Delivering safe and eff ective analgesia for management of renal colic in the emergency department: a double-blind, multigroup, randomised controlled trial
Lancet 2016; 387: 1999–2007
ERに受診した尿管結石に対しては有効な鎮痛が必要である。これまでNSAIDs、オピオイド、アセトアミノフェンの比較をした研究はいくつかあるがランダム化やサンプルサイズの問題があり、いずれも決定的なものではない。最も効果的で副作用の無い薬剤と投与経路はどれなのかを、きちんとしたデザインのRCTで検証した、カタールのRCT。
A この試験の結果は信頼できるか
①その試験は焦点が明確な課題設定がされているか
○Patient
Inclusion criteria
カタールのMahad General Hospitalの救急外来に尿管結石で受診した、18歳から65歳までの、Numerical pain Rating Scale (NRS 0 to 10)が4以上の患者
Exclusion criteria
いずれかの薬剤へのアレルギー、喘息の既往、腎・肝不全または機能障害(患者申告もしくは医療記録による)、これまでに本試験に登録されている、妊婦、外傷による側腹部痛、受診6時間以内の鎮痛剤の使用
○Intervention
・ジクロフェナク75mg/3mLの筋注
の比較
○Outcome
Primary outcome
疼痛の軽減度合い。投薬から30分以内に50%以上疼痛が軽減すれば有意とする。
Secondary outcome
30分時点でのNRSの平均値、NRSが3以上下がった患者の割合、レスキューを必要とする患者割合、一般的なプロトコールに従ってレスキューを使用して60分後の時点でNRS>2の疼痛が持続している患者の割合、急性期のマネージメント中に起こった副作用の割合
A②その試験は設定された課題に答えるための研究方法がとられているか?
single centerではあるが、double-blindのrandomized controlled trial
double-blindにするために、患者はひとつの筋注薬とふたつの静注薬を受けていて、そのなかのどれかひとつがactive drugで残りはプラセボ、という面白いデザイン
A③ 患者はそれぞれの治療群にどのように割り付けられたか?
置換ブロック法を用いて、ブロックサイズは6または9としている。
コンピューターでランダム化は行われているが、single centerなので多分同一センター内で行われている?
A④研究対象者、現場担当者、研究解析者は目隠しされている?
Methodsの最期に、統計解析者もマスクされている、と記載あり。解析はテキサスで行われたらしい。
A⑤研究にエントリーした研究者が適切に評価されたか?
ITT解析とper-protocol解析の両方が行われている。
A⑥研究対象となった介入以外は両方のグループで同じような治療がされていたか?
table 1を見ても特に記載なし。
鎮痛以外の治療って?志室のツボが効くかもっていう話しがあるが、カタール人は多分やらないだろう。
補液は、鎮痛薬を投与してから30分以内には行わず、その後は診た医者の独断で行っても良いと記載あり。
30分以上経っても痛みの改善が無い場合、レスキューとしてモルヒネを5分毎に静注している。このプロトコールは全ての群で同じ。
A⑦その研究のための対象患者数は偶然の影響を小さくとどめるのに十分な数か?
50%疼痛を軽減出来た割合の差を10%(75% vs. 65%)、typeⅠerrorを5%、powerを90%とすると、1380人が必要と算出。(はじめは非劣勢試験で計算したが、試験を始める前に優越性試験に変更。その結果サンプルサイズが増えた)
実は尿管結石由来の痛みではなかった人が15%混じっていると仮定し、またloss to follow-upが3%あるとして、最終的に1640人が必要と算出した。
ランダム化されたのは1645人で、サンプルサイズは足りている。
B結果は何か?
B⑧a 結果はどのように示されたか? b 有意差はあるか?
2014年8月5日から2015年3月15日までに、2806人がスクリーニングされ1645人がランダム化に組み込まれた。ジクロフェナク群548人、アセトアミノフェン群548人、モルヒネ群549人に割り付けられ、それぞれの群間の特徴に有意差はなかった(table 1)。年齢の中央値は34.7歳(IQR 28.9-41.9)で83%が男性、受診時のNRSスコアの中央値は8(IQR 7-10)であった。1605人がCTまたはエコー検査を受け、1316人(82%)が尿管内に結石を確認された。
連続変数の差の検定にはStudentのt検定かWilcoxon rank-sum検定が用いられた。カテゴリカルデータの有意差の検出にはカイ二乗検定が、ノンパラメトリックな結果の検定にはKruskal-Wallis検定が用いられた。群間比較にはカイ二乗検定かFisher’s Exact test(セルの期待値が5未満の場合)が用いられた。
Primary outcomeに関しては、ITT解析ではモルヒネと比較してジクロフェナクは優越性が確認された(OR 1·35, 95% CI 1·05–1·73; p=0·0187)が、アセトアミノフェンは明らかな差を見いだせなかった(OR 1·26, 95% CI 0·99–1·62, p=0·0629)。しかしper-protocol解析(CTで結石を確認された患者の中で、実際に受けた治療によって解析)では、ジクロフェナク(OR 1·49, 95% CI 1·12–1·97, p=0·0046)もアセトアミノフェン(OR 1·40, 95% CI 1·06–1·85, p=0·0166)もモルヒネに比べて有意に優越性が検出された。
Secondary outcomeに関しては、ITT解析におけるNRS3点以上の低下のみ有意差を認めなかったが、他の項目はITT解析でもper-protocol解析でもジクロフェナク群とアセトアミノフェン群がモルヒネ群よりも有意に成績が良かった(table 2・3および本文「Results」を参照)。
副作用はジクロフェナク群(OR 0·31, 95% CI 0·12–0·78, p=0·0088)とアセトアミノフェン群(OR 0·36, 95% CI 0·15–0·87, p=0·0175)で有意にモルヒネ群より低かった。
詳細はappendixの表の通り。
試験登録14日後に電話をかけて、1503人(91%)にコンタクトを取った。そのうち、703人(43%)が翌週の血清クレアチニンチェックを受けた。25人の患者で血清クレアチニン値の上昇を認め、そのうち11人がジクロフェナク群、8人がモルヒネ群、6人がアセトアミノフェン群だった。
筋肉内壊死、膿瘍、消化管出血、透析導入、死亡などの重篤な副作用はこの1644人の患者では認めなかった。(ジクロフェナク群1例はdata form missing)
C臨床にこの結果はどのように応用できるか?
日本ではジクロフェナクは75mg筋注ではなく50mg座薬になるだろう。
メリットはルートを取らなくても良いこと、自宅で自分でも出来ること。デメリットはやはり腎機能障害と消化管出血。
鎮痛効果はジクロフェナクが一番よさそうというのは、さもありなんという感じであるが、初診であれば腎機能障害の有無は不明だし、かといって採血して腎機能待つのも不毛。
若い生来健康な人ならジクロフェナクで良いと思うが、微妙に合併症がある(高血圧や糖尿病など)中高年者には、やはり少しためらわれる場合も多い。
そういったときに、点滴ルートを取る手間はあるがアセトアミノフェン点滴でも同等の効果が得られる、というのはかなりありがたい情報。
もちろん前述したメリットやコストの問題もあるので、使えるのであればジクロフェナクがファーストチョイスで良いと思われるが、使いにくい場合にはモルヒネ(日本では実際にはペンタゾシンやブプレノルフィンになるか)よりはアセトアミノフェンを積極的に使う根拠になるだろう。