コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

終末期患者におけるスタチンの効果

 
■abstruct
importance
予後が限られた患者において、治療のリスクがメリットを上回ることがある、メリットが生じるまでに何年もかかる場合は特に。スタチンはその一例である。予後が限られた患者でのスタチン療法の中断のリスクとメリットに関してはデータがない。
 
objective
緩和ケアのセッチングにおける患者へのスタチン両方の中断での安全性、臨床上、コスト面での影響を評価する。
 
design, setting, and participants
多施設、並行群間、非盲検、実用的臨床試験。予想される予後が1ヶ月から1年の成人、心血管疾患の1次or2次予防で3ヶ月以上スタチン療法を受けており、最近機能面での低下があり、アクティブな心血管疾患のない患者。スタチン療法を中断or継続にランダム化し、月1回の頻度で、1年間モニターした。2011年6月3日〜2013年5月2日まで行われた。全ての解析はITT解析で行われた。
 
interventions
中断群にランダム化された患者ではスタチン療法を中断し、継続群ではスタチンを継続した。
 
main outcomes and measures
primary outcomeは60日以内の死亡、ほかに生存率、心血管イベント、performance status、QOL、症状、非スタチン治療の数、コスト削減。
 
results
381人が試験に登録され、189人が中断群、192人が継続群に割り当てられた。平均年齢は74.1歳、認知機能障害は22%、担癌は48.8%であった。中断群と継続群において、60日以内の死亡に有意差はなく(23.8% vs 20.3%、90%信頼区間、-3.5%〜10.5%、P=0.36)、非劣性は示されなかった。QOLは中断群でよかった(mean McGill QOL score 7.11 vs 6.85、P=0.04)。心血管イベントはほとんどなかった(中断群で13人 vs 継続群で11人)。平均のコスト削減は3.37$/日、716$/人であった。
 
conclusions and relevance
スタチン療法の中断が安全、QOL改善を含めたメリット、スタチン以外の服薬の減量、治療コスト削減が示唆された。患者と医療者の間でこのようなセッティングでは、スタチン継続による不確かなメリットや潜在的QOLを下げることに関して話し合うことはことは理由がある。
 
 
A この試験の結果は信頼できるか
① その試験は焦点が明確な課題設定がされているか
P:
 
 
・心血管疾患の一次・二次予防目的にスタチンを3ヶ月以降内服している英語を話す18歳以上の成人
・一人以上の内科医が①翌年には死んでいても驚かない②1ヶ月以上の余命③状態が低下、PSがが3ヶ月前時点と80%未満に低下した場合と決定した
 
・除外基準:活動性の心血管疾患がある、スタチン治療が現状必要な活動性心疾患のリスク、筋炎の症状、肝機能異常、CKが正常上限の2.5倍以上、スタチン継続の禁忌、患者や治療者は希望しない
 
 
I:intervention
C:compare
 
・スタチン療法を中断する群と継続する群
 
 
O:outcome
 
 
・primary outcomeは60日以内の死亡
・secondary outcomeは、初回心血管関連イベントでの生存や時間、患者中心のアウトカムとして、パフォーマンスステイタス、QOL、症状、スタチン以外の薬剤の数、スタチン関連の副作用、ヘルスケアへの満足度
 
 
A② その試験は設定された課題に答えるための研究方法がとられているか?
 
 
・15緩和ケア施設の多施設、非盲検、ランダム化となっている
 
 
A③ 患者はそれぞれの治療群にどのように割り付けられたか?
 
・場所や心血管疾患既往で層別化し、ブロック法で割り付け
 
 
 
 
・48.8%が担癌患者、58%が心血管疾患、69%が5年以上スタチン治療、36%がホスピス
・割り付け後の2群について、有意差が示されているのは、cognitive impairment
 
 
A④ 研究対象者、現場担当者、研究解析者は目隠しされている?
 
・limitationsの記載で、非盲検の試験であり、対象者も担当者も知っていると記載。
・解析者については記載なし。
 
 
A⑤ 研究にエントリーした対象者が適切に評価されたか?
 
 
・ITT解析されている
・COIもなし
 
 
A⑥ 研究対象となった介入以外は両方のグループで同じような治療がされていたか?
・スタチン治療以外の治療に関しても記載はなし
 
 
A⑦ その研究のための対象患者数は偶然の影響を小さくとどめるのに十分な数か?
 
 
 
・症例数が少なく、primary outcomeが変更になっている
・primary outcomeが変更され、sample sizeは360が目標値となっている
・secondary outcomeに関してはさらに症例数が必要と記載
・limitationsでもprimary outcomeと目標のsample sizeについて変更になっている点やsecondary outcomeを統計的に評価するには症例数が足りないと記載
 
 
B結果は何か?
B⑧a 結果はどのように示されたか?
 
 
・両群で60日以内の死亡に有意差なし
 
 
 
 
 
 
 
・心血管関連イベントに有意差なし
・中断群でQOL改善が認められた
・症状やPSに関しては有意差なし
・中断群ではスタチン以外の薬の数は有意差をもって少なかった
・中断群でのコスト削減は、3.37$/日、212日の平均follow upで716.46$
 
 
B⑧b 最も重要な結果は?
 
 
・スタチン治療の中断は安全でQOLの改善やスタチン以外の薬剤の数も減り、コストも減るメリットは示唆された
・1次・2次予防のスタチンを中断しても生存に影響しないことが示唆された
 
 
B⑧c  副作用はどうか?
 
・重大な副作用はなかった
 
B⑨ その結果はどの程度正確か
・上記記載
 
C その結果はあなたの現場で役に立つか?
・研究自体にはprimary outcomeの変更やsample sizeが足りない、非盲検などはあるが、この研究で死亡率に差はなく、QOL改善や薬剤を減らす(polypharmacyの意味でも)ことが示唆された、個々の症例で十分に検討は必要だが、終末期患者においてスタチンを中止してもよいのではないだろうか。
ただし、活動性の心血管疾患がある、スタチン治療が現状必要な活動性心疾患のリスクがある場合は除外されている。
1次予防では問題なく中止可能だろう。
2次予防に関しては、心血管リスクを個別に考慮しつつ判断することになるか。