コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

重症心不全に対する緩和ケア

www.sciencedirect.com

 

 

Palliative Care in Heart Failure心不全患者の緩和ケアPAL-HF trial

J Am Coll Cardiol 2017;70:331‒41

心不全患者における緩和ケア

背景:進行心不全(HF)は、高い重症度および死亡率を特徴とする。

従来の治療法では、患者の苦痛を十分に軽減することができず、生活の質を最大限に高めることができない。

目標エビデンスに基づく心不全患者の治療に加えて、緩和ケア介入が一定の成果を改善するかどうかを検討した。

方法:2012年8月15日〜2015年6月25日間に、施設において進行心不全患者150人を、通常治療群(UC)75人と通常治療群+緩和ケア群(UC + PAL)75人に無作為割付した。主な評価項目は、カンザススティ心筋症アンケート(KCCQ)と慢性疾患治療-緩和ケア機能評価(FACIT-Pal)の2つのQOL評価であり、6ヶ月後に評価された。サブ評価項目には、うつ病と不安(うつ病スケール HADSで測定)、精神的幸福(FaCLT-Sp スピリチアルウェルビーイングスケールで測定)、再入院、死亡率の評価が含まれた。

結果:UC + PALに割り付けられた患者群はUC単独群と比較して、割り付けから6ヶ月後のKCCQスコアおよびFACIT-Palスコアにおいて臨床的に優位な漸減的改善を認めた。(KCCQ差= 9.49ポイント、95%信頼区間 [CI]:0.94〜18.05、p = 0.030 ACIT-Pal = 11.77点、95%CI:0.84~22.71、p = 0.035)。UC + PAL患者では、抑うつと不安についても、通常治療群と比較してUC + PAL群で改善を認めた(HADS-depression difference = −1.94 points; p = 0.020; HADS-anxiety difference = −1.83 points; p = 0.048)

結論:進行心不全患者における学際的緩和ケア介入は、UCだけと比較して、生活の質、不安、抑うつ、精神的幸福において一貫して大きな利益を示した。

 

KCCQ:KCCQは、病気に特異的な23項目のアンケートで、0〜100のスコアで、より良い健康状態を表しています。全体的な要約スコアは、身体機能、症状、社会的機能、及び生活の質の領域から導かれる。

KCCQ全体サマリースコアの5ポイントの変化は、臨床的に有意な差であると考えられる。

 

A この試験の結果は信頼できるか
その試験は焦点が明確な課題設定がされているか


P:Patient

 Patient : 推定予後6ヶ月以内の末期心不全

 Inclusion過去1年以内に心不全での入院歴があり、かつmodified ESCAPE scoreが4点以上(6ヶ月以内の死亡予測率が50%を超えることを示唆する)患者この基準を満たさなくても、陽性変力作用のある薬剤を慢性的に使用している患者、12ヶ月以内に3回以上入院している患者、5点以上は無条件で入る•年齢> 18歳 •急性心不全の入院 •安静時の呼吸困難 (JVP> 10cm、末梢浮腫、胸部X線) 過去1年間の過去の入院 •ESCAPEリスクスコア≧4は、6ヶ月の死亡率を50%以上予測したことを示す

 

 Exclusion criteria:

•30日以内の急性冠動脈症候群•過去3ヶ月以内の心臓再同期療法または心筋炎、狭窄性心膜炎•手術適応の重度の狭窄性弁膜症•6ヶ月以内に予定されている心臓移植または心室補助装置•人工透析•心臓以外の病気•妊娠中または妊娠予定の女性•研究プロトコルに準拠できない

 

I&C:

Intervention:  標準治療+緩和ケア

Comparsion: 標準治療

 

O Outcome結果:QOL (KCCQとFACIT-Pal)

総合的および緩和ケア特異的健康関連QOL(慢性疾患治療 - 緩和ケアスケール:FACIT-Palを用いて測定)

 

A②その試験は設定された課題に答えるための研究方法がとられているか? 

単施設のRCT、ブラインドはされていない(後述)

A③ 患者はそれぞれの治療群にどのように割り付けられたか?

割り付け方法の詳細な記載はこの本文中にはない

A④研究対象者、現場担当者、研究解析者は目隠しされている?

本トライアルの盲検化は実現不可能であったため、盲検化されなかった。

解析者のブラインドに関しては本文中に記載なし。

スコアを誰が取ったかと、その人物が割付を知っていたかについても記載なし?

 

A⑤研究にエントリーした研究者が適切に評価されたか? 

p336 「STATISTICAL ANALYSIS」の最後に、intention-to-treatで解析されたと記載あり。

 

A⑥研究対象となった介入以外は両方のグループで同じような治療がされていたか? 

There were no significant differences in baseline demographic characteristics by treatment assignment.

(治療の割り当てによって、ベースラインの人口統計的特徴に有意差はなかった。)とある。介入以外の治療に関しては両群間で有意差なし

 

A⑦その研究のための対象患者数は偶然の影響を小さくとどめるのに十分な数か?

B⑧結果は何か? 

・標準治療+緩和ケア群で、QOL 不安 自己満足度の改善を認めた
a 結果はどのように示されたか? 

UC+PALは、KCCQ及びFACLT-Palスコアの無作為化から6ヶ月間の臨床的に有意に改善した。

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UC + PAL患者では、不安とうつの所見が改善した。

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b 有意差はあるか? : 全体的有意差、個別での有意差 
(KCCQ差= 9.49ポイント、95%信頼区間 [CI]:0.94〜18.05、 -Pal差= 11.77点、95%CI:0.84~22.71、p = 0.035)。UC + PAL患者では、不安(HADS不安の差= -1.83ポイント、p = 0.048)と同様の所見を示したUC + PAL患者では、うつ病が改善した(HADS-うつ病差= -1.94ポイント; p = 0.020)。スピリチュアルウェルビーイングは、UC + PAL対UC単独の患者で改善された(FACIT-Sp差= 3.98ポイント; p = 0.027)。UC + PALに対する無作為化は、再入院または死亡率に影響しなかった。


c
副作用は? 

・副作用は記載なし

 

 

 

 

〇感想

介入方法は、身体的なケアだけではなくQOLやスピリチュアル、精神ケアなど多方面にわたる。
ブランドが出来ないかもしれない。
NPが中心となって緩和ケアをやっているが、一人のNPがやっている。外的妥当性がどうかが気になる。
患者の身体的な問題も、そのNPがアセスメントしている。緩和ケアが良いのか、そのNPが良いのかよく分からない。
ただ、そのような外的妥当性の問題はあるものの、心不全の終末期における多方面からの介入による緩和ケアは重要であると考える。

 

〇当院のNPの感想

NPとして

・終末期心不全に対し、緩和ケアの介入は必要

心不全患者も癌患者と同じように緩和ケアがQOLの改善につながる。

・終末期の約70%の患者は意思決定が不可能と言われており、終末期に対する緩和ケアの介入を行う前には、アドバンスケアプランニングとして、重症又は慢性疾患患者が、自分の価値観・目的・好みにあった医療行為を受けることを保証する手助けとなる。

・入院した時点で、終末期への介入が必要であるのかを考え、早めに臨床倫理カンファレンスを開催し、患者の意向に添えるよう介入していく必要がある。