ジャーナルクラブ 潜在性肺結核に対する治療 4ヶ月のリファンピシンと9ヶ月のイソニアジドの比較
【Four Months of Rifampin or Nine Months of Isoniazid for Latent Tuberculosis in Adults】
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1714283
N Engl J Med 2018;379:440-53.
結核は国際保健上の重要な問題であり、2015年には全世界で1040万例が新たに発症するとされている。更に、全人口の4分の1が潜在性結核を有していると推定されており、潜在性結核の治療は先進国におけるEnd TB Strategyと結核撲滅計画の重要な部分を占めるとされている。
WHOを含む多くの保健機関は潜在性結核の治療としてイソニアジドの6か月または9か月投与を推奨している(長いほうが防御効果が高い)。しかし、レジメンの完遂率が低いことや肝毒性のために、イソニアジドの優位性は低下している。複数の観察研究では、9か月のイソニアジド投与より4か月のリファンピン投与の方が完遂率の高さや肝毒性の低さの点で優れていると報告している。
これはリファンピンの4か月レジメンとイソニアジドの9か月レジメンの有効性を比較した第3相試験である。
- PICO
P
Inclusion
オーストラリア、ベナン、ブラジル、カナダ、ガーナ、ギニア、インドネシア、サウジアラビアおよび韓国の訓練された医療機関でモニタリングされツベルクリン反応またはIGRA(Interferon-γ-release assay:インターフェロンγ遊離試験)が陽性となった、活動性結核のリスクがあると考えられる18歳以上の患者
- HIV陽性、TNFα阻害薬を開始する、または移植抗拒絶反応薬を内服中(TST≥5 mmまたはQFT +)
- 週4時間以上、1週間以上の活動性結核患者(治療されているものは含まない)との濃厚接触歴(TST> 5 mmまたはQFT +)
- 肺尖部または上葉の2cm^2以上の線維性病変(TST> 5 mmまたはQFT +)
- 2年以内のツベルクリン反応陽転化(6mm以上増大し、TST> 10mmまたはQFT +となる)
- 糖尿病、腎不全、あるいはその他の疾患や治療による免疫不全状態(TST> 10mmまたはQFT +)
- 活動性結核患者との、週4時間未満の軽微な接触(TST> 10mmおよびQFT +)
- 2-5年間でツベルクリン反応が陽転化(10mm以上の増大またはQFT +)
- 以下の4つの基準のうち 2つ+TST=10-14mm、または 1つ+TST >15mm
8a. WHOによる結核発症率が100,000万人中100人を超える地域からの、カナダ、オーストラリアまたはサウジアラビアへの移動
8b. BMI <19
8c. 過去の結核感染に矛盾しない胸部X戦写真の異常(石灰化肉芽種、肺門リンパ節腫脹、CP-angle鈍化)
8d. 1日10本以上のcurrent smoker
Exclusion
- イゾニアジドおよびリファンピンどちらかに耐性の結核菌が検出された活動性結核患者との接触がある患者
- リファンピンによって効果が減弱する抗レトロウイルス薬を内服中で、それを変更できないHIV患者
- 妊娠中あるいは妊娠を計画している
- どちらかの薬剤と重大な相互作用がある薬剤を使用している患者
- どちらかの薬剤にアレルギー歴あり
- 活動性結核
- すでに潜在性結核の治療が開始されている患者
I 10mg/kg(最大600mg)のリファンピンを4か月間毎日内服
C 5mg/kg(最大300mg)のイソニアジドをビタミンB6(ピリドキシン)と共に9か月間毎日内服
O
Primary outcome:
ランダム化から28か月以内の、両群における活動性結核発生割合の比較
Secondary outcomes:
・両群間の発症率(incidence rate: person/100 person-year)の比較
・治療を完遂した患者において、per-protocol解析での発症率(incidence rate: person/100 person-year)の比較
・グレード3-5の有害事象(治療経過中またはリファンピンレジメンの120%の期間内に発生した、審査委員によって薬剤関連とみなされたもの)の累積発症の比較
・治療完遂率の比較(少なくとも全レジメンの80%と定義)
・薬剤耐性結核の発症率(incidence rate: person/100 person-year)
- ランダム割付されているか?ランダム割付の方法は?
コンピューターを用いた中央割り付け法で、ブロック法を用いている(ブロックの大きさは2−8で変動? よく分からない)。両群の割合が1:1になるように層別化している。(本文中に層別化の詳細はなし。”protocol”中に、患者集団の特徴、結核のリスク、LTBI治療開始時および中止時における医師の普段のプラクティスなどで層別化したと記載あり。)同一家庭内で同じ週にenrollされた接触者たちは、同じグループに割り振られた。
- ベースラインは同等か?
table 1を見ると、記載されている項目では両群間に優位な差はなさそう。本文中には両群間の差については言及なし。
- 研究対象となった介入以外は両方のグループで同じような治療がされていたか?
それぞれのレジメン以外の治療については特に言及なし。
- 研究対象者、現場担当者、研究解析者は目隠しされている?
オープンラベル試験である。解析者は目隠しされていると記載あり。
- ITT解析か?
Primary outcomeについてはmodified intention-to-treat解析されている。非劣勢試験と考えると、per-protocol解析も重要。
- その研究のための対象患者数は偶然の影響を小さくとどめるのに十分な数か?
リファンピンのイソニアジドに対する優越性試験とした時、powerを80%、α levelを0.05としてそれぞれの群に3283人必要と計算した。loss to follow-upが15%いるとして、第2相試験で既に両群にランダム割り付けされている847人を計算して、登録を6800人に増やすことにした、と記載あり。
この数は、2群間の累積発症率の最大許容差を0.75%ポイントとして、リファンピン4か月レジメンの非劣勢を示す場合に90%以上のpowerを持つ。先行研究から、未治療の濃厚接触者およびハイリスク者の28か月累積発症率を3%、イソニアジド9か月レジメンの予防効果を90%、リファンピン4か月レジメンの許容可能な最小有効性を65%(イソニアジド6か月レジメンから得られ、以前は広く許容されていた数字)として、これらに基づいて計算された。
Figure 1.を見ると、この第3相試験でランダム割り付けを受けたのは6063人であり、数は少し足りない?第2相試験の847人を足して6800人を超えていると言いたいのか?それだとloss to follow-upの計算が合わないので、少し足りないのだろう。しかし、数としてはまずまず。結果的に、loss to follow-upが思ったより少なかったので大きな問題にはならない。
- 結果は?
- 結果に有意差はあるか?
- 副作用は?
Primary outcome:
イソニアジド群でmodified intention-to-treat解析を受けた3416人中、9人が活動性結核を発症(4例が微生物学的に証明され、5例は臨床的に診断)
リファンピン群でmodified intention-to-treat解析を受けた3443人中、8人が活動性結核を発症(4例が微生物学的に証明され、8例は臨床的に診断)
Secondary outcome
・両群間の発症率(incidence rate: person/100 person-year)の比較
イソニアジド群 0.05 cases per 100 person-years
リファンピン群 0.05 cases per 100 person-years
→Rate Difference <0.01 (95% CI: −0.14 to 0.16) 有意差なし
・治療を完遂した患者において、per-protocol解析での発症率(incidence rate: person/100 person-year)の比較
イソニアジド群 0.11 cases per 100 person-years
リファンピン群 0.09 cases per 100 person-years
→Rate Difference −0.02 (95% CI: −0.30 to 0.26) 有意差なし
・グレード3-5の有害事象(治療経過中またはリファンピンレジメンの120%の期間内に発生した、審査委員によって薬剤関連とみなされたもの)の累積発症の比較
イソニアジドの投与期間がリファンピンより長いことを差し引いても、有害事象のリスク差に有意差あり。
・治療完遂率の比較(少なくとも全レジメンの80%と定義)
イソニアジド群1890/2989人 規定の期間内に完遂1727人
リファンピン群2382/3023人 2136人
→有意差あり(P <0.001) →有意差あり(P <0.001)
・薬剤耐性結核の発症率(incidence rate: person/100 person-year)
incidence rateに関しては記載なし。活動性結核が微生物学的に確認された8例のうち、感受性検査が施行されたのは4例だけであった。薬剤耐性結核はイソニアジド群で1例(イソニアジド耐性)、リファンピン群で1例
Limitations
オープンラベル試験ではあるが、「リファンピンであれば4か月ですむ」というところがアウトカムに大きな影響を与えているので、無理にブラインドにしなくても十分効果は示せていると考える。
想定していたより活動性結核の発症数が少なかったことは、結論の強固性を低下させるかもしれない。治療を途中でやめてしまった群でも中央値3か月程度はイソニアジドを内服しており、これがある程度の有効性を持っているせいかもしれない。また、活動性結核を発症するリスクが高いHIV患者が他の研究よりも少なかったことが影響しているかもしれない。
- 臨床にこの結果はどのように応用できるか?
まずはどのような患者で潜在性結核の治療適応があるかをしっかりと学ぶことが大切。日本の現行のガイドラインではイソニアジドを優先することになっているが、今回の結果を受けると今後状況が変わってくるかもしれない。少なくとも非劣勢でありそう、というのは頭に入れておいて損はない。