日本プライマリ・ケア連合学会の若手病院総合医勉強会に参加してきました。
そこで、話題になった心不全のアドバンスケアプランニングを考えるうえで重要な論文を紹介。
〇末期心不全のディシジョンメイキングについてのレビュー
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/cir.0b013e31824f2173
1.共有意思決定とは、臨床医と患者が互いに情報を共有し、患者の価値観、目標、好みに合った医学的に合理的な選択肢から選択される治療に関する決定に向けて取り組むプロセスである。
2.末期心不全患者にとって、病気の期間と治療法の選択肢が増えるにつれて、意思決定の共有化はより困難になり、より重要になる。
3. 現在じっくりと議論することで、将来困難な決定をシンプルに行うことが出来るようになる。
4.理想的には、共有意思決定は、患者の病気や生活の質が変化するにつれて時間とともに進化する反復的なプロセスである。
5.臨床的なillness trajectoryへの配慮、病状の予測およびタイムリーな決定を導くために必要とされるが、予後は不確実性であり、患者および家族・介護者との議論に含まれるべきである。
6.患者との毎年の心不全に関するマネージメント方針の決定には、予想されるイベントと予期されないイベントの両方に対する現在および将来の治療法についての議論を含めるべき。
7.ディスカッションには、重大な有害事象、症状の重荷、機能的制限、自立の喪失、生活の質、介護者に対する義務など、生存を超えた結果を含めるべき。
8.終末期が予想される場合、臨床医は、患者の価値観、好み、および目標と一致する終末期ケアのための包括的な計画の策定を開始する責任を負うべきである。
9.患者と家族の感情的な心構えを評価して統合することは、効果的なコミュニケーションに不可欠。
10.質の高い意思決定と患者中心の医療の提供を促進するためには、組織構造と診療報酬構造の変更が不可欠。
やはり、患者中心の医療の方法が心不全の意思決定支援に重要と言うことですね。
病院家庭医療的な要素が役に立ちそうです。
http://www.cardio.med.tohoku.ac.jp/class/achievements/pdf/j_all_2012_001.pdf から引用しています。
参考資料 下図がillness trajectory
末期心不全の基準
1.中等度から重度の呼吸困難 および/または 安静時または最少の労作での疲労の症状(NYHA機能クラスIIIまたはIV)
2.体液貯留および/または心拍出量の低下のエピソード
3.少なくとも重度の心機能障害の客観的証拠がある。
4. 6分間歩行距離テスト、酸素飽和度の低下のどちかによって証明される機能的能力の重度の障害
5.過去6カ月のうちに少なくとも1回の入院歴
〇末期心不全の経過
〇黒い線
患者は、病気が進行するにつれて、進行性にQOLが低下する
この経過は、不整脈によって引き起こされる突然の心臓死によって中断される可能性があったり、または進行性のポンプ機能不全によって引き起こされるより緩やかな死で終わる可能性がある。
〇灰色の線
発病時に、心機能障害および/または併存疾患の治療のために複数の経口療法が処方されてる。疾患の重症度が増すにつれて、利尿薬の強化、植え込み型除細動器/心臓再同期療法の追加、外来および入院の頻度が増加し、それにつれて治療の強度が高まり、内服での治療が失敗し始める(末期心不全への移行)。
〇点線
症状のマネージメント、生活の質の向上、およびコミュニケーションの強化を目的とした緩和療法は、進行中の疾患だけでなく心不全の経過を通して重要。緩和療法は、生存期間を延ばすように意図された心不全の標準治療と連携して機能する。末期心不全で、患者および家族の観点からのケアの目標つまり、緩和療法がメインの治療目標にシフトする。臨床医は末期心不全への移行を認識しなければならず、それにより治療選択肢がタイムリーに検討され、患者は医学的決定を臨床的な現実と主体的に積極的に一致させることができる。
〇心不全の予後予測モデル
〇予後予測について
純粋な生存期間だけでなくQOLや費用なども念頭に置くべき。
〇アドバンスケアプランニングを考えるタイミング
定期的な通院におけるチェックだけでなく、何か心不全に関連したイベント(ADL低下、利尿薬増加、心不全で入院)などがあるたびに話し合う必要あり。
〇心不全でチェックすべき項目の一覧
◎臨床的な状態の確認⇒機能的能力、症状の重さ、精神状態、生活の質、illness trajectory、介護者の価値観
◎患者の価値観、目標、一般的なケアの好みなどを確認
◎予後を予測
◎治療法の検討
◎心不全治療法(BB、ACEI / ARB、抗アルドステロン、CRT、ICD)
◎併存疾患の治療(AF、HTN、DM、CKDなど)
◎症候性心不全との関連で適切な予防ケア
◎アドバンスケアプランニング
◎DNARかどうか、高度な治療法を行うか、手術、ホスピスは?
◎医療記録における年次レビューの標準化
患者とその臨床医が直面する進行性心不全における主な医学的決定のフレームワーク
インターベンションはどうするか?(CABG,CRT、PCR,弁置換、手術など)
突然死のリスクを下げる処置(ICD)
潜在的な慢性依存を伴う急性代償不全の間に開始される補助療法(IABP,ECMOなど)
臓器移植や、機械的補助などについてどうするか
心臓ではない手術をどうするか(ヘルニア、人工関節、腹部大動脈瘤など)
◎末期心不全における臨床医と患者とのコミュニケーションを改善する方法
・話し合いに心臓血管外科医などの重要な臨床医も同席させる。
・患者さんや家族が知っていることを話してもらう
・患者さんや家族が知りたいことを確認する
・誤解を訂正し未回答の質問に答えつつ、患者/家族に同情的かつ慎重な方法で情報を伝えます。
・臨床医が伝えたことをどれくらい理解しているかもう一度家族に話してもらう。
・患者の目標と嗜好、および価値観を理解するために自由回答式の質問を使用して、彼らにとって最も重要なものを判断する。
・話し合いで確立された目標に基づいて特定の治療法の恩恵/負担を説明する。
・患者の目標に基づいて適切な推奨案を提供する
・心不全の経過における不確実性を認め説明する。
・患者の感情を呼称する
・患者の感情を理解する
・患者の感情を尊敬する
・患者をサポートする
・患者の感情を詳しく探索する
シェアードディシジョンメイキングについては以下のサイトで
http://tyabu7973.hatenablog.com/entry/2018/02/02/000000
またこちらも非常にまとまっています。
http://minds4.jcqhc.or.jp/forum/170128/pdf/05.pdf
医師が一方的に方針を決めるのでもなく、患者さんが全ての決定を行うのでもなく、共同して意思決定することがシェアードディシジョンメイキングになります。
多分、我々総合診療医や総合内科医は、このような意思決定やアドバンスケアプランニングなどに関して長けているべきだと感じます。
そこが、専門医の先生に貢献できるポイントの1つかもしれません。
心不全の勉強は以下の本でがお勧め!