コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

食欲不振に対するコルチコステロイド ジャーナルクラブ

 
 
 

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■がん患者の食欲不振に対するコルチコステロイドについて調べた古典的な論文
 
【要約】
目的:コルチコステロイドはしばしば限定的なエビデンスだが癌性疼痛のマネージメントに使用することがある。本研究ではプラセボと比較しコルチコステロイドの鎮痛効果を検証する。
 
患者・方法:オピオイド内服している担癌の成人患者で24時間以内のNRS4以上の患者。患者は7日間、メチルプレドニゾロン(MP)16mg1日2回内服またはプラセボ(PL)内服にランダムに振り分けた。プライマリーアウトカムは7日時点の平均NRS(0 to 10)とした。セカンダリーアウトカムは鎮痛薬の使用(経口モルヒネに相当するもの)、倦怠感、食欲不振(European Organisation for Research and Treatment of Cancer–Quality of Life Questionnaire C30, 0 to 100)、患者満足度(NRS, 0 to 10)とした。
 
結果:計592人の患者が選ばれた。50人を振り分け、47人を解析した。ベースラインのオピオイド使用はメチルプレドニゾロン群で269.9mg、プラセボ群で160.4mgであった。7日時点の評価で両群においてNRS(MP:3.6 vs PL:3.68, P=0.88)、鎮痛薬使用(MP:1.19 vs PL:1.20, P=0.95)も差はなかった。臨床的、統計的に有意差を認めたのは、倦怠感(-17 vs 3 points, P=0.003)、食欲不振(-24 vs 2 points, P=0.003)、患者満足度(5.4 vs 2.0 points, P=0.001)であった。有害事象に差はなかった。
 
結論:メチルプレドニゾロン32mg/日はオピオイド内服の担癌患者に付加的な鎮痛効果をもたらさない。しかし、倦怠感、食欲不振、患者満足度の改善をもたらす。短期間の有効性以上の臨床的有効性を将来の研究で調べる必要がある。
 
 
A この試験の結果は信頼できるか
① その試験は焦点が明確な課題設定がされているか
 
P:18歳以上の担癌患者、最後24時間のNRS4以上、予想される生存が4週を超える、中等度から重度の癌性疼痛でオピオイドを使用
 
除外基準:最後24時間のNRS8以上、4週間以内にコルチコステロイドの使用、糖尿病、潰瘍疾患、NSAIDsの併用、試験のエントリー前4週間に放射線治療や全身癌治療を開始または開始する予定、脊髄圧迫または手術が必要、重度の認知機能低下
 
I:mPSL16mg 1日2回 7日間
 
C:プラセボ 1日2回 7日間
 
O:プライマリーエンドポイントDay7の平均の痛みの強度(NRS)(Brief Pain Inventoryで測定)、セカンダリーアウトカムは日々の安静時痛の強度(NRS)(Edmonton Symptom Assessment Systemで測定)、ベースラインからDay7までの倦怠感、食欲不振の変化(European Organisation for Research and Treatment of Cancer-Quality of Life Questionnaire C30で測定)、Day7の介入による全体の満足度(NRSで測定)、日々の鎮痛薬の使用(経口モルヒネに換算して記録)
 
 
A② その試験は設定された課題に答えるための研究方法がとられているか?
 
・ランダム化、プラセボコントロール、二重盲検
・多施設
・担癌患者の疼痛に対する経口コルチコステロイドの第三相臨床試験
 
 
A③ 患者はそれぞれの治療群にどのように割り付けられたか?
 
・コンピューターでランダムに割り付け
・施設毎、骨転移による痛みで層別化している
・Table1・2:ベースラインのオピオイドの量、突出痛、ガバペンチンorプレガバリンの使用、軟部組織の痛み、肝転移、他部位への転移では差があった

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A④ 研究対象者、現場担当者、研究解析者は目隠しされている?
 
・データが集まるまで全てのパートでブラインドしている
 
 
A⑤ 研究にエントリーした対象者が適切に評価されたか?
 
・ITT解析で行っている
・数は少ないが各群で1人ずつ脱落(serious adverse effect)があるが、解析には含まれていない
・COIはない

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A⑥ 研究対象となった介入以外は両方のグループで同じような治療がされていたか?
 
・Table1・2:ベースラインのオピオイドの量、ガバペンチンorプレガバリンの使用については差がみられた
 
 
A⑦ その研究のための対象患者数は偶然の影響を小さくとどめるのに十分な数か?
 
・sample sizeは各群22人、脱落も含めて計50人が必要としているが、本研究で割り当てられたのも50人である
 
 
B結果は何か?
B⑧a 結果はどのように示されたか?
 
・Fig1:592人から最終的に50人が選ばれた。除外理由はコルチコステロイド使用、全身癌治療など。
・本研究では3人が脱落したが、それぞれ、同意を撤回、病気の進行による死亡、腸管閉塞のため。
・コルチコステロイド群25人、プラセボ群22人が解析された
 
・Day7時点の平均の痛みの強度に有意差はなかった(P=0.88)
・Fig2:ベースラインからの痛みの変化という点でも有意差はなかった(P=0.50)
 
・両群でオピオイドの使用に差はなかった
・Table3・Fig3:両群とも同様にオピオイドの量は増加した(P=0.95)
 
・Table3:日々の安静時痛の強度は両群で同様であった
 
・Day7時点の倦怠感、食欲不振はコルチコステロイド群で有意に改善を認めた
・ベースラインからの倦怠感の変化は、コルチコステロイド群で-17points改善、プラセボ群では+3pointsであった(P=0.003)
・食欲不振についてもコルチコステロイド群で-24points改善、プラセボ群で+2pointsであった(P=0.003)
 
・Table3・Fig2:介入への満足度はコルチコステロイド群で有意に高かった(P=0.001)

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B⑧b 最も重要な結果は?
 
・本研究ではオピオイドを使用している進行がん患者における7日間のmPSL32mg/day治療の鎮痛効果はみられなかった
・ただコルチコステロイド治療で倦怠感、食欲不振、満足度の改善がみられた
 
 
B⑧c  副作用はどうか?
 
・Table4:副作用の数については差はなかった(P=0.28)
・頻度の高い副作用は、口腔の症状、落ち着かなさ、不眠
・後者2つはコルチコステロイド群でより頻度が高かった(落ち着かなさ:6 vs 3、不眠:4 vs 3)
・重大な副作用は3つあり、プラセボ群でDay4に病気の進行による死亡、コルチコステロイド群で腸管閉塞によりDay5に脱落、臨床的に脊髄圧迫が疑われDay5で脱落であった
・これらは研究の介入によるものとは考えられなかった

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B⑨ その結果はどの程度正確か
 
・それぞれのP値は上記に記載
 
C その結果はあなたの現場で役に立つか?
 
・コルチコステロイドの鎮痛効果としては以下のものはリミテーションとして記載
・大規模かつ長期間の研究が必要
・サンプルサイズが少ない、選択バイアスがある
・追加の研究は必要とは思われるが、鎮痛効果を期待してのコルチコステロイドは臨床では使う根拠は乏しいかと
 
・割り付けられた両群でmPSL群の方が経口モルヒネ量が多く、Day0-7の経過中の使用量が多いため、ベースラインの痛みが強く、mPSLが効かなかった可能性はある
 
・一方で食欲不振、倦怠感、満足度への有効性が期待できる
・これまでのいつくかのRCTで短期間の食欲不振への効果が示されている
・ただコルチコステロイドの副作用は、蓄積量、使用期間に関連し、長期間の使用は倦怠感、食欲不振の改善効果を中和させてしまう
・時間経過とともに食欲増進の効果は減弱する
・その点には注意が必要
・また今回の研究ではセカンダリーアウトカムであり、プライマリーアウトカムとしての研究は必要
 
 
(コメント)
・気になる食欲不振がセカンダリーアウトカム
・Nが少ないため、ばらつきがでる
・鎮痛効果を期待して、現場で使えるかというか微妙
・除外基準にステロイド使用が多い
・これをみてアクションは変わらない
・コクランでもステロイドは痛みに少しいいかもとのこと
・鎮痛はおまけくらいの意味合いだろう
・mPSLの量32mg/dayではデキサメタゾンに換算すると8mg/day。日本では4mg/dayまでであることが多く、そのまま適応は出来ないかも?