COVID-19における抗凝固療法
COVID-19において抗凝固療法の有用性は?
ICUセッティングでは抗凝固療法のエビデンスが確立しており、基本的には出血リスクがなければ抗凝固療法を行うというのが世界のスタンダード。
日本ではDVTのリスクは米国とかに比べれば少ないだろうけど、その戦略はほぼ日本のICUでも行われている印象。
下記のレビュー記事から。
少なくともプラセボと比較して重症患者での抗凝固療法の効果は明らか
ではCOVID-19における抗凝固療法はどうすべきか?
Up to Dateによると入院が必要なCOVID-19の時点で抗凝固療法を推奨
COVID-19と抗凝固療法の以下のレビューでも同様の推奨
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/00325481.2021.1891788
少し興味深いのはD-dimerはCOVID19では高くなりがちだけど、DVT合併したらさらに高くなると
またD-dimerはそもそも重症のCOVID-19の指標であり、重症例は抗凝固療法が少なくとも予防量では必要
ということでD-dimerが高ければほぼ間違いなく抗凝固療法が必要になるよう。
そもそもガイドラインでもCOVID-19の入院症した時点で、基本的には抗凝固療法を推奨。しかし、PaduaスコアはCOVID19のリスク評価には有用でない可能性があり、今後のstudyが必要みたいです。
基本的に各種ガイドラインも低分子ヘパリンを入院症例では少なくとも推奨
日本だと低分子ヘパリンが保険適応で使いにくいので現実的には酸素が必要な入院症例にはヘパリンCaを使用していますね。
ところでICU症例では治療量の抗凝固療法を、予防的に考慮してもよいと記載があります。
で、ICUセッティングのCOVID19に体重に応じた治療量の抗凝固療法を行う群と、予防量を比較するRCTが最近 JAMAから 発表されました。
P ICUに入室する重症のCOVID19
I Intermediate-dose(エノキサパリン, 1 mg/kg /日)
C 予防dose(enoxaparin, 40 mg /日)
O 複合エンドポイント(静脈血栓症または動脈血栓症、ECMO、30日以内の死亡)
デザインはオープンラベル 割付はわからずに解析
⇒デザインの特性上、問題はなさそう
多施設のRCT
80%の検出力でサンプルサイズを計算 サンプルサイズも足りている印象
modified ITTで脱落群も解析
結果は以下
ベースラインは両群で同等で、平均60歳で、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの併存症を持っている割合が高い集団
結果的に治療量の予防的抗凝固療法はprimary endpointの改善を示せず
4割前後が死亡する重症度が非常に高い集団
治療群ではmajor bleedingは2.5%,予防量は1.4%で odds ratio, 1.83 [1-sided 97.5% CI, 0.00-5.93])⇒非劣勢を示せず
血小板減少も治療群で多い
ということで重症例であってもCOVID-19に予防的に治療量の抗凝固療法を行うことは基本的には意味がなさそう。
もちろん、すでに発症していたら治療量が必要だが。
ただCOVID-19で入院したら全例に抗凝固療法を本当に行うべきかは不明。。
抗凝固療法を行わないというRCTは倫理的に難しそう。
日本人ではDVTリスクは低いので、COVID-19入院患者は全例に抗凝固を入れる必要はなさそう。
少なくとも酸素を使用していないCOVID-19でデキサメタゾンも使用しないような軽症例では不要な可能性もある(ただ現在は病床が厳しいので入院症例はほぼ酸素が必要なので、現在は入院症例では抗凝固が必要ということでよさそう)
今後、日本発のコホート研究のテーマになりそうですね。
なお、診療の手引にはD-dimerが正常上限を超える症例では抗凝固療法を考慮としか記載されておらず、全例で予防的抗凝固療法を行う必要は現時点ではないというスタンス
現状はエビデンスは乏しいですが以下のスタンスとしています。
・酸素が必要な中等症以上の症例でデキサメタゾン開始と同時にヘパリンカルシウム 5000単位1日2回投与 デキサメタゾンを中止するタイミングでヘパリンカルシウムも中止する
ただし、DVTリスクが極めて高い症例では個別に適応を考える必要がありますね。
なお、酸素が切れて退院が可能となればデキサメタゾンを内服していても抗凝固療法は中止してよいと思います。ただDVTリスクが高く出血リスクが低ければ、抗凝固療法の延長も検討します。
Dynamedには以下のように記載あり。
- anticoagulants should be given for the entire duration of hospitalization
- consider extended thromboprophylaxis in patients with high risk for VTE (for example, patients with reduced mobility, history of VTE, with co-existing conditions such as cancer, D-dimer level > 2 times upper level of normal, and age ≥ 75 years) if bleeding risk is low; consider rivaroxaban for 31-39 days
- 日本だと高齢という時点で抗凝固を続けるということは難しいですが。。
- その場合はDOACを推奨していますね。
なお、全くエビデンスはないですが、大阪のように酸素が必要で入院が必要なのに入院できないというセッティングでは基本的にはデキサメタゾンが必要になると思います。その場合もデキサメタゾンと同時に抗凝固療法を行うことが必要だと思われますが、在宅でのヘパリンカルシウムはハードルが流石に高いですね。。
保険適応外使用ですが、DOACも検討するかもしれません。
少なくともそのようなセッティングでも酸素が切れて動けるようになれば抗凝固療法は中止出来るかもしれません。