コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

感染症・抗菌薬 総論

・抗菌薬の選択は、患者背景、原因臓器、原因微生物の3つの軸で考える。

・どんな患者の,どこの臓器に,どのような原因微生物があるのかを抗菌薬を使用する場合は常に意識するべきである.

 

患者背景(全身状態、基礎疾患、耐性菌)

・全身状態が不良で基礎疾患もあり,耐性菌リスクも高ければ,スペクトラムの広い抗菌薬の使用を検討する

〇全身状態:食欲・ADLの低下,バイタルサインの異常(血圧低下,意識障害,頻呼吸,頻脈,低体温),シバリング、臓器障害(肝不全、腎不全、血小板低下、乳酸値上昇)

〇基礎疾患:心不全,腎不全,肝不全・肝硬変,DM,慢性呼吸不全,担癌状態,脾摘,免疫抑制状態,好中球減少(化学療法etc),HIV

〇耐性菌:抗菌薬使用歴,入院中の発症・入院歴,老健施設,中心静脈カテーテル

 

原因臓器

・既述の感染症のフレームに準じてTop to Bottomに病歴・身体診察を行い,原因臓器を推定し、可能な限り培養検体の採取に努めるべきである.

  • 中枢神経
  • 上気道(副鼻腔・咽頭・中耳・歯)
  • 下気道
  • 心・血管(感染性心内膜炎、血管内カテーテル)
  • 肝・胆道/腹腔内(肛門周囲膿瘍含む)
  • 消化管
  • 尿路(前立腺含む)
  • 生殖器
  • 骨・軟部組織(皮膚・骨・深部膿瘍)

 

原因微生物と抗菌薬 

〇グラム陽性球菌

グラム陽性連鎖球菌:腸球菌(Enterococcus faecalis,Enterococcus fecium)、連鎖球菌

グラム陽性双球菌:肺炎球菌(PSSP,PRSP)

グラム陽性球菌ブドウ状:黄色ブドウ球菌(MSSA、MRSA)、表皮ブドウ球菌

・連鎖球菌はほぼすべての抗菌薬が効果的であるがペニシリン系が第1選択である。

・Enterococcus faecalisはセフェム系が無効で、アンピシリンが第1選択である。

MRSAおよびEnterococcus feciumは、ペニシリン系、セフェム系が無効であり、バンコマイシンなどの抗MRASA薬を使用する。

・PSSPにはペニシリン系を用いるが、PRSPでは第3世代セフェムやバンコマイシンを用いる。ただしPRSPは通常髄膜炎で問題になり、肺炎で問題になることは稀である。

・MSSAでは第1世代セフェムが第1選択であるが、アンピシリン/スルバクタムや第3世代セフェムも効果的である。

 

 

〇グラム陰性桿菌(グラム陰性双球菌含む)

・中から大型のグラム陰性桿菌は腸内細菌が疑われ、大腸菌、クレブシエラ・ニューモニエ、プロテウス属、エンテロバクター、シトロバクターが含まれる。

・細長く小さいグラム陰性桿菌は緑膿菌を疑う。

・小さなグラム陰性球桿菌はインフルエンザ桿菌を示唆し、BLNAR(β-lactamase negative ampicillin resistance)という耐性機序が重要である。

・ESBLおよびAmpC産生大腸菌が近年問題になっている。

・βラクタマーゼが配合されていないペニシリン系抗菌薬は、グラム陰性桿菌の初期治療には用いない。

・グラム陰性桿菌はどの世代のセフェムまでが効くかで覚えると分かりやすい。

 

・第1世代セフェムが効く(PEK)⇒第1世代セフェム(セファゾリン

Proteus, E.coli , Klebsiela

 

・第2世代セフェムが効く(HM)⇒第2世代セフェム(セフォチアム)、アンピシリン/スルバクタム、セフメタゾール  Haemophilus, Moraxella

 

・第3世代セフェムが効く(SBMoCE)⇒第3世代(セフトリアキソン)

Serratia, BLNAR , Morganella, Citrobacter ,Enterobacter

 

・第4世代セフェムが効く(緑膿菌に効く)⇒*セフタジジム、第4世代セフェム(セフェピム、セフォゾプラン)、ピペラシリン/タゾバクタム、メロぺネム

*セフタジジムは第3世代だが、緑膿菌活性を持つ。

 

 

 

〇嫌気性菌

・横隔膜より上ではペプトストレプトコッカスなどの口腔内の嫌気性菌が,横隔膜より下ではバクテロイデス属などの腹腔内の嫌気性菌が問題になる。

・ただし膿胸などでは、横隔膜より下の嫌気性菌に準じた対応が必要になる。

・横隔膜より上の嫌気性菌⇒アンピシリン、クリンダマイシン

・横隔膜より下の嫌気性菌⇒セフメタゾール、アンピシリン/スルバクタム、ピペラシリン/タゾバクタム、メロぺネム

 

〇細胞内寄生菌

・非定型肺炎ではマイコプラズマ・ニューモニエ、クラミジア・ニューモニエ、骨盤内炎症性疾患などの性感染症では、クラミジア・トラコマティスが関与する。

・これらは細胞内寄生菌であり、通常のペニシリンやセフェムは無効である。

・これらではマクロライド系抗生物質、テトラサイクリン系抗生物質を使用する。

・重症でレジオネラ肺炎を外せない場合は、例外的にニューキノロンを第1選択薬として使用する。アジスロマイシンを使用しても良い。