コミュニティホスピタリスト@奈良 

市立奈良病院総合診療科の森川暢が管理しているブログです。GIMと家庭医療を融合させ、地域医療に貢献するコミュニティホスピタリストを目指しています!!!

定期的に末梢カテーテル交換を必ずしもする必要はない??

Routine versus clinically indicated replacement of peripheral intravenous catheters: a randomised controlled equivalence trial. - PubMed - NCBI

Routine versus clinically indicated replacement of peripheral intravenous catheters:a randomized controlled equivalence trial

 

P

Inclusion:Patients aged at least18 years with an intravenous catheter in place and expected treatment of longer than 4 days were eligible.

18歳以上 静脈内カテーテルを持っていて、4日以上の治療が見込まれること。(1067 左上)

 

Exclusion:Exclusion criteria were bloodstream infection, planned removal of intravenous catheter within 24 h,or intravenous catheter already in situ for more than 72h.

血流感染のある人、24時間以内に静脈内カテーテルを除去することが予定されている者、静脈内カテーテルがすでに72時間以上挿入されている者は除外する。救急室で挿入された静脈内カテーテルは24時間以内に差し替えないといけない決まりのため除外する。

 

I:

intravenous catheters removed only for completion of therapy, phlebitis, infi ltration, occlusion, accidental

removal, or suspected infection.

治療の終了、静脈炎、漏れ、詰まり、事故抜去、感染が疑われる場合など臨床的に必要な時に交換する

 

C :

intravenous cathetersreplaced every third calendar day,unless clinical reasons made this impossible (P1067右)

臨床的に理由がなければ3日毎に交換する

 

O:

The primary outcome was phlebitis during catheter isation or within 48 h after removal (P1068 左)

カテーテル留置中または抜去後48時間以内の静脈炎

静脈炎の診断は①患者が疼痛を訴えた場合 ②1cmを超える紅斑 ③1cmを超える腫脹 ④膿性分泌物 ⑤カテーテル挿入部を超えて血管を触知可能であること。

 

Secondary endpoints were ……(P1068右)

  • カテーテル関連血流感染 ②全ての血液感染 ③血液感染と関連が認められない静脈炎 ④カテーテル先端のcolonization ⑤治療終了前の定期交換以外のカテーテル除去 ⑥治療期間中患者一人当たりに要したカテーテルの数 ⑦治療の期間 ⑧カテーテル留置、抜去に伴うコスト ⑨カテーテル挿入後あるいは抜去後48時間以内の死亡率

 

  • ランダム割付されているか?ランダム割付の方法は?

Patients were randomly assigned to one of two treatment groups(simple randomisation with 1:1ratio,no blocking,stratified by ospital). Random allocations were computer-generated on a hand-held devece,at the poin of each patient’s study entry. (P1067 左下)

患者は1:1の比率で病院により層別化、各患者が研究にエントリーされたポイントでコンピューターによって無作為割り付けされた。

  • ベースラインは同等か?

 Table 1  Table2  と群間の差について記載がなく、大きな差はないように思います。

 

  • 研究対象となった介入以外は両方のグループで同じような治療がされていたか?

Table2 Prescribed treatment

大きな差はないように思います

 

  • 研究対象者、現場担当者、研究解析者は目隠しされている?

Thus were concealed to patients, clinical staff, and research staff until thes time. Patients and clinical staff could not be masked after allocation.  Research nurses were similarly not masked.

Laboratory staff were masked

患者とクリニカルスタッフは割り付け後は目隠しされない。リサーチナースはトリートメントグループへの患者割り付けをしなければならず、またその介入の誠実さをモニターしなければならないため目隠しされない。 研究室のスタッフは目隠しされた。(p1067右)

 

  • ITT解析か?

The primary analysis was byintention to treat, including all patients (and allcatheters) in their ran domised group.

(p1069左 figure1)

Primary outcomeはintention to treat で解析されている。

 

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  • その研究のための対象患者数は偶然の影響を小さくとどめるのに十分な数か?

The sample size was calculated to detect equivalence at 4% phlebitis (equivalence margin 3%)with 5% signifi cance and more than 95% power. This determined a total sample of 3000patients, plus 300 to allow for attrition.

症例数は脱落者を考慮し3000+300  パワーは95%以上 →数は十分と考えられる

 

  • 結果は?

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In the primary analysis, in both groups 7% of patients had phlebitis (table 3), with an absolute risk diff erence (ARD) of 0·41% (95% CI –1·33 to 2·15), which was within the predefined equivalence margin of 3%. Therefore we accepted the equivalence hypothesis.

臨床的な必要時のみの交換と定期交換を比較して患者一人あたりにおける静脈炎の発生率は同等 (P1070右)

 

Intravenous catheter colonaization rates did not differ between groups

カテーテルのcolonaizationの割合はグループ間で違いはない

 

Rates of infiltration,occlusion,accidental removal,total infusion failure and in-hospital mortality were all equivalent between groups (table3)

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Only one patient had a catheter related bloodstream infection and this patient was in the routine replacement group.(P1070 右)

血液培養陽性は15例 1例がカテーテル関連血流感染で、定期交換群だった。(Table4)

両群で静脈ライン留置期間に有意差はなかった。(Table5) サンプルサイズはsecondary endpointsを考慮していないため、これらは参考値。

 

The clinically indicated group required significantly fewer intravenous catheters per patient,with significantly reduced hospital costs.

患者一人あたりに使用した静脈カテーテルの数、治療コストは臨床的必要時に交換群で有意に低かった

 (Table5)

 

  • 副作用は?

No serious adverse events were related to the trial intervention.(P1071 左)

この介入に関する深刻な副作用はなかった。

 

  • まとめ

・末梢カテーテルの臨床的に必要時交換群と定期交換群の静脈炎の発生率は同等

カテーテル関連血流感染は3283人で1人(0.03%) 5907カテーテルで1本(0.02%)とまれな出来事で、 

臨床的必要時交換が血流感染のリスクを上げるとは示唆していない。

カテーテルを長く入れていることが静脈炎の発生を増やすことも示唆していない

➡定期交換を正当化しない。交換時期は臨床的に判断すればいい。

 

・とはいえ、外的妥当性の問題がある。。

通常のルートはアルコール綿のみだが、この試験では2%クロルヘキシジンで消毒している。
またこのstudyは上肢の末梢ルートであるので、下肢では別かもしれない。
また点滴は、細胞外液や抗菌薬が多い。ビーフリードだとどうかは、疑問。。
オーストラリアでは、4割ぐらいルートの専門家が代えているため、日本における看護師による末梢カテーテルの挿入と同じように考えてよいかは不明。
また、前提として注意深い末梢カテーテルのチェックは必ず必要!!
 

ガイドラインから読み解く胆嚢炎と胆管炎

朝の画像カンファで胆嚢炎と胆管炎の違いになりました。

 

誤解を承知で、極論を言えば。。

胆管炎は採血+肝叩打痛で診断し、消化器内科にコンサルトする。

胆嚢炎は画像+Murphy徴候で診断し、消化器外科にコンサルトする。

 

という違いを原則として覚えておくと分かりやすいです。

以下、ガイドラインより

https://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0020/G0000565

 

 

急性胆管(道)炎の診断基準は以下になります。

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発熱、採血、画像所見で診断するということが分かると思います。

とはいえ、γGTP≧90U/Lは総胆管結石の胆嚢炎との鑑別において陽性尤度比3.4,陰性尤度比0.19とされています。

Role of liver function tests in predicting common bile duct stones in acute calculous cholecystitis. - PubMed - NCBI

 

一方で、腹部エコーの胆管炎における陰性尤度比は0.60程度ともされており、胆管炎においては採血が画像より感度は優れる傾向があると言えます。

 

なお、胆管炎の診断においてMurphy徴候は感度に劣る傾向があります。

肝胆道系感染症の診断においてMurphy徴候と肝叩打痛を比べると以下のような結果になります。

 

Indirect Fist Percussion of the Liver Is a More Sensitive Technique for Detecting Hepatobiliary Infections than Murphy's Sign

 

Murphy徴候  感度30%  特異度93%  LR+4.4 LR-0.75

肝叩打痛   感度60%   特異度85%  LR+4.1 LR-0.47

 

肝胆道系感染症のスクリーニングとしては肝叩打痛のほうが、Murphy徴候よりも優れると言えると思われます。

特に胆管炎の診断においては、肝叩打痛のほうがより感度が高い実感があります。

 

よって、胆管炎の診断においては発熱に加え、採血(特に、ALPとγGTPの上昇)、肝叩打痛をスクリーニングとして使用することが有用と考えます。

 

 

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一方、急性胆嚢炎の診断は発熱に加えて、腹痛/Murphy徴候と画像診断で行います。

特に、腹部エコーは急性胆嚢炎の診断において極めて有用です。

A systematic review and meta-analysis of diagnostic performance of imaging in acute cholecystitis. - PubMed - NCBI

腹部エコーの胆嚢炎に対する診断特性は、陽性尤度比4.3、陰性尤度比0.22とされておりまず行うべき検査として有用です。

さらに、エコーで描出した胆嚢をプローベで押すことで痛みを誘発するsonographic murphy's sign は陽性尤度比12、陰性尤度比0.15 という報告もありやはり有用であると言えます。

https://www.ajronline.org/doi/abs/10.2214/ajr.171.1.9648785

 

つまり、

胆管炎は採血+肝叩打痛で診断し、胆嚢炎は画像+Murphy徴候で診断するということになります。

なお、胆管炎を疑った時に画像検査をしないかというと、画像検査は行います。

画像検査にはっきりとした異常がなくても胆管炎は否定できない、つまり感度は低いのですが、画像検査で胆管の異常があれば、より胆管炎の可能性が高くなります。つまり特異度は高いと言えます。

特に総胆管結石の完全閉塞を伴う胆管炎はERCPを緊急に行う必要性があります。

 

逆に、胆嚢炎を疑った時も当然採血を行います。とはいえ、採血の異常がなくも胆嚢炎は否定できません。採血の異常がない胆嚢炎は、比較的経験されます。

むしろ胆道系酵素の上昇があれば胆管炎の合併を疑うので、採血は胆管炎の合併の有無を評価するのに有用と言えると思います。

 

 

なお、急性胆管炎の治療のフローチャートは以下になります。

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抗菌薬は当然として、軽症例を除き基本的には胆管ドレナージを行います。つまり、消化器内科の内視鏡を用いたERCPが治療の基本になるということです。

つまり、消化器内科にコンサルトするということになります。

 

 

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以下本文から引用します。

急性胆囊炎の第一選択の治療は早期または緊急胆囊摘出術で,できるだけ腹腔鏡下胆囊摘出術が望ましい。
リスクを有し早期または緊急胆囊摘出術が安全に施行できないと考えられる患者には,経皮経肝胆囊ドレナージ(percutaneous gallbladder drainage:PTGBD),経皮経肝胆囊穿刺吸引術(percutaneous transhepatic gallbladder aspiration:PTGBA),内視鏡的経鼻胆囊ドレナージ(endoscopic nasobiliary gallbladder drainage:ENGBD)を行う。

 

つまり、外科的な胆嚢摘出が第一選択になり、難しい場合のみ胆嚢ドレナージを行うということになります。

よって、胆嚢炎はまずは消化器外科にコンサルトすべき疾患ということになります。

 

つまり、

胆管炎は採血+肝叩打痛で診断し、消化器内科にコンサルトする(画像診断も補助的に有用。)

胆嚢炎は画像+Murphy徴候で診断し、消化器外科にコンサルトする(採血検査も補助的に有用。)

 

というのが、ひとまず臨床上の原則になると思われます。

 

 

 

Case 17-2018: A 40-Year-Old Woman with Leg Swelling and Abdominal Distention and Pain

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40歳の女性が進行性の下腿浮腫と腹部膨満で受診
10か月前までは問題なかったが、それ以降に足の腫脹と疼痛が出現した。
最初は夕方にしか症状はなかったが、そのうち一日中症状が出現した。
下腿浮腫の範囲も徐々に拡大した。
5か月前から痛みが側腹部や腰部にも出現した。
痛みが継続するのでERを受診。
腎機能、血糖、電解質は正常だった。
B型肝炎C型肝炎も正常だった。
ALBは1.9と低下し、WBC12500と増加していた。
D-dimerも20μg/mlと増加していた。
CTでは石灰化した肉芽腫を右肺に認め、多発した肺塞栓を認めたため、入院で低分子ヘパリンが開始された。
その後痛みは改善し、アピキサバンが導入されて退院した。
血液内科の診察で誘因がないので、抗凝固療法の継続が提案された。
しかし、退院後に下腿浮腫が再度増悪し、腹痛及び腹部膨満も出現し、再度来院した。
悪心、排便停止、腹痛も認めた。
食事量は変わらないが、体重が10kg減少した。
CTでは右腎静脈血栓、胃幽門および小腸壁の肥厚、腹腔内リンパ節腫脹、腸間膜の浮腫、少量腹水を認めた。
頻尿と口喝を認めたが、胸痛、血尿、喀血、血便、寝汗、倦怠感、関節症状、目や耳の症状は認めなかった。
甲状腺機能低下と潜在性結核の指摘があった。
バイタルは比較的安定して発熱なし。
下腿浮腫が著明で、JVPは8cm。
腹部は全体的に張っていて、圧痛があった。

以下、採血と尿検査

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診断は??

過凝固状態なので、悪性腫瘍関連や抗リン脂質抗体症候群
しかし、尿たんぱくの説明は??
腎静脈の血栓があること、尿たんぱくがあること、ALBの低下があることより膜性腎症に伴う過凝固が示唆。

 

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PLA2R が陽性で膜性腎症と診断。

 

以下参照

特発性膜性腎症の標的抗原としての M-Type ホスホリパーゼ A2 受容体 | 日本語アブストラクト | The New England Journal of Medicine(日本国内版)

 

 

〇感想

腎静脈血栓+過凝固+尿蛋白陽性+ALB低下では、膜性腎症を疑う。

軽症~中等症の喘息に対するシムビコートの頓用について

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P 

12歳以上の喘息患者

試験の少なくとも6か月以内にGINAに従い臨床的に喘息と判断され、GINAのステップ2の治療が必要と判断された患者

具体的にはSABAでコントロールが出来ない場合や、ICS orロイコトリエン受容体で比較的安定している患者

I  シムビコートを必要時に屯用で使用 

C  SABAを必要時に使用

  パルミコートの定期吸入+SABAを必要時に使用

*なおコントロールが不良になればオープンラベルでシムビコートを使用

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O 喘息のコントロール(自覚症状、電子日記で評価)

  喘息の急性増悪

   Asthma Control Questionnaire–5 (ACQ-5) scores,

  呼吸機能

  QOL(according to the Asthma Quality of Life Questionnaire [AQLQ] score)

 

 ダブルブラインドのRCT 人数は90%の検出力で計算

 

ランダムに割り付けた結果、3郡はほぼ同等

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〇結果

ICSでコントロールしたほうが自覚症状は良好

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急性増悪に関しては、シムビコートを頓用とパルミコートの維持療法に差はない。

しかしSABAの頓服では明らかに急性増悪が増加

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急性増悪に関してのサマリー

重症な急性増悪も含めてICSの維持療法とシムビコートの屯用は大きな差はない

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副作用に関しては急性増悪以外は3郡で変わりなし。

 

〇感想

SABA頓服でコントロールできない場合には当然ICSの維持療法を行うべきだが、本人のコンプライアンスの問題で難しい場合は、シムビコートの屯用というのは、選択肢に入るかもしれない。

とはいえ、ICSの維持療法に比べて自覚症状の改善は劣る。

また長期的なアウトカムに関しては不明であり、リモデリングを防ぐという意味でも基本的にはガイドライン通りにICS維持療法を行うという方針は変わらないと思われる。

喫煙はオピオイドの効果を減弱する??

Opioid Analgesics and Nicotine: More Than Blowing Smoke. - PubMed - NCBI

 

ニコチン製品とオピオイド鎮痛薬の同時使用患者に遭遇する可能性が非常に高い。

喫煙者は、より重症で長期にわたる慢性疼痛アウトカムを呈し、オピオイド使用頻度が高い。

喫煙は、オピオイド使用リスクの強力な予測因子である。

オピオイドおよびニコチンのコリン作動性神経伝達系は相互に作用する。

ニコチンを含むタバコのオピオイドおよび化合物は、シトクロムP450酵素系によって代謝される。

痛みのためのオピオイドを服用している患者のニコチン使用を尋ねることが推奨される。

患者のたばこの使用を評価する際に、葉巻、パイプ、無煙たばこ、電子タバコにも留意する必要がある。

オピオイドアゴニストの維持および鎮痛の為に、ニコチン介入プログラムの機会が十分に活用されていない懸念がある。

若年者でタバコは腰痛のリスクになる。

喫煙者では、より職業的にも機能的にも痛みを感じやすい。

非合法薬物の使用は喫煙と関連が高い。

オピオイドを使用している喫煙者の死亡率は特に高い。

オピオイドはタバコと経路が一致しているが、禁煙の手段としての効果は乏しいとされている。

 

〇結論

オピオイドはニコチンの効果を減弱させる。。

オピオイドを内服している場合はニコチンの使用を確認することが大切。

喫煙者で、オピオイドの使用率が高い。

 

NEJM ケースレコード  Case 16-2018

https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMcpc1712227

 

A 45-Year-Old Man with Fever, Thrombocytopenia, and Elevated Aminotransferase Levels

 

45歳男性、夏に血小板減少、発熱、肝機能障害で来院。

3週間前からMAX40度の発熱と倦怠感

来院5日前に発熱と倦怠感は改善したが、頭皮にRash(erythematous, maculopapular )が出現。

3日でRashは改善

来院3日前に発熱が再燃。悪寒出現。

その後、発熱が継続。

当日には血小板が2万1000に低下し、39度前後の発熱も継続し、ERへ。

ROSは食欲不振意外に、特に大きな異常なし

体重減少、出血、胃腸、肺、神経、関節、または泌尿生殖器の症状はなかった。シックコンタクトもなかった。

女性化乳房の指摘はあるが、他既往歴はなく内服薬もなく、アレルギーもなし。
クラフトショップのオーナーで、マサチューセッツ州の森林地帯に住んでいる。
非合法薬物使用なし
メキシコに冬の間に旅行に行っていた。

the temperature was 36.7°C,the blood pressure 117/60 mm Hg, the pulse 113 beats per minute, and the oxygen saturation 97% RA
⇒6時間後に体温は39.3度へ
胸部にわずかな紅班がある。。

中央の痂皮を有する円形の皮膚病変(直径1cmのもの)が、左くるぶしに認める。
リンパ節腫脹なし
神経学的所見も乏しい
胸部Xp問題なし

 

 

 

〇採血

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〇森川の第一印象
野外活動歴があり、ここまでの印象では、リケッチア感染が疑わしい。
あるいは、日本ならSFTSなども考える。
スティル病やリンパ腫も頭をよぎったが、まずは考えない。。

 


〇臨床診断
anaplasmosisによるTickborne diseaseが疑わしい。。
ライム病にしては皮疹が非典型的で、これほど血小板は低下しないと。。

 

〇末梢血スメアより臨床的にanaplasmosisと診断 治療(atovaquone,
azithromycin, and doxycycline.)を開始したところ、症状は改善し退院した。

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〇最終診断

Anaplasma phagocytophilum infection.

 

 

〇感想

 正直、知らなかったという他ない。日本であれば、鑑別疾患の上位にくるのは日本紅斑熱やツツガムシ病かもしれない。やはり、地域に特異的な感染症を考えることは大切である

 

副腎クリーゼについて

Adrenal Crisis: Still a Deadly Event in the 21st Century. - PubMed - NCBI

 

副腎クリーゼは、生命を脅かす緊急事態であり、適切に認識され、早期治療が行われない限り、死亡率が高い。

70年間前からは治療可能な状態であったにもかかわらず、適切な予防手段の不備や治療の遅延は、しばしば不必要な死を招いた。

Sick dayについて患者及び医師は教育されているにも関わらず、グルココルチコイドの投与量を増やすことや、非経口投与に切り替えることにしばしば消極的であり、それによって患者の状態が急速に悪化することがある。

副腎クリーゼでは消化器症状が多いことも、見誤られる要因となる。

副腎クリーゼの予防及び、起こった時の適切な治療を知ることが大切である。

 

 

〇重要事項

副腎不全は依然として重要な死因。

臨床的悪化が早期に進行し、自宅で死亡するか、病院に到着するとすぐに死亡する可能性がある。

この内分泌緊急事態の早期認識と治療は非常に重要。

Sick dayおよび自宅でのヒドロコルチゾン筋肉注射についての教育は、副腎クリーゼの予防において重要

 

 

〇 副腎不全のコモンな原因

原発性⇒副腎が原因(自己免疫、転移性悪性腫瘍、結核などの感染など)

二次性⇒下垂体が原因(下垂体腫瘍、外傷、下垂体炎など)

ステロイドの長期投与

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〇臨床的特徴

慢性的な副腎不全では、倦怠感、不安、体重減少、悪心、微熱などが前面に来る。

一方、副腎クリーゼでは、重度の脱力、急性の腹痛、悪心、嘔吐、意識障害などで発症し、さらに腹部症状も伴うこともある(急性腹症と誤診される!!)

なお、低ナトリウム、高カリウム低血糖、高カルシウム(稀)は慢性でもクリーゼでも同様だが、慢性経過では貧血、好酸球上昇、リンパ球増加を認める

二次性では、バソプレシンが供給できずに低ナトリウムになる

原発性では、ミネラルコルチコイド不足で、低ナトリウムになり、高カリウムも合併する。

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〇副腎クリーゼを誘発する要因

消化器系の疾患、他の感染症、身体的ストレスだけではなく、精神的なストレスも誘因となりうる

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〇副腎クリーゼのリスク

原発性副腎不全のほうが、クリーゼの発症リスクは高い

副腎不全の既往、外因性ステロイド、薬剤(レボフロキサシン、フェニトイン、リファミピシン、フェノバルビタール、ケトコナゾール、フルコナゾール、抗凝固薬)、甲状腺中毒、妊娠、糖尿病、早産、性腺機能低下など

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〇診断など

既に副腎不全の診断がついていたら、治療は速やかに行う。

不安定であれば、迅速ACTH試験などの診断をするために治療を遅らせてはいけはい。

ヒドロコルチゾンを使用する前に、血中のcortisol, ACTH, aldosterone,dehydroepiandrosterone-sulfate、 renin を提出しておく。

コルチゾールが20を上回るなら副腎不全は否定的だが、早朝 or ストレス時に5未満なら可能性が高くなる

ACTHは原発性では高値だが、二次性では正常~低値

治療は状態が安定するまで行うべきだが、安全になればACTH負荷試験を行う。

ACTH負荷試験を可能な限り行わないと、ステロイドをずっと内服することになり、視床体ー下垂体ー副腎の経路に影響を及ぼしてしまう

 

 

〇治療

基本的に生理食塩水による輸液、低血糖の補正、血行動態のモニタリング、電解質補正を行いつつ、コルチゾールを使用する。

コルチゾールの使用で、低ナトリウムの補正が急激に進み、脱髄を起こさないように注意する。

最初の24時間でナトリウムの補正は10mEq/24h未満に抑える。

ヒドロコルチゾンは100mg最初にをボーラスで使用し、その後100-300㎎/日を6時間ごとのボーラス投与か持続投与で2-3日行う

その後徐々にテーパリングを行う

原発性副腎不全における、フルドロコルチゾンは50-200 mg /日で投与する

 

 

〇周術期やストレス下のステロイド

⇒ 特にSick dayを疑うような熱、悪心などがあれば、患者に内服や筋注を自分で出来るように指導しておく

周術期はステロイドの予防投与を行う

周術期は手術の侵襲によってステロイドの量が変わる

メジャーサージェリー:100㎎ IM or 手術直前に 100㎎IV ⇒術後24時間は飲水が出来るまで200㎎/日で持続投与⇒通常の倍量を経口で48時間投与⇒徐々に通常量までテーパリング

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〇クリーゼ予防のためのチェックリスト

患者教育が何より大切

余分なヒドロコルチゾンを携帯しておく。

ヒドロコルチゾンの筋肉注射セットも持っておく

はじめての病院で手術をする場合は必ず診療情報を持たせる

旅行の際は、ヒドロコルチゾンを携帯するだけでなく診療情報を持たせる

旅行先の緊急受診する病院もリストアップしておく

ワクチンも投与しておく

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