N Engl J Med 2005 Jun 2;352(22):2271-84. PMID::15930418
【背景】
帯状疱疹の罹患率や重症度は年齢とともに上昇し、帯状疱疹になる人のうち半分以上は60才以上である。帯状疱疹に
なった高齢者の半分は合併症をおこし、最も多いのが帯状疱疹後神経痛(PHN:postherpetic neuralgia)である。そして、帯状疱疹後神経痛の頻度や重症度は年齢とともに上昇する。しかし抗ウイルス療法は、帯状疱疹の重症度や期間を減らすが、帯状疱疹後神経痛への発展は予防しない。帯状疱疹後神経痛は数年間持続する可能性があり、しばしば治療抵抗性となる。今回、帯状疱疹ワクチンの接種が、60歳以上の患者において帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛の罹患率や重症度を下げることができるかを検証した。
A:この試験の結果は信頼できるか
A②その試験は焦点が明確な課題設定がされているか?
P:水痘の既往があるor米国に30年以上居住している60歳以上の免疫不全のない38546人
*除外基準の詳細は下記参照
I:Oka/Merck帯状疱疹ワクチン0.5mlを接種(皮下注、18700-60000 PFU*)すると
*平均24600 PFU、90%以上は32300 PFU以上、小児の水痘予防ワクチンの14倍の力価
C:プラセボと比べて
O:
➤Primary Endpoint:herpes-zoster burden-of-illness score(重症度*×期間)
*重症度はthe Zoster Brief Pain Inventoryを使用(活動量、QOL、一般的な健康状態、発疹の性状、合併症、薬物治療等)
→帯状疱疹の発症後182日までスコア化して評価(0~1813点で点数が高いほうがQOL低い)
➤Secondary Endpoint:PHN(3/10以上の疼痛が発症後も持続or 発症90日以降に出現)
★Criteria for Inclusion or Exclusion
A②その試験は設定された課題に答えるための研究方法がとられているか?
・Study Design:multicenter(22施設)、RCT、double-blind
A③ 患者はそれぞれの治療群にどのように割り付けられたか?
・boxでランダム化
・60-69歳と70歳以上で層別化(Supplement参照)
A④研究対象者、現場担当者、研究解析者は目隠しされている?
・double-blind
・CEC(Clinical Evaluation Committee)もblindされている(Supplement参照)
A⑤研究にエントリーした患者が適切に評価されたか?
・ITT解析:脱落者は少ない
A⑥研究対象となった介入以外は両方のグループで同じような治療がされていたか?
・帯状疱疹に対する治療は同じ治療がされていると思われるが、それ以外の治療は不明
A⑦その研究のための対象患者数は偶然の影響を小さくとどめるのに十分な数か?
・不明…
B結果は何か?
B⑧a 結果はどのように示されたか?
➤対象者数38546人、追跡率95%、追跡期間平均3.12年
➤Primary Outcome:
・BOI(burden[負荷] of illness score)[Table.2]:61.1%減少(P<0.001)
*性差や年齢では有意差なし
➤Secondary Outcome:
・PHN(Table 3、Fig.2A):66.5%減少(P<0.001)、NNT364
*性差や年齢では有意差なし
➤その他:
・HZの発症率(Fig.2B):51.3%減少(P<0.001)、NNT59
→70歳以上では37.6%減少、60-69歳では63.9%減少と有意差あり(P<0.001)
・HZの期間や症状の重症度:期間に関しては21日vs. 24日(P=0.03)、重症度は141.2 vs. 180.5(P=0.008)
B⑧b 最も重要な結果は?
B⑧c 副作用は?
①重篤な副反応
・ワクチン関連の重篤な副反応*はstudy終了までで両者とも<0.1%で有意差なし
*ワクチン接種後のBA発作、PMRを起こした2例
・予防接種後42日以内:1.4% vs. 1.4%→サブ解析では1.9% vs. 1.3%(P=0.03)
②何らかの副反応(予防接種後42日以内):サブ解析では58.1% vs. 34.4%
③接種部位の副反応(予防接種後42日以内):サブ解析では48.3% vs. 16.6%
・紅斑が最多
・疼痛、圧痛、腫脹、掻痒など
④接種部位の水痘様の発疹(予防接種後42日以内):0.1% vs. 0.04%
⑤全身的な副反応(予防接種後42日以内):24.7% vs. 23.6%
B⑨その結果はどの程度正確か
Cその結果はあなたの現場で役に立つか?
・Cochrane Database Syst Rev.2012 Oct 17のメタアナリシスでは8つのRCT(n=52269)を解析して、
ワクチン接種群で帯状疱疹発生率を有意に減少し、RR0.49(NNT50)であった
・米国ACIP、CDC、AAFP、ACOG、ACPでは帯状疱疹予防として60歳以上に帯状疱疹予防ワクチンの接種を推奨
・水痘ワクチンは日本で開発された弱毒生ワクチンであるが、米国ではこの水痘ワクチンを水痘予防用のVARIVAXと
帯状疱疹予防用のZOSTAVAXと力価によって使い分けている
・ワクチンの有効性は約5年程度持続する
・米国の帯状疱疹予防用のZOSTAVAXの力価は18700~60000PFU/dose(平均246000PFU/dose)
・日本の乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」の添付文書では1000PFU/dose以上
・しかし、「神谷 齊,浅野 喜造,尾崎 隆男ら. 水痘ワクチンの力価と流通時のワクチン力価の安定性. 感染症学雑誌 :
日本伝染病学会機関誌.2011;85(2):161-165」の報告では、製造時の水痘ワクチンの力価は平均42000~67000PFG/dose、
配送時の力価は30000PFU/dose以上であった
・しかしながら、日本の水痘ワクチンでの帯状疱疹予防効果を検証した質の高い研究はまだない…
・また費用が高い…(1回6000~8000円程度)→費用対効果に関しては結論が出ていない
(Ann Intern Med.2006;145(5):317、Pharmacoeconomics.2013;31(2):125‐36)
・ただ、2016年3月~日本の水痘ワクチンに帯状疱疹予防の適応(50歳以上)が通っている
➤超高齢化社会の日本において、帯状疱疹はcommon diseaseであり、PNHなどその後のQOLを考慮すると、
水痘ワクチンによる帯状疱疹予防は有用な可能性はあるが、費用対効果や日本の水痘ワクチンの力価の問題は残る…
*ちなみに帯状疱疹発症後の再発予防に対するワクチン接種はまだ規定されておらず、
2012年のJournal of Infectious diseaseのコホート研究ではワクチン接種群と未接種群では有意差はなし