コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

マルチモビディティパターンとポリファーマシーの関係

Multimorbidity patterns in relation to polypharmacy and dosage frequency: a nationwide, cross-sectional study in a Japanese population | Scientific Reports

 

日本のマルチモビディティ研究におけるランドマークスタディなので読んでみました。

 

セッティング

この研究に使用されたデータは、2016年に実施された Norm Study から収集。 

Norm Study は、健康評価された生活の質、健康状態、医療利用、および人口統計学的特性に関するデータを収集するための全国横断調査。

16〜84歳の日本の一般人口の代表的なサンプルを選択。

サンプルが日本の人口統計分布を表すように、年齢、性別、および居住地域に関する割り当てを設定した。

データ収集は、69歳以下の患者にはWebベース、70歳以上の患者には郵便ベース。

合計3,307名の参加者がアンケートに回答

 

〇疾患の定義

高血圧

糖尿病

脂質異常症

脳卒中

心疾患(冠動脈性心疾患、心不全不整脈など)

慢性呼吸器疾患(喘息、慢性閉塞性肺疾患など)

消化器疾患(胃食道逆流症、肝硬変など)

腎臓疾患(慢性腎臓病など)

泌尿器疾患(前立腺肥大症、過活動膀胱など)、

 

関節炎またはリウマチ(例:変形性関節症、関節リウマチ)

腰椎疾患(例:腰椎脊椎狭窄症)

 

神経学的疾患(例:てんかん認知症

精神疾患(例:うつ病

内分泌疾患(例:甲状腺疾患)

悪性腫瘍

視力異常

皮膚疾患(例:アトピー性皮膚炎)

 

以上、17の慢性疾患と定義

 

マルチモビディティは2つ以上の慢性疾患があることと定義

参加者は、それぞれの選択肢に対して二項式(「はい」または「いいえ」)で回答。

 

 

〇ポリファーマシー

非常に多くの種類の内服薬を内服していることは入院などの有害事象との関連があると示唆されており、今回はExcessive polypharmacyを10種類以上と定義

さらに1日の投与回数についても検討

1日1回の服用に比べ、1日3回以上服用している患者では服薬アドヒアランスのレベルが低いというシステマティックレビューの結果に基づき、1日3回未満(服用頻度が低い)と1日3回以上(服用頻度が高い)の2つのカテゴリーに分類した。

 

〇因子分析

マルチモビディティのパターンは、完全な慢性疾患データを持つ参加者の探索的因子分析を用いて決定。

慢性疾患は二項対立変数としてコード化されていたので、正確な推定のために多次元項目反応理論とプロマックス回転を使用

項目の局所的独立性は多次元項目反応理論の重要な前提であるが、本研究では、調査項目が幅広い慢性疾患あることから、理論的には局所的独立性が想定できると考えた。

相関行列に偏りが生じる可能性があることを防ぐために、マルチモビディティでない人や慢性疾患を疾患を持たない人も含めた。

⇒すべての成人参加者のデータを用いて因子分析を行った。

0.30以上の因子負荷は意味があると考えられ、項目選択の基準として使用された。

マルチモビディティの因子スコアは、因子負荷量とカテゴリー閾値の両方を組み込んだ最大事後推定(MAP)を用いて導出。

解釈を容易にするために、既知のカットオフポイントがないため、スコアを四分位に分類した。 ⇒下位1/4をQ1 、上記1/4をQ4としている

 

〇マルチモビディティパターンとポリファーマシーの関係

定期的に 1 回以上の医療機関を受診しており、ポリファーマシーのリスクがある成人外来患者からデータを分析した。

多変量ロジスティック回帰分析では、共変量として、年齢、性別、教育年数、世帯年収を交絡変数とした。

ポアソン回帰分析を用いて、マルチモビディティスコアと処方数との関連を別々に調査した。

各分析では、P = 0.05の両側有意水準を用いた。

独立変数および従属変数の欠落データは、完全条件付き仕様を用いて多重入力を用いて説明した

統計解析は、R バージョン 3.3.2 (R Foundation for Statistical Computing, Vienna, Austria; www.R-project.org/) と統計解析用の psych, mirt, mice パッケージで

 

 

〇結果

Table 1 Participants’ characteristics: N (%).

From: Multimorbidity patterns in relation to polypharmacy and dosage frequency: a nationwide, cross-sectional study in a Japanese population

Characteristic Total participants (N = 3,256) Outpatients* (N = 1,480)
Gender
 Male  1617 (49.7) 752 (50.8)
 Female  1639 (50.3) 728 (49.2)
 Data missing  0 0
Age (year)
 18–29  525 (16.1) 135 (9.1)
 30–44  840 (25.8)  259 (17.5)
 45–64 1092 (33.5)  499 (33.7)
 65–74  514 (15.8)  357 (24.1)
 75 285 (8.8)  230 (15.5)
 Data missing  0 0
Education level
 Less than high school  107 (3.3)  67 (4.5)
 High school 1249 (38.3)  588 (39.7)
 Junior college  337 (10.4) 142 (9.6)
 More than or equal to college 1423 (43.7)  571 (38.6)
 Data missing  140 112
Annual household income (million JPY)
<3.00 (27,000 US dollar)  810 (24.9)  402 (27.2)
 3.00–4.99  934 (28.7)  443 (29.9)
 5.00–6.99  621 (19.1)  250 (16.9)
 7.00–9.99  503 (15.4)  210 (14.2)
 10.00  346 (10.7)  143 (9.7)
 Data missing 42 32
Number of morbidities
 0  1468 (45.1)  245 (16.6)
 1  815 (25.0)  461 (31.1)
 2  973 (29.9)  774 (52.3)
Number of concurrent medications
 0–4  2712 (83.3)  968 (65.4)
 5–9  405 (12.4)  401 (27.1)
10  101 (3.1)  101 (6.8)
 Data missing 38 10
Number of doses per day
 0–2  2895 (88.9)  1119 (75.6)
 3  351 (10.8)  351 (23.7)
 Data missing 10 10
  1. *Adult outpatients regularly visiting ≥1 medical institution.
  2. Prescription and over-the-counter medications.

 

マルチモビディティの全有病率は29.9%

65歳以上の高齢者では、マルチモビディティの有病率は62.8%であった。

1,480人(45.5%)の参加者は、1回以上の医療機関を受診したことのある外来患者であった。

外来患者では,101例(6.8%)に過剰なポリファーマシーが,351例(23.7%)に投与回数が3回以上の患者を認めた

 

因子分析の結果以下の5つのマルチモビディティパターンに分析

①:心血管・腎・代謝性疾患(高血圧、糖尿病、脂質異常症脳卒中、心臓病、腎臓病)

②:精神疾患・神経疾患

③:骨格・関節・消化器疾患

④:呼吸器・皮膚疾患

⑤:悪性・消化器・泌尿器疾患

 

 

Factor1 Factor2 Factor3 Factor4 Factor5
Hypertension 0.76 −0.04 0.13 −0.12 −0.01
Diabetes 0.74 −0.07 −0.24 0.13 0.05
Dyslipidemia 0.58 −0.06 0.18 0.04 −0.14
Stroke 0.61 0.18 0.08 −0.06 0.03
Cardiac diseases 0.40 −0.21 0.11 −0.02 0.19
Chronic respiratory diseases 0.02 0.06 0.01 0.68 0.02
Digestive diseases 0.05 0.18 0.45 0.09 0.30
Kidney diseases 0.37 0.10 0.12 0.13 0.29
Urologic diseases −0.03 −0.02 −0.02 −0.01 0.97
Arthritis & rheumatism 0.08 −0.34 0.46 0.10 −0.01
Lumbar diseases 0.03 0.01 0.81 0.03 0.01
Neurologic diseases 0.19 0.36 0.18 0.21 0.14
Mental disorders −0.01 0.60 0.19 0.24 0.00
Endocrine diseases 0.25 −0.31 −0.03 −0.10 0.15
Malignancy 0.08 −0.01 0.08 −0.02 0.45
Vision abnormalities 0.16 −0.58 0.26 0.23 0.13
Skin diseases −0.10 −0.05 −0.02 0.62 −0.01

 

Figure 2

 

心血管・腎・代謝性疾患、悪性・消化器・泌尿器疾患パターンでは著名なポリファーマシーと関連あり

 

悪性/消化器/泌尿器系スコアおよび心血管/腎/代謝系スコアは、過剰なポリファーマシーと最も強い関連があった [調整後オッズ比(aOR)=10.30、95%信頼区間(CI): 4.78~22.0

さらに、悪性/消化器/泌尿器系スコア、呼吸器/皮膚系スコア、骨格/関節/消化器系スコアも薬剤の投与頻度と有意に関連していた

 

心血管/腎/代謝、悪性/消化器/泌尿器のスコアは、併用しているOTC薬の数と最も強い関連性を示した。

 

 

〇議論

日本のマルチモビディティのパターンを示した斬新な論文

さらに特定のパターンとポリファーマシーの関連があることも示している

ただ、横断研究であり因果関係の証明は困難

また選択バイアスがあるかもしれない

自己申告データの使用は、誤分類バイアスにより、この集団における慢性疾患の有病率を過小評価している可能性があり、さらに慢性疾患の重症度の評価は出来ていない。

服薬の適切性の評価は出来ていないがポリファーマシーは服薬の適切性の指標である

 

 

〇感想

非常に読みごたえがある論文でした。

難しい。

やはり因子分析は、馴染みが少ない手法ですし。。

ただ、マルチモビディティを5つに分類したという視点も斬新で、それがポリファーマシーと関連があることも示した点は大きい。

日本のマルチモビディティ研究を考えるうえで、最も基本となる研究であることは間違いないでしょう