コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

2ポイントの下肢静脈エコーでのDVT評価について

Serial 2-Point Ultrasonography Plus D-Dimer vs Whole-Leg Color-Coded Doppler Ultrasonography for Diagnosing Suspected Symptomatic Deep Vein Thrombosis
JAMA. 2008;300(14):1653-1659

 

【読もうと思ったきっかけ】

・技師さんが足全体を評価するのに比べて、自分が簡単にエコーを当てただけでDVTを否定してよいのか若干不安である

・外来の紹介患者さんでも「今日は下肢エコー無理です」と言われることがあるが、本当に帰してよいのだろうか、と思うことがある

 

【Abstract】

背景:下肢DVTが疑われた場合、近位部の2点評価か、下肢全体のエコーが行われる。後者の方が腓腹静脈の血栓も描出できるので良いとされるが、術者の技術が必要であるし、日中の時間にしかできないことが多い。これまで2者を比較したRCTはなかった。目的:下肢DVTが疑われた外来患者のマネージメントにおいて2者が同等であることを評価する。対象・方法:初発の下肢DVTが疑われた2465名の患者に対して多施設でRCTを行った。3か月間フォローアップを行った。結果:3か月間のDVT発症率は同等であった。結論:2者は下肢DVTが疑われた外来患者の評価として同等の有用性である。

 

COI: D-dimerを計測する試薬を製造しているメーカーが無償で試薬の提供をしているが、研究デザインやデータ解析などには関わっていない。

 

 

A この試験の結果は信頼できるか
①その試験は焦点が明確な課題設定がされているか
P p1654  Patient

inclusion

All consecutive outpatients who were referred by the emergency department or a primary care physician to 1 of the 14 study centers (all ultrasound laboratories located in Italy) with a first episode of suspected symptomatic DVT of the lower extremities were eligible for inclusion. Patients were enrolled between January 1, 2003, and December 21, 2006, with study completion on March 20, 2007.

2003年1月1日から2006年12月21日の間に、初発の症候性DVTが疑われて救急科やかかりつけ医から紹介された、超音波検査室がある14病院を受診した外来患者

 

exclusion

pregnancy, age younger than 18 years, history of VTE, suspected pulmonary embolism, life expectancy of less than 3 months, ongoing anticoagulation (>48 hours), mandatory indication for anticoagulation (eg, atrial fibrillation), and geographic inaccessibility to follow-up.

 

 

I p1654 Study Outline, Intervention

Two-Point Strategy.

鼠径部で大腿静脈と、膝窩で膝窩静脈から腓腹静脈分岐部までを横断面で評価を行う。1回目のエコーで正常だった場合、D-dimer迅速検査を行う。陽性だった場合は1週間後に再度エコーを行う。

 

C

Whole-Leg Strategy

一度評価するのみ。

 

O

初期評価で正常だった患者の3か月以内の症候性のDVT発症率。

 

 

A②その試験は設定された課題に答えるための研究方法がとられているか?

Abstract

prospective, randomized, multicenter study

 

A③ 患者はそれぞれの治療群にどのように割り付けられたか?

P1654, METHDS Randomization

arranged by blocks of 10 patients to ensure balancing

 

A④研究対象者、現場担当者、研究解析者は目隠しされている?

P1654, METHDS Randomization

The investigators had to contact the coordinating center by telephone to obtain the patient's group allocation.

対象者、検査者は目隠し不可。解析者も目隠しされていない。

 

 

A⑤研究にエントリーした研究者が適切に評価されたか?

P1655 Sample Size Calculation and Statistical Analysis

we performed a sensitivity analysis.  →intention to treatではない。

A⑥研究対象となった介入以外は両方のグループで同じような治療がされていたか?

P1657 Table1

2-point群でやや喫煙、4週間以内の手術が多いかも。

 

A⑦その研究のための対象患者数は偶然の影響を小さくとどめるのに十分な数か?

We calculated that a sample size of 796 patients in each group would satisfy these requirements, with an 80% power if the proportion of events during the 3-month follow-up was 1% in both groups. Assuming an initial prevalence of DVT of up to 25%, we calculated that we needed to enroll at least 1050 patients in each group

過去の観察研究ではthe 2-point strategyでフォロー中の発症率はおよそ1%とされる。the whole-leg strategyは腓腹静脈の病変まで検出できるのでフォローアップ期間のDVT発症は少ないと予測される。差が1.5%までは同等であると評価するならば、80%で検出するには各グループに796名が必要。初めの有病率が25%とすると、各群1050名が必要である。

 

B結果は何か?
B⑧a 結果はどのように示されたか? 

・初期評価でのDVT有病率

the 2-point strategy, 231 (22.1%;95% CI, 19.6%-24.6%)

the whole-leg strategy, 278 (26.4%; 95% CI, 23.7%-29.1%)

the whole-leg strategy で有意に多かった。absolute difference, 4.3%;95% CI, 0.5%-8.1%

 

・フォローアップ期間での発症率

the 2-point strategy;0.9% (95% CI, 0.3%-1.8%)

814名が割り付けられ、9 名が死亡(cancer (n = 5), brain hemorrhage (n = 1), ischemic stroke (n = 1), myocardial infarction (n = 1),and heart failure (n = 1))、4名がlost to follow-up。

16名が症候性VTEが疑われて受診し、7名がエコーで異常があり、9名は異常がなかった。3か月間症状がなかったその他の参加者は、189 名が受診して症状がないことが確認され、596名が電話で症状がないことが確認された。

the whole-leg strategy;1.2% (95% CI, 0.5%-2.2%).

775名が割り付けられ、7名が死亡(cancer (n = 5), massive trauma (n = 1), myocardial infarction (n = 1))。5名がlost to follow-up。

21名が が症候性VTEが疑われて受診し、9名がエコーで異常があり、12名は異常がなかった。3か月間症状がなかったその他の参加者は、172名が受診して症状がないことが確認され、570名が電話で症状がないことが確認された。

 

b 有意差はあるか?
両者の差は0.3% (95% CI, −1.4% to 0.8%)であり同等であった。

 

c 副作用は

記載なし。たぶんない。

 

C臨床にこの結果はどのように応用できるか? 

研究デザインがブラインド化されていないなどの問題がある。アウトカムがmortalityではなく、PE発症でもないので本当に意味があるのかもわからない。

外来で下肢浮腫のため近医から紹介や他科依頼のように、「D-dimer陰性だけで返すのも申し訳ないし一応やっとくか」くらいの事前確率が低い人、技師さんの下肢エコーがすぐにはできない場合には、わざわざ技師さんにエコーを依頼せずに2点+D-dimerの評価で良い気がする。ただし、日本にないキットなのでD-dimerのカットオフが不明。