コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

Effect of Heart Rate Control With Esmolol on Hemodynamic and Clinical Outcomes in Patients With Septic Shock

http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1752246

 

①PICO

P:ローマのLa Sapienza大学病院のICUに、2010年11月から2012年7月までに入院した、ICU入室後24時間以上経ってもカテコラミンを必要とする敗血症性ショックで、脈拍が95/min以上の患者

18歳未満、β遮断薬の内服あり、明らかな心機能低下(CI ≦2.2 L/m^2)、重篤な心血管疾患、妊婦は除外

I:短時間作用型β遮断薬の静注を使用して、脈拍を80〜94/minにコントロールする郡

C:脈拍そのままの郡

O:プライマリ→ICU入室期間中、エスモロールで脈拍を80〜94/minにコントロール出来るかどうか

セカンダリ→ノルアドレナリンの必要量、心肺および多臓器の障害の発生、その他有害事象の有無、28日生存率に対するエスモロールの効果

 

②設定された課題に答えるための研究方法か?

・ランダム化されている?

 →されている ○                

・ブラインドがされている?

 →open-label ×

(脈拍を指標にエスモロールの投与量を決めており、ブラインドは無理)

・多施設研究?

 →single-center ×

 

③それぞれの治療群への患者の割りつけは妥当か

・ランダム化の方法

  →Patients were randomly assigned by a computer-based random- number generator to receive conventional management with or without a continuous esmolol infusion titrated to main- tain heart rate between 80/min and 94/min

・層別化の記載はなし

 

 

・患者のベースラインはtable.1を参照

f:id:jyoutoubyouinsougounaika:20160706084757p:plain

コントロール群でSAPSⅡスコアが高いこと、乳酸値がやや高いこと、血小板値がやや低いこと、原疾患として腹膜炎が多く肺炎が少ないこと、基礎疾患としてCOPDがある患者がやや多いことが気になる

本文中では「similar」と書いてはある・・・

 

④研究対象者、現場担当者、研究解析者は目隠しされているか

解析は同施設内でされているよう。

解析者の目隠しの記載はなし

 

⑤研究にエントリーした研究者が適切に評価されたか

→We performed all analyses according to the intention-to-treat principle.

 

 

⑥研究対象となった介入以外は両方のグループで同じような治療がされていたか

EGDTに則って24時間治療した後に割りつけされているので、基本的な治療方法は同じなはず。割りつけ後の治療方法に関しては記載無し。

 

⑦その研究のための対象患者数は偶然の影響を小さくとどめるのに十分な数か?

To detect a 20% change in heart rate (estimated standard deviation 40%) with a power of 80% and a type I error rate of .05, by using a 2-sided t test, we calculated that 64 patients per group would be required.

ただし、primary endpointが目標の心拍数に到達したかどうかという、微妙なもの。そもそも両軍間で比較できないししても意味はない。この論文では心拍数の曲線下面積(AUC)で比較している。なんのこっちゃ。

 

 

⑧a結果はなにか ⑧b有意差はあるか

上に書いた通り、primary endpointは比較する意味なし。一応、エスモロール群全例で目標心拍数に到達した、とのこと。

secondary endpointの中で28日死亡率が有意差をもって改善した(エスモロール群49.4% vs. コントロール群80.5% P<.001)。ただ、上記の通りprimary endpointではないので、まだコントラバーシャルだと書いてある。

28日死亡率で比較すると、NNTは3.2。全死亡率では4.3。ほんとだったらすごい数字。

 

 

⑧c副作用は

このstudy上は、明らかな副作用は出なかった。レボシメンダンに使用率に差はなく(49.4% of esmolol patients vs 40.3% control patients; P = .39)、ノルアドレナリンの使用量や(esmolol group with a median AUC of −0.11μg/kg/min (IQR, −0.46 to 0) vs −0.01 μg/kg/min (−0.2 to 0.44) in the control group (P = .003; Figure 3))補液量(the esmolol group with a me- dian AUC of 3975 mL/24 h (IQR, 3663 to 4200) vs 4425 mL/24 h (IQR, 4038 to 4775) in the control group (P < .001; Table 2))はむしろ減少した。

 

 

 

○臨床にこの結果はどのように応用出来るか

どうも短時間型β遮断薬の使用は予後を改善するかもしれない、程度しか言えない。しかし、死亡率の低下はかなりインパクトのある数字なので、今後のより大規模な追加試験が望まれる。ディスカッションでもそう書いてある。

ただ、敗血症の患者で循環動態を落ち着けるためにβ遮断薬を使用しても副作用は出なさそう、というのは参考になる。PAfっちゃう人とか多いし。