コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

プライマリケア医とホスピタリストの病棟診療の比較

Comparison of Hospital Resource Use and Outcomes Among Hospitalists, Primary Care Physicians, and Other Generalists. - PubMed - NCBI

 

〇背景

患者をケアする医師の入院前の診療は、入院中および入院後の患者の転帰およびケアパターンと関連している可能性がある。

 

〇目的

プライマリケア医、ホスピタリスト、他のジェネラリストでそれぞれ入院中に担当した場合の医療資源の活用方法と患者アウトカムを比較する。

 

〇試験デザイン

後ろ向きコホート研究

 

〇患者

fee-for-serviceが適応される66歳以上の高齢者で急性期病院に入院した高齢

20の主要な診断郡分類=DRG(日本のDPCのようなもの)のみを使用

入院前365日以内に外来主治医を受診したことが前提

連邦病院の入院患者や2013年に入院患者が10未満の病院は除外

 

 

〇介入

ホスピタリスト、プライマリケア医、その他のジェネラリストで比較

 

〇定義 

・ホスピタリスト:入院専属のジェネラリスト

年間に20以上の保険請求をしていて、そのうち90%以上が入院患者

We then defined a hospitalist as a generalist physician who billed at least 20 claims
per year (equivalent to 100 per year given our 20% sample),
of which 90% or more were inpatient claims

 

プライマリケア

大多数の保険請求を外来患者で行っており、入院前の12か月にわたり入院患者の外来診療を行っていた。

For  each  admission  with  non hospitalist  generalist, the physician
was defined as the patient’s PCP if that physician billed
for the plurality (the largest share) of the patient’s generalist ambulatory evaluation and management visits during the 12months  preceding the admission

 

・それ以外のジェネラリスト(プライマリケア医でもホスピタリストでもない)

Anyphysicianwhowasneither a hospitalist nor a PCP was considered to be another generalist.

 

なお、ホスピタリストの定義は常に不変だが、プライマリケア医と他のジェネラリストは、外来で主治医をしていたかによって患者ごとに定義が変わってくる

 

〇アウトカム

医療資源の活用

・他科へのコンサルテーション(救急医、放射線科医、病理医を除く)

・在院日数 

2%ほどが転院しており、それは上記の解析から除外

 

患者アウトカム

・在宅への退院 or 非在宅への退院(リハビリ病院と、ナーシングホームも含む)

・再入院率 (退院後7-30日以内の再入院

・全死亡率(入院中、退院後30日以内)

 

患者および病院は細かく分類

患者:年齢、人種、併存症など

病院:教育病院か、病床数、私立か州立か、地域、地方か都会か

 

 

〇解析方法

複数の検定を使用

3つのジェネラリストの比較:カイ二乗検定

DRGの解析:fixed effects

他科へのコンサルテーションの解析:Poisson regression model

在院日数:negative binominal regression model

binary outcomes (再入院、死亡率、退院先):generalized estimating equation models

このように様々な解析をしている理由は。。

ホスピタリストのほうが重症の患者を診ている傾向があり、さらに入院診療に慣れている可能性があることや、病院ごとに診療モデルが違うことなど。。

 

 

〇結果

患者背景は以下の通り

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平均年齢は80歳  3郡でほぼ患者背景は同等

平均在院日数は5日

ホスピタリスト: 59.7% 

プライマリケア医:14.2%,

その他のジェネラリスト: 26.1%.

しかし、ホスピタリストと他のジェネラリストはよりICU患者を診療している。
(29.2% of all admissions for hospitalists, 25.6% for admissions
of PCPs, and 28.7% for admissions of other generalists;
P < .001)

 

さらに、ホスピタリストとその他のジェネラリストはより大規模の病院で診療している傾向がある

 admitted to large hospitals (54.2% of hospitalists’
admissions, 45.4% of PCPs’ admissions, and 50.8%
of other generalists’ admissions; P < .001).

 

〇結果 

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プライマリケア医はコンサルテーションをホスピタリスト少し行っている。(relative risk, 1.03; 95%CI, 1.02-1.05; P < .001). 

その他のジェネラリストはホスピタリストよりコンサルテーションを行っている。 (relative risk, 1.06; 95%CI, 1.05-1.07;P < .001) 

 

平均在院日数はプライマリケア医 (5 days; IQR, 4-7 days) が診療したほうが、ホスピタリスト (5 days; IQR, 3-7days)や他のジェネラリストより少し長い(5 days;IQR, 3-7days).

 

プライマリケア医は(68.5%)ホスピタリストや (64.0%) 他のジェネラリストに比べて (62.1%; test of difference, P < .001) 自宅退院の割合が多かった

ホスピタリストに比べて、自宅退院のオッズ比はプライマリケア医 1.14 (95% CI, 1.11-1.17; P < .001) 、 他のジェネラリスト:0.94 (95% CI, 0.92-0.96; P < .001) 

 

ホスピタリストに比べて、プライマリケア医の再入院率は同様であった。

7 days (AOR, 0.98;95%CI, 0.96-1.01) and 30 days (AOR, 1.02; 95%CI, 0.99-1.04),

しかし他のジェネラリストの再入院率はホスピタリストに比べて高かった。

at 7 (AOR, 1.05; 95%CI, 1.02-1.07) and 30 (AOR, 1.04; 95%CI, 1.03-1.06) days.

 

30日時点の死亡率は、ホスピタリストに比べてプライマリケア医でよりも低く (AOR, 0.94; 95%CI, 0.91-0.97), 、他のジェネラリストではより高い (AOR, 1.09; 95%CI, 1.07-1.12).

 

〇解釈

ひとまず、ホスピタリストでもプライマリケア医でもないジェネラリストは全体的に予後が不良の傾向はありそう。

プライマリーアウトカムは死亡率ではないが、プライマリケア医では、他のジェネラリストに比べて死亡率は低い傾向。

プライマリーケア医は平均在院日数が長く、コンサルテーションも多めだが、明らかに家への退院は多い傾向があり。

 

〇限界

高齢者を対象としているので若年者に適応できない。

DRGデータなので、細かい臨床的な項目の評価が難しい

回帰分析をしているが、測定できてない因子が影響を与える可能性もあり、レジデントやナースプラクティショナーの関与は無視している

転院するような症例のなかで除外されているものもある。

などが挙げられている。

 

〇感想

米国の外来中心のジェネラリストであるプライマリケア医は、基本的に診療所で働きながら自分の患者が入院したら入院診療を自分で行うスタイルだった。。

しかし、専門分化が進む過程で診療所をしながら病棟を診るのに限界が来たので、病棟専属のジェネラリスト、つまりホスピタリストが出現したという経緯がある。

そのような経緯を考えれば、ホスピタリストのほうが病棟診療に関しては集中している分質の高い医療を提供できる可能性が高いと思われる。

ホスピタリストより、プライマリケア医のほうが死亡率が低いとのことだが、実際にホスピタリストのほうがICU患者や大規模病院の患者をより多く診ている傾向はある。

つまり、より重症の患者をホスピタリストが診ている分、死亡率がプライマリケア医よりも高くなっている可能性も否定できない。

それを調整してもホスピタリストのほうが死亡率が高い傾向があるのであれば、高齢患者であれば一人の医師が継続的に病棟および外来を診療するスタイルが予後を改善するという結論は言えるかもしれない。

また、ホスピタリストの入院診療の質の問題というよりは、外来主治医とホスピタリストの連携が不十分である可能性が考えられる。

なお、プライマリケア医のほうが在宅復帰率が高いというのは、大変納得がいって、ホスピタリストはすぐに在宅を諦めてしまう傾向があるかもしれない。

 

実臨床に生かすのであれば、病院総合医と家庭医の連携により継続性を担保することが重要であるということは言えそう

また小規模病院における外来~病棟まで継続的に患者さんに関われるスタイルは、 特に高齢者では予後を改善しうるかもしれない。これは実際の臨床の感覚とも合い小規模病院の将来性を感じることが出来る。