【症例】高齢の女性
【現病歴】季節は夏
もともと数年来の高血圧で,近医から内服薬をもらっていた,ADHの自立した認知症のない方.
受診日前日までは体調に変化なく,デイサービスに行き,食事も食べられていた.
受診日の朝から悪寒戦慄を伴う40℃の発熱と倦怠感が出現したため,家族と救急外来を受診した.
*STSTAE:sick contactなし.TB暴露なし.海外渡航歴なし.動物との接触なし.生ものの摂取なし.池,山,温泉には出かけていない.
【既往歴】HT
【内服歴】アムロジピン(5)1T
【アレルギー】なし
【社会歴】酒- 煙草- 娘夫婦と同居 夫とは死別(数年前)
【ROS】食欲低下+
Pertinent negative: 腹部症状,関節痛,筋肉痛,頭痛,嘔気,排尿時痛,排尿障害,残尿感
【身体所見】
やせ型,BMI 20程度
BP 140/80mmHg, P 106/min(reg), RR 24/min, T 38.5℃, SpO2 98%(RA), GCS 15
G/A: mildly sick
Neck: 頚部リンパ節腫脹なし 甲状腺腫大なし・圧痛なし 項部硬直なし
Resp: 両側で清 副雑音なし
Heart: 整 S3・S4なし 2RSBに2度のSEMあり,頚部に放散,頸動脈触診で遅脈 拡張期雑音なし
Abd: 平坦,軟 腸蠕動音生理的 圧痛なし Murphy陰性 肝脾腫なし 肝叩打痛なし
Back: CVA叩打痛なし
Ext: 関節腫脹なし 浮腫なし ばち指なし 爪の線状出血なし Osler結節・Janeway結節なし
Skin: 皮疹なし 紫斑なし 鼠径・腋窩など体表のリンパ節に腫脹なし
DRE(digital rectal exam) : 施行されず
徳田先生より
#ROSは主要なところを絞って聴く
:高齢者の感染症についての統計で,多かった感染源は
①気道感染,②尿道感染,③胆道系感染,④skin & soft tissue.
:それぞれについてROSを聞くならば,
①咳,痰,呼吸困難,②残尿感,尿の濁り,③腹痛,④皮膚の発赤,痛み,節々の痛み
?)鑑別診断は?
common: 気道感染,尿路感染,胆道系感染,軟部組織感染,肺炎
possible: 肝膿瘍などabscess,糞線虫症(∵沖縄で,focusのよくわからないGNR菌血症)
徳田先生より
#もしwater contact+ならば,鑑別に挙げるべきものは?
:レプトスピラ症.
・沖縄で米軍兵が訓練の時にかかり,流行した
・ヘリクスハイマー反応,血圧低下
(※Jarisch-Herxheimer reaction, JHR
:全身の倦怠感,発熱,頭痛,悪寒,筋肉痛,頻脈,体温↑,呼吸切迫,血圧↓,一時的な病変部の悪化
:通常は投与後1~4時間前後から始まり,24時間で軽快
:病原の細菌が大量に死滅・破壊されて,細菌内部の毒素が血液に混入することが原因)
?)オーダーする検査は?
採血 CBC,LFT,BUN/Cre
血培2セット 痰培 痰G-S 尿検査 尿培 尿G-S
CXR 心エコー AUS…
徳田先生・本橋先生より
BUN/Creは鑑別にはあまり寄与しないがABxの容量を決める目的ならアリ
CRPで診断が左右されることはない 取らなくてよい検査の代表格 プロカルシトニンも同様
急性と慢性の区別の上でESRは考慮しても良い
【検査所見】
LFT: AST/ALT/ALP/T-Bil wnl
腎:BUN/Cre wnl
AUS:胆嚢炎-,胆管炎-
心エコー:vegetation-, AS 軽~中等度,弁石灰化+
CXR:n.p. 肺炎を疑う所見なし
造影CT:肝S6に10mm大の結節様陰影,造影されない.ring状造影効果もなし.
↓
経過観察目的で入院となった.肝膿瘍を否定できなかったため
CMZを選択し治療開始.
翌日…
朝,意識レベル低下あり.呼びかけに対する反応が鈍い.JCS2桁.
失見当識あり.麻痺などfocalな神経学的所見なし.
?)何をする?
LP:細胞数0,蛋白48,糖49(BS 113),初圧11cmH2O
本橋先生より
なったばかりの髄膜炎は細胞数上昇しない.
その後検査部から連絡が入った.血培よりGPDC+!
?)何を疑い,何の検査をする?
髄液グラム染色で,白血球はみられないが,GPDCがみられた.
培養を提出し,CTX+VCMで治療開始.
後日血培,髄培からPRSPが生えた.
診断:肺炎球菌(PRSP)性髄膜炎
この方は肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス)は1年前に接種済み.
しかし,今回はニューモバックスではカバーされていないserotypeの菌だったため,
感染してしまった.今これが問題になっている.
翌日再度LPすると…
細胞数440, 多形核白血球70%,蛋白269まで増加していた.
また,LPに再度頚部を診察すると,項部硬直がみられた.
?)どこから肺炎球菌が髄液内に入ったのか?
肺炎球菌はSBPを起こすこともある.おなかにも,いるにはいる.
基本的に膿瘍は作らない.
一度何らかの原因でPRSP菌血症をきたし,血流に乗って髄膜に到達したと考えるのが自然.
治療)髄膜炎には移行性のよい第三世代セフェムを用いる.(CTRX, CTX)
参考にすべき論文:
"Adult pneumococcal meningitis presenting with normocellular cerebrospinal fluid: two case reports" - Hiromichi Suzuki, Yasuharu Tokuda, et al