コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

亀田総合病院で 「誤嚥性肺炎のABCDEアプローチ」 レクチャー+見学に伺いました! 

 亀田総合病院の総合内科に伺うことが出来ました!

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亀田の総合内科は言わずと知れた名門の総合内科で、部長の八重樫先生のご配慮で見学をさせて頂きました。

入院患者の規模が80人と総合内科としてはかなり規模が大きい印象でした。

朝のカンファレンスも非常に教育的でした。

症例に対するフィードバックが医学的に妥当であることは言うまでもなく、八重樫先生のティーチングスタイルが非常に支持的で大変勉強になりました。

その後回診にも同行させていただきましたが、ベットサイド診察を重視されていて、やはり基本は大事だなと再認識できました。

同行した後期研修医の先生も非常に優秀で好感が持てました。やはり名門だけあって基本的な内科のレベルが高いなと感心しました。

その後、ランチもご一緒させていただき、オーシャンビューの見える最上階のレストランでお話を伺うことが出来ました。

八重樫先生の米国時代の御苦労なども聞くことが出来て、大変意義深い時間になりました。

 

午後からは丸太町病院時代の同期の桂井先生についてリハビリテーション病院に伺いました。

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世界的に有名な建築家による設計でシンプルながら美しい建物でした。

回復期リハビリテーション病院はなじみがなかったのですが、病棟もリハビリをする場として設計されていたことが印象的でした。

急性期病院であっても病棟でリハビリを出来る設計作りは大切だなと考えていたところ、リハ医の宮越先生のお話を聞くことが出来ました。

亀田の本院でも急性期病棟でリハビリが出来る場所を設けているとのことで感心しました。

また医師がリハビリに積極的に関与できない病院ではセラピストも慎重になり、リハビリ室に降りれるぐらい状態が落ち着いていなければ離床が出来ないこともあると仰っていたことが印象的でした。

回復期だけでなく、急性期病院にも桂井先生と宮越先生の2人のリハ医がいるのは亀田の強みで素晴らしいなと思いました。

ただしリハ医の人数は充足しているわけではないので、総合診療医がリハの素養を持つことが大切だと改めて認識できました。

総合診療とリハは生活を起点にするという点で非常に親和性があります。

 

その後、桂井先生の嚥下造影も見学させていただきました。

嚥下造影を教えて貰ったことがなかったので大変勉強になりました。

ただ、食事形態、ポジショニング、食事介助方法を意識しながらフードテストを行うことと基本的にはやることは変わらないと感じました。

とても、総合診療医にも親和性が高い検査でもっと取り入れたいと感じました。

 

 

 その後、誤嚥性肺炎のABCDEアプローチの講演をさせて頂きました。 

 

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ABCDEアプローチの概要は以下の通りです。

 

A  Acute  problem       急性疾患の治療
B  Best (position/assist)     体位と食事介助
B Best meal form        食事形態
C  Care  of  oral         口腔ケア
D  Drug / Disorder of Neuro    薬剤/神経疾患
D  Dementia/Derrium      認知症/せん妄
E  Energy           栄養
E Exersice           リハ

 

急性疾患の治療では、充分量の抗菌薬を使いつつ合併する心不全COPDののマネージメントも適切に行うことをお伝えしました。

 

今回は体位と食事介助について特に強調することが出来ました。

桂井先生に協力していただき、悪い姿勢と悪い食事介助で食べたときにどうなるかというのを、研修医の先生に実体験してもらいました。

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頸部を後屈し、滑り座りにして、接地しない状態で食事介助を全く配慮せずに食べれば、エンゲリードのような嚥下用ゼリーであっても健常者でも嚥下が危ないことが分かっていただいたと思います。
いわんや、高齢者おやです。
いかにポジショニングをしっかりして適切に食事介助をするかが大切ということだと思います。
 
〇ポジショニングのポイント
頸の力みを助長しない(頸部も隙間を埋める)。
過剰な隙間を作らないようにする。
滑り座りにならない。
足は降ろして、接地させる。
やや前屈位にする。
 
 
〇食事介助のポイント

スプーンは斜め下45度から挿入し、頸部が後屈しないように配慮する。

ゼリーはスプーンを舌の中央において軽く圧を刺激

口が閉じたことを確認した後に、スプーンを上唇に滑らせるように引き出す。

 

下記のイラストが分かりやすいです。

摂食嚥下障害について ヘルシーネットワークナビ

より引用

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食事形態では、日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013を押さえておきたいですね。

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嚥下評価に関しては、主に水のみテストと、フードテストをお話しさせていただきました。
 
改訂水飲みテストの概要は以下の通りです。

・冷水3mlを口腔にそそぐ

・嚥下を命じる

・反復嚥下を2回行わせる

 *リスクが高い場合はトロミ水で代用も
 
 
フードテストの概要は以下の通りです。

・ムース食、ゼリーを載せる

・嚥下を命じる

・反復嚥下を2回行わせる

 

シンプルにこれだけです。

先ほどの、ポジショニングと食事介助、および食事形態に気を付ける必要があります。

あとは、実施前には口腔ケアも徹底します。

 

〇評価基準(水飲みテスト、フードテストで共通)
1 嚥下なし、むせるまたは呼吸切迫
2 嚥下あり、呼吸切迫あり
3 嚥下あり、呼吸良好だが、むせか湿性嗄声
4 嚥下あり、呼吸良好、むせも湿性嗄声もなし
5 4に加え、反復嚥下が30秒以内に2回以上可能

*酸素飽和度の3%以上の低下は有意ととる。 

 

これで4以上つまりムセもなく、SpO2低下もなければ、その水 or  食事は安全に食べれそうであると判断できます。

以下のサイトがよくまとまっているのでご参照ください。

摂食・嚥下障害の援助│医学の友社 看護セミナー

 
 
でも、何より大切なのはSTオーダーをしたら、STさんに丸投げせず、ST評価に医師が立ち会うことであるとお伝えしました。
STさんから医師が学ぶことはとても多く、私も日々勉強させて頂いています!
 
 
 
 
口腔ケアに関してはOHAT(ORAL HEALTH ASSESSMENT TOOL)を話しました。
詳細は以下をご覧ください。

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これで、病的所見なら歯科依頼ですし、義歯不良、口腔不衛生、齲歯・残存歯も、歯科依頼をすべきという基準になります。
一目瞭然であり、医科歯科連携の有用なツールとしてご紹介しました。
歯科の先生方からの御意見も伺えて、とても勉強になりました。
 
 
神経疾患に関しては、特にレビー小体型認知症を見落とさないようにするという話をさせて頂きました。
レビー小体型認知症リスパダールなどが使われると薬剤性パーキソニズムになってしまい嚥下機能が著明に低下してします。
この場合はまずリスパダールなどのメジャートランキライザーの中止、減量をおこない、リバスチグミンやL-DOPAを導入することで劇的に改善する症例があるとお伝えしました。
また、せん妄予防も大切で認知機能を落とさないためにも離床を促し、昼夜逆転しないようにリズムを作ることが大切であるとお話ししました。
また日々の回診でもちゃんとここが病院で、今が朝の何時で、どのような治療ををして、どのような方針かを認知症であっても患者さん本人にお話しすることで回診を、せん妄予防も兼ねると話しました。
 
〇せん妄で介入できる項目
便秘/尿閉対策
メガネ 補聴器を付ける
安静を避け、離床する
抑制を避ける
不要な酸素カヌラを外す
不要な持続点滴やルートをやめる
不要な心電図モニターをやめる
不要な尿道カテーテルを外す
尿閉への対応
薬剤調整(特に抗コリン薬や、H2阻害薬などの中止)
部屋の明るさなどの環境調整
日付、カレンダー、 時計などを持ってくる
説明を十分する
家族の写真持ってきたり、家族の面談を促す
疼痛やかゆみのコントロールをする。
 
 
リハビリでは、セラピストに丸投げせず最低限のリハ指示を出来るようになることが大切だとお伝えしました。
ポイントは、目標設定と中止基準の設定です。
特に、心不全脳梗塞など不安定な患者さんでは、リハビリや症状の中止基準をちゃんと指示して、その範囲であればやってよいと責任を取ってあげるのが医師の仕事であるとお伝えしました。
また栄養はリハビリのバイタルサインであり、低栄養が問題であれば先に栄養の改善を重視して、リハビリは維持量にするということもお伝えしました。
低栄養でサルコペニアになり筋肉量が減っている状態でリハビリだけ強化しても筋肉量が落ちてしまいます。
炎症が落ち着いた頃からは必要に応じて、ビーフリードやイントラリポスを経口摂取が落ち着くまでは併用することの重要性もお伝えしました。
とはいえ、末梢静脈感染のリスクもあるため可能な限り短期間に留める必要もあり、ここは悩ましいところだと感じています。
 
ここでも、リハビリのセラピストに決して丸投げしないということを皆様と共有させていただきましたが、釈迦に念仏でした。。
亀田はリハビリのセラピストも優秀で、さらに院内に極めて優秀なリハビリ医がいるため、羨ましい限りでした。
総合内科とリハビリが有機的に連携出来るという意味でも素晴らしい環境なのかなと思いました。
同期の桂井先生のコメントも大変勉強になりました。
 
 
 
〇最終的に誤嚥性肺炎は多職種連携である。 
ここに尽きると思います。
実際に日本の論文で多職種による包括的介入をすることで、 1 年後無再発生存率が改善するという報告を紹介させていただきました。
 
 
下記のような多職種による包括的介入を行うと

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1 年後無再発生存率が改善します。

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つまり、誤嚥性肺炎は多職種連携が命であると言えるかもしれません。
下記のKTバランスチャートは多職種連携にも有用だとご紹介させていただきました。
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病院総合医は、誤嚥性肺炎にはじまり、誤嚥性肺炎におわるというメッセージを最後に申し上げ講演を終了いたしました。
本当に、亀田総合病院は素晴らしい病院で伺えて嬉しかったです。
総合内科もリハビリもコメディカルも素敵な方たちばかりでした。
ありがとうございました!
 
 
*追伸です。
八重樫先生に御指摘いただきました。
亀田では医師だけでなく薬剤師さんと看護師さんからも、ワクチン(ニューモバックスとプレベナーそしてインフルエンザ)が推奨されるシステムを作られたそうです。
それ以前からも総合内科では退院前の予防接種を推奨されており、昨年度は総合内科だけで1400本程度予防接種を接種されたそうです!!!(入院は400本)。
米国と同様に、肺炎患者さんには退院前に肺炎球菌ワクチンを接種しているかどうかを医療の質の指標(quality indicator)としてデータも取っていらっしゃるようです。
ワクチン、とても大切ですね。
インフルエンザの感染予防対策も徹底されており、改めて亀田の感染症診療の質の高さが分かり、とても勉強になりました!