コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

HINTSなどのまとめ。

HINTSはBPPVには使わないというイメージがありましたが、実際にどうなのか?

HINTSの有名な論文を改めて見てみました。

 

 

 Acute vestibular syndrome  N Engl J Med. 1998 Sep 3;339(10):680-5.

 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9725927

なお、古典的なAcute vestibular syndrome(AVS)のレビューでは、AVSの鑑別にBPPVを挙げている。

そもそもAVSの定義は以下の通り。

重度のめまい、吐き気、嘔吐、自然に発生する眼振、姿勢の不安定性を伴う症候群

 

中枢性の眼振と末梢性の眼振を見分ける方法も記載されており、末梢性眼振ではどの方向に向いても一定方向に眼振を認めるが、中枢では注視方向が変わることで眼振の方向も変わるとされていた。

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そして、実際の身体所見で末梢性か中枢性かを見分けることが出来るかを検証したのが以下の論文で、HINTSという身体所見の感度・特異度を記載したランドマークスタディとして知られた論文。

https://www.ahajournals.org/doi/full/10.1161/STROKEAHA.109.551234

 

HINTSは以下の3つの所見を組み合わせた手技である。

①Head-Impulse

②Nystagmus

③Test of Skewの3つの合わせ技。

 

 Head-Impulse testについては下記動画を参考に 

https://www.youtube.com/watch?v=JD75Ulas9Y8

末梢性パターンであれば、瞳孔が流れて戻るが、中枢性パターンや正常の場合は眼球が流れないという結果になりる。

Head impulse testで末梢性パターン、方向交代性眼振なし、斜偏倚なし⇒中枢性は否定的と判断。

*方向交代性=右を向いたら右向き、左を向いたら左向きの眼振がでる

*斜偏倚⇒いわゆる斜視になる状態 ここで注意点。

 

 

同論文でAVSの定義は以下の通りで、眼振は数日から数週間継続すると。

Acute vestibular syndrome (AVS) is characterized by the
rapid onset (over seconds to hours) of vertigo, nausea/
vomiting, and gait unsteadiness in association with headmotion
intolerance and nystagmus lasting days to weeks.

 

 

本研究のinclusion criteriaは AVSであり、以下のようにっている。

rapid onset of vertigo, nausea, vomiting, and unsteady gait with or without nystagmus

つまり、眼振の有無にかかわらず急性発症のvertigoがあり、嘔吐を認め、歩くのが不安定な患者と言うこと。

 

exclusionは以下の通りです

Excluded were subjects with a history of
recurrent vertigo with or without auditory symptoms

よって、vertigoを繰り返している患者は除外されている。。

 

ということはBPPVもAVSに含まれる可能性はありそうだが、BPPVの持続時間は数日も続かないので、BPPVはHINTSの研究の対象にはなりにくい??

実際に末梢性めまいだった場合、どんな疾患が多かったかの記載は見つけられませんでした。

 

なお、本論文でのHINTSの診断特性は以下の通りで頭部MRIよりも診断特性がよいとされている。

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なお、各所見のまとめは以下の通り。

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 ⇒HINTSの他にも眼球運動や瞳孔を含めた神経学的異常や、座位保持すら難しいつまり明らかな体幹失調は当然、中枢性を示唆。

 

 

ちなみに、HITは前下小脳動脈領域の内耳の虚血では、末梢神経障害パターンになることが知られていますが、その場合は原則として蝸牛症状を認める(逆に、言えば急性発症の蝸牛症状を伴うAVSは脳梗塞が否定できないということ。)

実際に末梢性めまいで最も頻度が高い前庭神経炎とBPPVでは蝸牛症状は認めない。

HINTSが末梢神経パターンに加えて、蝸牛症状がなければ末梢パターンであると戦略がHINTS-plusで下記の論文で診断特性が示されており、HINTSよりもより診断特性が優れる傾向。

https://n.neurology.org/content/83/2/169.long

 

 

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別のレビューからHINTS plusの診断特性は良好(右端のHINTS+Batteryのこと)

https://www.ahajournals.org/doi/pdf/10.1161/STROKEAHA.117.016979

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でも、実際のところどうなのか?

AFPのレビューでは、めまいのアプローチは以下の通り。

https://www.aafp.org/afp/2017/0201/p154.html

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これを見ると、持続性か発作性かで分かれていて、HINTSは持続性の場合でのみ使用するというアプローチになっている。

 

 

またより最新の別のレビューを見ると以下の通り。

https://www.ahajournals.org/doi/pdf/10.1161/STROKEAHA.117.016979

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やはりHINTSは持続性の場合でのみ使用すると。

発作性で誘因がある場合は、BPPVと起立性低血圧を念頭に、Dix hallpike(おそらく、Spine rollも行うべき)と、起立性低血圧をチェックすべきと。

Dix hallpikeで非典型的な眼振を認めれば頭部MRIでの精査を考慮すべき

持続性の眩暈で、外傷や中毒によらない場合は、HINTS plusでマネージメントを決定すべきとのこと。

 

triggered episodic vestibular syndrome (t-EVS), spontaneoustriggered episodic vestibular syndrome (t-EVS), spontaneousEVS (s-EVS), traumatic/toxic acute vestibular syndrome(t-AVS), and spontaneous AVS (s-AVS).2 Most TIAs presentwith s-EVS and most strokes or hemorrhages present withs-AVS but there are exceptions (Table 1).

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実際に本文に下記の記載あり。

Of note,HINTS only applies to patients with s-AVS (or s-EVS while
the patient remains acutely symptomatic41), including spontaneous
or gaze-evoked nystagmus; HINTS should not be relied
on in patients who have other syndromes, particularly t-EVS,
where normal head impulse test results would erroneously
imply stroke in the majority with BPPV. Pitfalls and pearls
in the diagnosis of stroke in acute dizziness and vertigo are
described in Table 3

 HINTSは明らかな誘因がある発作性の眩暈には、使わないと。

BPPVではHINTSは脳梗塞疑いという判断になってしまうと。

これは実際の臨床感覚にも合うし、BPPVで全く眼振が無くて症状がないときにHITを行っても正常だろうなという感じ。

 

 

めまい診療のピットフォールは以下の通り

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回転性めまいだから末梢性としない

頭を動かしたらめまいが増悪するから末梢性としない

蝸牛症状があるから末梢性としない

頭痛と眩暈が一緒になるから、めまいを伴う片頭痛と即断しない。

眩暈しかないからTIAではないと言わない。

脳梗塞に伴う眩暈は、四肢失調や神経学的症状を認めるはずだと言わない。

若年者だから脳梗塞じゃなくて、片頭痛だと安易に言わない

CTは眩暈診療において脳出血を除外するために絶対に必要と言わない(脳出血で眩暈を伴うのは少数)

後方循環系の脳梗塞を除外するためにCTが有用だと言わない

(特に発症24時間以内は)MRIが陰性だから、後方循環系の脳梗塞を除外したと言わない。

 

とのこと。

やはり、神経学的診察とリスクの評価、Dix-hallpike(Spine roll)とHINTS plusが重要か。

ただし、HINTS plusが末梢性パターンでも小脳脳梗塞だったという報告もあり。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsnecc/29/2/29_25/_pdf/-char/ja

 

やはり総合的な判断が必要と言うことか。

ちなみに、個人的には

「歩けない眩暈は帰すな。」

「今まで経験がない、眩暈+難聴は、頭部MRIと耳鼻科コンサルトが必須」

というパールがあると考えております。

 

めまいは以下の特集がお勧め。