コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

潜在性甲状腺機能低下症の高齢者への甲状腺ホルモンの補給について

N Engl J Med. 2017 Apr 3. doi: 10.1056/NEJMoa1603825.

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1603825#t=article

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P 65歳以上で潜在性甲状腺機能低下症の患者(遊離サイロイドホルモンは正常で、TSHが4.60~19.99mIU/L
 
◯除外基準
レボチロキシンを過去に使用
甲状腺薬、アミオダロン、またはリチウムを使用。
甲状腺手術または放射性ヨウ素の使用
重大な病気で過去12ヶ月以内に入院
過去4週間以内の手術
急性冠動脈症候群
終末期
 

I 甲状腺ホルモン投与(TSHで投与量調整)

*50μgで開始 50kg以下・冠動脈疾患がある場合は25μgで開始

C プラセボ

O 

primary outcome:甲状腺機能低症に関する症状のスコア、甲状腺に関連した質問表における疲労度のスコア

 

*なお元々はhard outcomeを予定していたがサンプルサイズが大きくなりすぎたので断念している

 

double-blind  RCT 

ブロック法で割り付けしている

施設、性別、甲状腺ホルモンの開始量で層別化

数もおおむね足りていそう。
modified intention to treat解析。 脱落はそれなりにある。

 

 

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平均年齢は75歳前後

ベースラインは両群で変わりなし

なおTSHの平均値は6.3-6.4前後

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 TSHのレベルは当然補給したら低下。

しかし臨床的なアウトカムは両群で差はない結果に

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有害事象に関しても明らかな差はない

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◯では実際どうするのか?

潜在性甲状腺機能低下症の治療基準としては(妊娠、挙児希望除く)

Up to dateによると。

TSH>10m U/L ⇒治療

有症状の時はTSHの値と年齢によって治療となっている。

 

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⇒TSHが6.9以下ならば高齢者なら治療を推奨しないとなっている。

 

なおTSH>10で治療するのは有意に心血管リスクが増えるから(下記論文)

JAMA. 2010 Sep 22;304(12):1365-74. doi: 10.1001/jama.2010.1361 

 

 

 

この論文はまさに、平均年齢は75歳前後でTSHの平均値は6.3-6.4前後なので、上記のUp to Dateの推奨では治療をしない群にあたる。

このような患者群では基本的に治療は必要ないかもしれない。

ただ、TSHの平均がもう少し高いと、本論文は適応出来ないかもしれない。
またアウトカムがhard outcomeではない(hard outcomeだとサンプルサイズが大きくなりすぎる)
結局65-70歳以上の高齢者でTSH 7-10前後に関しては基本的には治療はしなくてもよさそうだが、最終的には症状を考慮して個別に決めるしかなさそう。