コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

側頭動脈炎 まとめ

JAMA. 2002 Jan 2;287(1):92-101. 参照

側頭動脈炎の診断は3つのフレームに分けて考えます。

 
●動脈
●虚血
●炎症




病歴

 

●動脈
側頭動脈自体の炎症による症状。側頭動脈が痛い⇒頭痛として現れる。 
最近発症の頭痛は LR+ 1.7 , LR- 0.37 と有用。





●虚血
眼および顎の虚血が重要。どちらも虚血の症状は失明のリスクであり、非常に重要。



・眼
眼の虚血=虚血性視神経症 ⇒特に複視がLR+3.4とあれば可能性を上げる。
他、一過性黒内障、視野欠損など。
これらの眼の症状はあれば、緊急ステロイド治療を考慮する必要がある。



・顎
顎の虚血=顎跛行 LR+4.2 LR-0.72
*顎跛行は噛んでいるうちに徐々に顎が痛くなるのがポイント。最初から痛いのは違う。






●炎症
全身の炎症に伴う症状が認められる。
倦怠感、体重減少、食欲不振など。
ただこれらは非特異的であり、可能性を上げも下げもしない。








身体所見
 
 
●動脈
側道動脈自体に何らかの異常が出ることが多く非常に重要。
側頭動脈の数珠状変化    LR+4.6  LR- 0.93
側頭動脈の突出または拡張 LR+4.3  LR-0.67
側頭動脈拍動消失      LR+2.7  LR-0.71
側頭動脈の圧痛      LR+2.6  LR-0.82
何らかの側頭動脈異常      LR+2.0  LR-0.53

 

側頭動脈になにも異常がなければ、可能性は少し下がる。
逆に側頭動脈に異常があれば、可能性が極めて上がる。




●虚血
眼の虚血=虚血性視神経症
視神経萎縮または虚血性視神経症 LR+1.6  LR-0.8
なんらかの眼底の異常      LR+1.1  LR-1.0

 

これらの所見は失明リスク評価としての意味が大きい。




●炎症
発熱は認めることもあるが、同様に可能性を上げも下げもしない。






新しい頭痛、側頭動脈異常、顎跛行の3項目が非常に重要。
どれもなければ、側頭動脈炎はLR- 0 で否定的で、逆に3つそろえばLR+47と確定的という報告あり。
ただし、過信は禁物だが・・
 
Ann Rheum Dis. 1987 Apr;46(4):282-5.






検査所見
 
●炎症
血沈は感度が高く、スクリーニングに非常に有用。
血沈<50 LR- 0.35と可能性が下がる。
さらに血沈が正常ならLR-0.2とさらに可能性が下がる。
血沈が100を超えるとLR+1.9と少し可能性が上がる。

ただし、初診時には2割の患者が正常~軽度高値に留まるため注意
 
 
 
 
 
 
●動脈



・側頭動脈生検
侵襲的だがゴールドスタンダード
陽性なら診断が確定する。
陰性尤度比は 0.18 で一度の生検では完全には否定できない。 
ただ当然侵襲的。

J Rheumatol. 1988 Dec;15(12):1797-801.





・側頭動脈エコー
まず試みる手技。簡便かつ非侵襲的で、生検をするかどうかの判断にも使え非常に有用。

 

Clinical Ophthalmology 2010:4 1383–1384
10例の側頭動脈炎が疑われた症例でエコーと生検を施行。
そのうち生検が陰性だった4例で全てエコー所見も陰性。
逆に生検が陽性だった6例は全てエコーで陽性。
⇒エコー所見で側頭動脈生検の結果が予測できるかもしれない




●halo sing:壁が全周性に肥厚している。
●血管の狭窄や閉塞



・側頭動脈炎のエコー所見のメタアナリシス
Ann Intern Med. 2005 Mar 1;142(5):359-69
halo sign: 側頭動脈生検との比較 LR+ 3.8  LR-0.38  、ACR criteriaとの比較 LR+ 9.2, LR- 0.48
閉塞or狭窄: ACR criteriaとの比較 LR+13.2 LR-0.36
.
ACR criteriaとの比較良好な結果を得ている。







・胸腹部造影CT
通常の胸腹部造影CTを頸動脈を含めて撮像する(血管相ではない。)
大血管に炎症があると、造影効果を認める。
エコーよりは敷居が高いが、PET-CT程の手間もなく比較的簡便に施行出来る。
エコーで異常がない場合は次に施行すべき検査。
 
 
Ann Rheum Dis 2012;71:1170-1176
 
生検でGCAと診断された40人の患者に造影CTを施行した報告。
血管壁の肥厚を評価。
大血管炎の所見は67.5%で認められた。
未治療のの患者に限れば77%⇒治療後の患者では29%に低下する(p=0.005)
第血管炎の所見があるうちの96%は大動脈に認められる。
大動脈:65%、腕頭動脈:47.5%、鎖骨下動脈:42.5%、頸動脈:35%
大腿動脈:30%、腹腔動脈:22.5%、腋下動脈:17.5%、腸骨動脈:15%、腎動脈:7.5%
15%で既に胸部の動脈の拡張あり。
 






 
・PETーCT
敷居が高いが非常に有用な検査。
大動脈の取り込みがあれば、大血管炎が証明。
後期にはほぼ全ての症例で取り込みがある印象も。
 
 
September 2011Volume 38Issue 9pp 1764-1772
 
PETの診断に関するメタアナリシス。
感度:80%[95% CI 0.63–0.91],、特異度89%(95% CI 0.78–0.94)
陽生尤度比6.73 (95% CI 3.55–12.77), 陰性尤度比0.25 (95% CI 0.13–0.46) 
 
 
 
 
 
 
 

 

●虚血
基本的に眼底検査。⇒眼科に依頼。






 
 
●治療
動脈の炎症を抑えることで、虚血を予防することが治療目的。 
ステロイドが基本で何より重要(疑わしければ、生検前にステロイドを開始する)

・原則 PSL1mg/kg(PSL40-60mg/day)
視覚障害などを認めればステロイドパルス(1000mg/day mPSLを3日間)⇒PSL1mg/day
・少量アスピリンは頭蓋内虚血性イベントを抑制するため原則投与する。(アスピリン100mg/day)