コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

梅毒のレクチャー

■症例
・68歳男性
・主訴:心窩部痛
・現病歴:約1年前から心窩部に間欠性の痛みを自覚していた、様子をみていたが、症状が徐々に悪化しており、心配になったため、受診。

 
→癌などもあるだろう、EGD予定とした
→当院では、EGD前に感染症検査をする決まりになっていたため、検査を提出

→確認すると、RPR+/TPLA+

 
■外来/入院で感染症検査をした際に梅毒陽性が判明することは時々ある、その時どうするか??

 
■梅毒検査は?
・Treponema pallidumの検査は2種類

 
ーTP法
 ・TPHA法、FTA−ABS法、TPI法、TPLA法
 ・Treponema pallidumの菌体抗原を認識するtreponemal test(特異的)
 ・一度陽性になると、治療の有無や病状に関係なく長期陽性となる
→治療必要性・効果判定には使えない
 
偽陽性:TPHA法
 ハンセン病、IM、異好抗体、梅毒TPと共通抗原を持つTPによる感染

 
STS
 ・補体結合反応、梅毒凝集法、ガラス板法、VDRL法、RPR法
 ・Treponema pallidum感染で産生される抗体を脂質抗原に反応させ検出するnon treponemal test(非特異的)
 ・感染直後は偽陰性のことも(抗体産生までに3-6週必要)
 ・第1期梅毒発症時、non treponemal testの25-50%はまだ陰性
 ・treponemal testはnon treponemal testより1-2週間は早く陽性になる
 ・第3期梅毒の感度は10%以下、梅毒罹患者の1/3はやがてnon treponemal testが陰性になっていく
 ・菌体そのものの検査ではないため、偽陽性がある(生物学的偽陽性…biological false positive)
 
 ・titerが病勢を反映する、感染初期から陽性となり、治療により陰性化
→治療必要性・効果判定に利用する
 
※生物学的偽陽性STS
 20-30歳女性に多い、出現頻度1.6%
 妊娠、肝疾患、膠原病、加齢、悪性腫瘍など
 この場合は抗体価が1:8を超えることは稀

 



 
■解釈は?
・それぞれの結果を組み合わせて総合的に判断する
・定性検査で陽性、梅毒を疑う時は定量titerを提出する
・RPR定量の治療適応のtiterは1:8以上とすることが多い、RPRのカットオフは議論がある(?)


 
■あわせてHIV検査も提出する
 

■梅毒
・第1期梅毒:primary syphilis…感染後平均3週間
・第2期梅毒:secondary syphilis…感染後平均1.5ヶ月
・潜伏梅毒(早期/後期):latent syphilis(early/late)
・第3期梅毒:tertiary syphilis
・神経梅毒(早期/後期):neurosyphilis(early/late)

 
 

■潜伏梅毒
血清梅毒反応が陽性で、顕性の症状が認められず、かつ中枢神経浸潤がない状態を指す


 
■早期潜伏梅毒
・感染後1年以内
・早期潜伏梅毒の時期に第2期梅毒に再移行しやすい
・神経学的、眼科的異常があれば、髄液検査し、神経梅毒を除外する
・感染期間が不明(臨床的に多い)のときも髄液検査をする
 
■後期潜伏梅毒
・感染後1年以降
・第3期梅毒までのサイレント期間
・血清検査で判明した感染時期不明な症例も一応このグループとする
・血清検査以外の異常はほぼない
 
※梅毒に罹患した患者の約1/3は血清検査以外に臨床的に明確な症状を示さないとされる

 
■神経梅毒
・原因不明の神経学的異常では、神経梅毒を鑑別に挙げる
・髄膜→脳実質→脊髄の順あるいは、これらの組み合わせで発生する
・菌が中枢に浸潤しても炎症反応を起こさずに排除され、明らかな臨床症状を呈さないことも多い
・髄液検査が必須

 
■髄液検査
・髄液細胞数、蛋白、CSF-VDRL値を確認する
 
・treponemal test陽性+髄液細胞数増加・蛋白上昇→神経梅毒を念頭に置く
・髄液treponemal test陰性→可能性は低くなる
・髄液treponemal test陽性→可能性がある
・次の一手:髄液non treponemal testを提出(VDRL法)
※髄液VDRL法が実施できない施設が多い
→当院の外注にも確認したが、検査はできないとのこと

 
■神経梅毒の診断
・treponemal test陽性
・髄液5mL中に最低5つの単核細胞が存在+髄液蛋白>40mg/dL
・髄液FTA-ABS(感度が高い)→陰性なら除外
・髄液FTA-ABS→陽性ならVDRL(特異度が高い)で確認
 
FTA-ABS陽性+VDRL陰性→臨床的判断、over treatmentの方がいい
HIV感染者では梅毒感染がなくても髄液細胞数・蛋白増加があるため注意

 
■潜伏性梅毒:治療
(レジデントのための感染症診療マニュアル)
・AMPC2-3gを1日2回経口+プロベネシド500mg1日2回経口 計4週間
・CTRX1g1日1回Div 計14日間
 
(uptodate)
・early
・ベンザチンペニシリン2400万単位1回IM
・代替:AMPC3g+プロベネシド500mg 1日2回 計14日間
・代替:DOXY100mg1日2回 計14日間
 
・late:
・ベンザチンペニシリン2400万単位週1回 計3週間
・代替:CTRX2g1日1回IM or IV 計10-14日間
・代替:DOXY100mg1日2回 計4週間
※第1選択であるベンザチンペニシリンは日本にない

 
■神経梅毒:治療
(レジデントのための感染症診療マニュアル)
・PCG1200-2400万単位/日q4-6hrDiv 計10-14日間
・CTRX1gq24hrDiv 計14日間
 
(uptodate)
・PCG1800-2400万単位/日q4hr or 持続投与 計10-14日間
・CTRX2gq24hrDiv or IM 計10-14日間 ※PCアレルギーの場合、交差反応に注意
・DOXY200mg1日2回 計21-28日 ※CDCや欧州ガイドラインは推奨せず

 
※治療が有効なら、まず髄液の白血球が減少、次に蛋白が減少、そしてVDRLが減少する
※VDRLが無理なら、髄液白血球、蛋白、血液RPR値の減少があれば、3-6ヶ月後に白血球、蛋白、血液RPR値が低値を確認する

 
■梅毒のモニタリング
(uptodate)
・non treponemal test定量(RPR or VDRL)で治療後はフォローする
・治療に反応すれば4倍以上低下する
・early syphilis(primary, secondary, early latent)では症状の再燃がないか見ながら血清検査を6、12ヶ月で行う
・late syphilis(tertiary, late latent)では血清検査を6、12、24ヶ月で行う
・neurosyphilisでも同様に症状と血清検査フォロー、治療後3-6ヶ月後に神経学的所見と髄液フォローし、髄液白血球正常、髄液VDRL陰性まで6ヶ月毎フォローする
・ざっくり3、6、9、12、24ヶ月でフォローしていく

 
■non treponemal testのフォローでは常に同じ検査を用いる
・RPRとVDRLで値が2-8倍異なることも
・4倍以上、下がれば改善とする、4倍以上の上昇は再感染・再発を示すと考える

 
■神経梅毒のモニタリング:髄液フォロー
(uptodate)
・治療後6ヶ月の髄液白血球が減少しないor治療後12ヶ月の髄液VDRLが4倍以上低下しない場合は、再治療
・有効な治療後6ヶ月であれば、髄液白血球は低下し、治療後24ヶ月であれば、髄液は全て正常化する→そうでない場合は再治療
・髄液白血球増加、髄液VDRL4倍以上上昇は再治療

 
 
■RPR定量値が下がらないとき
・十分な治療をしても下がらない状態→serofast state
・early syphilisの約15-20%でみられるが、常に治療の失敗を示すわけでない
・serofast stateではnon treponemal test定量は1:8など低値で安定している
・serofast stateではHIV感染など免疫異常を検索すべき

 
■外来/入院で感染症検査をした際に梅毒陽性が判明することは時々ある、その時どうするか??


 
■今回の症例に戻ると
・症状・所見はなさそう
HIV陰性、RPR定量32倍↑
・髄液検査:細胞数2/3/μL、総蛋白52、髄液RPR2倍、FTA-ABS256倍
 
→無症候性神経梅毒として、外来でCTRX投与14日間施行した

 
■文献
感染症診療のDecision Making
・レジデントのための感染症診療マニュアル
・uptodate
・hospitalist
・医学書院
・モダンメディア2008.pdf