、DはNPHを示唆。 脳の萎縮でも脳室は拡大するが、Dの写真ではBと同様に脳溝の萎縮は認められない

 

脳脊髄液の閉塞を疑う所見がないにも関わらず、脳室が拡大していることが特徴的。

正常圧水頭症ではEvans indexが大切。

Evans index(両側側脳室前角間最大幅/その部位における頭蓋内腔幅)は0.3を超えるとNPHを示唆される

Normal pressure hydrocephalus  より引用

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 しかしEvans indexは、あくまで脳室が拡大しているという所見に過ぎないので、NPHの診断において過信しすぎない

アンバランスなクモ膜下腔 disproportionate enlargement of the subarachnoid space (DESH) ≒ 左右の拡大がある割に上の脳溝が詰まっている

冠状断でCallosal angle>40もNPHを示唆

Callosal angle | Radiology Reference Article | Radiopaedia.org

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〇治療

脳室腹腔内シャントがメインの治療法

カテーテルにも種類がある。

70歳未満であればシャントの効果が期待できる

併存疾患、心血管疾患、長期間の罹患などがあると治療効果は乏しいかもしれない。

正常なシルビウス裂、脳室周囲の高信号を伴わない、小さなcallosal angles、DESH、広いtemporal horns などがあるとシャントが効果的である可能性が高い。

他には、stroke volumeの上昇はシャントが効果的であることと関連してる

MRI所見がiNPHを示唆するときに、タップ試験はシャントの効果の予測に使用できる。 30~60mlの髄液除去後に臨床的に改善する場合は、シャントが効果的であると予測できる。

しかしながら、タップ試験で改善しなくても、シャントで効かないとは言えない。

72時間の間ドレナージし続けることは、治療のより良い予測因子である。