副腎不全のマニュアル
〇病歴
・倦怠感・脱力感・易疲労、食欲低下・消化器症状(悪心、下痢、腹痛)を高頻度に認める。
Intern Med. 1994 Oct;33(10):602-6
・抑うつなどの精神症状や意識変容、行動異常も認められうる。
・全身の痛みや関節痛を認めることもあり、リウマチ性多発筋痛症や関節リウマチと見誤られうるが、夕方に症状が悪化するのが鑑別点である
・塩分への欲求は原発性副腎不全に特徴的な病歴である。
〇身体所見
・血圧は低いことが多く、SBP>130mmHgは稀であり、起立性低血圧を認める。
・女性では月経異常に加え、腋毛や恥毛の脱落をきたす。
・原発性副腎不全における色素沈着は乳頭、口腔粘膜、手の皺、手術跡で高頻度に認める。
・二次性副腎不全を疑えば、下垂体腺腫を念頭に視野欠損と脳神経をチェックする。
〇検査
・低ナトリウム血症、高カリウム血症、好酸球増多、低血糖を認めるが、感度は高くない。
・副腎不全を疑えば、早朝コルチゾール値とACTH測定をまず行うが、判断に迷えば迅速ACTH試験も必ず行うべきである。
・ACTHは原発性副腎不全では著明に高値(ACTH≧100pg/ml)となるが、二次性・三次性と健常者の鑑別は難しい。J Clin Endocrinol Metab. 1992 Jul;75(1):259-64.
早朝コルチゾール J Clin Endocrinol Metab. 1994 Oct;79(4):923-31. J Clin Endocrinol Metab. 1998 Jul;83(7):2350-4
・早朝のコルチゾール≦3μg/dLであれば副腎不全と考え、早朝コルチゾール≧18μg/dLであれば副腎不全は否定的である。
・それでも疑わしければ迅速ACTH試験を行う。
迅速ACTH試験
・原発性副腎不全に対しては優れた診断特性を有する一方、発症早期の二次性・三次性副腎不全に対する感度は低い。
・迅速ACTH試験が正常でも、二次性・三次性が疑わしければメチラポン負荷試験かインスリン負荷試験を行うべきとされているが、やや煩雑である。
・現実的にはコルチゾール値、ACTH値、迅速ACTH試験から二次性・三次性が疑わしく、下垂体MRIで明らかな異常があればその地点で専門家にコンサルトしても良い。
〇治療 Lancet 2014; 383: 2152–67 , Up to Date(Treatment of adrenal insufficiency in adults)
・半減期の短いヒドロコルチゾン(コートリル)は副作用が少なく推奨される。
・原発性では20-25mg/day、二次性・三次性では15~20mg/dayのヒドロコルチゾンが目安で、1日2~3回に分けて投与する。
ステロイドの力価換算 Up to Date(Treatment of adrenal insufficiency in adults)
等価量 |
糖質コルチコイド作用 |
硬質コルチコイド作用 |
効果持続時間 |
|
ヒドロコルチゾン |
20mg |
1 |
1 |
8-12時間 |
5mg |
4 |
0.8 |
12-36時間 |
|
メチルプレドニゾロン |
4mg |
5 |
0.5 |
12-36時間 |
0.75mg |
30 |
0 |
36-72時間 |
|
*ベタメタゾンはデキサメタゾンとほぼ同じ動態である |