はじめに
・非細菌性血栓性心内膜炎(nonbacterial thrombotic endocarditis:NBTE)は 1888 年に Ziegler によって提唱 された疾患概念。
・心臓弁膜に可動性をもつ無菌性疣贅を形成することが特徴
・大動脈弁の心室側 もしくは僧帽弁の心房側に認められることが多い
・心臓弁膜に形成される疣贅は変成した血小板とフィ ブリンからなる非常に脆い凝血塊
・塞栓症を合併するため,脳梗塞等の重篤な病態 を示す,臨床上重要な疾患である.
・担癌患者の剖検例 で脳梗塞の原因を検討した報告ではNBTE が 16%,血管内凝固 による脳梗塞が 15% と両者を合わせると 31% である
原因
・悪性腫瘍(最多) 全体の 40~85% を占める
adenomaが多い
肺癌、膵癌、胃癌、原発不明のadenocaricinomaが多かった。
・SLE
⇒SLEによる心内膜炎(Libman-Sacks disease)、抗リン脂質抗体症候群
・HIV
・低酸素
・DIC/凝固異常
・敗血症
・熱傷
症状
・3徴候
(1) a disease process known to be associated with NBTE
(2) presence of a heartmurmur
(3) evidence of multiple systemic emboli
IEとの鑑別
・NBTEは弁膜症というより脳、脾、腎、四肢の塞栓症と発症する。
・50%程度の患者で塞栓症を起こす。
・IEとの鑑別に血液培養が重要である
・ coxiella, legionella,chlamydia, HACEK group, fungi (candida, histoplasma,
and aspergillus species)などの血液培養が検出されにくいIEの検索も行う
NBTEの脳梗塞
・突然発症の神経障害(片麻痺 74%,失語 失認 51%,視野欠損 26% )が最も多い
・脳塞栓症では複数の支配動脈にまたがって大小の梗塞が 認められこれはNBTEを疑うきっかけになる。
・頭部 MRIのDWIで1:単一の病変、2:単一の動脈支配域に起こる近接した複数の病変、3:点状のびまん性病変、4:大小さまざまなびまん性病変の4に分類すると、全36例中、9例のNBTEによる病変はすべてパターン4であった。
・エコー所見
・200人の癌患者にTEEをすると19%に疣贅が見つかったとされる
・僧房弁が一番多く、次いで大動脈弁
・疣贅がある患者の24%で塞栓病変を認めた
・疣贅は心原性脳梗塞との関連が深い
・心臓の弁に付着した血栓のIEのVegetationと同様にTTEよりもTEEの方が感度が高いが疣贅は小さい傾向(1cm以下が多い)があり、IEに比べ疣贅の同定は難しい
・TEE でも感度は 18% 程度と必ずしも高くない.
採血
・凝固異常が認められることが多く、血中 FDP,FDP D-dimer,TATの異常が認められることが多い。
・抗リン脂質抗体症候群や凝固因子欠損症の検索も行う必要がある。
疣贅の写真
治療・再発予防
・基本的には低分子ヘパリンもしくは未分化ヘパリンの使用が推奨され、ワーファリンはそれらに比べ再発が明らかに多いため使用は推奨されていない。
・日本では低分子ヘパリンを外来で使用することは一般的に行われておらず、かといって未分化ヘパリンを外来で継続するのも難しい。
・ヘパリンを中止すると再発するため半永久的に継続する必要があるのが難しいところ。
・疣贅による弁膜症から急性心不全を起こした症例±ヘパリンを使っても再発する症例でのみ手術を検討する。
参考文献
Nonbacterial Thrombotic Endocarditis in Cancer Patients. The Oncologist 2007; 12: 518
非感染性血栓性心内膜炎による多発性脳梗塞が初発症状であった肺腺癌の 1 例 日呼吸会誌 47(1),2009.